プレミアビッグ6の給料の払い方を比べよう

 

「素人は移籍金を見るが、プロは給与を見る」。皆さんご存知、かのマザー・テレサの名言ですね。

Embed from Getty Images

 

 

ということで、各クラブが誰にどのくらい払ってるのか、払っただけの働きはさせられてるのかということを考えたい。プロじゃないけど。どうするかというと、出場分数と給与を下のようにプロットしてみるのだ。

f:id:sakekovic_14:20210326034940p:plain

イメージ図

 

その前に、一旦全体感を確認したい。

f:id:sakekovic_14:20210328040436p:plain

source: SPORTAC

まずマンUが飛び抜けていて、それ以外は(トッテナムを除くと)かなり似たりよったりだということがわかる。

 

これは結構エライことで、リヴァプールやシティとアーセナルでは売上に百十億円の差がある。でも選手には同じくらい金をかけているのだから、アーセナルはかなりリスクを取っているということだ。

マンUは、相変わらず払う能力は高いが、結果にはあまり結びついてない。でも最近新しいスポンサーが取れたことを公式アナウンスで「とんでもない成功」と言ってたから、試合に勝つとか負けるとかいうことでガタガタ言うなと。古いぞと。そういうイノベーションかもしれない。

 

トッテナム3階建てのベイル御殿

f:id:sakekovic_14:20210327024120p:plain

トッテナム 給与と出場分数 (全大会)

ベイル
ケイン / ソンフンミン / エンドンベレ
その他の三階建て
という、ものすごくいびつな構造をしている。

 

ベイルはぶっちぎりでプレミア最高額だ。過去10年のトッテナムは、人件費に対して獲得した勝ち点の効率が異様に高い、奇跡のクラブだった。それは主に「本来もっと高い給与が払われていてもおかしくない選手を、安く囲ってしまう」という手練手管に長けていたからだが、これはある種時限爆弾を抱えているようなもので、勝利がついてくると「何で俺たちこんな強いのに給料こんな安いの?」という心理を持つ選手が増える。そうなると戦力がキープできなくなる。

 

爆発を遅らせる方法の一つは全員の給与水準を合わせて団結させることだが、今の3階建てではそれもままならない。自分の6倍給料もらってるのに自分より働かない人間と団結するのは簡単ではない。しかも上司でもないし。

Embed from Getty Images

もう一つ気になるのが、ローズ、アリといった発言力がありそうな面子が試合に出てないこと。自国の選手は主力になればチームの雰囲気作りの点で多大な貢献を果たしてくれるが、関係がこじれてしまうと、発信力がある分だけリスクが大きいように思われる。キャプテンのヨリスが「近頃は正直言ってまとまってない」と公言していたように(する方もどうかと思ったが)、スパーズのロッカールームは理想的な状態とは言い難いようだ。こんなところにその原因の一端を感じてしまうのである。

f:id:sakekovic_14:20210327024152p:plain

 

リヴァプール:再編成に影を落とすX構造

今回一番奇っ怪な曲線を描いているチーム。

f:id:sakekovic_14:20210327024327p:plain

リヴァプール 給与と出場分数 (全大会)

Xなんですよね。ここだけ。

 

まず右下、一番試合に出ている面々の給与が安い。とくにアレグザンダー=アーノルドとロバートソンのSBコンビとワイナルドゥムの3人は、このレベルの選手としてはかなり安い。ワイナルドゥムが今シーズン限りでバルセロナに行く、というのは待遇の問題もあるかもしれない。逆に、SBの二人がリヴァプール愛ゆえにこの給料で全然構いませんということなら、雇う方としては願ったり叶ったりだ。

 

 

また、週給10万ポンド付近に達するような高給取りが、結構試合に出ていない。ヴァン・ダイクは不慮の事故だとしても、チェンバレン、ケイタ、マティプ、ゴメスといった辺りは毎年長期離脱していて、稼働率が中々上がらない印象がある。そのもう一つ下の層、シャチリ、南野、オリジ、ツィミカスといった辺りもバカにならない額がかかっているが、あまり戦力になっているようには見えない。

Embed from Getty Images

ちょっと厳しいのが、チーム自体がピークをやや過ぎて、刷新しようというフェーズにあるということだ。怪我人が戻ってくれば来年はまた優勝争いに絡めるかもしれないが、多分2年後以降はキツい。そのときに、いま左半分にいる面子の中で主力にとって代われそうな選手がいるかというと、なんかいなさそうだ。

だから、

  1. ヴァン・ダイク、チアゴといった既存の高給取りのパフォーマンスを最大限に発揮させるチーム作りをする
  2. SBコンビやジョーンズの契約内容高騰を慎重に抑える
  3. 左の選手をまだ売れるうちに換金して、トップチームをスリム化しつつ、10万ポンド前後の主力候補を買ってくる

という治療と手術がいるんじゃないかな、と思う。

 

 

チェルシー:柱が見つかるか?

f:id:sakekovic_14:20210327024426p:plain

チェルシー 給与と出場分数 (全大会)

平均額はマンU、シティに次いで高いチェルシーだが、実は最高額はそんなに高くない(チルウェルの19万ポンド)。一見すると左下から右上へのきれいな曲線を描いているが、この「飛び抜けて高い選手がいない」というのは、アザール後に絶対的な核がいなくなってしまった、そして監督選びが中々落ち着かないチェルシーを象徴しているなという気がする。

 

数年前のトッテナムのように、「待遇としては差がついてない」「でも実体としてはケインという唯一絶対の戦力がいる(でもケインには色々個別の事情があって給与は抑えられている)」という状態だと、費用を抑えつつ戦力を保てるが、今のチェルシーは、言い方は悪いが「ハイレベルな烏合の衆」になりうる可能性がある。単純に、主力中の主力でありリーグ屈指の実力者、という選手がいないだけの話だからだ。

ただ、ヴェルナー、ハヴァーツ、コヴァチッチ、プリジックといった、ワールドクラスになりそうな若い選手はいるので、トゥヘルがハマればそういった絶対的主力は育てられる。言い換えると、編成の問題は過ぎていて、あとは技術の問題だと思うのだ。

Embed from Getty Images

 

それより気になるのは、ロフタス=チーク、バチュアイ、ドリンクウォーター、ザッパコスタ、バカヨコといった、この表に乗ってない大量のレンタル選手だ。シニアな選手がこれだけバランスシートに載ってるのは不健康でしかない。給与をどっちが負担してるのか知らんが、もし全部チェルシーが負担してたら年間4,800万ポンドにもなる。もし負担が小さいにしても、トモリとアンパドゥを除けば時間が経つほど価値が目減りする年齢の選手ばかりなので、早く換金してトップチームの補強に充てた方が良いだろう。

Embed from Getty Images

 

アーセナル:体制に筋を通そう

f:id:sakekovic_14:20210327024505p:plain

アーセナル 給与と出場分数 (全大会)

意外と高給取りが多い。ちょっとトッテナムやシティっぽい2層構造だ。でもそれ以上にアーセナルが珍しいのは、とにかく死に金が多いことだ。コラシナツ、ムスタフィ、パパスタソプロス、サリバ、チェンバーズ、そして何よりエジルと、そこそこ金払ってるシニアな選手なのに、様々な理由でほぼ貢献できてない選手が多すぎるのである。それもまた、エジルしかりサリバしかり、理由がよく分からんというのが健康的ではない。

Embed from Getty Images

 


マンUにもそういうところはあるが、

  1. 良からぬ利害関係がありそうな人間をフロントに据える
  2. 彼らが現場のニーズに合致しない選手を取ってくる
  3. 合致しないから成績が上がらない
  4. 成績が上がらないからフロントが挿げ替えられる
  5. 挿げ替わるから方針が変わる
  6. 方針が変わるから能力を十分に発揮できない選手が更に増える
  7. 結果として払っただけの金に対して成績がついてこない

という現象が起きているように思われる。

Embed from Getty Images

勝負事なので、勝ち点が上がらないことについて、コーポレート側や編成側で直接どうこうはできない。それは仕方ないんだけど、チーム最大の大物が謎の理由で試合に一切出場しないとか、キャプテンがプレシーズンツアーをばっくれてより給料が安いであろうクラブに強行移籍するとか、半年追いかけて既存のCBより給料払うことにした選手が全く試合に出てこないとか、そういうことが起きるようなマネジメントをやってると、CL復帰や優勝戦線への復帰は中々近づかない。「金を投じる」ということと、「実際に集団を機能させる」ということの間には、当たり前だが、踏まなければならない数多のステップがあるからだ。

 

マンチェスター・ユナイテッド:改善の余地は大きい

 

高い!とにかく平均の水準が高い。

f:id:sakekovic_14:20210327025058p:plain

マンUtd 給与と出場分数 (全大会)

ケインがあれだけ頑張ってようやく週給20万ポンドなのに、ラッシュフォードやマーシャル、マグワイア、ブルーノと、その水準がごろごろしている。シティも平均水準は高いが、デ・ブライネ、スターリング、アグエロ以外の選手は上限15万ポンドに抑えられているから、15万ポンド超えが9人いるマンUの水準の高さがよく分かる。

  • まず、マタ、カバーニ、ポグバ、デ・ヘアといった、あまり試合に出ていない選手の給与が異常に高い。
  • 加えて、イガロ、ファン・デ・ベーク、マティッチといった辺りの稼働率の低い選手も、10万ポンド以上もらってるのは気になる。

 

高いこと自体は別に構わないが、結果につなげようと思った場合、止めたほうが良さそうな思うことは2点ある。

 

まず、どうせ1,2年しか保たない超大物ベテランを買ったり借りたりするのは止めたほうが良い。ファルカオカバーニのことだが。彼らは給与が下げられないくせに、チームに居るのはどう長く考えても2年だから、せっかく高給を払っても、能力がディスカウントされた状態になる可能性が高い。ベテランではないが、ディ・マリア、ムヒタリャンといった短期放出組にも同じことが言える。

あと、デ・ヘアヘンダーソン、マーシャルとラシュフォードとカバーニのように、ポジションが被ってる高給取りを揃えるのも効率が悪い。この5人を3人に減らして、浮いた金でボランチを買ったりマグワイアの相方を雇ったりしたほうが強くなりそうだ。

 いずれにせよ、これだけ給与を出す力があるのは事実なので、使い方が改善されれば強くなる余地は大きいように思われる。

 

マンチェスター・シティ:一見バランスは良くても

f:id:sakekovic_14:20210327025220p:plain

マンチェスター・シティ 給与と出場分数 (全大会)

一見バランスが良い。

というのは、左上に選手が少ない。つまり、給料は高いのにあまり試合に出ていない選手がいない。怪我や不調で試合に出ていないシニアな選手といえばメンディとアケだが、彼らの給与は相対的には低い方だ。その他のそこそこ給与が高い選手は、皆かなり試合に出ている。つまり、バランスは良さそうに見える。

が、そう言い切れないところもある。

f:id:sakekovic_14:20210327025250p:plain

デ・ブライネ、スターリングとその他の差がめっちゃでかい

彼らは確かに継続的に結果を残してきたし、怪我も少ないし、ピッチ外でのリーダーシップもあるのだろう。あと広告塔としても価値がある。それでも2倍以上というのは大きな差で、相当なパフォーマンスがついてこないと納得できない選手も出てきそうだ。

 

加えて、獲りたいというドルトムントのホーランは、週給35万ポンドを要求している。デ・ブライネ、スターリングと同額だ。ベルナルド、ギュンドアン、マレズ辺りは面白くないだろう。最近マレズに契約更新するのしないのという噂が出るのも、根拠のない話ではないのである。

ただし、マレズは契約の切れ目が2年後で、その頃には32歳になっている。そうなると「更新しないでタダで出ていくぞ」作戦も使いづらい。これがあと1,2年若かったら生涯年収が億単位で変わってくるわけだから、マレズがレスターを早めに出たがってゴネていた理由もわかる。

 

あと、今は安く使えているが、フォーデン、カンセロ、ジンチェンコは次の契約更改で間違いなく大幅増額を求められるだろう。フォーデンとジンチェンコはシティの若手育成戦略の中ではかなりの例外で、10年かけてこの二人しか育成組からトップに定着していない。と考えると、今シーズン増えそうな勝利ボーナスを差し引いても、多分全体的に人件費は上がるだろうと思われるのである。

Embed from Getty Images