最近のシティのダメだこりゃ感について

 

今日はマンチェスター・シティが今どういう状態なのか、そこそこ弱くなってしまったのはどうしてなのかということについて話をしたいと思います。

 

問題と言っても、ピッチ内の話です。私は普段、ピッチ内の話については語る気があまりないのですが、先日『サムライブルーの勝利と敗北』の著者である五百蔵 容さんのYoutubeにてシティvsリヴァプールの試合が取り上げられまして、その際にシティの現状について色々とお喋りをしたので、せっかくなのでそれをまとめておこうと思います。

 

 

さて、マンシティは2016/17シーズンからペップ・グアルディオラが指揮しています。2017/18シーズンと2018/19シーズンの2年間、シティは国内でバチボコに勝っていました。どのくらい勝ったかというと、こんな感じでした。

  • 国内の計6タイトルのうち5つ優勝
  • 勝ち点は最初の年に100、次に98
  • 勝ち点100到達は史上初
  • 得点は106点、95点( 1試合当たりの平均得点はそれぞれ2.8点と2.5点)
  • ニコニコ動画に「エティハド大虐殺シリーズ」というタグが出来る

 

勝ち方もえげつなくて、相手がちょっと気を抜くと、6点とか7点とか平気で入っていました。雪が降るような最悪の天気の冬の日にアーセナルを0-3で降して、スタンドのアーセナルファンが全員「俺なんでこんな日にこんなとこ来てんの?」みたいな感じになって、エミレーツの雰囲気がめっちゃ最悪になってしまったこともありました。

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寒々しいエミレーツ

しかし、昨季から成績は低下し始め、結局リヴァプールに大差をつけられて2位になりました。今シーズンも開幕3試合を消化してすでに3分け1敗の10位ですから、もはや一時期の強さは消えてしまったと言えます。

 

今のシティを簡単に説明すると、こういう状態です。

  • プレスがあんまりかからない
  • チャンスが作れない
  • 個人技でゴリ押し

 

現在の症状

プレスがあんまりかからない

相手の組み立てを阻止できません。割と前線から中盤がすっ通しで、簡単にゴール前まで運ばれてしまいます。とくにボールを失ったときに顕著で、今シーズンの最初期は、ボールを失う→サイドチェンジだけでほぼ確実にゴール前まで運ばれる、という状況になっていました。昨年夏に横浜F・マリノスと対戦したときも、度々危ない場面を作られていました。相手がフリーでDFラインに向かって突進してくるわけですから、良いフォワード(例:レスターのヴァーディ、ノリッジのプッキ)がいるチームの場合、何回か繰り返しているうちにまず間違いなく失点します。

Manchester City v Leicester City - Premier League : ニュース写真

 

チャンスが作れない

過去3シーズンのシティのxG(ゴール期待値)は93.15、95.04、103.87でした。1シーズンは38試合なので、1試合平均2.5から2.7点は入りそうなチャンスがあったということです。一方今シーズンは、7試合やって10.85ですから、1.6点しかありません。1試合に1回強しか決定機を作れていないということですから、引き分けや負けが増えるのも無理はありません。

 

カウンターができない

一時期に比べると本当にカウンターができなくなりました。できなくなったと言うか、めちゃんこ遅くなりました。結果として、後ろでぐるぐる回して、最終的にはデ・ブライネが何とかするという感じです。

Manchester City v Liverpool - Premier League : ニュース写真

 

個人技でゴリ押し

上に書いた「送りバントで二塁に送ってデ・ブライネ」とも重複しますが、中々崩せなくなってきたため、デ・ブライネの超人的なクロスだったり、スターリングのドリブル突破だったり、ウォーカーのミドルだったり、個人技で無理やり点をもぎ取る場面が増えました。一人ひとりは良い選手が揃っているのでそこそこ点は取れますが、ロジカルに崩しているわけではないので、点が取れるか取れないかはかなり時の運です。

 

 

 

 

 

在りし日のシティ

では逆に、2017年から2019年の、全盛期のグアルディオラ・シティはどうだったのかというと、こんな感じでした。

 

即時奪還ができた

グアルディオラのチームは基本的に引いて守りませんし、守れません。よってどうするかというと、ボールを失った瞬間に猛烈にプレスをかけてボールを奪い返したがります。かつてはこれがよくハマっており、相手を敵陣に閉じ込めて延々とハーフコートゲームができました。

 

高速カウンターがあった

グアルディオラのシティは実はカウンターが上手いチームでした。前述した即時奪還のあと、デ・ブライネやシルバからのスルーパスにザネーやスターリングが走り、逆サイドに折り返して一丁上がり、というパターンで多数の得点が生まれていました。

 

(参考までに、いくつか得点シーンを抜粋しておきます)

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延々と二択デスゲームができた

相手にボールを持たれさえしなければ、グアルディオラのシティは異様に複雑なことができました。複雑というのは、相手の守り方や時間帯、点差によって、「誰がどこにいるか」「誰がどんな役割をこなすか」をグルグル変えながら、どこかが崩れるまで、手を変え品を変えて攻撃ができたということです。

 

相手からしてみると、前からプレスに行くとバイタルエリアにパスを通され、

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ラインを揃えて守ってるとハーフスペースの裏に走られ、

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じゃあといって5バックで引いてると大外をゴリ押しされ

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マンツーでプレスに行ってみたらゴールキックで裏抜けされて

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という風に手札が多かったので、どっちを守るかの二択を延々迫られて間違えたら死ぬ、という結構きちぃ感じのゲームになっていました。

 

繰り返しになりますが、今はどれもかつてのようにはできません。どこのTV局だったか、多分BTだったと思いますが、コメンテーターが「今のシティは、シティのトリビュートバンドみたいですね」と言っていました。言い得て妙です。

 

 

 

 

なぜこうなった?

さて、なぜシティは一時期の競争力を失ってしまったのでしょうか。プレミアは他の国のリーグより拮抗しているので、2017年の暮れくらいにはシティ対策法が色々編み出されていました。ここで詳細に触れることは避けますが、一言でまとめてしまえば、そうした対策側の進化と、シティ側の進化が競い合う中で、3年経って対策側が上回るようになってきたということなのですが、1点、非常に不可解なことがあります。

 

「なぜ4-2-3-1なんだハゲ」問題

それまでの4-3-3に代わって昨シーズン開幕から導入している4-2-3-1ですが、素人目に見ても結構きちぃところがあります。プレスが全然かからないのです。

ボールを引っ掛けるのが抜群に上手いデ・ブライネはインサイドハーフから一列上がり、ほとんどFWの位置で守備をするようになりました。いかに守備が上手くとも、このエリアでボールを引っ掛けるのは困難です。追う対象が広すぎます。加えてダブルボランチはさして機動力がないロドリとギュンドアンなので、ボランチが前に出て捕まえる事もできません。その割にウィングは前プレ志向なので前に出ています。よってどうなるかというと、ボールを奪われたときに奪還できず、ゴール前まですっ通しで運ばれてしまうわけです。

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やられた感を出さずにやられるのが上手いギュンドアン

後ろで守れないチームなのに、なんでわざわざ後ろ重心の4-2-3-1を使い続け、しかも修正も特にしないのか、という点は不可解ですが、考えられる要因はいくつかあります。

 

仮説①)ロドリが遅すぎる

このスペイン人ピボーテは、まあシティとバイエルンが高値をつけただけあって良い選手なのですが、いかんせんアンカーとしては俊敏さに欠けます。遅いのです。

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瞬発力に欠けるロドリ

 4-2-3-1になって拍車がかかりましたが、4-3-3時代にも前プレがかからない問題は発生しており、その一因はロドリがいろんな局面に間に合わないということにありました。結果として、前プレかからない問題にはより加速してしまったものの、ギュンドアンを隣に置いて保険をかけるという選択に至ったように思えます(さしてかかってませんが)。

inamo-blog.site

 

仮説②)DFラインが相手FWに勝てない

今のシティは「ボールを保持し続けるか、失ってもすぐ奪回する」という特殊な仮定の上で成り立っているチームです。よって、相手のFWにロングボールを収められてしまうと非常に面倒なことになります。しかし、2019/20シーズンはコンパニの退団と残った選手の怪我で、CBがフェルナンジーニョ+誰か、という運用にならざるを得ませんでした。フェルナンジーニョというのは、ボランチが本職のおじさんです。身長が180cmあるかないかみたいな非本職の人間で、プレミアリーグのFWを抑えるのは辛いものがあります。よって、長いボールを押し返せないため、ボランチの人数を増やして面倒を見させるという方向になったのではないかと想定されます。

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おじさんは通じ合う

 

仮説③)ダビ・シルバの代わりがいない

2010年代のプレミアにひっそりと君臨した男、ダビ・シルバは2019/20シーズンをもってシティを去りました。

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巨匠ひそかに去る

シルバはパスは出せるしキープは出来るし、スペースには走れるし、プレスは上手いし頭はいいし、おまけに逸物は大きいと、話がぜんぜん面白くない以外には非の打ち所がない、素晴らしい選手でした。前述したようにシティが異様に複雑なサッカーができたのも、並の選手の10倍くらい複雑なことができるシルバがいてこそと言えます。そのシルバがいなくなったことで、グアルディオラ的には「デ・ブライネと誰かを並べるより、デ・ブライネが最大限ゴールに近いところにおる方がええ」と思ったのかもしれません。

 

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ティファンを震え上がらせた一枚

 

仮説④)相手が単純に慣れた

①から③が一つも当てはまらない試合でも、症状が出ている試合もあります。この現象については、単純に相手が慣れた面もありそうです。ビッグ6と他のクラブの格差は確かに大きいのですが、他のリーグの同じ順位のクラブと比べると、プレミアのクラブは遥かに金持ちなので、それなりに代表選手も揃えられますし、監督やコーチにも投資できます。そんなチームが3年も与えられれば、ある程度対応策が生み出されてしまうものです。加えて、今のシティはカウンターと即時奪還プレスが無いという縛りプレイです。

 

 

 

解決できるのか

要因仮説を①から④まで並べるというのは、問題解決の手法としてはへっぽこもいいところなのですが、そこには一旦目を瞑ります。

さて、①から④は解決できるのでしょうか。②はルベン・ディアスが加入し、ラポルトが戻ってきたので大分いい感じになりつつあります。左サイドバックには相変わらず適任者がいませんが。

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③はグアルディオラがなぜベルナルドを信用しないのかよくわからないのですが、ベルナルドかフォーデンを素直に使ってほしいところではあります。ただし、ダビ・シルバの穴を埋め切るのは難しいだろうとは思います。

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①が結構辛いところで、現在のチームでアンカーが務まるのは、遅いロドリか、これまた遅いギュンドアンか、35になってさすがにきつくなってきたフェルナンジーニョのどれかです。誰を出しても大差ないと言う気がします。

ちなみにロドリは、ジョルジーニョ(現チェルシー)、デ・ヨン(現バルサ)を逃した末に手に入れた選手ですが、仮にどちらかが買えていてもロドリと似たようなものな気がするので、グアルディオラの好みがちょっとおかしい気がします。昔500zooさんが呟いていましたが、現ナポリのバカヨコがシティで魔改造されていたら、ワンチャン面白かったかもしれません。

 

ファーストタッチ下手すぎ人間」として有名になってしまったバカヨコですが、あのパワーとリーチの長さは魅力的です。エヴァンゲリオンみたいな体型しているところもとてもたまりません。

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サッカー界のベン・ウォーレスことバカヨコ


 

 

検証したい。したくない?

ここから復活はあるのか、というと、グアルディオラにはちょっと引き出しがなさそうな気がしますが、まあそれは仕方のないことです。諸行無常、万物は流転するローリングストーンズです。

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しかし、近年稀に見る支配を(1シーズン強とは言え)築いたチームがどうやって競争力を失うのか、という話として考えると、その裏には一般化できる法則がありそうな気がします。

 

ジャーナリストの方には、ぜひグアルディオラ「見え見え(に見える)問題をあえて放っておくに至ったトレードオフは何なのか」について聞いていただきたいところです。まあThe Athleticのサム・リーにDMして頼むのが一番早いとは思いますが。

 

戦術クラスタの方には、2年前と今で、シティと相手チームがそれぞれどう変わったのか、分析してみて頂きたいところです。今強いリヴァプールもきっとこうなるし、その次に出てくるチームもそうなるでしょう。それはなぜなのか、一般化出来る法則はあるのかというところが気になります。