マンチェスター・シティはなぜCL出場停止にならなかったのか
前提事項
※用語
パネル:3人の弁護士から構成される評議会
CFCB:UEFAの独立審議機関
MCFC:マンチェスター・シティ
ADUG:アブダビ・ユナイテッド・グループ(シティの大株主)
HHSM:シェイク・マンスール(シティのオーナー)
エティハド:エティハド航空
以下、「xxx.」 という形で数字が付いているパラグラフは、下記CAS評決文の邦訳である。
https://www.tas-cas.org/fileadmin/user_upload/CAS_Award_6785___internet__.pdf
以下、UCLAロースクールの教授であるSteve Bank氏の解説を引用する箇所にはSB)と表記する。Tweetの詳細な解説は以下のスレッドを参照されたし。
93 pages. This should be fun. https://t.co/k4PoUeuwYr
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
筆者による文章は以降青字とする。
結論
- 上記に基づき、提出されたすべての証拠と弁論を十分に考慮した上で、パネルの大多数は以下の結論を出した。
(略)
- ii) 2014年の和解合意は、現在の控訴仲裁手続で問題となっている問題について、UEFA が MCFC を請求することを禁じているわけではない。
- iii) 2012 年 5 月に終了した年度及び 2013 年 5 月に終了した年度の財務諸表に関連する違反疑惑は時効となるが、2014 年 5 月に終了した年度の財務諸表に関連する違反疑惑は時効とならない。
- iv) 2013/2014シーズンのモニタリングプロセスで提出されたブレークイーブン情報に関連した違反疑惑は時効であるが、2014/15シーズンのモニタリングプロセスで提出されたブレークイーブン情報に関連した違反疑惑は時効ではない。
- vi) Etisalat からのスポンサーフィーを装った(ADUGまたはHHSMからの)資本注入疑惑に関する告発は時効となる。
- vii) リークされた電子メールは認められる証拠である。
- viii) パネルは、MCFCがHESMおよび/またはADUGからの出資をエティハドからの出資と偽っていたとは納得できない。
- ix) パネルは、MCFC が 2 つの問題に関して CFCB の調査に協力しなかったと認める。
- x) パネルは、MCFCに1,000万ユーロの罰金を科すことが適切であると判断する。
- xi) CFCB の訴訟費用の補償として、MCFC が控訴審判決で UEFA に支払うよう命じられた 10 万ユーロの金額を確認する。
344, その他のすべての申し立て、またはそれ以上の救済のための申し立ては却下される。
詳細
SB)CASパネルは、リークされたEメールに信憑性・信頼性がない、または認められないという潜在的な異議申し立てを却下することから始めている。つまり、ハッキングで得られた証拠だから無効という申し立ては予め排除している
本件の論点
2014年の和解合意の影響について
Q) 2014年の和解合意によって、今回の嫌疑は既に解決済みとみなされ、新たに罰せられることがなくなるのか
A) ならない。
154. 和解契約の締結に至った規制違反の疑惑は、現在の訴訟では争点にされていない。むしろ、本訴訟の主要な争点は、HHSM及び/又はADUGがエティハド及びエティサラットを通じてMCFCに偽装出資を行ったかどうか、また、MCFCがライセンス及びモニタリングのためにUEFAに提出した財務情報にこれが適切に反映されていたかどうかである。これらの具体的な請求は、和解契約で取り上げられている問題には触れていない。
時効について
Q) 時効が適用されるか?適用されるなら、どこまでが時効か?
A) 5 年の期間がいつから始まったのかについては、CASは両方の主張を棄却した。
- MCFCは制裁の5年前(つまり2015年2月14日)としている。
- UEFAは調査開始の5年前(つまり2014年2月7日)としている。
CASは、起訴開始日=2019年5月14日が重要であり、時効は2014年5月14日以前と指摘した。UEFAも、2012年5月締めシーズンと、2013年5月締めシーズンについては既に時効と認識していたため、UEFAの告発には実質的に影響しない。
SB)これによって、Etisalatに関する資本注入疑惑は、嫌疑の対象から外される。Etisalatからのスポンサーフィーの受け取りは時効期間内に行われているためである。
The impact of this decision is to exclude the alleged disguised equity funding through Etisalat, which occurred in 2012/2013 and was referenced in subsequent financial submissions pic.twitter.com/ZcJt0EugQU
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
SB)一方、Etihadからのスポンサーフィーについては時効期間と時効外期間にまたがっているため、一部のみ嫌疑の対象から外れる。
It also excludes part, but not all of the alleged disguised equity funding through Etihad, which went on longer than Etisalat pic.twitter.com/DfAnKwlM2b
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
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参考資料
漏洩メール1号(CAS評決文210.)
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漏洩メール3号
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漏洩メール6号
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資本注入があったのかについて
SB) 次の問題は、UEFAがその告発が期限切れではなかったことを証明できたかどうかである。多くの場合そうであるように、論点は立証基準である。パネルは、その基準が「Comfortable Satisfaction」であることには同意する*1が、主張が深刻であればあるほど、より高い基準が求められるという点ではMCFCとの意見が一致している。
The next issue is whether UEFA proved its charges that weren't time-barred. As is often true, this comes down to standard of proof. The Panel agrees that the standard is "comfortable satisfaction," but agrees with MCFC that the more serious the allegations, the higher the bar pic.twitter.com/c5jVl0QACz
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
SB) パネルの過半数は、漏洩した電子メールは、議論された取り決めが実際に実行されたことを証明していないため、それだけでは不正行為の直接の証拠を提供するのに十分であるとは認めなかった。
A majority of the panel didn't find that the leaked e-mails were sufficient by themselves to provide direct evidence of wrongdoing b/c they didn't prove that the arrangements discussed were actually executed pic.twitter.com/IRF9AnrLr9
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
SB) もう一つの問題は、流出したメールがあくまでMCFCの関係者間のものであって、疑惑のある第三者の資金提供者間のものではないということである。唯一の例外は、サイモン・ピアース氏であり、ピアース氏はMCFCとADUG、両者とのつながりがあった。しかし、パネルは、ピアース氏による疑惑の否定は信憑性があると判断した。
Another issue is that the leaked e-mails were between MCFC people, not the alleged third party funders. The one exception was Simon Pearce, who had ties to both. The Panel, however, found his denials credible pic.twitter.com/mchA0piFEY
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
- サイモン・ピアースがシェイク・マンスールまたはADUGを代表して契約を締結する権限があったことが立証されていない
- サイモン・ピアースの証言が虚偽であることの認定が必要だが、ピアースが実際にADUGを代表していたことを示す証拠がないことから、そのような結論は妥当ではない
- UEFAの主張は漏洩メール1号*2の記述に依拠しているが、ピアースはその資料内の「殿下」とは、シェイク・マンスールではなく、シェイク・スルタン・ビン・タフノン・アル・ナヒヤン殿下のことであると証言した
- パネルは、この点でのピアース氏の証言が不正確であったと考える理由はなく、UEFA からの「殿下」との言及が実際には マンスールのことであったという主張を裏付ける証拠もない。よってパネルは、漏洩メール1号が、ピアース氏がADUGの命令で契約を締結する権利を有していたことを示すということを、UEFAが証明できなかったと結論付けなければならない。
(以上、215から229を要約)
225. いずれにしても、漏洩メール1号の記述だけでは、ピアースが実際にマンスールまたはADUGからの資金注入によってスポンサー収入を偽装していたと立証することはできないとパネルは判断した。さらに言えば、漏洩メール1号は2010年に送信されたものであり、FFP成立の2年前であるため、仮にこれが実際に行われていたとしても当時は問題なかった。
漏洩メール6号に記載された、分割払いの件
236. こちらも、パネルの過半数の見解では、UEFAが主張しているように、59,500,000英ポンドの支払いがHHSMおよび/またはADUGによって資金提供された、または資金提供されるように調達されたという結論を裏付ける証拠はない
結果として、UEFAは求められる水準の立証が出来なかった。
証人喚問:
サイモン・ピアース、エティハド航空の元CEOであるジェイムズ・ホーガンが証言を行った。またMCFCは、エティハド航空グループの取締役兼財務投資委員長であるアフメド・アリ・アル・サイェフ、エティハド航空の企業内弁護士ヘニング・ズル・ハウゼン、およびエティハド航空グループCEOトニー・ダグラスからの書簡を提出した。
以下は246.のエティハド航空元CEOホーガン氏の証言の抜粋である。
"HHSMも、彼のプライベート投資ビークルADUGも、彼らの代理を務めるいかなる団体も、スポンサーシップ契約に基づくエティハドのスポンサーシップ義務を出資したり、償還したりしていません。スポンサーシップ義務は、上記の通り、エティハドの自己資金から支払われています。
私は関連する期間中ずっとPCEOを務めておりましたし、UEFAが申し立てたようにエティハドがMCFCに支払ったスポンサー料の確保または償還のための取り決めが存在していれば知っていたはずですが、私はそのような取り決めは承知しておりません"
以下は249. のアル・サイェフ氏の書簡の抜粋である。
当社は、スポンサーシップ契約のいずれに関連しても、直接・間接を問わず、前払金やその後の払い戻しの方法を問わず、ADUG、HHSM、またはそれらに支配されているか影響を受けている個人・団体から、いかなる支払いも受けていませんでした。この証明書を提供する一環として、私のチームのメンバーが、2008 年 8 月 23 日から今日までの間、会社の電子版総勘定元帳のキーワード検索を行いました。現金出納帳全体の検索では、HHSMまたはADUGのいずれからも£250,000(または他の通貨での同等額)を超える領収書は確認されませんでした。
以下は251. のダグラス氏の書簡の抜粋である。
書簡の第 4 項には、当社がスポンサー契約に関連して ADUGや HHSM からいかなる支払いも受けていないことが記載されています。私は、疑義を避けるために、当社が[ADUG]または[HHSM]またはそれらに支配されている、または影響を受けている個人または団体から、直接的、間接的を問わず、いかなる金銭も受け取っていないことを確認します。当社はアブダビを拠点とする民間航空会社です。ご理解いただけると思いますが、[ADUG]および/または[HHSM]は、スポンサー契約やその他のスポンサーシップとは一切関係なく、当社から航空券を購入している可能性があります。
会計上のエビデンスについて
- パネルの過半数は、いずれにせよ、エティハドが関連機間中にスポンサー契約に基づく全額をMCFCに譲渡したことが会計上の証拠から明らかになっており、HHSMおよび/またはADUGからの資金提供が直接エティハドに送金されたか、または正体不明の第三者を通じてHHSMおよび/またはADUGから資金提供を受けるために調達されたという仮説を裏付ける意味のある証拠はないと判断している
資本注入があったかどうかに関する結論について
- 以上のことから、エティハドがMCFCに対する支払い義務を完全に遵守し、MCFCが契約上合意されたサービスをエティハドに提供したことは疑う余地がない。パネルの大多数は、エティハド・スポンサーシップ契約は公正価値で交渉されたものと推定され、MCFC、HHSM、ADUGおよびエティハドは「関連当事者」には該当しないと判断している。エティハド・スポンサーシップ契約は法的拘束力のある契約であった。契約が遡及されていたという証拠はなく、また、MCFCがリークされた電子メールの公表後に遡及して違反の疑惑を隠蔽しようとしたという証拠もない。
- リークされた電子メールには、エティハドのスポンサーシップ拠出金がHHSMおよび/またはADUGによって資金提供される、または資金提供されるように調達されるという取り決めが記載されています。HHSMおよび/またはADUGとエティハドの参加は、取り決めが実行されるための前提条件であるが、そのような参加は確立されていない。ピアース氏はリーク電子メールで議論された取り決めを実行しようとした可能性があるが、パネルの大多数の見解では、ピアース氏が実際にそのような試みを実行した、あるいは成功したことを立証する証拠はファイルに存在しない。
- 目の前にある証拠、特にパネルが再度指摘するように裁決会議所に提出されなかった証人の供述、エティハドの幹部が発行した書簡、MCFCが提供した会計証拠に基づいて、パネルの大多数は、リークされた電子メールで議論された取り決めが実際に実行されたとは確信していない。MCFCとHHSMおよび/またはADUG、あるいはHHSMおよび/またはADUGとエティハドとの間で実際に取り決めが行われたこと、あるいはHHSMおよび/またはADUGがエティハドのスポンサーシップ義務の一部に直接資金を提供していたことを立証する十分な証拠はファイルにはない。下図に示すように、HHSMおよび/またはADUGとエティハドとの間に関連性が証明されていない場合、パネルの大多数は、エクイティファンディングの偽装に関するUEFAの理論は、依然として根拠がないと判断している。
MCFCのCFCB調査への非協力に基づく不利益推論について
- パネルは、MCFC が CFCB に要求された情報を提供することに非常に消極的で、時には非協力的であり、MCFC がパネルに提出した実質的な証拠は、調査会議所や裁定会議所に提出されなかったものであると判断した。後述の非協力の罪状について、以下に詳述するが、パネルは、裁決会議所は、このような非協力を理由に MCFC に正当な制裁を与えたと判断した。この不協力の程度と厳しさについては後述するが、MCFC が出資金をスポンサー収入として偽装していたかどうかを判断するという観点からは、パネルの大多数は、流出した電子メールで議論された「取り決め」が実際に実行されたという UEFA の主張を裏付ける証拠がファイル上にほとんど存在しないという状況に直面している。
- パネルは、十分な説明もなく証拠が提出されなかったことから不利な推論を導き出す可能性があることを認識しており、すなわち、証拠が提出されなかったと仮定することは、MCFC の利益に反することになる。(※証拠(データ)が破壊されたり,なくなったりしたことにより,それを提供できなかった当事者にとってそのデータは不利であったのだろうと推定できるということ)*3
- UEFA の答弁書には、4 回の文書提出要求が含まれていたが、MCFC はその要求に一部応じただけであり、その後 UEFA は、残りの証拠の提出要求を追及する必要はないと考えた。したがって、審問時点では、パネルに未解決の証拠開示請求はなかった。
- 結果として、UEFAが、リークされた電子メールの一部を構成する一連の電子メールの提供要求を追求しなかったため、パネルの大多数は、MCFC がそのような情報を提供しなかったことから不利益な推論を引き出すことはできないと判断した。
SB) では、なぜCASの過半数はシティにとって不利な推論をしなかったのだろうか(※資料の一部を最後まで提出しなかった=この証拠はシティにとって不利な情報が入っているのだろう、と推論することをしなかった)。それは、流出した電子メールのうち、流出していない部分の証拠請求をUEFAが行わなかったからだ。国際仲裁規則では、不利な推論を主張するためには、提出されなかった証拠を要求しなければならない。
So, why didn't a majority of CAS draw the adverse inference? Because UEFA didn't follow through on its evidentiary requests for the unleaked part of the leaked e-mails. You have to request the evidence not produced to argue adverse inference under Int'l Arbitration rules pic.twitter.com/s7yEIyNqrU
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
SB) なぜだろうか?どうやら、もしUEFAが仮に証拠の提出を求めていたならば、2020-2021年のUEFAクラブコンペティションシーズン中に提出することになっていたようだが、UEFAはそうしなかった。
Why not? Apparently, if UEFA had pushed for production of the evidence through an interlocutory proceeding, it would have pushed the case in the 2020-2021 UEFA club competition season, which it chose not to do pic.twitter.com/R4e1QD39Ci
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
- この点でのUEFAのアプローチは、追加の証拠を入手することと、2020/21 UEFA クラブ競技会シーズンの開始前に裁定を受けることとの間のジレンマに直面していたため、理解できる。UEFAが追加証拠の提出を主張すれば、新シーズンへの手続きを引き延ばすことになるのは必至であるため、この2つの選択肢は現実的には両立しなかった。このジレンマに直面したUEFAは、後者の選択肢を支持することにした。
UEFAは、情報請求を続けた場合、CASの裁定が遅れるリスクと天秤にかけ、情報請求をやめることにした。結果として、MCFCが要求された情報の一部を提供しなかったことについて、不利益推論は成り立たないとCASは判断した。
MCFCはCFCB調査に協力しなかったかについて
- パネルは、CFCB 首席調査官が要求した証拠のうち、CFCB に提供されなかったが、最終的に CAS の本手続で提出されたものと、一度も提出されなかったものを区別することが重要であると考えている。
提出されなかった資料
- UEFAは証拠開示請求2号を追求することができたにもかかわらず、2020年5月15日付の書簡で「証拠開示請求2号を主張する必要はない」とし、「証拠開示請求2号を維持していない」ことを示したため、証拠開示請求2号を追求しなかった、とパネルは判断した。そのため、UEFAはMCFCが電子メールを提供することを期待していなかったし、パネルにMCFCに文書の提出を求めることもしていなかった。パネルの過半数の見解によれば、MCFCがこれらの文書を提出しなかったことから不利益な推論を引き出すことはできないだけでなく、提出しなかったことを理由にMCFCを制裁することはできない。
最終的にCASに提出された資料
- サイモン・ピアース、アンドリュー・ウィドウスンの招喚
- 漏洩メール2号における「モハメド」が誰なのかに関する開示
- 漏洩したメールの完全かつ正確なコピー
上記3点については、シティはCFCBの要求に答えず、CASの本手続きで始めて回答した(3点目は最後まで部分的であった)。
- したがって、パネルの過半数は、MCFC が 3 つの個別の問題に関して CFCB の調査に協力せず、CLFFPR 第 56 条に違反したと判断する。
UEFAは最後まで、求められる水準の立証が出来なかった。シティが非協力的だった3つの事柄(上記参照)がより早い段階で提供されていれば、立証できただろうか?それは判断しかねるが、そもそもハッキングされたメールは550万通あった。なぜここに至るまで、6通のメールしか使っておらず、残りの549万9,994通を使わなかったかは判らない。
なお、このこと(要求された情報を部分的にのみ提供したこと)は、前述の「資本注入があったのか」についての判断を覆すほどの重要性があったとは判断されていない。
感想)
個人的な意見としては、シティのような特別なオーナーシップのクラブで、リークされたようなメールのやり取りをしていれば、事実に関係なくサッカーファンから疑いを受けても致し方ない(正当とは言わんが、疑われるのを避けるのは無理)ので、あの名言を胸に刻んで頑張ってくださいという感じ。 pic.twitter.com/5nfZvDK4gV— sake (@szakekovci) 2020年7月29日
空しき勝利である。いや、勝つに越したこたあないよ。CL出場停止になるより2万倍良い。このCASの仲裁手続において、今回以上の結果を収めることは難しかっただろう。そういう意味では完勝だ。しかし、誰かが「黒だ」と言ってきたら、「いや、そうとは判定されませんでしたよ」と言い返しはするが、「白だ」と言って回る気は無い。そういう感じだ。
立証責任がUEFAにあり、かつその立証が全く出来なかったこと(読めば判るが、資本注入疑惑については、UEFAは可哀想なくらい完敗している)、シティ側もエティハド航空の会計記録を最終的に提供していることは事実としても、リークされたメールはあまりに明け透けで、邪推を呼ぶものだ。あのメールが出てれば、いくら裁判で勝っても、そりゃ「インチキだ」と言ってくる奴は世に尽きまい。現に、IndependentやThe Guardian、Sport Intelligenceのようなマスメディアのジャーナリストが、ちょっとどうかと思うくらい、評決文中の超どうでも良い(けどそこだけ切り出したらセンセーショナルに聞こえる)形容詞を抜き出してエグい見出しをつけて記事を出している。興行ビジネスでここまでの敵意・悪意を持たれてしまったら負けでしょう。
また、シティ側がUEFAの焦りを知っていたかどうかを知る由はないが、結果的にCFCBの要求に対して情報提供が遅れたことがプラスに働いた可能性はある。UEFAがその追求を途中で放棄したために、その点について脛に傷があると推測されなかったことはラッキーだが、同時に「意図的にプロセスを遅らせて有利に持ち込んだんだ」という指摘を棄却しきれないということでもある。気分悪いね。
どうもこうも。