世界しっちゃかめっちゃか編成の旅
むやみに多い登録人数、聞いたことのない若手、謎のギリシャ人。そういう、完全にしっちゃかめっちゃかになってしまったチーム編成が、たしかにこの世には存在する。今回はしっちゃかめっちゃか編成愛好家の私が、皆さんを世界のしっちゃかめっちゃか編成を巡る旅にご案内したい。
2005/06 ポーツマス
とはいえ、「しっちゃかめっちゃか」とはどんな状態を指すのか分からない方のために、しっちゃかめっちゃか編成界の巨人、ポーツマスを例にしていくつかの特徴を挙げてみたい。今を遡ること15年前、かろうじて2部降格を免れたときのポーツマスである。ちなみに、伝わる人にはこの編成表の時点で伝わると思う。
(出典:Wikipedia, 下段はシーズン途中放出)
1) 多すぎる
シーズン終了時だけで1軍が30人、しかもシーズンの途中で監督交代を経て約10人ほど選手を放出しているので、1軍だけで40人使ったことになる。
1チーム11人でやるスポーツで40人いる事態がまともなわけはなく、方針がブレブレだったから余ってるというだけの話だ。スターウォーズの新3部作にどうでも良い要素がてんこ盛りになってるようなもんだ(ベニチオ・デル・トロとか)。
2) 多様すぎる
上図の国旗を見てほしいが、統一性がなさすぎる。旧ユーゴ系(ステファノヴィッチ、コロマン、モルナル)がいるかと思えば北欧系(プリスケ、カラダシュ)もいるし、アフリカ人(シセ、ムベスマ、ベンジャニ、ルアルア)も中途半端にいっぱいいる。ダイバーシティが称揚される世の中ではあるが、大学生の海外インターン会場より国籍豊かなチームがあったら、それは大体やりすぎなのである。
3) 脈絡のない大物がいる
サッカー界にもある種の貴種流離譚がある。ビッグクラブを志半ばにして離れた大物が、規模は劣るが快適に過ごせる中小クラブで輝きを取り戻す。素敵な話だ。リケルメとか。だがそんなケースは悲しいかな稀で、なぜこのクラブに彼が?というケースは、編成か選手かどっちかがだいたい間違っているのである。このポーツマスにもワールドユースで世界を席巻したダレッサンドロ、日韓W杯の前に話題になったオリサデベ、マラガの怪人ダリオ・シルバと結構大物が揃っているのだが、それというのもポーツマスが雇えるレベルまで彼らが落ちてきたからに他ならない。山田邦子が人気無くなってきた頃にNHKがやけに使ってたみたいなもんだ。まずロベール以外の全員がプレミア初挑戦というところが怪しすぎる。
4) 肩書が怪しい奴がいる
『マネーボール』も言っている。 将来性に夢を見すぎるのは間違っている。出来ない事はできない。そういう意味で、やばそうな肩書の奴に期待をかけるのは概ね間違っているのだ。今回のケースで言えば、「ザンビア代表不動のエース」コリンズ・ムベスマである。ギャンブルすぎるだろ。
5) 謎の東欧人がいる
東欧の選手は安い。その上概して語学力があるので雇いやすい。結果、往々にして見られるのが「よく知らない東欧人がポツンといる」状態である。今回で言えばヤニス・スコペリティスとか、コスタス・ハルキアスだ。誰?
09/10 ポーツマス
よし!わかってきたな?ちゃっちゃか行こう。次もポーツマスだ。今回もすごいぞ。
(出典:Wikipedia, 下段はシーズン途中放出)
まず、1) 前回に輪をかけて選手が多すぎる。取りも取ったり45人。1軍選手の末尾の背番号が47て。1年間で38試合もリーグ戦があるのに、一番多く出場した選手のスタメン数が26なのである。
次に、2) 余りにも寄せ集めすぎる。北はフィンランド(アンティ・ニエミ)から南は南アフリカ(アーロン・マカエナ)まで、一軍だけで19カ国。多すぎるからダメだという直接的な理由はないが、これでキャプテンがデイヴィッド・ジェイムズで、どうやってチームをまとめるのだろうか。カルレス・プジョルでも難しいだろ。
ちなみにここらで、この年のポーツマスならではの萌ポイントにも触れていきたい。
3) ヘルマン・フレイザルソンがいる
プレミアリーグから降格すること実に5回。あらゆるクラブの降格に立ち会ってきた、云わば降格界のサンジェルマン伯爵。このアイスランド人がいるところ、それすなわちしっちゃかめっちゃかな編成がある。いい選手なんですけど。
4) 2部リーグの1.5線級に無茶な期待をかけている
具体的にはダニー・ウェバーとトミー・スミスだが。どちらも若い頃は年代別代表に呼ばれたFWで、2部で二桁点取った年も無くはない、みたいな。Jリーグで例えたら高田保則みたいな感じだ。2部ではたしかにいい選手なんだが、20台後半になっていきなり1部に持ってこられても辛すぎる。それを同じ年に2人まとめて引っ張る当たりがポーツマスのポーツマスたる所以と言えよう。
12/13 QPR
(出典:Wikipedia, フォーマットが違うのは面倒になったため…)
ポーツマスの編成がただひたすら無軌道にしっちゃかめっちゃかなのに対し、QPRのそれには最低限の目的的なものは感じられるのである。結果はめちゃくちゃだが。オーナーがほとんど詐欺師だったポーツマスと、普通の「よくわかってない大富豪」だったQPRの違いかも知れない。
1) 世界が羨む一発屋打線
QPRの萌ポイントはなんと言ってもFWの編成にある。ボスロイド、ザモラ、DJキャンベル、アンドリュー・ジョンソン。プレミアに興味のない人はピンとこないだろうが、全員プレミアリーグ的に言えばかなり高位の一発屋である。一発屋界のアベンジャーズだ。それをトウが立った段階で集めてきて編成にブチ込むこの度胸を買いたい。しかも冬まではこれにジブリル・シセがいたのだ。ワオ!って感じだ。
2) 怒涛のロートル補強
インテルでCLを制したGKジュリオ・セーザル、チェルシーのレギュラーだったボシングワ、マンUの名脇役パク・チソン。みんな2000年代中盤までだったらすごかったんですけど、みたいなおじさんを集めて、さらにショーン・ライト=フィリップス、ジャーメイン・ジーナス、キーロン・ダイアー、ルーク・ヤングの4人を揃えている。繰り返すが、2012年なのである。タイムスリップしてんじゃねえぞ。
3) すごいクラブの窓際社員
レアル・マドリーの窓際社員だったエステバン・グラネロをアドオン。これだけで「初見のなんとかなりそう感」は跳ね上がる。専門家的にはポイントが高い。
2001 ヴェルディ
川崎から東京へホームタウンを移し、クラブ名も「東京ヴェルディ1969」に変更。新たな第一歩を歩み始めた名門の味わい深いスカッド。
(出典:まぐまぐまぐろん)
やはり、前園・小倉・石塚・廣長というアトランタ五輪世代の夢のカケラをかき集めて何かを作ろうとしたところが強い。今「中田ヒデが叶わなかった天才になにが!?」みたいな番組が流行りだが、もうこの時点でこの4人は若干そういう扱いがあったのである。それが4人。ロマンを通り越して悪ふざけだ。
この年のヴェルディは彼ら以外にもバブリー武田修宏が復帰してきたり、“帝京のロナウド”という異名ばっかり先行していた矢野隼人がいたり、“小野伸二二世”こと佐野裕哉がいたり、日本代表候補に一瞬だけ入った西田吉洋がいたり、とにかくネームバリューだけなら強そうなのがポイントが高い。二つ名ばっかり立派なのである。あと監督も松木安太郎だ。そんなヴェルディはしっかり低迷し、夏に獲ったエジムンドとマルキーニョスのおかげで残留した。
今後の展望
さて、サッカーにどんどん金が入るようになってきたので、中の人間もちゃんと考えて編成をするようになってきた。つまり我々しっちゃかめっちゃか編成愛好家には、冬の時代なのである。退屈な現代にドロップキックを決める経営が今、求められている。