欧州サッカー界における格差の拡大;格差のどこを批判するべきか
一握りのビッグクラブに金と注目が集まる傾向が進みつつある。リヴァプール、バルセロナ、マンチェスター・シティといったクラブはマーケティングとファンエンゲージメントの技術を駆使して年々新たな「価値提供」(金儲けのことをオブラートに包みたいときにMBA持ちが使う言葉だ)の方法を編み出し、ユヴェントスとレアル・マドリーは欧州スーパーリーグの設立に躍起になっている。一方で、格差の拡大は予測可能性の高まりや中小クラブの経営危機につながる可能性もある。
『近代サッカーはいかにして修復不可能なところに来てしまったか』(The Independent, Miguel Delaney)
反格差派の急先鋒、ミゲル・ディレイニーの力作。読んでみるとこの人特有の大げさ・繰り返しが多くてちっとも話が進まないのでイライラするのだが、主張のポイントとしては;
- 一握りのエリートクラブとその他の差がこれほど広がったことはなかった。過去10年だけで見ても、例えばこれだけのことが起こっている
- 5大リーグ全てで、優勝するのに必要な勝ち点は20年で約15~20増えている
- イタリア、ドイツはこれまでのような均衡・番狂わせがなくなり、ほぼ10年同じチームが優勝している
- トップ4に入るチームは年々固定化している
- 3点差以上つくような虐殺の発生確率が高まっている
というようなところだ。エリートクラブは自己永続的な円環構造を築いてしまっている。金がある、選手が買える、インフラに投資できる、イケてるマーケティングができる、良いサッカーができる、上位に入る、新たなスポンサーがつく。以下繰り返し。
しかも彼らはもっと大きな取り分を要求している。フロレンティーノ・ペレスとアニェッリは言うに及ばないが、ダニエル・レヴィも「私らは“もっとフェアな”取り分がほしいだけなんですよ」と言っているらしい。サッカークラブはすべて平等だが、あるサッカークラブはもっと平等なのだ。
ただ、本質的なところには全然触れてくれないのでそれが歯がゆい。富が集中したとして、それで何が悪いのか?実際、欧州スーパーリーグが開始されたら大多数のファンはそっちを見るだろう。
実際、イングランドで92もプロクラブがあるのは多すぎるのではないか?という話もある。クラブ経営で利益を得ようと思ったら、リーグ機構がクラブ数を集約してくれるのが一番手っ取り早い。Jリーグも、クラブ数が半分になったら投資できるのにと思っている投資家は少なくないのではないか。
『Amid Growing Soccer Wealth Gap, Is 92 Teams Too Many?』
https://www.nytimes.com/2019/08/23/sports/soccer/bury-efl-pogba-twitter.html?emc=rss&partner=rss
『IS IT REALLY “INSANE” TO THINK EUROPE’S TOP CLUBS COULD FORM THEIR OWN SUPER LEAGUE?』
ちなみにUEFAが実際に収入をどう分配しているのかについて;「5大リーグとその他50の国に対して前者が60%、後者が40%を得る。後者に行き渡る40%は、各国リーグが欧州のコンペティションに参加するのにかかる費用の約2倍」ということで、UEFA的にはかなり平等配分を進めている認識らしい。
こうした寡占化と格差の拡大に反対する主張は色々考えられるが、プロクラブの削減・プロを目指す選手人口の減少はレベルの低下につながらないのかという点が気になる。NFLやNBAはこれをどう解決しているのだろうか?(カレッジスポーツが実質的に下部のプロリーグ的な機能を果たしているのかも知れない)