マンチェスター・シティがよく分からない人向けの2018/19選手名鑑 (前編)
W杯どうでしたか。楽しかったですか。私は全く見れませんでしたが。とは言え、会社に海外サッカーファンが思いの外多いこともわかったし、その殆どがマンチェスター・シティについてよく知らないということもよくわかった。強いとか何とか言うことは聞いているが、というくらい。
そういったわけで、今回のプレビューは”シティをよく知らない人”向けに書いてみたいと思う。年に3回も選手名鑑(プレビュー、中間レビュー、シーズンレビュー)を書いていると少々飽きが来るものだし、ポジション、年齢、経歴、チームでの立ち位置を改めて確認してみるというのも悪くないではないか。
本社
マンスール・ビン・ザイード・アル・ナヒヤーン MANSOUR bin Zayed Al Nahyan
オーナー。シティを買収したアブダビ・ユナイテッド・グループのオーナーで、現UAE大統領の異母弟。金は出すけど口は出さない。弱点は最近指摘されている、本国の奴隷労働。
ハルドゥーン・アル・ムバラク KHALDOON Al Mubarak
チェアマン。米タフツ大で学位を取ったあと、若干26歳でとあるソヴリンウェルスファンドのCEOに就任。29歳でアブダビの国家顧問になり、31歳でシティのチェアマンになったアラブのエリート。父は元在仏UAE大使で、駐在中にテロリストに暗殺されたという壮絶な過去がある。とにかくデカくて分厚いので、コンパニ辺りと並んでも全く遜色がなくて怖い。
フェラン・ソリアーノ Ferran SORRIANO
CEO。元バルサ副会長で、バルサ時代は後述のベギリスタイン、グアルディオラとともに現在の隆盛を形作ったが、派閥争いに負けてクラブを去った。スパンエアーのチェアマンを挟んで、2012年にシティのCEOに就任。(NYや、メルボルンもひっくるめた)シティ・フットボール・グループの基本的な権力構造は、オーナーとチェアマンのアラブ人の下で、ソリアーノが各姉妹クラブのCEOを兼任するというもの。
”サッカークラブのディズニー化”という、捉えようによっては結構リスキーなビジョンを持っており、小言を言う人間がいないシティでやりたい放題やっている。
チキ・ベギリスタイン Txiki BEGIRISTAIN
サッカー部門のディレクター。バルサでの選手時代にリーグ優勝4回、CL優勝1回。晩年は浦和レッズでもプレーした、クライフの教え子。シティでは移籍の交渉と最終決定の権限はチキにある(と、少なくともファンは思っている)ので、選手が獲れたり獲れなかったりするたびにTwitterで「はよ辞めろ」「チキを信じろ」「チキが信じたグアルディオラを信じろ」という毀誉褒貶が激しい。
ペップ・グアルディオラ Pep GUARDIOLA
良くも悪くも、現代サッカー界の大正義的存在になってしまった、トップチームの監督。念願のCL制覇に向けたソリアーノの切り札。就任した2016/17シーズンは誤算続きだったが、ガッツリと補強した昨シーズンは圧倒的な強さでリーグを制覇し、評価を回復した。浮気現場に踏み込んだみたいなテンションで相手の選手をひっ捕まえて褒め倒すなど、寝ても醒めても奇行が目立つおじさん。
ミケル・アルテタ Mikel ARTETA
若干36歳、バルサ育ちのアシスタントコーチ。ツヤッツヤの黒髪が目印。現役時代はエヴァートンとアーセナルで活躍し、何とかイングランド代表にできないか?という話があった。長らくグアルディオラの右腕を努めたドゥメネク・トゥランが今年からNYシティの監督になったので、今年からはアシスタントコーチの筆頭格。
GK
1 クラウディオ・ブラボ Claudio BRAVO
チリ代表キャップ119、リーガ優勝2回、リーガのベストイレブン1回、コパ・アメリカのベストイレブン2回。輝かしい経歴の割には英国に渡ってから始終バタバタしているおじさんGK。“自動ドア”という非常なあだ名すらつけられてしまっている。しかし、ミスしても堂々としているのは大したものだと思う。そんなとこだけは元バルサ。
足技に長け、組み立てへの貢献度も高いが、守備範囲は狭い。正直、今年もリーグやCLでそんなに目にしたくはないが、リーグカップとFAカップは頑張ってもらいたいもの。
31 エデルソン・モライス EDERSON Moraes
昨シーズンから加入し、一瞬で正GKの座を掴んだクレイジーサイコGKボンバー。ブラジル代表。恐怖の感情が欠落しているようにしか見えず、前頭葉かどこかが切り取られているのではないかというもっぱらの噂。
守備範囲が広い上、相手に寄せられても余裕でボールを捌いてしまう冷静さと技術が売り。また、左足のフィードが飛ぶ飛ぶ。相手エリア前までライナーでかっ飛ばしてアグエロが即裏抜け、という手も使える。もちろん本職の守備面もリーグトップレベルで、もうほんと言うことないな。
32 ダニエル・グリムショウ Daniel GRIMSHAW*
自前アカデミー育ちの若手。昨シーズンまではユースチームにいたが、昨シーズンの第3GKだったムリッチがレンタル移籍したことで、トップに昇格。
DF
4 ヴァンサン・コンパニ Vincent KOMPANY
勤続11年の主将。アブダビ資本による買収1日前にクラブに加入した、近年のシティの象徴的存在。圧倒的な体格とパワー、瞬発力を武器に、2010年代前半はプレミア最強のCBとしてリーグに君臨した。体調が万全なら今でも守備では頼りになる存在だが、2014年辺りから怪我が目立ち始め、今やシーズンの半分出場できれば御の字というレベルになってしまった。両親の顔よりも「渋い顔でふくらはぎを押さえてピッチをあとにするコンパニ」を見る回数の方が多い、というシティファンは私だけではあるまい。
ピッチ内でもピッチ外でも、常に模範的な言動を絶やさない外交官。昨年はついにMBAを取得。クラブのフロント入りが噂されている。
5 ジョン・ストーンズ John STONES***
自陣ペナルティエリアで平気でドリブルしたり、センターサークル付近のボールキープでファンをハラハラさせたりと、イングランド1チャラいCB。チャラいCB大好きなグアルディオラたっての希望で獲得したらしい。
昨シーズン前半は攻守に文句の付け所が殆ど無い大活躍だったが、ハムストリングを痛めて離脱。復帰以降はミスが目立つようになり、控えでシーズンを終えてしまった。今シーズンこそワールドクラスになってくれるはず。こうした無謀な期待を繰り返してしまうことを、医学用語では「ウォルコットの沼症候群」と言います。
14 エメリック・ラポルト Aymeric LAPORTE
スペイン1チャラいCB。2018年1月、当時のクラブ記録の移籍金で加入。左足からの正確なフィード、組み立ての上手さには、さすが100億という風格が漂う。全体的にトロくさいのが弱点。今シーズンはラポルテ、ストーンズ、オタメンディが並ぶ3バックも見られると予想され、色んな意味で胸がドキドキしちゃうラインナップである。
ちなみに、曽祖父の血筋を辿ってビルバオでプレーしてこそいたが、本人はモロにフランス生まれのフランス育ちだし、本名も“エメリック・ジャン・ルイ・ジェラール・アルフォンス“というおフランス感丸出しのものなので、「ラポルテ」ではなく「ラポルト」と表記していきたい。
15 エリアキム・マンガラ Eliaquim MANGALA
2014年夏、約4,000万ポンドという大金で加入した、フランス代表の巨漢。しかし安定感に欠け、組み立ても苦手ということで、その後オタメンディ、ストーンズ、ラポルトと次々に加入する新たなCBにポジションを奪われっぱなし。チェルシーとの争奪戦の末に加入したという事実も、もはや忘れ去られた気配がある。どうでもいいが、そのときマンガラと並んで獲る獲ると言っていたのがベナティア。
昨シーズン後半エヴァートンにレンタルされるが、大怪我でほとんどプレーできず、リハビリのために今季も残留。ピッチ外では、SNSでファンへの感謝を度々口にしたり、新加入選手に真っ先に声をかけたりと、穏やかな人格者。
24 トーシン・アダラバイヨ Tosin ADARABIOYO*
シティ1読みづらい名前の長身CB。ほぼ2mある。そこそこ早い段階でトップチームに上がったが、リーグでは全然出番が無いまま、契約最終年。今年はWBAにローンだが、もう2年ほど前にやっておくべきではなかっただろうか。Twitterのプロフィールに「アダ・ラ・バイ・ヨ」と読み方をわざわざ書いてくれている親切な男。
28 ジェイソン・デナイエル Jason DENAYER
「少しずつだけど 俺たちはお前が夢見たものを叶えてきた でも少しずつ お前の人生の歯車は外れていった」とはoasisの隠れた名曲Little by littleの一節だが、このドレッドヘアのベルギー人CBに対して、私はそういった感情を抱かざるを得ない。2014/15シーズン、若干20歳にしてレンタル先のセルティックで最優秀若手選手賞とベストイレブンを受賞したところまでは、間違いなく輝く前途が待っていたはずなのだが。
そのあとトルコをレンタル先に選んでしまったのが悪かったのか、以降3年間、特に成長することもなくトルコ周辺をウロウロしている。スピードはあるけどボールウォッチャーになりがちだったり、ボール扱いがこなれてる割に組み立てがうまいわけではなかったり、サンダーランドを降格させた挙げ句「街もクソつまらんし、こんな守備的なサッカーで俺の力は出ない(笑)」と豪語したり、喧嘩相手を道端でボコボコに叩きのめすところをガッツリ撮影されてしまったり、各方面で満遍なく残念。才能はあるんですけど。
30 ニコラス・オタメンディ Nicolás OTAMENDI
「身軽だけど足は速くない」「対人戦はめっぽう強いけど背は低い」という、アルゼンチンの正統派ストッパー。山男的な外見とつぶらな瞳が特徴。決断力だけは世界一あるため、他の選手ならまず様子を見るシチュエーションでも全く意に介さずスライディングタックルを繰り出す。
2年前まではタックルの結果がどうなろうと知らんみたいな感じだったが、グアルディオラの指導で急激に成長。守備が安定したばかりか、今や組み立てでもプレミア屈指のCBになっており、昨季はベストイレブンに選出されるに至った。今シーズンも、守備の要として期待は大きい。惜しむらくは、他人に影響力があるタイプではないので、周りがダメなときはダメですね。アルゼンチン代表とか。
34 フィリップ・サンドラー Philippe SANDLER
オランダのズウォレから引き抜いた21歳のCB。(恐らく)グアルディオラが見込んだだけあって、プレーは相当チャラい。ルシオとダヴィド・ルイスを足したようなというか、正直CBとしては相当にキワモノ。得意なプレーはドリブル突破。ストーンズどころのチャラさではない。大丈夫かこれ。
50 エリック・ガルシア Eric GARCIA
代理人になったプジョルとデ・ラ・ペーニャに唆されて、バルサの至宝がシティに移籍。すいませんね、なんか、本当。今夏のプレシーズンマッチでは3バックの真ん中で堂々たるプレーを披露。身体も強いし、組み立ても落ち着いているし、末恐ろしい17歳である。惜しむらくは180cmそこそこの身長で、そのうち中盤にコンバートされるのかもしれない。今年は運が良ければ、国内カップ戦で何試合か出番があるかも。
77 キャメロン・ハンフリーズ Cameron HUMPHREYS-Grant
アカデミー育ちのCB。2015年夏、若干16歳にしてプレシーズンマッチに抜擢され、ロナウドにボコボコにされていた。そこから3年ほど音沙汰がなかったが、今夏のプレシーズンではそれなりに成長した姿を披露。契約は今季までだが、延長のチャンスがないでもないかもしれない。
2 カイル・ウォーカー Kyle WALKER***
ムキムキでめちゃめちゃ足が速い右サイドバック。サイドバックが弱点だったシティに昨年加入し、パワーとスピードを遺憾なく発揮。ベストイレブンを受賞する活躍で、シティの右サイドを安定させた。もともとは攻撃に特徴があるタイプだが、シティではもっぱら守備にその筋肉を使用中。なにせ圧倒的に速いので、大概のFWは追いつかれてひどい目に合わされている。SNS大好き。
3 ダニーロ DANILO
レアル・マドリーで窓際社員をやっていたところを払い下げてもらったブラジル代表。レアルではどっちかというとネタ扱いだったようだが、どこでどう出しても大体そこそこのプレーを見せてくれるので、シティでは重宝されている。ブラジル人らしく、本気で攻めればかなりの攻撃力。チーム屈指の真面目君でもあり、4-1でボロ勝ちしている試合の後半終了間際でも警戒心を絶やさない。誰も要求してないが。
22 バンジャマン・メンディ Benjamin MENDY
クラブ公式Twitterアカウントだろうが、自分の国の大統領だろうが、滑ることを一切恐れない鋼のメンタルでウザ絡みを止めないパリピな左サイドバック。昨年は開幕早々に靭帯損傷の大怪我を追ってしまい、ほぼ1年を棒に振ったが、試合のたびにTwitterで実況するのでそこらの控え選手よりよっぽど存在感があった。
立派な体格、単独で突破できるパワーとスピード、常人に真似できない深さから上げてくるクロス、敵どころか味方まで混乱に陥れる運動量等、プレーには怪物感が漂うが、守備はてへぺろでござんす。