#僕の私のドリームチーム 素材本位のイングランド代表  

 

みんな、堕ちた天才の話は好きか?

 

そうか、先生も大好きだ。ネスタと財前の話なんか聞くとワクワクするよな?よーし、じゃあ今日は一つ、「ポテンシャルをフルに発揮していたらすごかったはずのイングランド代表」を選んでみようじゃないか。

https://media.gettyimages.com/photos/theo-walcott-of-arsenal-celebrates-scoring-his-sides-first-goal-the-picture-id628913858?s=2048x2048

(まあこの人は今回選んでないんですが)

 

そういうわけなんですよ。元のネタはアトさんの「私選:素材本位の”日本代表”」ですけれども。ワクワクしない?こういうの。みんなも自分のドリームチームを教えてくれよな。

atlanta.blog24.fc2.com

 

そういうことで、以下の選考基準で25人を選んでみたわけよ。

  1. 素材、(私の考える)最大ポテンシャル重視
  2. 代表レベルできちんと”本領”を発揮したのを、私が見た記憶の無い選手。(ただしその”代表”自体は、年代別でも構わない)
  3. 2000年以後を対象。ただしこれから「発揮」しそうな選手は除外。

 

GK      フォースター              ジェイムズ                 

CB       キング                         ウッドゲイト

CB       リチャーズ                  ロドウェル

RB       ハーグリーヴズ          アントニオ

LB       マット・テイラー       リッジウェル 

CM      ミルナー                     M. ジョンソン         

CM      ダイアー                     ウィルシャー 

RM      アダム・ジョンソン   ベントレー                 

LM      ジョー・コール          ザハ

FW      ヤング                         K. フィリップス

FW      キャロル                     スタリッジ

 

GK

フレイザー・フォースター

やっぱり、デカいのが良いですよね。201cm。それでいてフォースターはひょろ長いわけじゃなくて、筋肉質で運動能力が高いというのが安心感が高い。やはりそれまでのロビンソンなり、ライトなり、グリーンなり、カーソンなりに感じる不安は「こいつらひょっとして、普通にどんくさいんじゃないか?」みたいなところがあったんで。

 

デイヴィッド・ジェイムズ

「Donkey」「疫病神」として有名だったジェイムズ先生。よく「至近距離からのシュートに対する反応はピカイチ」と言われてきたが、実は全然そんなことなくて、ジャンプ力とヤマカンに頼っているだけのGKだったんですよね。私が思うに。これが30代後半のポーツマス時代になると、ミスも少なかったし、シュートストップの性能も高かったし、ハートを除けば国内で最高のGKと言って差し支えなかったと思う。ジャンプ力や走るスピードに自信がなくなってきたのが良かったのかもしれない。ああいう雑な育ち方をするのは、時代的にしょうがなかったでしょうけどね。イギリスが一番調子こいてた時代の、一番調子こいてたクラブ(リヴァプール)の出身だし*1

 

 

CB

レドリー・キング

治療法が見つからない怪我で有名だったスパーズのキャプテン。もう、とにかく常に怪我をしていた。アンリが「プレミア最高のDF」と言ったとか言ってないとかいう話もあったが、強くて速くて頭も良かったし、ボールもつなげたし、頑丈でさえあればキャラガーよりよっぽど出世していたであろう、と思います。

 

マイカ・リチャーズ

シティ・アカデミーが生んだ最後のレギュラー。シティがアブダビ資本に買収されたあとはサイドバックに転身していて、代表でも基本的には右サイドバックだったが、ほんとはセンターバックなんすよね。この人は。ほんとはってことも無いけども。右サイドバックだと確かに強くて速いんだけど、カイル・ウォーカーを日常的に見ている今となってはあまり新鮮味もないし、あとドリブルに弱い。一方で真ん中やっているときはその快足をカバーリングに活かしまくっていて、CB一本で育成されてほしかったところ。

 

ジョナサン・ウッドゲイト

もはや「レアル・マドリー史上最悪の買い物」、という文脈でしか触れられなくなって久しいが、天才的なCB。リベロ風の佇まいで誤解されがちだが、結構純粋なストッパー型だったと思われる。組み立てとかはそんなにできないけど、強くて、高くて、常に反応が速くてね。

 

ジャック・ロドウェル

CBに置いてるのは間違いではなく。かなり無理はありますけれども。もともとユース時代はDFとMF兼任だったらしくて、「リオ・ファーディナンド二世」という評判もあったしね。後から出てきたバークレーとかと比べてもボール扱いの巧みさとかには限界があって、中盤ではエヴァートンで威張るのが関の山だったように思う。シティ移籍後の初戦で隣のヤヤに思いっきりビビりまくっていたのも、同じポジションでのクオリティの差を考えれば已む無いところだったのかと。CBならあの縦への持ち上がり、長いパスレンジが特徴として活きたのではないか。そういう意味で、CBに選出。

 

 

サイドバック

オーウェン・ハーグリーヴズ

バイエルンマンUで活躍したおなじみの天才ボランチだが、右サイドバックに置いたのはここを担当した2006年W杯が余りにも良かったからです。走力もあったし、ボール扱いも上手いし、賢くボールを動かせたしで、10年遅く生まれてたらそれこそラームみたいになれたんじゃないかと思うわけ。

 

マイケル・アントニオ

ウェストハムで活躍中のウィンガー。強くて速いじゃん?とにかく。あのゴリラっぽさ、右サイドバックに置いたら相手のエースをめちゃめちゃ殺してくれそうな気がする。まあ聞いたところによると「実際、右サイドバックもやったことある」らしくて、普通にそこそこの出来に収まってしまってる(だから現実にはウィングやってる)という可能性はあるわけですが、私が未見なので、可能性だけを信じてサイドバックに配置。

 

サイドバック

マシュー・テイラー

ポーツマスで脚光を浴びた左ウィングバック/ウィング。後年は「後ろから来る長いボールに異様に強い」という奇妙な特徴を買われて、アラダイス政権のボルトンでレギュラーに定着。1回だけリーグで10点取ったりして、かなり活躍した方ではあるんですが、ウィングではかなり「飛び道具」的な使い方に限定される選手だったので、サイドバックで見たかったですね。後方からあのパワフルな左足でサイドチェンジをするところがもっと見たかった。ちょっとコラロフっぽい選手だったと思います。身体も強かったしね。

 

リアム・リッジウェル

ごめん、ちょっと思い浮かばなかった。リチャードソンと迷ったが、サイズがある、身体が柔らかくて無理が効く、そこそこボールが扱える、という点で選出。ちょっと流石に厳しすぎるかもしれない。

 

 

セントラルMF

ジェイムズ・ミルナー

十分活躍してるやろという意見はもちろんありますが。シティでリーグ優勝2回、リヴァプールでCL優勝1回取ってるし。20代後半以降になってどんどんチーム内での価値が高まっていって、ネット上でのファンダムからの評価も「いぶし銀」としてうなぎ登っていったところは、人徳の為せる技という気がします。

それがなんで入ってるかというと、2009/10にヴィラで見せたMF中央でのプレーが眩しすぎたからです。ほぼスコールズでしたよあれは。あそこでシティに行かずに、それこそマンUにでも行ってればイングランドのMFに君臨するミルナーが見れたかもしれない。そういう意味での選出。すごい選手だけどね、今も。

 

マイケル・ジョンソン

知ってる?知らんやろ、みんな。多分この中では最もまともにプレーしてない選手で、実質的には10代でキャリアが終わっちゃってるんですね。1シーズンも保ってない。でも2007/08にシティで出てきて、十代でレギュラーを張っていたときは、ランパードとジェラードを足して2で割ったような可能性を感じさせました。前線に飛び出していくタイミングの良さと、長いストライドを活かした突進力と。パスレンジも長かったし。惜しい人を亡くしました。(死んでないけど)

 

キーロン・ダイアー

覚えてますか、キーロン・ダイアー。「ベラミーと同じくらい足が速いCMF」という、訳のわからないプレースタイルの選手だった。今でいうと「スターリングと同じくらい足が速いCMF」という感じか。 そんなん見たことある?ないでしょ。“ラン&ガン”のロブソン政権ニューカッスルでやってた全盛期は、他の誰かでは出せない威力がありました。Wikipediaでは「右ウィングが本職」と書かれてますが、絶対中央の方がよかった。今だったらペップが4-3-3のMFで使ってカウンターで走らせまくりそう。

 

ジャック・ウィルシャー

CLバルセロナ戦の衝撃をもって選出。怪我もさることながら、30近くなっても一向に成長しない精神面が、勿体なかったですね。

 

 

右ウィング/アタッキングMF

アダム・ジョンソン

ドリブラーじゃなかったですよね。なかったと言うか、そんなにドリブル自体には実効性がなかった。バタバタしてるだけで、そんなにスピードも無いから抜けないし。ただシュートにせよスルーパスにせよクロスにせよ「通す」のが天才的に上手くて、他のイングランド人には全く無い美しさがあった。ほんとその瞬間だけ切り取れば、ダビド・シルバやナスリより「優雅」ではありましたよ。

 

デイヴィッド・ベントレー

端正な顔と、射程距離の長い右足が売りだったMF。多分属性とタイミング的に「ベッカム二世」的な扱いをされすぎたのが良くなかったと思う。あとは、あの時代のスパーズに行ったこと。実際はセカンドトップ/トップ下に置かれてた方が、飛び出しもできるし、自慢のキックももっとゴールに近いところで使えるし、良かったんじゃないすかね。

 

左ウィング/アタッキングMF

ジョー・コール

ご存知天才児。モウリーニョに改造されて超ハードワーキングなウィングになって、一回ベストイレブンに選ばれるくらいの活躍はしましたけど、もっとチームの中心として輝くところが見たかった。

 

ウィルフリード・ザハ

このあと全盛期を迎える可能性も全然あるんで若干反則ですけども、まあ「イングランド代表で」見ることは二度と出来ないという意味で。ほとんどウイイレ的な突破力があって、身体が強いから苦しいときに頼ることも出来て、文句ないですね。早くアーセナルとか行ったら良いと思う。

 

 

FW

ケヴィン・フィリップス

彼自身の全盛期は、ナイアル・クインと組んだときの「得点特化型」FWとして来てるわけですけど、実際はもっと万能型だったんすよね。視野も広いし、中盤に降りてきて捌くこともできるし、クロス上げても正確だし。単に得点だけ狙ってても勿論すごいけど、ミニ・アグエロみたいになれたと思います。

 

アシュリー・ヤング

間違いじゃないよ!!いやマジで。ワトフォード~ヴィラ時代のトップ下兼ウィングとしてのヤングはスピードもあったし、裏を取るセンスもあったし、フィニッシュも正確で、もうちょっとちゃんとFWとして育ててほしかったと思います。まあ35になってサイドバックに転身して頑張ってるのもすごいけどさ。

 

アンディ・キャロル

(あのときの)リヴァプールに行っちゃったのがね・・・。2000年代の終わりに一瞬だけ猛威を奮ったニューカッスル育ち。プレミアのCBを子供扱いする異様な空中戦の強さに加えて、そこそこボール扱いも柔らかかったし、どっからでもブチ込める左足もあったんで、二桁得点1回で終わるような選手では無かったはずですが。

 

ダニエル・スタリッジ

2013/14にスアレススターリングと組んでたときの万能ぶり、それでいてのクリティカルさは、近年のイングランド人FWにはほぼ比類なきレベル。それこそ、一番点取ってたときのルーニーくらいじゃないかと。もっと見たかったっすね。シティのOBだし。賭博て、お前。

 

 

そういうわけでみんな、それぞれの「ホントだったらすごかったはずのベストイレブン」、教えてくれよな。待ってるぜ。

 

*1:リヴァプールの選手がどれくらい調子こいてたかは、「Spice Boys」で検索してみよう

時間がない人のための「シティは何の件で糾弾されているのか」

まとめ

  • なぜ?:①アブダビ関連企業からのスポンサー契約をバックデートして締結し、2012/13シーズンに(ブレイクイーブンルールに抵触する水準の)損失が発生しないようにした疑い。②更に遡って、2010年の契約で、アブダビ関連企業からの契約のうち、額面の大半をオーナーの会社から支払い、売上計上した。つまり、スポンサーフィーを過大に計上した疑い。
  • それでどうなった?:2020年2月14日、UEFAが2年間の欧州コンペティション出場停止と罰金を発表
  • UEFAは知ってた?:これが大事なところで、UEFAはFootball Leaksが暴露するまで知らなかったのではないかと思われる。当然えらいこっちゃだ。(調査に入るときに、UEFAは「新事実が出てきたので」というようなことを仄めかしている。)
  • この話いつ出てきた?:2018年11月。Football Leaksのリークに端を発する、Der Spiegelの報道によって
  • この話、全体としてどの程度信憑性があんの?:不明だが、これもメールが出てきている(らしい)

 

 

詳細)Der Spiegelの記事からわかること

下記は、ポルトガルハッカーがシティのサーバーをハッキングして入手したと主張しているEメール等をもとに、独紙Der Spiegelが主張した内容

  • シティの首脳陣は、2012/13シーズンの終わりに、FFPのブレークイーブンルールに抵触しそうなことを把握した。*1
  • 財務部門のホルヘ・チュミジャは、「不足分を埋める唯一の解決策は、アブダビからのスポンサーシップ収入だと思います」と内部のeメールに書いた
  • 幹部のサイモン・ピアースは、「今後の2年間に対して、バックデートした契約を結べばいい」と提案。またCEOのソリアーノも、FAカップに優勝した場合のボーナス収入を契約に盛り込むことを提案した。
  • 結果として(※Der Spiegelは「シーズン終了から10日後」と書いている)、エティハド航空は150万£、アーバル*2は50万£、官公庁は550万£を追加でスポンサーフィーとして支払い。契約の日付は、シーズン開幕時にバックデートされた。
  • チュミジャがアブダビからのスポンサー契約をバックデートすることが可能なのかと聞いたのに対して、サイモン・ピアースは"Of course, we can do what we want."と回答した。
  • 時間は戻って2010年4月、ピアースはアーバルとのスポンサー契約を締結。フィーは年間1,500万£だったが、ピアースは内部のメールで「アーバルからの直接的な支払いは300万£で、残りの1,200万£は陛下*3からの別の資金源から」と書いた
  • また、エティハド航空からの年間6,750万£ののスポンサーフィーについては、「800万£がエティハドからで、5,950万£はADUGから」と、チュミジャがピアースに宛てたメールの中で記載している
  • FFP抵触を回避するために、シティ内部で「プロジェクト・ロングボウ(長弓)」というプロジェクトが立ち上がった
  • 通常、クラブは所属している選手を使った販促品を作る場合、選手の肖像権使用料を選手に支払わなければならない。しかしシティは、①肖像権管理会社(Manchester City Football Club(Image Rights)Limited)を設立、②それを新たに設立した「Fordham Sports Management」というマーケティング会社に売却し、③肖像権使用料はFordhamが支払う、④そしてADUGがFordhamに損失を補填する、というスキームを編み出した。
  • Fordhamの代表として雇われたジョナサン・ロウランドは「ADUGが全面的に支援することが最重要だ」と念押しし、サイモン・ピアースは「営業費用については、毎期先払いで約1,100万(※おそらく£)をキャッシュで支払う」と回答した

*1:マンチーニの解約違約金のため、という説がある

サッカークラブはどの程度なら立ち直れるのか

マンチェスター・シティ、2年間の欧州コンペティション出場停止と罰金。

 

www.theguardian.com

 

 

なぜこういうことになったのか、という点についてはこちらの過去記事を見てほしい。マンチェスター・シティにはCASへの上告余地があるので、来季からすぐに出場停止になるわけではないという説もあるが、今後「チート」「インチキ」との誹りは免れ得ないだろう。CLから締め出しともなれば、収入面でも大きなダメージを受けることは間違いない。

 

さて、サッカークラブはどれくらいレジリエントなのだろうか。つまり、どの程度のダメージなら立ち直ることが可能なのであろうか。

 

例えばリヴァプール。1985年、リヴァプールには「ファンが相手のファン約30人を試合会場で殺す」というかなりストロングスタイルの事件があった。結果は6年間の欧州コンペティション出場禁止である。とはいえその後も3回リーグ優勝をしているし、90年代から00年代を通じてサッカー界におけるリヴァプールの人気は健在だった。

 

ja.wikipedia.org

 

例えばユヴェントス。「ヤオセロナ」や「ペナルティアーノ」など、審判の買収に関するジョークはスポーツをめぐるナラティブに深く浸透しているが、ユーベは実際にそれをやるというイノベーションに打って出た。まあ実際のところ、イタリアではみんなやっていたのだが。最終的にはタイトル剥奪、2部降格処分を食らったものの、2010年代には常勝クラブとしての地位を取り戻している。
カルチョポリの顛末についてはこの記事に詳しい。2011年に「クラブに対しては法的責任を問わない(モッジら当時の首脳陣や審判個人に対して問うているので)」という判決文が出たことが、一部で「ユーベは八百長をやっていなかった」という説が出るようになった原因だろう) 

tifosissimo.jp

 

 

一方でポーツマスのように財政破綻とタイミングを合わせてプレミアから実質3部まで転落し、今もその地位を取り戻せていないクラブもある。

 

シティに対する処分が発表された日にそういうことを言い出すとは、他のクラブを引き合いに出して印象を薄めようとしてるんですか!?許せません!!という声もあろうかとは思うが、まあちょっと落ち着いて頂きたい。実際、この2つはサッカークラブとしてはかなりの危機のはずだ。あなたがこの2つのクラブの社長として雇われているとしよう。ある日報告がある。スタジアムで相手のファンを殺害してしまった。GMが審判に圧力をかけていた。自分なら、頭を抱えて2時間は喫煙室から出てこれない自信がある。そこから立ち直ったというのはいろんな意味でサッカー史に残る出来事だと思うのである。

 

ただしリヴァプールユヴェントスの場合、事件発生時点で既に名門クラブとしての強いブランドがあった。特にリヴァプールの場合は突発的な事故である。謂わば本来的な価値はちゃんとあって、ガバナンス上の問題でそれが一時的に毀損されているだけ、と評価される状態だ。一方で新興クラブのシティの場合、「粉飾会計を行って価値を水増ししていた」と見なされる可能性がある。そうなれば現状の事業規模を保つことは難しくなる。

 

その意味で、過去の危機事例は参考になりづらいと思うのである。

欧州サッカー界における格差の拡大;格差のどこを批判するべきか

一握りのビッグクラブに金と注目が集まる傾向が進みつつある。リヴァプールバルセロナマンチェスター・シティといったクラブはマーケティングとファンエンゲージメントの技術を駆使して年々新たな「価値提供」(金儲けのことをオブラートに包みたいときにMBA持ちが使う言葉だ)の方法を編み出し、ユヴェントスレアル・マドリーは欧州スーパーリーグの設立に躍起になっている。一方で、格差の拡大は予測可能性の高まりや中小クラブの経営危機につながる可能性もある。

 

 

『近代サッカーはいかにして修復不可能なところに来てしまったか』(The Independent, Miguel Delaney)

https://www.independent.co.uk/sport/football/premier-league/champions-league-superclubs-liverpool-man-utd-barcelona-real-madrid-a9330431.html

反格差派の急先鋒、ミゲル・ディレイニーの力作。読んでみるとこの人特有の大げさ・繰り返しが多くてちっとも話が進まないのでイライラするのだが、主張のポイントとしては;

  • 一握りのエリートクラブとその他の差がこれほど広がったことはなかった。過去10年だけで見ても、例えばこれだけのことが起こっている
  • 5大リーグ全てで、優勝するのに必要な勝ち点は20年で約15~20増えている
  • イタリア、ドイツはこれまでのような均衡・番狂わせがなくなり、ほぼ10年同じチームが優勝している
  • トップ4に入るチームは年々固定化している
  • 3点差以上つくような虐殺の発生確率が高まっている

というようなところだ。エリートクラブは自己永続的な円環構造を築いてしまっている。金がある、選手が買える、インフラに投資できる、イケてるマーケティングができる、良いサッカーができる、上位に入る、新たなスポンサーがつく。以下繰り返し。

しかも彼らはもっと大きな取り分を要求している。フロレンティーノ・ペレスとアニェッリは言うに及ばないが、ダニエル・レヴィも「私らは“もっとフェアな”取り分がほしいだけなんですよ」と言っているらしい。サッカークラブはすべて平等だが、あるサッカークラブはもっと平等なのだ。

ただ、本質的なところには全然触れてくれないのでそれが歯がゆい。富が集中したとして、それで何が悪いのか?実際、欧州スーパーリーグが開始されたら大多数のファンはそっちを見るだろう。

 

 

実際、イングランドで92もプロクラブがあるのは多すぎるのではないか?という話もある。クラブ経営で利益を得ようと思ったら、リーグ機構がクラブ数を集約してくれるのが一番手っ取り早い。Jリーグも、クラブ数が半分になったら投資できるのにと思っている投資家は少なくないのではないか。
『Amid Growing Soccer Wealth Gap, Is 92 Teams Too Many?』

https://www.nytimes.com/2019/08/23/sports/soccer/bury-efl-pogba-twitter.html?emc=rss&partner=rss

 

 

『IS IT REALLY “INSANE” TO THINK EUROPE’S TOP CLUBS COULD FORM THEIR OWN SUPER LEAGUE?』

https://worldfootballsummit.com/is-it-really-insane-to-think-top-european-clubs-could-form-their-own-super-league-2/

ちなみにUEFAが実際に収入をどう分配しているのかについて;「5大リーグとその他50の国に対して前者が60%、後者が40%を得る。後者に行き渡る40%は、各国リーグが欧州のコンペティションに参加するのにかかる費用の約2倍」ということで、UEFA的にはかなり平等配分を進めている認識らしい。

 

こうした寡占化と格差の拡大に反対する主張は色々考えられるが、プロクラブの削減・プロを目指す選手人口の減少はレベルの低下につながらないのかという点が気になる。NFLNBAはこれをどう解決しているのだろうか?(カレッジスポーツが実質的に下部のプロリーグ的な機能を果たしているのかも知れない)

プレミアトップ6の10年間を振り返ろう:なぜマンU・アーセナルが沈み、シティ・リバポ・トテナムが台頭したのか

 

色々ありましたね2010年代。リーガ・エスパニョーラとの売上高の差は今や2,400億円。プレミアリーグにとっては、サッカー観戦市場のグローバル化がもたらす恩恵を最大限に受けた10年間であった。

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欧州5大リーグの売上高推移(百万ユーロ)

 

さて、10年間の間にビッグ6にも色々あった。というか、トッテナムとシティが台頭してビッグ6という枠組みが成立したのがちょうど10年前の2009/10シーズンだ。この10年間にサッカーもビジネス化したとか、資本主義の論理で動くようになったとか色々いわれるようになった。まあ要するに市場として成長したのだが、そのおかげでビジネスっぽい視点からサッカーを見るのもちょっと流行りになっている。例えば片野道郎さんがNewspicksにこういうコラムを載せたりとか。よっていつものことではあるが、ビジネスっぽい目線に立ちながら、プレミアトップ6の2010年代を振り返ってみたい。

newspicks.com

 

 

 

アーセナル 凋落

平均順位:2000-2009 2.3位 vs 2010-2019 3.9位

平均勝ち点:2000-2009 77.1 vs 2010-2019 71.9

獲得タイトル:FAカップ×3

 

10年前の時点ですでに「CL圏を獲得するだけでいいのか」という批判はあったが、ここまで落ちると予想した人は少なかったのではないか。そういう切ない10年であった。

 

この10年をまとめると、事業と財務が適切に連携できなかったために、千載一遇の機会を逃し、ファンの愛情に応えられなかった期間と言える。確かにアーセナルにはマンチェスター・ユナイテッドほどの収益力も、チェルシーマンチェスター・シティのようなオーナーもいなかったが、タイトル争いをするのに無尽蔵の資金は必ずしも必要ないというのはトッテナムやレスターが見せた通りだ。というのは、フィナンシャルフェアプレイ(FFP)があるので各クラブは原則的には損失を出せない、つまり売上でカバーできる範囲内でしか費用を使えないので、資金源の差は矮小化される。

加えて、2010年代初頭のアーセナルには、スタジアム建設にかかる負債の返済を差し引いても、他クラブを圧倒する現預金があった。しかも09/10シーズンには負債の大幅な元本返済を済ませているのだ。なのに金を使えなかった。2010年代中盤になってから慌てて獲得を増やしているが、時既に遅しであった。これは事業サイド、つまりピッチ内のパフォーマンスを勘案し、選手の売買にゴーサインを出す財務が機能していなかったと見るべきであろう。

https://media.gettyimages.com/photos/arsenal-manager-arsene-wenger-looks-on-during-the-premier-league-picture-id946602852?s=2048x2048

 

そうなってしまった経緯も正直意味がわからない。2010年代中盤の時点で、ヴェンゲルは「移籍金が高騰することは以前から分かっていた」と言っている。じゃあなんで現金を腐らせておいたんでしょうか。案の定、現金の実質的な価値は10年前に比べて激減してしまった。10年前なら5,000万ポンドあれば世界屈指の選手が買えたが、今やサイドバック一人分である。

 

これはぶっちゃけ、ファンに対する裏切りだと思う。というのは、クラブに蓄えられた現預金というのはファンがチームに期待して買ったチケットや、愛着を感じて買ったグッズの売上の集積であり、あるいはファンが(直接的な儀式を経ないまでも)信任したオーナーからの資金であるわけで、平たく言えばファンの愛である。それを腐らせておいて、フィナンシャルフェアプレイの文句を言うとか、他にすることがいくらでもあったのではないだろうか。

 

そうして資金を使わないうちに、アーセナルは資金を「使えない」クラブになってしまった。アレクシス・サンチェスとアルテタの件で二回も案件がポシャりかけた(サンチェスの場合は実際にポシャった)不手際が示しているのは、アーセナルが決めたことを実行することも、あるいは「決める」ことすらも覚束なくなっているということだ。

https://media.gettyimages.com/photos/alexis-sanchez-of-manchester-united-looks-dejected-in-defeat-after-picture-id931580674?s=2048x2048

 

とここまで批判はしてきたものの、数年に一回見せるザックジャパン究極系みたいなスーパーゴールとか、「ブリティッシュ・コア」という素敵なコンセプトとか、楽しいところもたくさんあった。なんと言っていいかよくわからんが、アーセナルのことを嫌いになるのは難しい。そういう良いクラブだと思う。アルテタも来たことだし、どうか明るくやっていてほしい。

 

 

 

チェルシー 驚異の復元力

平均順位:2000-2009 3.2位 vs 2010-2019 3.5位

平均勝ち点:2000-2009 77.3 vs 2010-2019 75.0

獲得タイトル:リーグ×3, FAカップ×3, リーグカップ×1, CL×1

 

実はシティに次いでタイトルを取っている。CLも一回獲ったし。

その10年、チェルシーはとにかく失敗が多かった。失敗というのが言い過ぎなら、とかくチェルシーの立てた計画は計画通りに進まなかった。その証拠が他クラブに比べて明らかに大きい特別損失で、これは定義上「臨時的・偶発的な理由で発生した損失」なのだが、チェルシーはびっくりするくらい毎年これを払っている。内訳は主に、監督解任の違約金や、選手の減損だ。(あと、女医に賠償金を払っているという噂もあった。)チェルシーくらい日常的に監督解任時の違約金を支払っていると、もはや特別損失じゃなくて営業外費用かなにかで処理したほうがいいんじゃないかという気がしてくる。

https://media.gettyimages.com/photos/chelsea-manager-jose-mourinho-looks-on-as-team-doctor-eva-carneiro-picture-id495221010?s=2048x2048

 

そしてもっと重要なことに、チェルシーは何回失敗してもすぐ立ち直る。この10年間を見ても、モウリーニョ第1世代組(テリー、ランパードドログバ等)が衰えてくる、モウリーニョ後の監督選びが落ち着かない、第二次モウリーニョ政権が優勝後1年保たずに賞味期限が切れる、コンテ政権も優勝後1年保たずに賞味期限が切れる、ローン規制が既定路線になる、とそれなりの危機に直面しているのだが、その都度1,2年で成績を回復している。アーセナルマンチェスター・ユナイテッドと比べると段違いの復元力である。この見切りと復元の速さはチェルシーの強みと言えよう。

https://media.gettyimages.com/photos/mason-mount-and-tammy-abraham-of-chelsea-celebrates-after-scoring-picture-id1169912010?s=2048x2048

 

 

 

 

 

リヴァプール 見事なターンアラウンド

平均順位:2000-2009 3.5位 vs 2010-2019 5.4位

平均勝ち点:2000-2009 71.0 vs 2010-2019 68.8

獲得タイトル:リーグカップ×1, CL×1

順位も勝点も、そしてトッテナム除けばタイトル数もトップ6中一番少ない上、実は10年単位で比べると数字上は悪化しているのだが、CL優勝+リーグ独走でついにプレミア優勝ほぼ確定、と2010年代を最高な形で締めくくることができたので、印象はとてもポジティブ。何より、10年前のリヴァプールはほとんど破綻寸前まで行っていたわけで、そこから再生したのは見事であった。

https://media.gettyimages.com/photos/jordan-henderson-of-liverpool-lifts-the-champions-league-trophy-after-picture-id1153211833?s=2048x2048

 

なぜそれができたのかについて色々説明はあるだろうが、まず新しいオーナー、ジョン・W・ヘンリーにはちゃんと金があった。Forbesが主張するように、前のオーナーは言ったことを実行に移すだけの金がなく、リヴァプールはほぼ債務超過で、選手を売る以外にほとんど何もできない状態だった。その後、うまく行ったり行かなかったりした戦略・施策は色々あるが、このおっさんの会社が約450億円ぶち込み、債務を肩代わりしてバランスシートをきれいにしたことの功績は大きい。

www.forbes.com

 

また、軌道修正も早かった。WSJこの記事に詳しいが、一般的に評価される指標と、勝利に繋がりやすい指標の差をアービトラージするマネーボールがプレミアでは効かないとわかると、すぐに「大量に、しかし賢く金を使う」という方針に切り替えた。ちゃんと金を出してサラーたち3トップや、ファン・ダイクやアリソンを調達できていなかったら、CLタイトルや現在の好調は難しかっただろう。 

www.wsj.com

www.sportskeeda.com

 

 

ちなみに、リヴァプールとシティを比較するのは色々と面白い。リヴァプールのオーナーであるフェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)は異なるスポーツのクラブ(例えばレッドソックス)を保有するが、シティの親会社であるCFGはサッカーに絞ったポートフォリオを組んでいる。前者は「異なるスポーツの知見を適用することでより価値が生まれる」と言うだろうし、後者は「特化によってより深い知見を得ることができる」と言うだろう。どっちも一般的なビジネスではよく見るアプローチではあるが、スポーツクラブでやるとどうなるのかは気になるところだ。(アーセナルのスタン・クロエンキーも同じことができるはずだが・・・)

https://media.gettyimages.com/photos/liverpools-new-signings-milan-jovanovic-danny-wilson-and-joe-cole-picture-id103113922?s=2048x2048

 

(追記)10年前のリヴァプール「サッカーファンなら誰でも知ってる、アジアにもアフリカにもファンが多い名門クラブが、借金漬けで株主価値が下がりきっている*1」という、投資家的にはめちゃめちゃ美味しい状態にあった。

が、「めちゃめちゃ美味しそう」と「実際に手を出す」ことの間には大きな隔たりがある。私がコーポレートファイナンスを習った教授は、「君がもし、世界中が白と言うものを『黒だ』と信じられるならば、君は投資家に向いている」と言っていた。その意味で、ヘンリーとFSGには手腕と資金だけでなく、なにより見る目と勇気があったのである。

 

 

 

マンチェスター・ユナイテッド 完璧な仕上がり

平均順位:2000-2009 1.7位 vs 2010-2019 3.6位

平均勝ち点:2000-2009 83.2 vs 2010-2019 75.9

獲得タイトル:リーグ×2, FAカップ×1, リーグカップ×1

 

平均順位は意外と高いが、これは10年代の最初の3年に1位、2位、1位で来ただけで、残りはかなりひどい。マンチェスター・ユナイテッド基準で言えばだが。

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-uniteds-french-midfielder-paul-pogba-reacts-after-missing-picture-id1171054395?s=2048x2048

 

しかし投資対象として捉えると、この10年でまんゆは実によく仕上がった。

前提として、グレイザー一家はまんゆをレバレッジドバイアウト(LBO)で買っている。これはサラリーマンが不動産投資をするのに近くて、物件を買うときに、自分で入れる手金はそこそこで、大半は投資対象の資産(この場合はマンチェスター・ユナイテッド)が生み出すキャッシュフローを裏付けとした借金によって補うというスキームだ。負債を返し終わると、投資対象資産がまるごと自分のものになっている。つまり最初に自分が入れた手金の価値が数倍になっているので、そこで売却すれば多額のリターンが得られる。よって重要なのは、まんゆが毎年着実にキャッシュを生み出すかどうかになる。www.investopedia.com

 

 

そう考えると、今のまんゆは仕上がりバキバキである。まずピッチ上の成績は悪化しているのに、キャッシュフローはしっかり増えている。この5年間で2回しかCLに出場できていない(しかもすぐ敗退した)のに、EBITDAは安定して対売上高30%前後を維持している。むしろ本業が悪くてもキャッシュが安定して生み出せているのであるから、投資対象としては理想的だ。*2

全部こういう基準で動いているので、エド・ウッドワードは彼らにとって最高の経営者で、プレミア1の高給をもらうのも当然である。だからフットボールディレクターが決まらないのも、議決権のないファンが抗議活動をするのも、キャッシュフローには直接的な関係がないので、対応すべき事柄としての優先順位は高くない、つまりかなりどうでもいいのだと思われる。

https://media.gettyimages.com/photos/man-utd-chief-executive-ed-woodward-looks-on-during-the-fa-wsl-tyres-picture-id1023168880?s=2048x2048

 

しかもこの10年で一定の元本返済が進んだので、このあと中東の大富豪にでも売れればリターンは大きい。その準備はできている。結局グレイザー一家にとって、まんゆは本当にただのキャッシュマシーンなのだと考えた方が良いと思う。もちろん彼らにはそうする権利がある・・・スポーツクラブでそれをやるべきなのかは定かではないが。

たまに雑誌等でまんゆのことは「ビジネスはうまくいっているが」と表現する人がいるが、それは「このクラブの本業はサッカーではない」と言っているに等しい。あれはビジネスじゃなくて、法人営業がうまく行っているだけだ。この先、アトレティコにおけるシメオネのような、カリスマ的監督が来てピッチ内を立て直すこともあるかも知れないが、長続きはしないだろう。チェルシーマンチェスター・シティリヴァプールと比べて、今のまんゆはそもそも組織の目的も構造も違うのだから。

 

まあサウジの殺人皇太子がオーナーになれば、チェルシーやシティのごとく、利益や配当の心配なく“純粋に”サッカーに集中できるようになるかもしれない。あるいはスーパーリーグ構想が実現すれば、まんゆが除外される可能性はまずないだろうから、構造的に守られたぬるま湯の中で、ファンの愛を金に変え続けられるところにたどり着けるかもしれない。今首脳陣が狙っているのはそれかもね。

https://media.gettyimages.com/photos/saudi-crown-prince-mohammed-bin-salman-attends-the-future-investment-picture-id1052815842?s=2048x2048

 

 

 

マンチェスター・シティ 報われたギャンブル

平均順位:2000-2009 14.2位 vs 2010-2019 2.3位

平均勝ち点:2000-2009 46.0 vs 2010-2019 81.2

獲得タイトル:リーグ×4, FAカップ×2, リーグカップ×4

 

10年前の怪しい集団から、サッカー界のスーパーパワーの1つになった。合計勝ち点、順位、タイトル数、全て2010年代の1位だ。さらに、PEファンドのシルバーレイクがシティフットボールグループの株主価値を48億ドルと評価したことで、歴史上最も高く評価されたスポーツクラブになった(株式の一部が売りに出たからというだけで、他のクラブ、あるいは他のスポーツチーム、例えばペイトリオッツとかはもっと高値がつくだろうが)。

www.ft.com

強くなった背景には、もちろん資金力があるのは言うまでもない。シティの強みは、低コストで大量の資金を、相当に自由なタイミングでオーナーから調達できることにある。つまり、金銭的なリターンを求められることなく、割と好きなタイミングで金の算段ができるのだ(もちろんFFPがあるから、好きなようには使えないが)。まんゆが毎年グレイザー一家に2,000万ポンド以上の配当を支払っているように、株式はふつう負債よりも調達コストが高いものだが、シティの場合はオーナーに配当を出さないのでそれもない。一事が万事、スポーツで強くなるためにデザインされた状態にある。その理想的な環境が、人権問題を指摘されている国からの国策投資で成立している状況は皮肉だし、かなりグロテスクでもある。ましてや、金が入るまでは弱かったわけだし。

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-city-post-season-tour-day-two-abu-dhabi-manchester-citys-picture-id907044446?s=2048x2048

ともかく、まんゆのようにオーナーと経営陣が既存のブランドを搾取しようとするクラブと、シティのように(資金源に問題はあるが)ブランドを強くしようとするクラブ。2010年代に結果が分かれたのは必然であった。

 

2020年代にこの状態が変わるのか。まず調達コストという点でいえば、2015年の中国の投資ファンドに続き、昨年は米系PEファンドが株主に参加した。PEファンドと言えば概ね5年で額面3倍程度のリターンを求めるものだが、多分配当というよりは数年後に売却する方を想定していると思うので、費用(例えば選手獲得)を抑えろ等のプレッシャーはそんなにかからないのではないかと予想する。

2点目として、2年前くらいから、「シティの資金力でまともに頭使ってやられると、差が付きすぎてコンペティションとして成り立たない」という批判もある。ただし、今シーズンみたいに調子が悪いとそういう声もすぐ消えるので、この件が真面目に捉えられるまでにはもっと時間がかかるだろう。それよりは、欧州スーパーリーグという欧州のビッグクラブがほとんど皆乗り気になっている、(そして最低の)提案をちゃんと潰した方が世の中のためになると思われる。

https://media.gettyimages.com/photos/union-of-european-football-associations-president-aleksander-ceferin-picture-id1063648424?s=2048x2048

最後に、オーナーであるアブダビ・ユナイテッド・グループ、ひいてはアブダビという国の目的に照らせば、横浜やNY、メルボルンといった姉妹クラブでもどこかのタイミングでアブダビを絡ませていく必要がある。すでにNYシティとメルボルン・シティの胸スポンサーはエティハド航空になっているが、そういうふうに、なるべくきれいなイメージでアブダビ関連企業を売り込んでいく、死の商人みたいな人間の仕事が増えてくることだろう。

 

 

 

 

トッテナム・ホットスパー バスに間に合う

平均順位:2000-2009 9.3位 vs 2010-2019 4.1位

平均勝ち点:2000-2009 52.1 vs 2010-2019 71.0

獲得タイトル:なし

 

https://media.gettyimages.com/photos/tottenham-hotspur-chairman-daniel-levy-looks-on-prior-to-the-barclays-picture-id490091144?s=2048x2048

  • ダニエル・レヴィーは本当に偉い
  • 一番近いリヴァプールと比べても売上2/3しかない上に、オーナーも普通の富豪でしかないトッテナムが、2010年代に優勝争いとCL準優勝に絡んだのは本当に偉業
  • 同じように、寡占化の「バスに乗り遅れない」可能性があったのはアストン・ヴィラニューカッスルだったと思うが、この2つがクソオーナーとクソ経営陣を抱えて沈んでいったのと比べると、いくら世界的な知名度があっても、所詮サッカークラブは売上数百億・従業員数数百人サイズ、属人性が大きい事業なのだということを思い知らされる
  • レヴィーのすごいところは色々あるが、とくに「給料を抑えながら良い選手を雇う」技術は近代サッカー史に残るレベルだ
  • トッテナムは偶発債務(現実にはまだ発生していないが、将来一定の条件が成立した場合に発生する債務)が売上規模に対して大きいので、多分契約におけるボーナス条件が大きいのだと思われる
  • なので、CL決勝で破れたときも、レヴィーは「それはそれで全然OK」だと思ったかも知れない
  • 多分、まだ早すぎた、と思っていると思う。勝負はスタジアム拡張の効果が出始めてからだ
  • まあ、スタジアム建設費の膨らみ具合もサッカー史に残るレベルだったが・・

    www.theguardian.com

  • 箇条書きなのは疲れたからです

 

 

 

 

 

 

*1:FSGは4.4億ドル出して3.9億ドルの借金を帳消しにしているので、株主価値はわずか5,500万ドルだったことになる。今なら10倍はつくだろう

*2:まんゆの10-K(年次報告書)を見ても、「リスクファクター」のところに「欧州のコンペティションは収入源としては当てになりません」とはっきり書いてある。

2018/19 マンチェスター・シティ シーズンレビュー個人編(後編)

MF

18 フェイビアン・デルフ Fabian DELPH***

 アラバモード、終~了~。2シーズン保たせるのは難しかったですね。もともと相手を同一視野に置くのが苦手で、DFとしてのポジショニングも良くない、ということに加えて、身体のコーディネーションがガチャガチャなので反転して走るのが遅すぎる、という弱点を研究されまくっており、裏を着かれての失点多数。リーグ戦の出場はわずか11に留まった。今更このチームでMFとして使う見込みも立たないし、もはや売れるうちに出来るだけ高値で売るしかないと思う。つまり今だ。

 ただデルフの良いところは、買った値段が破格に安かったんですね。たった800万ポンド。アストン・ヴィラには本当に悪いことをしたと思う。まだまだプレミアリーグで出来る選手なので、どこか良いところで夢を叶えてほしい。ジェフでも良い。

https://media.gettyimages.com/photos/20th-january-2019-the-john-smiths-stadium-huddersfield-england-epl-picture-id1085650330?s=2048x2048

 

25 フェルナンジーニョ FERNANDINHO

 控え無しで始まった今シーズン、さすがに身体が保たずちょくちょく負傷で離脱。一方で、出場したときのクオリティは素晴らしく、WhoScored.comのレイティングもリーグ平均7.31。守備時はCB、ボール持ったらDMFという奇天烈な新作戦も難なくこなしており、そら27試合しかスタメンで出てなくてもベストイレブン取るわという1年だった。何気に10年前のウクライナ時代(リーグMVP)以来、プロとしては2つ目の個人タイトルなんだよね。報われて良かったと思う。

https://media.gettyimages.com/photos/paul-pogba-of-manchester-united-and-fernandinho-of-manchester-city-picture-id1139077465?s=2048x2048

 

8 イルカイ・ギュンドアン İlkay GÜNDOĞAN

 いいかい学生さん、ギュンドアンをな、ギュンドアンを控えで使えるくらいになりなよ。それが、人間カップ戦も勝てるリーグ戦も勝てる、ちょうどいいくらいってことなんだ。

 

 そういうことなんですよ。あんまり人気はないが、今年の貢献度で言えばチームでトップ5くらいに入るのではないだろうか。下手すると。プレッシャーを掛けられた際の冷静な処理とか、5バックを崩す裏への浮き玉スルーパスとか、ギュンドアンのおかげで助かったシーンは数え切れない。

 まあ守備とかちょいちょい怪しいシーンはあったが、ジョルジーニョが取れなくても何とかなったのは、間違いなくこのウィル・ウィートン似のおかげだ。契約延長の件はしっかり考えたいとのことだが、残ってくれれば儲けもの。というか他のポジションで買い物の必要性が出てきすぎて、アンカーに回してる余裕があるようには思えず。

https://media.gettyimages.com/photos/ilkay-gundogan-of-manchester-city-celebrates-after-scoring-his-teams-picture-id1148641478?s=2048x2048

 

17 ケヴィン・デ・ブライネ Kevin De BRUYNE

 いつか壊れると言われていたが、その通り開幕直後に大怪我。戻ってきても大技を狙いすぎてのミスやしょうもないボールロストが目立ち、ようやく調子を取り戻してきたかと思えばまた怪我・・・ということでシーズンの半分しか出場できず。

 ベルナルドとスターリングが超人になったし、フォーデンも成長してきたので、来年はリラックスしてもう一度、あの一人だけ22世紀から来たかのようなプレーを取り戻してほしい。

https://media.gettyimages.com/photos/kevin-de-bruyne-of-manchester-city-celebrates-after-scoring-his-teams-picture-id1150121197?s=2048x2048

 

21 ダビ・シルバ David SILVA

 シルバくらいになるともう、居てくださってありがとうございますという心持ちしかない。シルバでも衰えるもんなんですなあ、しかし。

 野球の立浪だったか、衰えるときは足から来るんだと言っていた気がするが、シルバも何気にしっかり足が遅くなっていた。マッチョマンにがっちりスペースを消されるとえぐり込めず、弾かれてウロウロするシーンは少々切なさを感じたが、それでも要所ではさすがのクオリティ。FAカップ決勝の先制点は、その前の空中戦も含めてシルバらしくて良かったですね。意外と空中戦強いんだよな。

https://media.gettyimages.com/photos/david-silva-of-manchester-city-scores-his-teams-first-goal-during-the-picture-id1150105643?s=2048x2048

 

35 オレクサンドル・ジンチェンコ Oleksandr ZINCHENKO

 ウォルバーハンプトンの収容所に送られる前日、青年オレクサンドルは予審判事グアルディオーラに人生を賭けた決意を告げる。純真で無垢な心を持ったオレクサンドルは、すべての人から愛され、彼らの魂をゆさぶるが、アラブ的因習のなかにある人々は、そのためにかえって混乱し騒動の渦をまき起す。この騒動は、汚辱のなかにあっても誇りを失わない美貌の女性デ・ブライネをめぐってさらに深まっていく・・・

 

 ということで、退団報道から一転残留、メンディとデルフの稼働率が低かったので左サイドバックのレギュラー格に収まり、守備力も向上してめでたしめでたし・・・と言いたいところだが、あえて言おう。

  

この方向性はイカン!!!

 

 ゼロ年代テキストサイトみたいで恥ずかしいが、イカンと思う。この方向性はよろしくない。今のジンチェンコが褒められているのは、あくまで「MFにしては頑張ってるね」というだけだ。結局大事な試合では信頼されてない。6-0のチェルシー戦みたいな例外もあるが。そしてこの手の起用が面倒なのは、時折本来のポジションに戻ったときの評価も歪めることだと思う。たまに中盤やってみたら、「ああやっぱり本職だから上手いね」みたいな。でもそれでレギュラーが脅かせてますか?ノーでしょう!んん!?(ガンギマリツイート)。あとこの方向性が機能するのは、ジンチェンコが若いからというのもある。24,5になってもこの状態だったら絶対飽きて出ていくでしょう。

 参考)ガンギマリツイートの例

 然るに、ジンチェンコが取るべきオプションは3つだ。①SBで生きていく覚悟を決める、②中盤に戻ることを志願する。最後はヨシュア・キミッヒのように、SBとしてもCMとしても超一流になるかだが、まあこれはやろうと思ってできるもんでもないしな。結局一流になれ!しか言ってなくて自分でも笑ってしまうが、そういうことだと思います。

 最初の2つのオプションを取ることは、結果としてシティ退団につながる可能性もあるが、長期的には双方にとっていい結果になると思う。プレーは良かったです。

https://media.gettyimages.com/photos/kevin-de-bruyne-and-oleksandr-zinchenko-of-manchester-city-celebrate-picture-id1150126113?s=2048x2048

 

47 フィル・フォーデン Phil FODEN

 全コンペティション合わせて26試合に出場。平均出場時間で見ると、リーグが25分、FAカップが65分、リーグカップが78分、CLが30分ということで、リーグカップではほぼスタメンを張った。シーズン前半は「シティで飼い殺されていくフォーデン」という記事が(サンチョの活躍もあって)多かったが、出場が増えるに連れて減っていったのは楽しいところだ。

 プレーとしては、ドリブル突破からのパワフルなシュートが目立った一方、無理だろそれはという狭いシーンに突っ込んでは退却・・・というシーンも多かった。でもまだ18だからな。来年は抜けてるかもしれんし。1万回ダメでヘトヘトになっても1万1回目は抜けるかもしれんし。

 セクシーなガールフレンドと子供作っちゃったけど結婚はしないんだよね、という意外なやんちゃさを見せられてドキッとしたが、まあ色々ともう子供ではないということなんだろう。来年も、期待は大きい。

https://media.gettyimages.com/photos/phil-foden-of-manchester-city-in-action-during-the-premier-league-picture-id1147391859?s=2048x2048

 

 

FW

7 ラヒーム・スターリング Raheem STERLING

 精神の強さにも色々ある。責任を背負って他人の前に立つというコンパニ的強さもあれば、集中治療室にいる息子のためにスペインとイギリスを往復する生活を強いられながらもコンディションを崩さず、自分からは何も言わないというシルバ的な強さもある。怪我続きで稼動できない立場でもSNSで露出し続けるメンディも、あれはあれで一つの強さかも知れない。

  グアルディオラの改造手術で、スターリングもただの素早い人から、精神の強さで勝つ人になった。今のスターリングは、ドリブル、ワンタッチゴー、バックドア裏抜けの三択を、相手が対応しきれなくなるまでひたすら繰り返せる。要はフットボールリセマラおじさんだ。言うのは簡単だが、90分間、週に2、3試合、それを繰り返し続けるのは極めて難しい…そう言う意味で、実は今一番クリスチアーノ・ロナウドに近い選手かも知れない。スターリングにロナウドの身体がついてたらあと10点は取っただろう。

 

 スターリングの心の強さはもう1つあって、黒人差別に立ち上がって声をあげたのは純粋に素晴らしいことだと思った。あのチェルシー戦やSUNの報道…あのクラブのファンベースといえば頻繁に人種差別のトラブルを起こすので有名だったが、いや許さねーよ、と言う姿勢を示すのは・・・なんというか、当たり前なんだが凄いことだ。去年別のクラブのファンに駐車場で襲われたりもしているから、ガチで生命の危険もあるわけだ。あの犯人が武器を持っていたらどうなっていたかとは考えたくない。そういうものに立ち向かえる強さを、今のスターリングは持っている。

 そう言うわけで、今年もリーグ戦17点10アシストの活躍。そのうちレアル・マドリーに行きたいとか言い出しそうだが、まあこっちだってレアルが欲しがらない程度の選手を囲ってるつもりはないからな。もしそうなったら、さしものフロレンティーノも吐き気がするくらいフィーを稼いで欲しい。

Chelsea v Manchester City - Carabao Cup Final : ニュース写真

 

16 リロイ・ザネー Leroy SANÉ

 1年通してほぼムスッとしていたせいで、ゼンデイヤにしか見えなかった。ゼンデイヤと言えば、ジミー・ファロンの番組に出たときのゼンデイヤは可愛すぎるのでみんな見てくれよな。

www.youtube.com

 まあええわ。今年もしっかりシーズン10得点10アシストと結果を残し、新たに習得した無回転FKで2回もチームの窮地を救ったが、全体としては評価もいまいち、本人も露骨に満足していない様子が伝わってくる苦しいシーズンだった。これはもう、スターリングとベルナルドが良すぎたとしか言いようがない。

 何だかんだ残ってくれるだろうと思っていたが、今日ネットを漁っていてバイエルンロッベンとリベリ揃って退団という事実を知ってしまい、移籍濃厚すぎるなと思いを新たにした。母国だし、名門だし、ポジション完全に空いてるし。残って欲しいところだが・・・

https://media.gettyimages.com/photos/leroy-sane-of-manchester-city-takes-on-the-palace-defenders-during-picture-id1142677483?s=2048x2048

 

20 ベルナルド・シルバ BERNARDO SILVA

 ボール運搬も出来るし、守備でも走れるし、ドリブルで突破もできるし、さらに点も取れるという超人になっていた。ウケる…当然ながら、不動のレギュラーに定着。グアルディオラも「まずベルナルドを選んでからあとの10人を選ぶ」と言い出すくらいすごかった。ベストイレブンも当然。今、海外サッカーで通ぶりたい諸兄が挙げるべきサッカー選手世界1位だと思う。

「誰が好き?んー・・・ベルナルド・シルバ、かな」。

名前の絶妙な長さ、華麗なプレースタイル、通ならではの褒めるポイントとしての泥臭さ・・・完璧か。今夜もコリドーで、恵比寿横丁で、ベルナルド・シルバの名が囁かれているのだ。東京カレンダーが取り上げるべきサッカー選手No.1。

 

 真面目な話、先代シルバが衰えたタイミングでしっかり代役を用意できたというのは素晴らしい兵站力だと思う。補強禁止になる前で良かったですね。あと、良い人っぽく見えるというのもいいと思う。誰からもあんまりライバル視されていないシティにはぴったりのキャラクターだ。そのキャラクターも含めて先代のあとを継ぎ、シティの歴史に名を残す選手になってほしいところ。

https://media.gettyimages.com/photos/bernardo-silva-of-manchester-city-celebrates-after-scoring-his-teams-picture-id1144869396?s=2048x2048

 

26 リヤド・マーレズ Riyad MAHREZ

 念願の移籍が叶うも、不完全燃焼。常にしょんぼりした顔をしていたのもその印象を強めた。とはいえ右に張ってドリブル、という最低限の仕事はこなしていたので、来年の改造手術に期待したい。コメントが短いのは疲れてきたからです。

https://media.gettyimages.com/photos/riyad-mahrez-of-manchester-city-celebrates-after-scoring-his-teams-picture-id1148637925?s=2048x2048

 

10 セルヒオ・アグエロ Sergio KUN” AGÜERO

 カフカの有名な短編に「流刑地にて」というのがあって、旅行家がどっかの島かに行くわけよ。カフカだから、それはどこにあるどんな島なんだとか聞いても無駄なんだが。そこには1人の将校がいて、流刑地にいる囚人を処刑する機械を管理している。この機械がまたすごいやつで、棺桶を2つ上下に並べてベッドのようにしてあって、間の空間に死刑囚を縛り付けると、上から針が下りてくる。そして半日かけて罪状を死刑囚の身体に刻みつけて殺すのだ。けったいすぎる機械である。

 なぜこんな話をしたかと言うと、シティがワトフォードを虐殺したFAカップの決勝を受けて、「潤沢すぎる資金とまともなビジネスマンが合わさると、ビッグクラブとそれ以外の間にグロテスクな格差が生まれてよろしくない」という議論が出ているんですね。*1シティに限らず今日のビッグクラブは「パワーバランスを崩していて、しかもそれが構造的に固定されすぎている」と。まあ確かにそうで、自分が応援するクラブだから良いものの、他のクラブが今のシティのようなサッカーをやってたら、第三者としては見る気全く起こらないのもわかる。グアルディオラバルセロナも、全然面白くなかったし。そういう記事を読んでいて、今のシティはほとんど処刑機械だなと思ったのだった。90分もひたすら責められて結局殺す。ひどい話だ。

 

 前置きが長くなりすぎたが、何が言いたかったかというと、シティがそういう可愛げがなさすぎるフットボール処刑機械になった要因をあえてピッチ内に探したとき、実は無視できないファクターとしてアグエロの成長があるのではないか?ということだ。グアルディオラが来る前のアグエロはある種びっくり箱で、ものすごいゴールは決めるんだけど、持ちすぎだったり中盤と絡むのが下手だったり、あと展開が速くなると消えてしまったりで、早い話がいても味方の点が増えるわけではない、という選手だった。 が、今やポストプレーは失敗しないわ、90分守備に奔走できるわで、めちゃめちゃ集団で機能する選手になっている。そして、この能力でミスをしない選手がどうなるかというと、弱い者いじめがひたすら上手くなる。それでいてリヴァプール戦の先制点のように、統計的オッズをひっくり返してスーパーゴールも決められる。ひどい話だ。

https://media.gettyimages.com/photos/sergio-aguero-of-manchester-city-with-his-winners-medal-during-the-picture-id1143388861?s=2048x2048

  

33 ガブリエウ・ジェズス Gabriel JESÚS

 リーグ戦わずか7得点とスランプに陥ったように見えて、実はカップ戦で荒稼ぎしたため、シーズン合計では21得点。全部ひっくるめたらアザールやラカゼットより点取ってるのだが、ダメですかね。まあ、ダメでしょうね。期待が高いからな。

 もともとの売りだった守備での献身やポストプレーの面でアグエロが成長してしまったので、点が取れないところばっかり目立った。ここから巻き返すにはまあ色々あるだろうが、あえて1つに絞ろう。シュート。強いシュートだ。ジャストミートした強いシュートさえ打ってれば、人は何となく「こいつ点取りそうだな」と思ってくれるものなのだ。例えばスティーヴン・ドビーみたいに。ミートさえしていれば、多分来年の評価は爆上がりだ。

https://media.gettyimages.com/photos/gabriel-jesus-of-manchester-city-celebrate-during-the-fa-cup-final-picture-id1144716810?s=2048x2048

www.youtube.com

シュートだけはすごかったドビー先生

*1:一部の過激派(グアルディオラに、「あんたアブダビから袖の下もらってんでしょ?」と聞いたような人たち)はアブダビの人権問題とオイルマネーを主に問題にしたがっているが、ジョナサン・ウィルソンのようなもう少しバランスが取れたジャーナリストはもう少し広く問題を捉えているようだ

2018/19 マンチェスター・シティ シーズンレビュー個人編(前編)

GK

1 クラウディオ・ブラボ Claudio BRAVO 

 アキレス腱を切ったとかで、シーズン全休。話のしようがなくて申し訳ない。最初のシーズンはその余りにイージーな守りで笑いものになってしまったが、控えとしてはやっぱりチリ代表119キャップの男は頼りになるので、来年は復活を期して頑張ってもらいたいところ。

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-citys-claudio-bravo-poses-during-the-training-session-at-picture-id1148060830?s=2048x2048

 

31 エデルソン・モライス EDERSON Moraes

 まさかのベストイレブン受賞。完全にアリソンだと思ってたわ。すまんな。

 GKにはサイコを置け、というのは近代サッカーの鉄則であって、ミニョレが微妙なのは良い人っぽいからだとと思う。別にミニョレに恨みはないが。味方(主に、ジンチェンコかベルナルド)がいじめられそうになったら秒でキレ散らかすというサイコムーブを今年も披露。やはりそうでなくては困るというもの。

 今年は自慢のキックが更にパワーアップし、アシストも記録。ペナルティエリアの端に出された無理目のスルーパスに飛び込んでPK、というパターンをやけに繰り返していたのが気になったが、ほぼほぼ文句なしです。

Brighton & Hove Albion v Manchester City - Premier League : ニュース写真

 

32 ダニエル・グリムショウ Daniel GRIMSHAW*

 ブラボの怪我で、すわ第2GKに抜擢か!と思われたが、普通にムリッチが呼び戻されていて切なかった。どこかの新聞が川島をオプションに挙げたことで微妙に注目されたことくらいしか覚えていない。まあしかし、メスゴリラ川島さんとシティをリンクさせた功績は大きいのではないか。こういう2,3日の小ネタを提供した選手は、末永く覚えていてあげたいと思う。(「スティーヴン・フレッチャーにレアル・マドリーが興味」とか。)

Manchester City Training Session : ニュース写真

 

 

49 アリヤネト・ムリッチ Arijanet MURIC

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 どっちやねん!みたいな。

 レンタル協定に則ってNACブレダに貸し出されていたが、ブラボの怪我で急遽出戻り。ようやくまともなGKが来たということでブレダでは喜ばれていたらしく、ほんとすいません。

 流石に決勝は任せてもらえなかったが、リーグカップでは準決勝までの4試合をスタメンとして1点に抑える活躍。結構良いGKなのではないか、これは。しかも数年前に本人「足元苦手っす」と言っていたのに、今年は「アウトサイドで数十メートルのロングパスをサイドバックに通す」という荒業も披露。好調コソボ代表でもデンマーク戦ブルガリア戦とスタメンを張っており、今後に期待が持てるところである。でもこの歳で第2GKはちょっと困るよなあ。アレックス・マニンガーのように第2GK人生を頑張った結果、アーセナル、ユーヴェ、リヴァプールに在籍するという道もあるにはあるが、マニンガーにしたってちょこちょこ試合には出てたからな。新しいアメリカ人も来るし、難しいところだ。

https://media.gettyimages.com/photos/arijanet-muric-of-manchester-city-warms-up-during-the-premier-league-picture-id1127835321?s=2048x2048

 

 

DF

4 ヴァンサン・コンパニ Vincent KOMPANY

 我らがキャプテン・マーヴェルは今年も終盤戦でレギュラーに復帰し、抜群の安定感を発揮。シティの10年で多分2回目くらいのミドルシュートがスーパーゴールになるという偉業も達成し、全体的に「居てほしいときにいる」というかつての正反対の地位を獲得した。ただまあ、今でこそチームの中では下手な方だが、もともとコンパニって「攻撃面でも破格なCB/DMF」という位置付けの選手だったしね。昔取った杵柄というか、マインドとしては“俺は全然攻めも行けるぜ”的な人なわけよね。身体はついてってないけど。 

 あとは、チケットの値段が高すぎる、という声に賛意を示していたのもコンパニらしい振る舞いだった。サッカー市場が拡大してピッチ外の人材供給も充実してきた結果、欧州中のビッグクラブがそれぞれの集金方法を洗練させつつある。チケットのプライシングもその一つで、要は可能な限り高くファンから分捕ってやろうとしているのだ。そうなれば当然、ローカルなファンは不利になる。一生に一度の経験だと思ってやってくるグローバルファン(例えば、あなたや私)の方が概して大きな財布を持っているからだ。

 一方で、グローバルなファンは、ローカルファンで満たされた、”現地ならではの雰囲気”を味わいたくて渡欧する。自分の周りが全部アジア人の観光客だったら、興ざめを感じるかもしれない。もしかすると、ローカルのファンは今後、ファンと言うよりも一種のキャストとして扱われていくのかもしれない。グロテスクなことだが。

 

 話が逸れた。ピッチの上でのコンパニは、決して常に信頼感抜群というわけではなかった。マイケル・コックスが言うように、しょうもないミスを取り返そうとしてイエローカード、というシーンも多かった。だがピッチ外の振る舞いも含めて考えれば、コンパニは常に素晴らしい、自分が好きなクラブにいることを誇りたくなるキャプテンだった。さらばキャプテン、またどこかで。

Manchester City v Watford - FA Cup Final : ニュース写真

 

5 ジョン・ストーンズ John STONES***

 書くに当たって確かめてびっくりしたんですけど、「前半戦はレギュラーだったが、年末の連敗から風向きが怪しくなり、後半戦は控え降格」という感じでは、実はなかった。前半戦のスタメンは65%、後半戦は50%ということで、別に前半も不動のレギュラーという感じではなかったんですね。そういうイメージがあったが。

 何れにせよ、そこそこやっていたものの去年のスーパーストーンズモードには戻らず。このままレスコット的立ち位置にいるのも勿体無い選手だと思うので、引き続き期待して待ちたい。まあリオ・ファーディナンドも、24のときには結構微妙だったからな。こうやって私は少しずつウォルコットの沼に嵌っていくのだ。

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14 エメリック・ラポルト Aymeric LAPORTE

 裏取られなくなりましたね。何が変わったかは知らんが。それなりに安定した守備と、ほとんどMF的な組み立て貢献で、めでたくベストイレブンを受賞。

 シティの左利きのCBといえば、「一人だけ間に合った男」ルシアン・メットモ、コンパニの初代相方レスコット辺りが思い出されるが、偶然利き足が左だっただけの2人に比べて、ラポルトはもう、黄金の左。去年あたりからシティは、1トップを敷いてくる相手に変則3バックで1トップ脇からパスを出しまくるという形を取っているが、そのポジションでエグい楔を連発していた。相変わらずフランス代表には全く呼ばれずブーブー言いまくっているが、まあデシャンが飽きてやめるのを待ってほしい。「うちの彼氏を呼ばないのはバカ」とか言い出すアレな彼女もいないみたいだし。

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15 エリアキム・マンガラ Eliaquim MANGALA

 1年まるごとリハビリ。もともとは今シーズン末に契約切れだったが、回復のために1年延長した。

 考えてみると、2014年に4,400万ポンドで加入してからシティの選手としてフルに戦えたのは最初の2シーズンだけなわけで、実に2,640万ポンド分はバリューを生み出せずに無駄金というわけだ(まあ実際P/L上は費用計上してるとは思うけど)。しかもこの先、可能な限りリクープしようと思えば試合に出して、やれるぞというところを他のクラブに見せなければならない。つまり、フリーで放出して給料分を浮かすのが関の山という結果になる可能性はすこぶる高い。そう考えると、いい試合もあったし、素晴らしい人格の選手ではあったが、投資としては失敗だったと言わざるを得まい。次の場所では、欧州を震撼させたと言われている、と言われているそのパワフルなディフェンスを見せて頑張ってほしい。

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30 ニコラス・オタメンディ Nicolás OTAMENDI

 将軍閣下はご機嫌斜め。ベストイレブンから一転、完全に控え化。好調時の可能性ではストーンズに、厳しい場面での耐久力ではコンパニに劣るという押しの弱さが悪かったのかもしれない。ただご機嫌斜めと書いたが、最後まで不満を漏らさず役割を完遂したところはプロフェッショナルだと思う。イカルディとは違うってことよ。

 退団する気満々とのことだが、まあキャリアの絶頂期に控えなわけだし、仕方あるまい。さらば、我らがサメ将軍。将来に幸多からんことを祈りたい。

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34 フィリップ・サンドラー Philippe SANDLER

 チャラいエズラ・ミラーみたいな風貌のオランダ人CB。今年は通年トップチームに帯同したようだが、カップ戦での顔見せ出場に終わった。アンカーとして途中から投入され、さっそくチャラすぎるボールロストで大ピンチになっていたところはキャラが立っていて良かった。

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-citys-phillipe-sandler-walks-out-to-training-at-manchester-picture-id1139040671?s=2048x2048

 

50 エリック・ガルシア Eric GARCÍA

 リーグカップで3試合フル出場。18歳にしては異様なほど落ち着いており、前線に鋭いパスを供給しまくっていた。コンパニとオタメンディが両方離脱ということを考えると、これは4番手として出場機会増!若手大好きファン大喜び!!と思うけど、こういうタイミングで普通にシニアな選手2人くらい買ってきて平気でレンタルに出すのが近年のシティなんすよね。そのこと自体が悪いとは言わんが。

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2 カイル・ウォーカー Kyle WALKER***

年末に不安定な出来が続き、ダニーロに交代。しかしダニーロもどっちもどっちだったので、すぐスタメンに復帰した。WSD等のベストイレブン議論でもカスリもせず、やや残念な1年。それでも、全体的なクオリティは高かったと思う。ベースが高いからな。

ウォーカーというのは、基本的にあらゆる局面に間に合う、力加減が下手、かつ顔がおもしろい(ちょっと田中邦衛っぽい)という特徴がある選手で、これが合わさってどうなるかと言うと、ミスが全部ナメてたかウッカリしてたかにしか見えないんですよね。ちょっと可哀想だとは思う。

もう30歳なのに来年もあの芸風でいけるのかという懸念の裏で、ダニーロは出て行く気満々。1、2年以内に、右サイドバックには大手術がありそうだ。

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3 ダニーロ DANILO

 ウォーカーの不調にもかかわらず、リーグ出場はわずか11。スタメン出場時も悪くはなかったが、リヴァプール戦のヘディング被りとか、スピード不足でラインが押し上げられなかったりとか、やはり筋肉の壁は厚かった。インテル移籍の噂が盛り上がっており、どうやら今年限りの模様。両サイドバック / アンカーの控えという所謂守備のユーティリティポジションとしては、出色のクオリティだったと思う。まあ2,650万ポンドもしたしな。イタリアで夢を叶えてほしい。ジェフでも良い。

Manchester City v Liverpool FC - Premier League : ニュース写真

 

22 バンジャマン・メンディ Benjamin MENDY

 10月に復帰して数試合出て、また大怪我。たまに戻っては来たが、すぐ後遺症が起きて休み、と残りはほぼ全休していた。最初の頃は「まじでこいつおもしれーなwwww」と言っていたファンの反応も流石に雲行きが怪しくなってきている。SNSはするけどリハビリは真面目にやってます、というならまだ良いにせよ、普通にナイトクラブ行ってるしな…

 一方、わずか10試合で5アシストを記録したように、決定機を作る能力が破格すぎて、「もし万全の状態でプレーできたら・・・」という、かつての永井雄一郎みたいな選手になりつつある。サイドバックでそのスタイルは新しすぎるだろ。

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 不良債権化が着実に進行しているが、(マンガラと同じで)苦しいことに、売っ払おうにも最低半シーズンは使えるところを見せないとどうしようもない。もはやこの二進も三進も行かない状況を打破できるのは、人呼んで西の最終兵器、あらゆる靭帯をつなぐ男、ドクター・クガしかあるまい。クガてんてー!がんばえー!!がんばえー!!!という、そういう心持ち。

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あらゆる靭帯をつなぐ男、ドクター・クガ*1