2016/17 マンチェスター・シティ 選手別レビュウ vol.1
DMF/CMF
『彼は10のポジションに対応できるね』というグアルディオラの言葉通り、前半戦は主にアンカーとして、後半戦は主に両サイドバックや2センターの片方として稼動。自身の強みを活かすためというよりは、どちらも適任者がいなかったから仕方なくの面が強かったが。
これまでのジーニョには見られなかった中長距離のパス振り分けを披露する姿も見られ、全体的には安定したパフォーマンスだったが、どちらにおいても満足というにはやや不足気味。アンカーではパス精度とカバー時のポジション、SBでは対ドリブルの弱さが目立った。ただしこの2ポジションは異様に要求が高く、適任者を4,5人一気に獲得できるとは思い難い。今のチームでもっとも多様なタスクを担当できる選手であることには間違いないので、このポジションを極めるべく来年もう1年費やしてもらってもいいよね、と思っている。ちなみに、ジーニョの肘が誰かに当たったときは、基本的にわざとだと思っていただいて、差し支えない。
フェルナンド
すっかり守備専業の中堅潰し屋と見られているが、それは仮の姿・・・ポルト時代は組み立てにも貢献し、守っては相手の攻撃を尽く刈り取った怪物・・・グアルディオラがどう使うか楽しみよクックック・・・
と思ったら今年もクローザー、という名のベンチの肥やしになっていた。ああそうですか。強いて言えば、WBA戦で身体の強さを買われて右SBを担当したくらいか。プレシーズンはCBも練習していた気がするが、まあ後ろから持ち上がれるタイプでもないからな。ジェズス姫のお付家老としては十分活躍したと思う。
私、過去2年連続で「さらばだヤヤ、愛してるぜ」みたいなポエムを書いてるんですけど、今年もいるのかよ!すげー恥ずかしいわ。
開幕当初CLのGL登録メンバーから外され、圧倒的多数のシティファンから「しゃーない」との評価を得た(と、私は思う)が、代理人がグアルディオラを痛罵して着火。「いちいち起用法について代理人から口を出されたらたまらんので、代理人がクラブに謝るまで試合には出しません。」とのペップ宣言でシーズン前半は塩漬けになっていた。結局ビデオでヤヤ本人が謝罪し、復帰戦でチンタラしながらいきなり2得点。その後はチームに欠けていた、捌けるアンカーとしての機能を発揮したことで、有耶無耶のままにレギュラーを取り戻した。代理人は結局一言も謝ってないが。
ただ、以前のようなあからさまなジョグはなくなり、強烈なキープ力やパス展開で攻撃の前進にも役立っていたので、これなら来年もいてもらって全く文句はない。スタメンかと言われると苦しいけど。ポエムは書かない。今年はあえて。
ファビアン・デルフ
シティに来てからただの面白いバカだと思われがちなデルフだが、アストンヴィラ時代にあのロイ・キーンに「お前調子こいてんじゃねえぞ」と言い放った勇気の持ち主であることを、我々は忘れてはならない。ちなみにこの話は思い出しただけで、あとの話にはなんの関係もない。
使われるとか使われないとか以前に、およそいつも怪我で休んでいた。たまに出てきては、しっくりこねえなあ、という印象だけが残る感じ。シルバがCMFにコンバートされたので、比べる相手がシルバだったのも運が悪かったと思う。自分のポジショニングで相手を動かすとか、スペースを空けるとかいうことが苦手で、キープ力や左足のロングショットはあっても、どこで使ったら良いやら判明しないままにシーズン終了。
どうしたそこのインスタグラム担当大臣。イングランド1年目のシーズンは、ワトフォード戦で大怪我を負ったため、12月で終了。センセーショナルではなかったが、今のチームにいないキャラクターとして期待が持てるプレーはしていただけに残念。レジスタというか、中盤の底で捌く感じの選手なんだと勝手に思っていたが、意外とランパードっぽかった。タイミング良く飛び出してきて得点に絡むのが得意そうなので、今年の惨憺たる得点力不足*1解消のために活躍が期待される。
ちなみに、いくら大怪我とはいえ次の試合でチーム全員が「GUNDOGAN 8」と書かれたシャツを着て入場してきて、いや死んだわけじゃないから。そういうジョン・テリー的ノリはやめてもらいたい。
アレーシュ・ガルシア
背番号が大きい、つまりトップチームでは半人前の若手陣の中では最も重宝され、全コンペ合わせて8試合に出場。点も決めた。いつも丁寧に横パスバックパス横パスバックパスで自軍の位置調整と相手のバランス崩しを狙っているおすまし野郎なので、多分日本代表にいたらめっちゃ叩かれてると思う。プレーはどことなくアルベルト・セラーデスに似ている気がするが、セラーデスくらいのキャリアを送れたら大成功だよな。
AMF/WG
最高でしたね。CMFへのコンバートと、高い位置からのプレッシング、5レーン活用型の攻撃*2へのシフトという今シーズンの変革で、①ネガティブトランジションの速さ、②レーン間の移動の的確さ、③狭いところでボールを受けられる技術というシルバの特徴がこれでもかというくらいに際立っていた。テベス、ベラミーのカウンター一辺倒だったシティを1人で変えて以来、私はシルバのそこそこ熱烈な信奉者だが、今シーズンのパフォーマンスは今までで最高だったと思う。私が責任者ならエティハドにシルバを奉る神社が建っていたかもしれない。
一方で、戦術的にスコアラーの役割を担う場所にコンバートされたことで、得点力の無さという、シルバの数少ない弱点が露になったシーズンでもあった。シルバはこのレベルの選手としてはちょっと異常なくらいに得点力がない選手で、シティで50点取るのに295試合もかかっている(5.9試合に1点)が、マタだってアザールだって、あるいはジェラードだってエリクセンだって*3もっと取っている。そういうところが、折に触れて誰かが『シルバはプレミアリーグで最高の選手』とわざわざ言って回らなくてはならない理由だと思う。
「組み立てに関与しているから負担が大きい」か?いやー、それはどうだろう。それは具体的に言えば、一度下がってボールを捌いているが故のゴールまでの遠さ、あるいはタスク量の多さと移動距離による疲労の蓄積、の2つに表れるはずだが、今シーズンのように「相手DFラインとMFラインの中間に陣取ったCMF(シルバとデブライネ)にボールを届けること」が「組み立て」になるような場合には、その指摘は成立し辛いように思われる。
とにかく、転ぶ、滑る、ダフる、フカすと、シルバのトホホフィニッシュを味わいつくした1年でもあった。FWはチャンスを待つだけではなく、スペース作りに参加し、ウィングとCMFはフィニッシュも担うという戦術は来年も続くだろうから、スターリングやザネーの決定力が高まらない限り、シルバの限界がシティの限界になる日々は続くだろう。そうだったとしても、私は一向に構わないが。
ケヴィン・デブライネ
払って良かった100億円。トランジションの王様は、ポジトラでは脅威の反転性能で中央を切り裂き、ネガトラではハーフライン付近でのボール刈り取り機能を発揮。セットオフェンスでは主に右サイドからのクロスでチャンスを量産した。いや、払って良かった100億円。私は毎日巻物に1,000回書き写して中小企業の社長に片っ端から送っています。
ネガトラでも目端が利き、ボールを奪う能力もあるので、実は下記のツイートのようにアンカーを任せるのも有効なのではないかと思われるが、そのためにはもう1人スーパーなCMFが必要なので、実現しない夢かもしれない。
マンC内だと実はデブライネが一番グアルディオラの求めるアンカープレーできそうなんだけど、この人をインサイドハーフから外すとそもそも回らなくなるしなー
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2017年3月19日
@TR2HG なるほど。それはありそうです。相手カウンター時にボールホルダーの縦切る、ボール引っ掛ける、遅らせるといったプレーはデブライネが一番巧いんですよね。ただ彼をアンカーにするとアタッキングサードでの仕事がしづらくなるのが痛し痒しですね。にしてもジェズスの怪我は痛いですねぇ
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2017年3月19日
改善点があるとすれば、シーズン15回バーを叩いた決定力か。リーグで5点はいくら何でも少なかった。これで点を取れたら、バロンドールも存外ありえない話ではないと思う。それくらい最大瞬間風速はすごかった。もちろんシーズン通して良かったんだけど、すごいときは本当に、カカーとベッカム足しっ放しのような威力であった。レアルに行きたいとか言い出しませんように。
やたらと成長を謳う組織にろくなやつはいないと相場が決まっているが、それでも選手が弱点を克服していく過程を見るのは楽しいものだ。オタメンディはシャチのようにビタンビタン転がらなくなったし、アグエロは守備でもインテンシブな選手になったし、スターリングはラストパスが上手になった。アンダルシアのクロスマシーン、もといCK獲得マシーンも、クロスを相手にぶち当てる機会が減ったと思う。ニアに転がすクロスを覚えて、もはやただのCKを獲る機械ではなくなってきた気がする。気がするだけだが。
一方、ウィングはライン際で1on1を制する専門職と位置付けられているグアルディオラのサッカーにおいて、そもそも相手を抜く能力が高くないナバスは最後まで信頼を得られず。むしろ最初のチェルシー戦のようなWBや、シーズン後半に担当したSBの方が能力には合っていた。SBではかわいそうなくらいバタバタしていたが、鈍足揃いのDF陣の中で1人だけ飛び抜けて足が速いので、起用の収支としてはそんなに悪くなかったと思う。
なお、今年で退団。病気かと思うくらいシュートを打たない人だったが、13/14のフラム戦やカーディフ戦のように、苦しい試合で決めてくれたことを覚えている。アディオス、ジーザス。
萎れたパイナップルみたいな髪型と頬髭をやめたのが良かったのではないか。縦への仕掛けを覚えて加速力を活かせるようになり、相手の足の隙間をグラウンダーでニアに通すクロスも効果が高かった。チャンスを作る能力は相当に向上していて、シーズン通しての貢献度はシルバとデブライネに次ぐ程度のものがあったように思われる。
あとは、シュートだわな。シルバと並ぶトホホフィニッシュが改善されればもう一段高いレベルの選手になれるのだが、ファーに強いシュートが打てないのが元凶だと思う。蹴球計画の記事にもあるように、ファーがあるからニアも抜けるんだけど、スターリングの場合はGKを抜くか、フェイントで体勢を崩して足元を抜くかしかないんですね。体勢を整えた状態のGKを破れない。横から当たられた際のハンドオフ技術は大分良くなってきた気がするので、シュートがきちんと打てれば鬼に金棒だと思う。アーセナル戦の左足ゴールは、今シーズンのマイベスト候補。
リロイ・ザネー
父親が元セネガル代表、母親が新体操ロス五輪の銅メダリスト。親父さん、現役のときは100m10秒8で走ったらしいよ。そりゃビリージョーンズやヤンマートがしばき倒されるわけだわ。
年末までは右サイドで出たり出なかったり、抜けたり抜けなかったりでモノになるには相当に時間が掛かりそうだったが、左に移ってからは相手の右サイドをひたすらにしばき倒していた。ただ、強いショットが打てる割には得点力が高くないのが惜しいところで、インサイドでのポジショニングとか、シュート時のバカ正直さとか、改善してもらいたい点も多いのだった。多分その辺が、サンチェスとか欲しがってる理由だと思う。まあ、まだ若いからね。
ノリート
髭面のノリさん。他人を祝う能力はプレミア随一。やけに賑やかなやつだなと思っていたら、終いにはイアナチョにキスまでし始め、あのまま放っておいたら公衆の面前でBくらいは行ってしまったかもしれない。その辺りが恐らく干された理由ではないか。
というくらい、バルサを蹴ってまで来た割にはえらい干されっぷりだった。まあ、バルサに行っても干されはしただろうが。あとはすぐキレるのも良くなかったのかもしれない。1シーズンだけでスペインに帰ってしまうだろうというもっぱらの噂である。イギリス暮らしにも慣れてなかったみたいだし。面白いやつではあったんだが。
FW
ケレチ・イアナチョ
人を呪わばイヘ穴チョ。2年前から言ってるんだけど、全然流行りませんね。
昨年終わりのレビューで、私は彼について「中堅以上の相手には、どこが通用しているんだかさっぱりわからないが、とりあえず点は取っている」と書いた。点が取れなくなるとどうなるか、というのが、今年のイアナチョだったと言えよう。
出場時間当たりで見ればそこそこ点は取っているのだが、とにかくボールを受けてはミス、パスを出してはミスの繰り返しで、いつ見ても1人だけチームから浮いていた。本人の代理人は「出場時間が短すぎる」と言っていたが、時間増やされても余計浮くだけだったと思う。最初のマンチェスター・ダービーみたいに、降りてきてボールもらうところまではうまいんだけどねえ。もらうまでは。
移籍が噂されているが、それもまあ当然、とくに競争相手がアグエロとジェズスとあっては・・・という気持ちと、一応は生え抜き*4で若いのだから、もう少しありがたみを感じていたいという気持ちと。
あえて乱暴に言うと、我々はアグエロにビビっていたのだ。我々というのは、シティのファン、ブロガー、シティ寄りのジャーナリスト*5、クラブ関係者、オーナー、それに監督のマンチョとペレグリーニも含めた、みんな。アグエロがイージーなシチュエーションを割とよく外すとか、守備の局面で集中力が続かないとかいうのは皆薄々わかっていたが、マンチョもペラーズも正面切って指摘はしなかった。なんだかんだ言っても結局シーズン30点近くは取ってくれるわけだし、下手に機嫌を損ねて「レアルに行きたい」とか言われたら困るからである。
それを守備をしろとか、もっとサイドに流れてスペースを作れとか、ライバルになりそうなFWを連れてくるとか、正面切って明確に色々と要求したのはグアルディオラが初めてであったのではないか。結果としては、苦手なタスクが増え、ゴールから遠い位置での仕事も多くなったため、3月以降の好調(17試合14得点)までは今ひとつ煮え切らないシーズンが続いた。ジェズスにスタメンを奪われたりとか。それでも最終的にシーズン33点まで持ってくるのは流石だと思う。戦術的に合う合わないはあれど、33得点取ることの勝ち点への寄与率は相当に高いだろうから。また最後の数試合は弱点だったポストプレーの確実性、持ちすぎ症候群、ボールロスト時の反応といった面でも進歩を見せていたので、来シーズンはより進化したアグエロを見られることを期待したい。
ガブリエウ・ジェズス
私ほど若手選手を見る目がある人間はいないというのが業界通の間での一致した見解だが、その慧眼はガブリエウ・ジェズスについても如何なく発揮されたと言えよう。まずブラジル人。ブラジル人である。これは大きなハードルですよ。ご案内の通り、南米人がイングランドに順応するのは大変である。寒いし、相手はデカイし、荒っぽいし。それにフォワード。我々はマリオ・ジャルデウやアフォンソ・アウベスがどうなったのかを忘れたわけではない。おまけに、どうやらロビーニョ2世だとか、ロナウド2世だとか、なんだとか。チャカチャカしたドリブルとハーフライン付近での(とくに意味はない)ヒールリフトが得意に決まっている。いかにも失敗しそうな雰囲気が漂っている。ニウマールに毛が生えたようなやつだったらどうしよう。
で、結果は9試合で6得点、ほぼ90分に1回ゴール。はい。しかも、得点力自体はアグエロに及ばないかもしれないが、どちらがチーム全体を機能させているかと言えばたぶんジェズスの方。やはり外形情報から先入観を持つのは良くなかったですね。1トップだけではなくウィングにも適応性を見せており、来年への期待は高まるばかりである。怪我には気をつけてほしい。