石油王の憂鬱

 マンチェスター・シティが苦しんでいる。2017年夏のダニ・アウベス、2018年1月のアレクシス・サンチェス、フレッヂに続き、2018年夏の移籍市場では、口頭合意に達したジョルジーニョを取り逃した。いずれのケースも、相対的には信憑性が高い複数のメディアが“合意した”と報道した後に、より高い移籍金と給与を提示した他クラブによって掻っ攫われるという失態である。

https://media.gettyimages.com/photos/chelsea-unveil-new-signing-jorginho-with-chelsea-head-coach-maurizio-picture-id998491530

 なぜ失態か。ダニ・アウベスはダニーロという代役が見つかったし、サンチェスは高い移籍金と給料の割にさして成功だったという評価を受けているとは言い難い。結果オーライなのではないか。

 否。まずもって、種々の報道に鑑みて彼らは本気で獲得を目指したターゲットであることにはほぼ疑いの余地がなく、相当の費用と時間が投じられているだ。泣こうが喚こうが、彼らの獲得に失敗した以上、それらはサンクコスト。今後何かの役に立つわけでもない、ただ溝に捨てた時間と金である。また、ダニーロはあくまで結果オーライでしかない。2012年夏の「誰がハビガル連れてこい言うた!ハビマルやハビマル!!」事件は有名であるが、1つのターゲットを追う際にプロフィールや提供価値がよく似た選手を代役候補としてリストアップしておくことが当たり前だとしても、急遽代役に切り替えるのはリスクが高い選択肢と言わざるを得まい。次もダニーロであるとは限らないのである。いや、まあ、ハビガルは良かったんですけどね。

https://media.gettyimages.com/photos/manager-roberto-mancini-of-manchester-city-and-vincent-kompany-look-picture-id168559196

 

 より深刻な問題は、マンチェスター・シティの移籍市場における路線変更が、失敗に終わりそうな気配を見せていることだ。そもそも、サンチェス、フレッヂ、ジョルジーニョは、いずれも「ほぼ決まった」「週末には決まる」「ここ10年で最大の決まり方」とか言われながら、細かい条件を詰めている最中、という報道が散発的に流れつつ何時になっても決まらず、電撃的に(より高い条件を提示した)他クラブへの移籍が決定する、という同じパターンをなぞっている。早い話が、シティが金を出し渋っているのだ。これは由々しき事態である。

 アブダビ化が起きた夏、2008年からずっと、シティのプライシング戦略は「多少のプレミアムを載せても強気でドン」であった。まず2010年までは、シティは (順位表上の問題として) 強いチームではなかった。また、少なくとも2,30年の範囲について言えば、クラブとしての格もなかった。更に、マンチェスターは、相対的に言って、そう魅力的な街ではない。私だって勤務先を選べと言われたらバルセロナか、せめてロンドンに住みたい。だからこそシティは、ウェイン・ブリッジに£12mとか、アデバヨールに£26mとか、コロ・トゥレに£17mとか、そういった法外な移籍金を積んできたわけだし、結果として給与総額がクラブの総収入を超えるような予算編成を、一時的にとは言え、許容してきたのである。

 

 もちろん、シティはまともなビジネスマンが経営しているので、これが許容され続けることはなかった。昔のブログから引用するが、シティの財務状況は毎年飛躍的に改善していった。

 

ここまでの足取りを振り返ると、まずステップ1:戦力補強。2008/09シーズンにロビーニョ(£30.1m)を筆頭に£110.2mの補強を行ったのを皮切りに、2009/10シーズンは£103.1m、2010/11シーズンは£127.7mをつぎ込んだ。当然、実績もブランドも無いシティに有力選手を呼ぶために必要なのは給与だ。売上拡大が給与の増加に追いつかないため、EBITDA(ここでは売上+その他収入-給与およびその他営業費用。すなわち、サッカークラブとして純粋な収支に近い)の段階で赤字の状態に陥るが、成績は改善した。

 

ステップ2:“まとも”なサッカークラブへ。成績の改善に伴う放映権料の拡大とスポンサー獲得で売上を増やすとともに、給与水準を落ち着かせ、スカッド編成の効率性を高める。売上に占める給与の比率は徐々に低下し、2014年には59.2%に達した。これはチェルシーよりも低い。また、ジョーアデバヨール、ブリッジのようにすぐ戦力外になってしまうような高額な買い物が少なくなったため、減損も発生しなくなった。すなわち、獲得すべき選手の査定、獲得交渉、給与設定がより上手になったということだ。これでようやく、2013年にEBITDAがプラスになった。

 

ステップ3:黒字化。これにはあと一歩。2014年はアブダビ化以来初めて給与総額が低下し、売上の拡大と相まって、営業黒字まであと£-17.7m(FFP制裁を除けば£-1.4m)まで到達した。あとは、オーナー頼みのキャッシュフローの改善だ。

d.hatena.ne.jp


  “改善”というのは、もちろんオーナーの直接的資金提供によってではない(というか、それは改善ではない)。一方、移籍市場については、まんゆと並び、少なくとも国内ではトップ水準の額を投じ続けてきたが、それも2017年の夏から方針を変えたようだ。サンチェスらについての、ギリギリまで妥協点を探り、少しでも低い移籍金額に抑えようとする姿勢は、これまで載せていた諸々のプレミアムを落として勝負しようという意志を感じさせるものである。

 

 全く妥当な判断ではある。3年前にブログに書いたが、

ここまで、今回の移籍による費用増が、恐らく多数の人が想像するよりも小さいということを見た。ただし、当然ながら£141.5M(アドオンを含めると£152M)の移籍金は決して小さい額では無い。

Transfer Leagueのデータに従えば、シティが支払った移籍金としては2010/11シーズンの£154.8Mに次ぐ大きさである。この移籍金は今後5年から6年、契約が延長されれば10年近くに渡って減価償却費としてシティのP/Lに計上され続けるので、当然ながら毎年このような移籍を続けていくことは出来ない。

d.hatena.ne.jp

 のだ。

 

 他にも理由はある。まず、グアルディオラ就任後にスカッドの大手術を行った結果、給料が爆発的に増えた。2016-17シーズン決算のWages and salariesは前期の1.3倍。1人当り給与も1.3倍であるから、単純に人を抱えすぎているという問題でもない。しかもこれは、ウォーカー、メンディ、ベルナルド、エデルソンといった選手たちを含めていないのだ。

 また、2019-20シーズン以降のプレミアリーグの放映権料は、少なくとも英国内では実質的な値下がりとなった。Amazon等のWeb系メディアの参入を理由とした楽観視もあるが、これらがシティの首脳陣にプライシング戦略の再考を迫った可能性は充分ある。選手1人にプレミアムを積めば、残りの10人も間違いなく積まれる。ウォーカーに£45mを払った瞬間「 (メンディも) ウォカにゃんの額でヤってよwww」とか言い出したモナコのようなケースは、今後も間違いなく繰り返される。そうした状況から脱却し、移籍金額の抑制を図ったシティの首脳陣の判断は至極まともではあった。問題は、全くうまく行っていないということだが。

www.theguardian.com

(もう一つ、FTの記事を挟みたかったんだが、登録が必要なので割愛。Subscribe to read | Financial Times をご参照ください) 

 

 で、結果としてはこれである。

 引用するBANQUEBLEU氏のツイートに賛同するばかりだが、結局ピャニッチに1億払うなら、ジョルジーニョに£65m払ったほうが何ぼかマシだったのは、言うまで無い。仮にこの後ピャニッチがシティにやってきて、大活躍したとしてもだ。戦略ぶち壊しである。「適正価格」とやらに拘っても自己満足以外に何も得られないことは、アーセナルが10年もの月日をかけて証明してきたが、シティは今、同じ穴に落ちそうなところで踏みとどまっている状態だ。

 

 そしてこの後には何が起こるか。短期的には、当初の方針を貫くか(つまり、誰も手に入れられず、自前の若手に頼らざるを得なくなる。ジョルジーニョピャニッチの騒ぎを見た後に、プレミアムを載せてやろうと思わない経営者が居るとは考えがたい)、「ハビガル違うわいハビマルじゃ」事件のようにお茶を濁すか、開き直って昨季と同じように大量の移籍金を投じるか。そうするにしても、既に市場の閉幕まで1ヶ月を切り、トレーニングキャンプも始まっているのだが。

 

 長期的には、戦略を貫ききれないか、結果を承知の上で”適正価格“にこだわり、競争力を一定程度失うかのどちらかだろうと思っている。そしてCFGの経営陣は、おそらく前者を選ぶほどには盲目ではない。現状でも損失を生むリスクを抱えている(2016-17シーズンのシティは営業赤字で、かつシティは多額の偶発債務を抱えている。早い話、成績連動ボーナスが大きいということで、それを勘案すれば2017-18シーズンも営業赤字の可能性は十分にある)上に、市場縮小の兆しが見られる状況である。CFAの建設に、フランスや南米、アジアでのクラブ買収といった長期的なコミットを続けているCFGが、更に将来への借金を増やす可能性は低いだろう。

 

 つまり我々は、このあと数年、「怒りの撤退」の茶番を見せられなければならない可能性があるというわけだ。振り返ればアーセナル、人を笑わばイヘ穴チョである。

ある議事録;選手名カタカナ表記審議会アイスランド語部会 露W杯対策会議

https://media.gettyimages.com/photos/fans-are-seen-during-the-2018-fifa-world-cup-russia-group-d-match-picture-id976222596

 

―はい、では皆様お揃いになられましたので、始めたいと思います。ご案内の通り、来月にはロシアワールドカップが始まるわけですけれども、それに際しまして、カタカナ表記についての統一方針を固めるということで、本日の会議で決定致しました案を、来週頭に約会にかけまして、正式決定となります。

 

 お手持ちの資料の2ページ目に前提となるルールを記載しております。ご案内かとは思いますが、改めて確認させて頂きます。えー、まず1つ目が、「現地語の発音をなるべく尊重したもの」です。本日アイスランド語部会になりますので、デンマーク語、あるいはノルウェー語、スウェーデン語等とも相当の違いがございますので、そちらにご留意頂きたいと思います。

 2つ目が、「通俗的な日本語表記に一定の配慮を払ったもの」でございます。こちらは1つ目とやや矛盾するように思われるところですが、例を挙げますと、「マイケル」としてほとんど日本語的に定着している英語の「Michael」についてですね、「マイコゥ」と表記するのは些か度を越しているのではないか、と、まあそういうことです。元より日本語にない音も相当数ございまして、特に今回のようなアイスランド語になりますとほぼ全ての選手名にそうした音が含まれてまいります。当審議会のミッションとして「日本語として無理のない範囲での漸進的表記方法の改善」という一文がございますので、多少基準はファジーにならざるを得ないところではございますが、一般的表記に鑑みつつ、審議を進めていきたいと思います。

 3つ目が、「日本語としての社会的風俗に配慮したもの」です。2つ目と似たもののように聞こえますが、1,2の結果として、日本ごとにして全く別物のように聞こえてしまうとかですね、思わず失笑をかってしまうような響きになるものは極力回避する、ということです。わかり易い例ですと、ペルーの「Reimond Manco」選手。はあ。はい。そういうことです。今皆様ちょっとお笑いでしたけども、そういうものを回避するためには、例えば「マヌコ」ですとか、多少無理があろう、という部分も避けられないという判断があり得るということです。はい。今回のワールドカップには選ばれていないということでですね、まあNHKさんとしては助かったのではないかなと、いやいやサトミキの反応が見たかったぞと、あ、すいません。進めます。

 

 

 ご案内の通り、アイスランド語は綴りによって読み方がほぼ一義的に定まる言語ですので、選手一人一人に入る前に原則を確認することも可能なのですが、それをやっておりますと長くなりますので、原則については選手名表記を具体的に確認しつつ進めていく、という形にしたいと思います。

えー、では1人目、「Hannes Þór Halldórsson」。GKですね。参考までに、NHKでは「ハンネス・ハルドソン」、『エル・ゴラッソ』の選手名鑑では「ハンネス・ハルドールソン」となっておりますが、当部会の初期案としては、「ハンネス・ソール・ハルドーション」を考えております。―はい。そうですね、最初から中々議論を呼ぶ名前ですね。まず「Ó」、Oにアキュート・アクセントを付したものですが、これについては「オウ」あるいは「オー」と。まあこちらは宜しいかと思います。次に「rsso」の「ショ」表記ですが、アイスランド語の「sson」は通常「ソン」ですね。ただ、「r」が無声音になりまして、ほぼ「ルシュ」、あるいは「シュ」に聞こえますので、スウェーデン側で「ラーション」の表記がほぼ定着しているということから考えまして、こちらも「ショ」で宜しかろうと、はい。

で、一番議論があったのが「Hall」の部分でして、こちらは「ハットル」、あるいは「ハットゥル」とすべきではないか、という意見もございました。これはアイスランド語において母音のあとの「ll」の前に「t」の音が入ると。例えば彼らのホームスタジアムである「augardalsvöllur」においても、「völlur」の中に明確に「t」の音が入っておりますし、シガー・ロスの名曲であります「Hoppipolla」を聴いて頂けると分かりますが、ヴォーカルのヨンシー、彼が明確に「ホフピポットラ」と言っているんですね。まあ、正確にはなんといいますか、いわゆる「サ行が言えない人」が発する「キ」に近い音ですが。2010年の噴火で有名な「Eyjafjallajökull」火山、こちらも日本語表記としては「エイヤフィヤラヨークル」と、トの音が入ったものがすでに定着しておりますので、彼も「ハットゥルドーション」とすべきではないか、という意見はございました。ただ、本件に際してForvoを確認しましたところ、やや不正確なソースではありますが、「ト」の音を挟むほどには明確でない、という事情がございましたので、今回は「ハルドーション」としておくべきかと考えております。

 

次に、「Birkir Már Sævarsson」。右サイドバックですね。こちらについては、「ビルキル・マウル・サイヴァション」。はい。まず「á」ですが、こちらは「アウ」ですね。Sigur Rosにも「Ágætis byrjun」、「アウギャイティス・ビルユン」という曲があります。そして「æ」。これは「アイ」です。こちらはあまりご指摘等は、ないですかね。はい。次に参ります。

 

Hörður Björgvin Magnússon」。えー、「ヘルズル・ビェルグヴィン・マグヌソン」。まあこう表記しますと、アイスランド語的な畳み掛ける音が失われるわけですが、母音を明確に発音する我が国の言語との差ということで、致し方ないところかなと思われます。「ö」、こちらは日本語では「エ」の表記が確立されておりますが、一方でトルコ語なんかですと「ウュ」に近いような音に感じられるところでございます。ただ、アイスランド語においては同じ音価のはずではあるんですが、経験則として相当に「エ」に近い音になっておりますので、「」が妥当なところでないかと考えております。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

はい、では、皆様お戻りですので、再開したいと思います。資料23ページ目、「Arnór Ingvi Traustason」。議論があるところですが、「ルノール・イングヴィ・トルイスタソン」、です。これは「au」ですね。「エイ」あるいは「ウュイ」に近い音ですが、後者に近いという有識者の意見がございましたので、「ウイ」とするのが妥当と考えております。

 

えー、次にですね、「Gylfi Sigurðsson」。エースですね。はい。大エース。こちらは大分「シグルドソン」という表記もなくなってきたということで、成果が出ているのかなというところですが、「ギルヴィ・シグルズソン」。まず「Sigur」に関しては、「シウル」という説もありまして、かつてはSigur Rosもシウール・ロウスと・・・え?ああ、はい、すみません。私が好きでして。馴染みも深いかなと。曲?えーと、そうですね。「Flugufrelsarinn」が一番好きですかね。はい。あ、すいません、脱線しました。まあ、そういう節もあったんですが、「グ」と発音する方も相当数いるという話でしたので、原則の2番めに照らしても「グ」で宜しいかなと。で、「ヴィ」についてですが、これは10年前に比べますと大分理解も進んできたアイスランド語カタカナ表記ですが、まだ手付かずのメディアが多い部分ですね。母音と母音の間に挟まれた「f」は、「v」になります。なるそうです。再登場で恐縮ですが、Sigur Rosの「Starálfur」という曲でも、サビの最後で、「スタラウルヴュル」という歌詞が出てきますね。そういうことで、彼についても「ギルヴィ」とすべきということを、本審議会として明確に打ち出していくべきかと思います。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

えー、はい、では、大分長くなりましたけれども、これにて選手名カタカナ表記審議会アイスランド語部会露W杯対策会議を終了したいと思います。皆様大変お疲れ様でした。タフな会議でしたけれども、来月のワールドカップは各国の選手名カタカナ表記に最も注目が集まる期間ということでですね、当審議会も一層のプレゼンス拡大のために、どうしてもこれを間に合わせる必要がございまして、皆様のご尽力のおかげでこうして大会前に・・・え?始まってる?もう?昨日?。え!?1ヶ月経ってる!!??

 

ワールドカップについて

2018/5/31  2018年の新語法

fujiriko59.hatenablog.com

 

 

もし我々が皆、昨日の試合から上記のような感想を得ることができるとしたら、我々の人生は極めて幸福になることは疑いなく、しかるに我々は皆、彼(彼女)のようになるべきなのだ。

 

 

2018/6/3

「国立!ごもっとも商業サッカー部!!」というタイトルを思いついたが、どこで言っていいやら。

 

2018/6/4

あれはトップ下というか、「5番 指名打者 本田」って感じ。

 

2018/6/10

gunosy.com

www.nikkansports.com

article.auone.jp

www.goal.com

普段一緒に練習しているメンバーじゃないから、とか諸々理由があることはわかるが、日本代表、端的に言って議論好きすぎではないか。ザックの頃からそう思っていたが。下手なホワイトカラーの研修よりグループディスカッションしている。

 

という中で(西野監督話法)、私はこのコラムを思い出す。

sportiva.shueisha.co.jp

マクマナマンが僕に語ったところでは、セードルフの唯一の問題は黙っていられないことだ。レアルのコーチが練習で何かを説明すると、セードルフは前に出て、こう言う。「そんなふうにやるより、こうしよう。で、それから僕にボールを回して」。スペイン人は彼を「エル・プレジデンテ(大統領)」と呼んだ。

 フットボールの世界には、監督を頂点にした厳しい上下関係が存在する。ちょうど19世紀のプロイセンの軍隊のようなものだ。ところがセードルフは、フットボール自己啓発のためのディスカッショングループのようなものと考えていた。

 レアル・マドリードでの試合のハーフタイムに、セードルフは監督のファビオ・カペッロに向かって戦術を解説したことがある。カペッロはジャケットを脱ぐと、いきなりセードルフに投げつけて叫んだ。「そんなにわかっているなら、おまえが監督をやれ!」。セードルフ代理人でさえ、こう助言した。「車を乗りこなすだけでもむずかしいんだから、車になろうとしてはだめだ」

 オランダ代表には18歳のときから入っていたが、彼はほとんど国中を敵に回していた。問題のひとつが「ジダン・コンプレックス」だった。セードルフは長いこと、古典的な司令塔タイプの選手になりたがっていた。

 オランダ代表の監督は、たいてい彼を中盤の右で使った。しかし人格的に成長したいセードルフは、いつも「10番」のポジションに入ってきた。相手選手をいとも簡単に振り切り、そのくせ疲れた素振りも見せないから、真面目にプレイしていないように見えることさえあった。退屈な抽象論をとうとうと話したがる癖もオランダ人に嫌われた。他の選手が獲得したPKを蹴って失敗したり、黒人選手のスポークスマンのように振る舞ったことも不評だった。

 ミラン・ラボのスポーツ心理学者ブルーノ・デ・ミケリスは、セードルフの言葉をさまざまな側面から分析した。すると、セードルフは人をいら立たせることも多いが、彼の発言は周りを助けようとしているという結論に達した。「彼の発言は選手としてのものが10%。70%は監督、残りの20%はGMのようだ」と、デ・ミケリスは言った。彼はミランの選手やコーチたちに、セードルフには自由に発言させるよう頼んだ。

 

2017/18 マンチェスター・シティ シーズンレビュー個人編(後編)

FW

7 ラヒーム・スターリング Raheem STERLING

 昨年の秋、私はスターリングについてこう書いた。「現状から一皮剥けるには、とにかく点を取ること。そうすれば、ロッベンとは言わずとも、ペドロくらいの評価は得られる」と。今シーズンは全コンペティションで23得点、リーグだけでも18点(本当に取るとは思わなかった)。どうでしょうか。評価。

 これだけ点を取りながら、“決定力不足”の揶揄はむしろひどくなっているきらいすらあるが、昨シーズンまでの煮え切らない状態は確実に脱したと言えるのではないか。ファンとしては贔屓目があったものの、「怪我しないウォルコット」と言われれば、まあ確かにそうだなという感もあった。今や失礼ながらウォルコットレベルの選手ではない。すまんな。

 これだけ点を取りながら、依然として大チャンスを逸している場面がいくつも思い浮かぶのは、チームが機能していたことに加え、スターリング本人のポジショニングが相当に上達したことを示していると言えよう。フリーランのタイミングのとり方なんか、異様にうまくなってるもの。また、中央の相手ライン間でボールを受けて反転してからの急加速、右から中央に入ってきてのワンツー等、組み立てから崩しに入る部分での破壊力が年々高まっているのも素晴らしい。弱点は多いし、イライラさせられる選手なのも確かだが、この先5年は主軸を託したい存在である。

https://media.gettyimages.com/photos/raheem-sterling-of-manchester-city-celebrates-after-scoring-his-sides-picture-id881994650

 

16 リロイ・ザネー Leroy SANÉ

 開幕当初は3-1-4-2に居場所を見つけられず控えスタートだったが、4-3-3への回帰とともにスタメン復帰。12アシスト10得点で、見事PFA最優秀選手賞に輝いた。

 何が良いって、まず見た目が宜しいとは思いませんか。184cmの長身で、背筋が伸びたドリブル姿勢。両手の位置も、刀を抜くタイミングを見計らっている剣豪のようで、サンバ踊ってますみたいな逆サイドの相方とは一味違う。

 そして強いシュートが打てる。これは大事ですよ。ナバスもそうだし、スターリングもそうだったが、シュートが打てないウィングというのは最終的に解決策に行き詰まって面白い挙動を示すことが大半であり、全然美しくないのだ。その点ザネーのシュートは、WBA戦の股抜き一直線も、リヴァプール戦の”ショートケーキの上のいちご”も、同じくリヴァプール戦(アウェイ)の居合抜きも、長躯を存分に使った美しさがある。やはりウィングというのはかっこよくて何ぼなのだ。

www.youtube.com

www.youtube.com

 数年経ったらレアル・マドリーに行きますとか言いそうな気がしてならないが、そこは高給でごまかして、なんとか全盛期のベイル並の怪物まで育ってほしいと思っている。私は。

https://media.gettyimages.com/photos/leroy-sane-of-manchester-city-lifts-the-premier-league-trophy-after-picture-id955335948

 

27 ベルナルド・シルバ BERNARDO SILVA

 右ウィング、ニセ9番、中盤センターを状況によってローテーション。とにかく使い勝手が良かったため、レギュラーじゃないのにチーム最多試合出場。まず良かった点としてはここであろう。1年間怪我もなく、実は枚数が不足気味だった前線を埋める存在として、価値は高かった。悪かった点を挙げるとすれば、あんまり突破力がなかったこと。左のザネーはアイソレーションベース、右のスターリングはウォーカー、デ・ブライネとのコンビネーションベースで崩すのがシティの基本形ではあるが、これでベルナルドが右サイドを1人でズタズタに出来るようだと、もっとバラエティも増えたのだが。ラポルトからの対角線パス経路も出来たことだし。実際にはさしてスピードが無いのとプレー選択がコンサバなので、結局周囲と連携した少々まだるっこしい崩しにならざるを得ないのだった。だからマフレズ獲るの獲らないの言ってるんだと思う。

 とは言え、チェルシー戦やアーセナル戦での決勝点など、中盤戦以降は結果も出しているので、来シーズンの更なる飛躍に期待したい。ちなみに、公式YoutubeInstagramでは異様なほどいじられまくっているというかこれ若干のイジメじゃない?という領域に来ているが、本人は常にヘラヘラ笑っていて、エデルソンとはまた違った怖さがある。また違った部位が切除されている。

https://media.gettyimages.com/photos/bernardo-silva-of-manchester-city-celebrates-scoring-his-sides-first-picture-id927151538

https://media.gettyimages.com/photos/benjamin-mendy-of-manchester-city-and-yaya-toure-of-manchester-city-picture-id955373846

 

55 ブラヒム・ディアス Brahim DÍAZ

 プレシーズンマッチレアル・マドリー戦で衝撃的にかっこいいミドルを決めたマラガ生まれのレフティそっくりな妹が4人いる。www.instagram.com 今シーズンは年間を通してトップチームに帯同。中盤までは、CLシャフタール戦でドリブルが通用するところを見せるなど、一定の出番を得ていた。年明け以降は試合の重要度が高まったこともあってか、ベンチにも入れない日々が続いているが、ウィングは質も量も不足しているポジションなので、来シーズンの飛躍に期待したい。まあ、グアルディオラは誰か新しいのを買う気まんまんのようだが。 

https://media.gettyimages.com/photos/aymeric-laporte-and-brahim-diaz-during-a-training-session-at-city-picture-id945855726

 

10 セルヒオ・アグエロ Sergio KUN” AGÜERO

 ペップ・グアルディオラはきっと日本では無能と評されるに違いなく、というのも彼は「らしさ」とか一切考慮することができないのである。“アグエロらしさ”は丸無視。こんなにスターなのに。アグエロらしさというものの流れが間違いなくある中で日本サッカーとしての可能性を考えていきたいのに。

 そんなグアルディオラスタイルを強要された結果、アグエロはより全般的に試合に貢献できるゴールゲッターに進化。守備もサボらなくなったし、崩しへの参加も上達。もともとアグエロは自分でボールを触らないとリズムが出ないタイプで、トランジションが激しくなればなるほど試合から消えてしまうという弱点があったが、それも克服されつつある。今シーズンは遊びに行ったアムステルダムでタクシーが事故って肋骨を負ったり、A.ヤングのものすごいタックルで足をやられたり、それなりに暇を貰っていたが、それでも元気に20点。全大会まとめてみれば30点。エースの座は揺るがず。

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-citys-sergio-aguero-with-trophy-during-carabao-cup-final-picture-id924457424

 

33 ガブリエウ・ジェズス Gabriel JESÚS

 無茶を言うようだが、この人についてはもう、「化物になるのか否か」、「なるなら、いつなのか」という2つくらいしか問うことがない。だって何でも出来るもん。まぐれじゃないもん。

 今シーズンは開幕から順調に得点を重ねるも、11月から3月までゴール欠乏症に陥り、最終的にはリーグ12得点。まあ後2試合あるにせよ。この間、膝の怪我で2ヶ月離脱していたのも確かなのだが、少々数字としては寂しい結果となった。じゃあ具体的に“化物”って何なのよ?英語圏では「ごっつぁん乞食(”Tap-in Merchant”)」という批判もあるが、確かに自分で持ち込むとか、局面を打開するという面では多少不満が無くもない。ミドルもないし。あれだけダイレクトやツータッチで勝負を決められるのはジェズスの動きが恐ろしいほど洗練されている証左だが、いつまでもサッカーコーチの夢に留まっていられても困るというもの。早く契約の話を一段落させて、来シーズンに集中してほしいところである。

https://media.gettyimages.com/photos/gabriel-jesus-of-manchester-city-celebrates-in-the-tunnel-after-the-picture-id955373816

 

43 ルーカス・ヌメチャ Lucas NMECHA     

 先日のウェストハム戦でプレミアデビュー。風貌から勝手に下がり目のドリブラーを想像していたが、どっちかというとボニーとかジェコに近いファーストトップであった。まああの15分間で何が分かるかという話だけど。

 U19代表ではEURO優勝の立役者となった彼だが、ここから先が長いんだこの世界。ロフタス=チークなんて何年下積みやらされてんだというか、下積みのうちに代表デビューまでしてしまったからな。ボーンマス辺りに2年間くらいまとめて貸し出したいところだが、果たしてこの先どう育てるのか。

https://media.gettyimages.com/photos/lukas-nmecha-of-manchester-city-is-challenged-by-joao-mario-of-west-picture-id952711124

2017/18 マンチェスター・シティ シーズンレビュー個人編(中編)

MF

18 フェイビアン・デルフ Fabian DELPH***

 うちのアラバです。

 というスターリンアネクドートの一つも飛ばしたくなるくらいの華麗なコンバート成功。開幕前はストークに移籍寸前だった忘れられし男が、左サイドバックで復活し、メンディの穴を埋めて余りある活躍を見せた。まあしかし、ストークに行かなくて本当に良かったですね。アストン・ヴィラといい、泥舟を見捨てることにかけてのデルフの才能というのは、なかなか馬鹿にできないものがある。

 ボールを持っていないときのポジショニングに怪しい部分は多々あれど、タックルもできるし、楔も打てるし、サイドバックとしては相当に高い水準にある。特に狭いスペースでのキープ力は高く、ハイプレスを選んだ対戦相手の気力を密かに削り続けていた。スパーズとか。強いて言えば、インにせよアウトにせよもう少し攻め上がりの威力が増すと嬉しいくらいか。

 あともう一つ言えば、怪我の多さは依然として問題ではある。レギュラーに定着したような印象が強い今シーズンでも、結局リーグ戦は20試合しか出ていないのだ。来シーズンは面白フランス人が帰ってくるとはいえ、徐々にチームに慣らす余裕を持たせるためにも、ヨークシャーのアラバには健康体を維持してもらいたいところである。

https://media.gettyimages.com/photos/fabian-delph-of-manchester-city-celebrates-after-the-premier-league-picture-id946554386

 

25 フェルナンジーニョ FERNANDINHO

 我々の監督がときに理解しがたいほどの原理主義者であり、その宗教じみた”あるべきサッカー”への執着ゆえに失敗と無縁ではないということを、我々はよく知っている。チグリンスキーとか。ブラボでも良いけど。御大層な言い方で私が何を言いたいのかというと、アンカーのポジション、いわゆるピボーテについて、来シーズンのグアルディオラはもう一度それをやらかすかもしれんなと疑っているのだ。

 思い出してほしい。2014年のW杯、(相対的には)貧弱な戦力で優勝を義務付けられ、確信犯で一人一殺のファウルゲームに持ち込もうとしたフェリポン・ブラジルで、訳わからないプロレス技を繰り出しまくっていたのは誰だったか?ネイマールの大怪我で終わったロシアンルーレットの最初の引き金を引いたのは誰だったか?そうです。フェルナンジーニョです。1-7で負けたから目立っていないようなもので、もし決勝まで行っていたらデ・ヨング・マークツーがまたしてもシティから誕生していた可能性は相当に高い。もともとは運動量ベースの8番的ボランチであって、やれと言われれば10億人が見守る前でおぞましいファウルも出来てしまう男なのだ。ジーニョは。

https://media.gettyimages.com/photos/nigel-de-jong-of-the-netherlands-tackles-xabi-alonso-of-spain-with-a-picture-id102809486

 そういうジーニョだからこそ、プレミアリーグで“ペップ道”を貫く上でのバランスを絶妙に保っていたのではあるまいか。ジーニョ自体も相当に技量を高めてはいたが、やはりそもそも困ったときに無理が利く身体をしているというのは重要だ。今シーズンのジーニョは、組み立ての貢献―DFラインやGKからの引き出しや、ウィングへのクォーターバックパスーでも素晴らしかったが、同じくらい守備でも輝いていた。それをジョルジーニョとか、ユリアン・ヴァイグルに換えると言われると、まあそりゃあよりブスケツっぽいのはそっちでしょうけどねえ、みたいな。そういう不安がある。

 とは言え、その組み立てについてジーニョの限界が見えていたのもまた事実である。具体的には、後方からボールを受けたときに、前が向けない。というか、この人は多分”前を向いたプレイ”しか基本出来ないんだと思うのね。ここで前を向いてウィングに付けられると大分違うんだが、というシークエンスが多くなかったといえば嘘になる。その点では、前述の二人はシティの可能性を更に広げてくれるのかもしれない。

 長々と書いたが、第3キャプテンとして、そして“委員会”*1の一員として、素晴らしい活躍であった。ハリー・ケインよりはこっちがPFA TotYでしょう。

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-citys-kevin-de-bruyne-manchester-citys-sergio-aguero-picture-id924459324

 

42 ヤヤ・トゥレ Yaya TOURÉ

 ついに退団が決定した、シティ3大守護聖人の一人。今シーズンは完全におじいちゃん化しており、割とどうでもいい試合でたまに出場する以外は、もっぱら練習場でいじられていた。

 この記事は歴史の教科書ではないが、ご存じない方に近代シティの7大聖人を紹介しておきたい。まず最上位の3大守護聖人がコンパニ、トゥレ、シルバで、その次が2大準聖ハート、サバレタ。そして残り二人が2大偉人テベスアグエロとなっておりまして、7大聖人の姿を模したクッキーがエティハド・スタジアム2Fのお土産品コーナーで好評販売中ですので、ぜひお買い求めくださいませ。

 じゃないわ。何だっけ。トゥレ。ヤヤ・トゥレ。ついにこの男も退団のときを迎えたわけだが、コンパニとシルバと比べてもヤヤは唯一無二の、そしてシティの歴史上恐らく初の役割を背負っていた。それは“シティを勝たせる”ということ。ハンブルクにいたコンパニや、バレンシアにいたシルバと違い、ヤヤはシティに来る前にあらゆるタイトルを勝ち取っていた。シティを勝者にすることが、ヤヤの責務であった。素晴らしいROIではないだろうか。FAカップ決勝ストーク戦での決勝点、「アグエロオオオオオオオオ」の1週間前のニューカッスル戦での2得点、リーグカップ決勝サンダランド戦での芸術的カーラー、2年後のリーグカップ決勝での最後のPK。答えを出すということにおいて、コンパニよりも、シルバよりも、テベスよりも、ヤヤ・トゥレは頼れる男であった。さらば偉大なるアイボリアン。あと鬱陶しい代理人

https://media.gettyimages.com/photos/yaya-toure-of-manchester-city-shows-appreciation-to-the-fans-as-he-picture-id946276580

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-citys-yaya-toure-celebrates-with-the-premier-league-trophy-picture-id955866926

 

8 イルカイ・ギュンドアン İlkay GÜNDOĞAN

 ギュンドアンというのは存外ややこしい選手である。いわゆる司令塔型の、判断力と長短のパスで攻撃をオーガナイズするような選手だと思っていたのがシティに来る前。意外とランパード型というか、自分がゴール前に飛び込んでくる動きも得意なのだなと印象が変わったのが昨シーズン。怪我から完全復帰した今シーズンの発見は、なんというか、飛び込むのも得意っていうか、もしかしてこの人、そこにしか興味なくない?

 何がおかしいかっていうと、あんまりプレーの連続性を重視しないんですね。この人は。あるいは、決めに行けそうなタイミングしか興味がないと言った方が良いかも知れない。例えばダビ・シルバは一見無意味そうな顔出しとパスレシーブ/リターンを繰り返しながら、相手と自分たちの陣形を調整し、決定的なスペースを抽出していく、という作業を厭わない。ナスリやヤヤ・トゥレもその手の大家。デ・ブライネはもう少し単刀直入なプレーを好んでいるが、それでもプレーがなんというべきか、一本の線上にある。

 ギュンドアンはない。ぶつ切り。ボケっと突っ立ってるか、急にスイッチが入るか。スイッチが入ったときはシルバですら怖くてなかなか出さないような狭い場所にワンツーで突っ込んでいく。CMFとしてはスピードもあるし、長い距離も走る。一方で、セカンドボールへの反応は鈍め。性能がいちいちピーキーなのだ。世界仕様の稲本、という趣がある。

 今シーズンはシルバの離脱とトゥレの衰えのために、CMFの半レギュラー、およびアンカーの控えとして定期的に出場。CMFとしてはFW並の美麗なゴールを多々決めた一方、前述のように出入りの激しいプレーで数々のピンチを密かに演出していた。とは言っても基本的なレベルはめちゃめちゃ高いので半レギュラーとして居る分にはそんなに文句はないのだが、シルバの代役として本格的に使うと今ひとつなんだよなあ。ついでに言えば、アンカーとしても悪くはないが今ひとつであった。スパーズに3-1で勝っておいて今ひとつ、とかほざいちゃダメかも知れないが。全体的に貢献度は高かったが、来年も頼りたいかと言われると微妙なところである。

https://media.gettyimages.com/photos/ilkay-gundogan-of-manchester-city-scores-his-sides-second-goal-during-picture-id943050474

 

17 ケヴィン・デ・ブライネ Kevin De BRUYNE

 後半戦に多少息切れしたものの、年間を通じて驚異的な質と量を示し、プレミアリーグの顔に。チーム内選挙で第5キャプテン及び選手委員会にも選出され、今後5年のシティを引っ張る存在として名実ともに地位を確立したシーズンであった。

 CMFコンビの片割れであるシルバの特徴が「間違えるけどミスは絶対しない」という点だとすれば、デ・ブライネは「ミスはするけど、絶対に間違えない」。シルバほどの完璧なボールコントロールがあるわけではないが、選択肢は常に正解。正解というか、「それができれば苦労無いですよね」というオプションを選べちゃう。しかもそれが、あのベッカムはだしの右足スルーパスだけでなく、 ゴリ押しのドリブルでも実行できるというのがデ・ブライネの特別さだと言えよう。

 あとはこのパフォーマンスを何年続けられるか。ぶっちゃけ今年は全部のコンペティションで頑張りすぎというか、グアルディオラも頼りすぎだったので、もう一人質の高いCMFを手に入れてローテを回していってもらいたいところ。

https://media.gettyimages.com/photos/kevin-de-bruyne-of-manchester-city-celebrates-with-the-premier-league-picture-id955368494

 

21 ダビ・シルバ David SILVA

 ふざけるなよお前!

 お前だよお前!お前は本当に・・・座れお前は!お前は・・・どういうことよ!?どういうことなのよ?

 Player of the Yearの候補だったっちゅうんはお前、あれだろうお前、MVPの候補っちゅうことだろうが!あ!?

 しかもお前、Team of the Yearには入っとるっちゅうがな・・・こりゃお前、ベストイレブンちゅうことだろうが・・・ああ!?

 お前・・・なんちゅう活躍をしとるんだよお前は・・・本当に・・・。

 しかもお前アシストがいくつ?10超えた!?お前は本当に・・・いい加減にせえよ!!加減ちゅうものをしれよ!!

 いくつなんよお前は・・・毎年進化しとるじゃないの・・・回復力は落ちてるかも知れんけどピッチ上のクオリティは衰え知らずじゃないの・・・全く・・・いい加減にせえよ・・・。

 しかもお前、何?息子が早産で生まれて!?なるべくそばにいてやりたいからって!?スペインとイギリスを頻繁に往復して!?試合の直前に帰ってくるような強行スケジュールを続けたって!?

 お前は本当に・・・お前・・・舐めとんのか!!ええ!?舐めとんのか!!。

 それであのクオリティを出すてお前、どういうことよお前!!どれだけ精神的にタフなんよお前は!!プライベートの事情をピッチに持ち込まないことにかけては欧州1かよ!!

 

 

 お前は本当にもう・・・最高か!

https://media.gettyimages.com/photos/david-silva-of-manchester-city-celebrates-scoring-his-sides-first-picture-id949969274

https://media.gettyimages.com/photos/david-silva-of-manchester-city-celebrates-after-the-premier-league-picture-id955339522

 

35 オレクサンドル・ジンチェンコ Oleksandr ZINCHENKO

 本職のAMFではなく左サイドバックの2番手として出場。試合数は多くないながら、印象的な活躍を見せた。

 シティのサイドバックというのは、試合中ほとんどボランチのように振る舞っていることも珍しくないポジションである。スプリントは専ら被カウンター時に行われるものであり、相手のクリアを回収するための読みとか、狭いスペースでボールを回せる技術とか、そういうものが重要になるわけだ。ということで、いきなりコンバートされたジンチェンコも特に問題なくサイドバックをこなしていた。なにせ本職が本職だけに、角度がないところから出すスルーパスなんかはデルフより上だったくらい。昨年はPSVでほとんど試合に出られなかったが、単純にどこそこで控えだったからこっちではダメとか、そういう単純な不等号が現実のサッカーには当てはまらないことを教えてくれる事例でもあった。

 来シーズンはメンディが戻ってくる左サイドバックに残り続けるのか、MFに戻るのか、あるいは改めてローンに出るのか定かではないが、しばらく育ててほしい逸材であることは確かである。顔も面白いし。

https://media.gettyimages.com/photos/oleksandr-zinchenko-celebrates-with-the-premier-league-trophy-after-picture-id955390606

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-citys-oleksandr-zinchenko-danilo-and-bernardo-silva-pose-picture-id948982892

 

47 フィル・フォーデン Phil FODEN

 昨年夏のアメリカツアーでトップチームデビュー。秋にはU17チームでW杯を制し、自らはMVP受賞。年末にはBBCの「年間最優秀若手アスリート」にも選ばれ、あとはテイラー・スウィフトとシングルを出すだけという若手の星。カップ戦を中心に何かとグアルディオラが使いたがり、全コンペティション合わせて9試合に出場した。

 左サイドバックで先発したシャフタール戦は消化試合ということもありうまく行かなかったようだが、CMFとして途中出場した試合では、細かいドリブル突破が普通に通用しまくっており、レスター戦ではアシストも記録。来シーズンに向けて、やれチアゴだのフレッジだのと獲得の噂は耐えないが、フォーデンと1年心中してみたいというファンも結構多そうな気がする。「1年間割り切って外に出す」というシルバやウィルシャーが経験したパターンを踏むのか、あくまで自前で育てるのか、上層部の判断に要注目。

*1:コンパニ、シルバ、フェルナンジーニョアグエロ、デ・ブライネで構成される、キャプテンの会。投票で選ばれるらしい