2017年末 マンチェスター・シティに関する面白かった記事シリーズ

明けましておめでとうございます。

この細々としたブログは今年も細々と続ける予定ですが、書いている人が今年相当に時間を割いて勉強しなければいけないイベントがあるため、頻度は落ちるかも。自転車も見たいんだけど、難しい。

 

  • 先日紹介した、CFGのグローバル計画の件に関連して

www.theguardian.com

  • もう少しオペレーショナルなレベルの話としては、Victory sportsの下記の記事が良かった

victorysportsnews.com

売上46億円のマリノスが、総売上750億円のCFGの経営リソースをフル活用

CFGの主要クラブ「マンC」は世界屈指の強豪クラブ。現在は名将ペップ・グアルディオラ監督がクラブのマネジメントに携わり、2016-17シーズンは英プレミアリーグで3位という成績を残している。そのマンCの事業規模は約700億円。マンCをはじめとする世界に広がった“シティのクラブ”はアメリカとオーストラリアに留まらず、最近ではウルグアイ、そしてスペインにも拡大し、CFGネットワークによるサッカービジネスの事業展開が加速化しているのだ。

(中略)では、このCFGネットワークはどのようなものなのか? カントリーマネージャーと呼ばれる責任者が世界各国に配置され、外国人選手の獲得やスポンサー企業の営業が“グローバル企業”として成立している。例えば、スポンサー営業を担当しているCFGスタッフは約60名。世界中に散在する営業マンたちが常に情報を共有しているのだ。「選手獲得、移籍交渉」や「発掘、育成」といったチームの強化面に携わるプロスタッフたち(スカウト担当者ら)はグループ全体で50名も雇用されている。 
シティ・フットボール・ジャパンの利重氏は「日本のJクラブの中で、これだけの経営リソースを活用できるのはマリノスだけ。CFG傘下になることで、何百億もの事業規模で経営されている海外クラブの資源が活用できるということは、事業面の大きなメリットだ」と話す。  

 

 

 

  • 昨年の今頃は外資系に対するアレルギーで喧しかったマリノスだが、リーグ5位、天皇杯準優勝ということで、ピッチ内でも結果が出始めたことは喜ばしい
  • マリノスサイドからの視点については、下記が非常に冷静で、かつ過去の歴史を踏まえてあり、参考になった。(ならないものもあった。例えば、コールリーダーらしき人のブログが流れてきたが、主張の是非というより、そもそも何を主張しているのか全然わからなかった。3回くらいは読んだんだが)

twilog.org

 

 

 

  • そして、同じ方の「『CFG提携の価値と東欧ルート、今オフ補強についての妄想に近い推測』および『CFGと日産がマリノスに求めているものは何か? その疑問に対する解』を連投する」というのが下記。1年前にこれを見抜いていたというのは慧眼ではないでしょうか

twilog.org

 

 

  • その「グローバル支配」計画について、Financial Timesは「ディズニー化」と表現している(Financial Timesは購読しないと読めないから、埋め込めないのだ。なんてこった)
  • CFGのネットワークにおいて、各クラブはあくまで「兄弟」であって「親子」ではないので、各クラブは自分の責任で黒字経営に持っていかねばならない、というのがポイント

CFG says its ambition is to build the “first truly global football organisation” and its owners are at the vanguard of a growing trend for wealthy individuals to control multiple clubs. The intention is for each of the teams in the network to be profitable in their own right, but co-operate to identify and train the world’s best players, while securing marketing deals to fund the wages of footballing superstars. 

“Abu Dhabi is not doing this because it likes Levenshulme [a district of Manchester],” says Simon Chadwick, professor of sports enterprise at Salford Business School. “They are doing this to seek sustainable revenue streams from the investments that will provide currency inflows in 10, 20, 50 years’ time when the oil and gas is gone.” 

Mr Chadwick describes the idea as the Disneyfication of football. “You can’t take the first 11 to America one week, China next week, South Africa the next,” he says. “So what you do is franchise the name, sponsors, kit and image.”  

  •  当然、CFGモデルには懐疑的な見方もある。ステファン・シマンスキは「各クラブのファンは、『シティ』というブランドがあるからと言ってグループ内の他クラブまで好きになるだろうか?マンチェスター・ユナイテッドのように、1つのブランドに集中した方がいい」と言う。リスクも大きいし。
  • あるいは、各国でユースアカデミーだけ運営した方がずっと安い。
  • ただし、こうも言う。「マンスールの財布がついていて、もしあなたがソリアーノのポジションにいるなら、何を失うものがあるだろうか?他人の金でデカく張る・・・ひょっとしたら大当たりかもしれないのだ」と。

 

 

  • The Guardianでもう一つ、「ディズニー化」に関する記事があった。
  • こちらはより、マルチクラブオーナーシップ(MCO)に焦点を当てた内容。
  • 最後の方にも書いてあるが、シティやレッドブルのようなMCOは、同大陸内でどの程度ありなのか、というのは議論があるポイントだ。
  • 極端な話、マンチェスター・シティとジローナがどちらもCLに出場し、同じグループに入ったらどうするつもりなのだろうか。
  • レッドブルの場合はセーフと判定されたが、CFG内のクラブについて「there was no proof that Red Bull could exert “decisive influence” on either of the teams that bore their name」というのは無理がありすぎる。

www.theguardian.com

 

 

  • また、別の観点からの批判もある。
  • ティファンにとって、シェイク・マンスールは「金は出しても口出さない」素晴らしいオーナーだと思われている、と思われるが、その金はどこから来ているのか

www.theguardian.com

Football supporters reserve their hatred for owners such as the Glazers, who bought Manchester United with borrowed money and siphoned off the club’s profits to pay down the debt. If billions are available to turn Manchester City or Paris Saint-Germain into world-class clubs, the fans do not care where the money came from. Nor do neutrals who love football for its own sake. For them, it is as miserablist to talk about Manchester City’s owners on Match of the Day as to talk about the factory farming of turkeys at the Christmas lunch table. 

 

 

 

  • 戦術レビュー

www.theguardian.com

The success of Real Madrid seemed appropriate for the age: they are a club that have habitually placed resources over theory and when one style did not predominate, their magpie approach, gathering up the brightest available stars and shaping what they could from them, could thrive. At the top of the game there were a range of approaches, if not necessarily Cruyffian in origin, then at least shaped by the knowledge of what Guardiola had proved possible. Even those sides who did not press high up the pitch had to work out a way of overcoming teams who pressed against them. That is how cultural revolutions tend to work: the explosion of a new style, followed by dispersal as pre‑existing modes amend themselves to cope. 

 

www.theguardian.com

jp.reuters.com

www.theguardian.com

2017/18 マンチェスター・シティ 中間レビュー個人編(後編)

FW

7 ラヒーム・スターリング Raheem STERLING***

スターリングの話を真面目にするのは、結構しんどい。というのも、ピッチの中だけの話をするのは、スターリングという個人が直面している状況、問題について、上っ面を撫でるだけになるからだ。批判をピッチ内の活躍で跳ね返して、という常套句はよく聞くが、スターリングに対する”批判”はもうそういう次元ではない。

もともと他の選手が受けないような、人間性に対する常軌を逸した罵詈雑言を受けてきた選手だが、その果てには先日あったような(人種差別主義者に駐車場で襲われた)、サッカーの枠に収まらない憎悪がある。スターリングは、有り体に言って、”ネタ“にしやすい。若くて、軽率で、国内随一の名門を袖にして新興の金満クラブに移籍した。身振り手振りは珍奇だし、代理人シュグ・ナイトみたいだし。だが、それ故にTwitterやGoal.comのコメ欄で寄せられる軽口は、その最果てにある憎悪と決して断絶してはいないのだ。だから、私はたとえ日本語でも、たとえGuardianの社説が言うようにスターリングの名前が「ラヒーム」でジャマイカ生まれであることの文脈を日本語話者のほとんどが共有していないとしても、スターリングに寄せられる嘲笑や憎悪に心底うんざりしている。

nofrills.seesaa.net

amp.theguardian.com

故に一層、今年の活躍はまだ気休めになったし、スターリングという人間の精神的な強さを感じる。右ウィングのレギュラーとして、チームトップの16得点。シュートが下手なら、下手でも入る場所にいれば良い。あらゆるボールに間に合い続けるスピードと辛抱強さによって、スターリングはシュートを外し、そして得点を重ねていくだろう。

 

19 リロイ・ザネー Leroy SANÉ*

3-5-2の左WBには適応できず、控え降格でスタートしたシーズンだったが、メンディの怪我で4-3-3に回帰したため、左ウィングのレギュラーに復帰。エリア内へのフリーランが上達し、より安定して点を取れるようになってきた。

実はこのチームで「ドリブルで突破でき、強いクロスを蹴ることが出来る左ウィング」という機能はかなり貴重で、スルーパスに抜け出してエリアに侵入し、ファーにグラウンダーで合わせるというザネーの得意技がないと、有力な得点パターンの1つが明確に失われてしまう。Twitterおじさんが4月まで戻ってこない今、チーム唯一の機能として、希少価値は高い。

 

20 ベルナルド・シルバ BERNARDO SILVA

実はポルトガル本国のポルトガル語では、「L」は普通に「ル」らしい。まあ日本人に「シウバ」と「シルバ」の違いがどの程度判るのかという問題はあるが。そういうわけで、「ベルナルド・シルバ」と呼んで構わないらしい新戦力だが、「シウバ」のみならず「ベルナウド」だの「ベウナルド」だの、挙句の果てには「ベウナウド」という表記すら。全てがウになる恐怖である。

これまでのところ、勝ってる試合のクローザーとしては素晴らしいが、右サイドでスタメンで出すと微妙。悪くはないんだが、縦に抜けるスピードがそこまであるタイプでもないので、SBが上がってきてくれない現状は少々やりづらそうであウ。普通のチームなら、ウォーカーなんて相性抜群なんだろウが。ただ、直近ウはウからの正確なウロスが味方に合い始ウておウ、後半戦ウ期待ウたウ。ダビドの方ウシルバウ、あウで意ウウとウウスがウウウウウウウ。ウウ。

https://media.gettyimages.com/photos/bernardo-silva-of-manchester-city-looks-on-during-the-premier-league-picture-id861381070

 

10 セルヒオ・アグエロ Sergio AGÜERO

珍しく絶好調でスタートしたが、遊びに行ったアムステルダムでタクシーが派手に事故って肋骨骨折。死ななくてよかった本当に。驚くほど早く復帰したが、シーズン序盤の身体のキレは失われてしまった。

肋骨はまだ痛むし、踵にもずっと怪我を抱えているらしい。それでもあのパフォーマンスだから、見事なもんだが。最近は「それ以外には不満はないが、グアルディオラからの扱いがどうにも気に食わない」という報道がちょっと話題になったが、まあ病気みたいなもんだからなあ、これは。特にやる気を失うタイプでもないので、ひとまず夏までは落ち着いて見ていられると思う。だいぶ守備をするようにはなったが、アグエロがボールを失ったときだけ、超人的守備技術と粘り強さを持つ謎のDFが現れるという噂。誰なんでしょうね、あれ。

 

33 ガブリエウ・ジェズス Gabriel JESUS*

先日の日本戦では盛大に祭り上げられていたが、ちょっとどうかと思った。地味なんだよな。上手いけど。何をやらせても上手い。しかも1つ1つが器用貧乏には収まらない、十分武器になる水準。でも地味。お茶の間にアピールするにはもう少しこう、派手なタイプの方が良いと思った。マルセロとか。

もう一段上の結果を残すようになったらあっさりバルセロナ辺りに行きそうだが、そのときは目の玉が飛び出るような額を払わせてやりたいと思っている。私は。

https://media.gettyimages.com/photos/gabriel-jesus-reacts-to-the-camera-during-training-at-manchester-city-picture-id863803864

 

43 ルーカス・ヌメチャ Lukas NMECHA

ハンブルク生まれのナイジェリア系。イングランドU19代表として、今年のU19欧州選手権に参加し、準決勝と決勝で連続決勝点を挙げ、優勝に貢献。「決勝」多いな。フォーデンがいなければもっと注目されていたかもしれない。

相当に足が速いという噂だが、得意なのは中央(CF)という噂。ごめん、噂でしか知らない。実在することは確認している。口裂け女よりは確度は高い。

https://media.gettyimages.com/photos/lukas-nmecha-of-manchester-city-celebrates-the-win-after-the-carabao-picture-id895817828

2017/18 マンチェスター・シティ 中間レビュー個人編(中編)

42 ヤヤ・トゥレ Yaya TOURÉ

シティ3賢者の一人。昨シーズン終盤は半レギュラーに舞い戻っていたが、ジーニョの復活でベンチへ。リーグでは殆ど使われず、専ら国内カップ戦要員化している。本格的に身体が動かなくなり、完全に過去の人状態。腐ってもヤヤ・トゥレであるから、出しても大惨事と言うほどではないんだけど。

苦しいときのために力を温存しておいてもらいたい・・・というところだが、トゥレの「凄さ」というのはひたすら守りを固められたときに最後の一撃として出て来るものであって、例えばCLの拮抗した局面で使うほどインテンシブな選手ではもうなくなってしまったのだな。どっかで1点取って、気持ちよくシティでのキャリアを終えてもらいたい。

https://media.gettyimages.com/photos/yaya-toure-reacts-during-training-at-manchester-city-football-academy-picture-id894786368

 

47 フィル・フォーデン Phil FODEN*

日本代表も参加したU17W杯で最優秀選手賞を獲得。一躍イングランドの星となったBaby Shark。ちなみに2000年代以降の同賞受賞者は、シナマ=ポンゴル、セスク、アンデルソン、クロース、サニ・エマヌエル、フリオ・ゴメス、イヘアナチョ、ケレチ・ヌワカリ、フォーデン。クロース以降の怪しさが気にかかるが、欧州人は基本的に外れないものと信じたい。

リーグに顔見せ出場しつつ、CLの消化試合や国内カップ戦ではスタメンで出場中。まだトップで良さを発揮するまでには至っていないが、まずまず順調。ピッチ外では未だに遠足感が漂う。

https://media.gettyimages.com/photos/phil-foden-of-manchester-city-and-pep-guardiola-the-head-coach-of-picture-id895732638

 

17 ケヴィン・デ・ブライネ Kevin DE BRUYNE

歩く完璧。蹴ればベッカム走ればカカー、仲が良いのはフェビアン・デルフ。煽っているつもりは全くなく、私は純粋に、数年前に「まあ売ってもいいか」と思ったチェルシーに感謝している。それくらい、デ・ブライネを毎週観ることが出来るというのは悦ばしいことなのだ。右SBの位置に降りての組み立ても良いし、ドリブルはほとんど止められなくなっているし、何より精神的に強い。先日はデレ・アリの足裏タックルで左足の関節が1つ増えそうになっていたが、直後に左足でスーパーゴールでロリスを粉砕。かっこよすぎか。

https://media.gettyimages.com/photos/kevin-de-bruyne-of-manchester-city-celebrates-after-scoring-his-sides-picture-id893904548

 

21 ダビド・シルバ David SILVA

シティ3賢者の一人、みんな大好きダビ・シルバ。コンパニがハムストリングスとワルツを踊っている関係上、今年は専らゲームキャプテン。揉め事の仲裁とかあんまり出来るタイプに見えないというか、そもそも英語喋るところすらシティ7年目の今年にして初めて映像に収められたぐらいなのだが、大丈夫なんだろうか。ビッグフットだってもう少し目撃されているのではないか。

デ・ブライネほどインパクトがあるわけではないが、シルバの価値は「絶対にミスをしない」ところにある。いや、まあ、するよそりゃ。するけど。それは見るからに無理目なボールの尻拭いだったり、相手ゴール前のタイトな状況だったりする場合だけで、普通の選手なら10回に1回は滑ったり、ボールタッチを間違えたりして起こすボールロストを、まず間違いなく犯さない。これは凄いことですよ。絶対に期待を裏切らない。実家の飯の如き安心感。永遠のぬるま湯。Mother Shark。ファン甘やかしマシーンである。ちなみに、今年もミドルはクソ。2秒前くらいから「ああ・・・外すんだな・・・」と分かるし、腹も立たない。絶対に裏切らない男。それがシルバである。

 

35 オレクサンドル・ジンチェンコ Oleksandr ZINCHENKO*

20そこそこのウクライナ人。今年ようやく労働許可が降り、プレミアに出場できるようになった。本職は中盤の攻撃的MFだが、メンディの怪我もあってここまでは左バックで国内カップ戦に出場。前線の選手だけあって、距離を詰められてもしっかりボールを止めて前を向けるところが宜しい。マフレズを1vs1で数回止めるというシーンもあり、前途は洋々。

ただし、ザネーのように左ウィングを務めるタイプには見えず、かといって左バックもいずれうるさい人が戻ってくるわけだから、今後の使い方は少々難しそう。CMFの控えにもフォーデンが出てきたし、どの位置で活路を見出すのかが気になるところ。

どうでもいいが、シティのウクライナ人というのは、アンドレイ・カンチェルスキス以来ですね。まんゆのレジェンドでもあるシベリア超特急。代表はロシアだが。

https://media.gettyimages.com/photos/jan-2001-andrei-kanchelskis-of-man-city-skips-the-challenge-of-steve-picture-id981276

 

55 ブラヒム・ディアス Brahim DÍAZ*

笑顔が素敵なガチャ歯の貴公子。カップ戦計3試合に出場。消化試合だったシャフタール戦では、むしろフォーデンより通用していたという噂。意外とスピードもあるので、左ウィングで十分やっていけそうな雰囲気はある。ただ難しいのは、まだ18歳なので、恐らく控え一番手でフルシーズンを戦う体力が無いのではないかという点。一度ローンに出すのも勿体無いし。

あと、私はグアルディオラというか、バルセロナ系の人間がこの手のウィングを育てる手腕を信用していないところがある。クエンカとか。そういうのばっかりじゃないのかお前ら。

 

72 トム・デレ=バシルー Tom DELE-BASHIRU*

全く存じ上げなかったが、リーグカップのレスター戦で途中出場。ただ、さぞ年代別のリーグではブイブイいわしていたのだろうなという顔と身体はしている。ちょっとジョン・ボイエガ風味。

2017/18 マンチェスター・シティ 中間レビュー個人編(前編)

GK

1 クラウディオ・ブラボ Claudio BRAVO 

君は一人じゃない。一人じゃないぞ。どこかのクラブのモットーのようだが、まあこのモットーも一人のものじゃないのだ。昨シーズン、ゴール前の自動ドアとしてありとあらゆる批判に晒されていたチリ代表の守護神が、リーグカップで復活。スーパーセーブ連発で下部のチームに負けるという恥を回避し、PK戦で3発止めてヒーローに。エデルソンに替えて使っても安心かと言われると未だに不安ではあるが、少なくとも「近年のシティで最悪の買い物GK部門」、文句なしの1位では無くなったように思われる。イサクソンとかさ。

つい最近のリーグカップ・レスター戦でまたもやPKを止めてヒーローに。ただし、グアルディオラとの折り合いがあまり宜しくないらしいということも判明。たしかに、後ろから抱きつかれたときビタイチ笑ってなかったもんな。

まあ子供の教育とか何とかでイングランドを離れる気はないらしいので、これからも頑張って頂きたい。

 

31 エデルソン・モライス EDERSON Moraes ブラジル代表

ある朝、マンチェスター・シティが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな金持ちに変わってしまっているのに気がついた。

ということがたった1年で2回もあったクラブを応援していると、こういうことが起きる。すなわち、クラブで何年も活躍してきた選手がいて、ちょっとしたバンディエラである。ベストイレブンになった選手もいれば、クラブ最優秀選手賞を5年連続で取ったやつも居る。あるいは、アカデミー育ちかも知れない。そして、プレミアリーグ全体を見回しても、彼は結構良い選手だ。決してベストではないが、そう悪くないのだ。そんな愛すべき選手が、新しくやってきた何処の馬の骨とも知らない男にポジションを奪われ、放出される。いやいや待てと。ちょっと待てと。替えるべきところはあるのではないかと。

だが替わりに来た選手の確実なクオリティを見ると、やはりプロは素人が及ばない見識を持っているものだと気付かされるのだ。レスコットもそうだったし、ダビド・シルバもそうだった。そしてエデルソンもそうである。すごすぎ。守備範囲広すぎ。組み立て上手すぎ。最高かお前は。ハイプレスの回避策は、背の高い選手を入れるだけではない。どうするかって?60m先まで正確に蹴っ飛ばせるGKがいればいいのさ!うわーすごいや!明日はホームランだね!!再現性ゼロ!!!

https://media.gettyimages.com/photos/city-goalkeeper-ederson-moraes-reacts-during-the-premier-league-match-picture-id884934288

 

32 ダニエル・グリムショウ Daniel GRIMSHAW*

4番手の若手GK。殆どないが、エデルソンが帯同しないときは遠征メンバーに入る。集合写真であれ?これ誰だっけ?と思ったらグリムショウ。

https://media.gettyimages.com/photos/image-was-altered-with-digital-filters-manchester-citys-daniel-prior-picture-id855089772

 

49 アリヤネト”アロ”・ムリッチ Arijanet “Aro” MURIC*

いつもトップチームで練習はしているが、試合では出番のない第3GK。髪はつやつや。

https://media.gettyimages.com/photos/tottenham-hotspur-forward-vincent-janssen-runs-for-the-ball-against-picture-id824347486

 

 

DF

4 ヴァンサン・コンパニ Vincent KOMPANY

「故障離脱を繰り返してきた負のサイクルにピリオドが打てそうだ。」とは、おなじみヨーロッパサッカー・トゥデイ開幕号の言。打てませんでしたね。巨人にいた頃の広澤くらい打てませんでした。あっという間に戦線離脱。勘弁してくれよという気持ちになるが、本人はもっと思っているだろう。

プレーの存在感は減ったが、依然としてチームのモラルとしてはいないと困る。このランディングは中々ハードになりそうである。ストーンズも結構ちゃらんぽらんなんだよな。突撃野郎サメチームでのポジションは”King Shark”。かっこいい。

https://media.gettyimages.com/photos/david-silva-of-manchester-city-celebrates-with-vincent-kompany-after-picture-id884834612

 

5 ジョン・ストーンズ John STONES***

ドリブルで仕掛けられるとやや弱い事以外、ほぼ文句なし。あらゆる面で信じられないくらい成長しているCBの要。強いて言えばロングフィードを入れてくれるともっと効果的な気もするが、あれだけやらないのはよっぽど自信がないか、指示なのかもしれない。ハムストリングを傷めて離脱中。

https://media.gettyimages.com/photos/john-stones-of-manchester-city-congratulats-ederson-of-manchester-picture-id862479028

 

15 エリアキム・マンガラ Eliaquim MANGALA

第4のCBと言いつつ、コンパニのコンディション不安とストーンズの怪我で最近出番が増えている巨人。きちんと距離と角度を取るポジショニング、右足を使えるようになったことで読まれづらくなったパス出しと、ビルドアップには進歩が伺える。

一方でガタイの割には空中戦できれいに勝てることはほとんどなく、スピードも言うほどないので未だ不安は拭い難いが、じゃあ3,000万出してエヴァンズかイニゴ・マルティネスに入れ替えるほどかと言われると、まあどっちでもいいんじゃないかな。

https://media.gettyimages.com/photos/eliaquim-mangala-of-manchester-city-during-the-carabao-cup-match-picture-id895818918

 

24 トーシン・アダラバイヨ Tosin ADARABIOYO*

リーグカップで1試合出場。リーグカップは決勝まで放送が無いので、分からんのよね。まあ落ち着いてはいたらしい。デビューしたときからそればっかり言われている。

 

30 ニコラス・オタメンディ Nicolás OTAMENDI

サメ将軍ことGeneral Shark。相手がひたすら自陣に退く機会が多いため、シティのCBは必然的にドライブと楔、サイドチェンジを担当する機会が増える。その結果、ビルドアップが気持ち悪いほど巧くなり、アーセナル戦ではほとんどピルロ状態。最近では「DFラインを比較的高めに保つ+中盤ラインをDFに限りなく近づける」ことでスペースを限りなくパッキングしてしまおうとする相手も増えており、これでDFの裏が取れないと一気に苦しくなってしまうのだが、裏にふんわり落とすロバーまで習得したオタメンディがいれば安心。

きっと選ばれはしないだろうが、時代が違えばベストイレブンでもおかしくないと思う。DF陣随一の得点力で、セットプレーでは頼りになる。

https://media.gettyimages.com/photos/nicolas-otamendi-of-manchester-city-celebrates-scoring-the-2nd-city-picture-id889499372

 

2 カイル・ウォーカー Kyle WALKER***

今年の新戦力でレギュラーに定着しているのはエデルソンとウォーカーの2人だけなのだが、純然たる属人的な変化は余りにも大きかった。足速すぎ。裏取られても間に合いすぎ。そこそこの身長とマッチョな身体で3バックの右としてもプレーでき、かつボールロスト時には中盤に出ての潰しが間に合うという点で、今年の可変フォーメーションにもぴったり。右足から繰り出す圧倒的クソクロスも可愛いものだ。

https://media.gettyimages.com/photos/23rd-december-2017-etihad-stadium-manchester-england-epl-premier-picture-id897606794

 

3 ダニーロ DANILO

開幕時はウォーカーの怪我で右ウィングバックに、メンディ離脱後の最初の試合では左バックに起用されたが、前者ではウォーカーに勝つほどの機能性はなく、後者では左足でボール扱えないので幅が取れない、ということですっかりベンチが定位置に。中央からのパス出しはそれなりにできそうだったので、今のデルフの役割ならこなせないこともないとは思うが。守備のバイプレーヤーという唯一のポジションなだけに、冬越えの奮闘に期待したい。良い人そうではある。

https://media.gettyimages.com/photos/oleksandar-zinchenko-tosin-adarabioyo-yaya-toure-danilo-brahim-diaz-picture-id860593560

 

22 バンジャマン・メンディ Benjamin MENDY

90年代のJリーグにいたら絶対コロコロで「やったぜ!メンディくん!!」が始まっていたに違いないFunky Shark。

  • しつこく「Shark Team」「俺たちサメチーム」とつぶやき続け、ついに公式グッズ化。公式Twitterにも採用。
  • 「メンディは半年離脱」と呟いたジャーナリストに「いや俺も検査してねーのに分かる訳無いだろ」とTwitterで直接突っ込む
  • 「監督は手薄な左サイドバックに補強を考えています」と呟いた公式アカウントに「俺がデルフに教えるから大丈夫っすよwwww」と絡む
  • 毎試合Twitterで実況する
  • 「うわー一般人が興奮して入ってきちゃった」と思ったらメンディ
  • デ・ブライネの試合後インタビューに乱入してキス

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と、挙げているとキリがない。そろそろ周囲も引いているような気がしなくもないが、チームの雰囲気を変えたという点では来てくれてよかったと言えよう。脅威のクロス性能を見せていたが、怪我で4月まで離脱。

https://media.gettyimages.com/photos/benjamin-mendy-of-manchester-city-walks-out-prior-to-the-premier-picture-id839445654

 

 

MF

8 イルカイ・ギュンドアン İlkay GÜNDOĞAN

ゴール前への進出、ポジショニング、タイミングはデ・ブライネやシルバより上だと思われるが、それ以外のプレーで今この2人に勝つのは相当難しく、完全に控え。とはいえ、開幕後まで長引いた怪我の影響か、ここまでのプレー自体もやや低調。これ以上依存しないために、奮闘が求められるところ・・・と思っていたら、スパーズ戦ではシルバ不在を問題なく埋める活躍で、頼もしい限り。

https://media.gettyimages.com/photos/ilkay-gundogan-of-manchester-city-celebrates-after-scoring-his-sides-picture-id893878496

 

18 フェイビアン・デルフ Fabian DELPH***

英語だと普通に、「フェイビアン」でしたね。よく考えたら、「フェビアン協会」だって「Fabian」なのだった。

トーク移籍寸前まで行っていた戦力外男が、メンディが離脱した左SBでブレイク。もともとのキープ力、左足のサイドチェンジ、縦パスに加えて、守備では多少怪しいとは言え、ポジショニングも改善。すっかりアラバ・ロールのSBとして定着し、何ならメンディよりも良いんじゃないかという声すらある。ドリブル対応も意外と強く、マフレズを普通に抑えていたのには驚かされた。お前そんなのできたのかよ。

弱みは空中戦やクロス対応、とくに目線を一度切られると裏がお留守になること甚だしく、この先狙い目になることが予想される。あと、やってることが特殊なので、多分代表でSBに使ったら大して活躍できないと思う。

 

25 フェルナンジーニョ FERNANDINHO

もともと、ジーニョは何をやらせても上手い選手ではあった。カバーリングもまあまあ速いし、目も良い。ドリブルで相手を交わすことも出来なくはないし、パスを捌くこともまあ不得意ではない。ボール奪取は言わずもがなである。ドリブルには弱いけど。

しかし我々は今、優れた監督が如何に30歳を超えた選手の技量を上達させることができるかという実例を目の当たりにしている。まあほんとあらゆる面が上手いのだ。ドリブル、というかドライブは効果的だし、1vs1は負けないし、空中戦は競り勝つし。さほど機会は多くないが、浮き球のパスもバシバシ勘所に通すようになってしまった。まさに「グアルディオラがついてるぜ」である(そういうチャントがある)。

昨日なんか、相手GKがロングボールを蹴る、相手のFWの背後にくっついて落下を待つ、相手に身体を預けてヘディングを空振らせ、自分は右足のアウトサイドでボールを前に落とす、自分は反転して相手の逆側から入れ替わる、という新技を披露。それは何カンプなんだ。

CFGが目指す世界支配(3/3) Guardianの記事訳

下の記事の翻訳 その3

www.theguardian.com

 

ペップ・グアルディオラの登用は、常にソリアーノの壮大な構想の中にあった。実現には時間と忍耐がかかったが。(中略)グアルディオラは一度は「来年行く」と言ったが、次の年には「すまない、バイエルンに行くよ」と言ってきたので、ソリアーノは「OK。じゃあ3年後だな」と返した。こうした忍耐は、儲けを焦らず、そしてファンがすぐ結果を求める移り変わりの激しいこのスポーツにおいて、根比べに勝つ方法を知っているオーナーがいなければできない。

グアルディオラの最優先タスクは、最低1シーズン当たり1つのタイトルを獲得し、ソリアーノが定義する「ナンバーワン」クラブの定義を満たすことである。「毎シーズン勝てという意味じゃなく、5シーズンあったら5つのタイトルを獲ってくれ、ということだ。つまり、4月の段階でプレミアリーグ有償の可能性を残し、CLで準決勝に進んでいるということだね」とソリアーノは説明する。シティが後者を達成できたのは一度しかない。グアルディオラが来る前の2015/16シーズンだ。しかし、先の目標は4年に1回CLを勝つ、ということをほのめかしている。

しかし、果てしなく続く試合とプレスカンファレンスから離れ、グアルディオラの隠された仕事は、究極的にはタイトルよりもっと価値ある何かを作り上げる手助けだ。つまり、全てのCFGクラブと選手たちの、はっきりそれと分かる、魅力的なスタイルのフットボールである。もう一度言おう。そのモデルはバルサから来ている。ジュニアチームの全員が同じ区ライフ式のサッカーを学んでいるために、シームレスにトップチームに移行できるクラブだ。CFGのモデルでは、数多の国にまたがるクラブとアカデミーは、同じもの―自動的にペップ式のサッカーをプレイする方法を学び、グループ内のチームを出入りできる明確な供給線―を作り上げる。ソリアーノによれば、これによって「よりシームレスに選手が(クラブ間を)移動できる」ようになり、そして最良の選手はマンチェスター・シティに行き着く。

これは聞こえよりも難しいかもしれない。(中略)今年の8月、NYCFCの試合を見たが、どちらかと言うとちぐはぐな、イングランドやスペインの2部か3部のようなサッカーだった。その数日前、NYCFCの監督であるパトリック・ヴィエラを見かけた。ヴィエラはシティの「エリート・ディベロップメント」U23チームの監督から、NYにやってきた。マンチェスターでキャリアを終えたアーセナルの元キャプテンに、NYCFC―MLSサラリーキャップ制の下、プレミアリーグの平均以下の給与総額のチームはいつも「シティのサッカー」をしているのかと尋ねると、彼はそうでないと認めた。「選手が違うから、NYでマンチェスターと同じサッカーはできないよ。我々が共有しているのは、我々が『美しいサッカー』と呼ぶフィロソフィだ。攻撃的で、ポゼッションを握ろうとし、チャンスを作り出し、特典し、魅力的なサッカーをプレイしようとするものだよ。レベルは違っても、フィロソフィは同じだ。」”

 

  

CFGが成長し、その影響が世界中で感じられるようになったことで、ライバルたちはその規模を恐れるようになり、CFGの周りを鷹の如くうろつくようになった。ラ・リーガの代表、歯に衣着せぬ弁護士であるハビエル・テバスはこの夏、シティからジローナに貸し出された5人の選手について、移籍の詳細が偽られているとして、自らのテリトリーに現れたCFGの翼を切り落としに出た。ジローナはこの5人の選手の会計的価値を積み増さねばならず、スペインの予算上限の仕組み上、選手の給与に使える費用の4%削減を余儀なくされた。(中略)

9月に行われたサッカーレックスのサッカービジネスカンファレンスで、テバスはまたもやシティに狙いを定めた。アブダビの公営企業からのスポンサーシップという名の国家資金によって、UEFAの規則を回避しているというのだ(彼はパリ・サンジェルマンカタール人たちにも、「プールで小便している」と同じような文句を言っている)。テバスの考えるところでは、移籍金や選手の給与高騰を引き起こしているのは、ファンの需要ではなく、湾岸諸国の資金と、「マンチェスター・シティと奴らの石油」を含む、いわゆる「国家クラブ」だという。シティは否定のみに留まらず、テバスを訴えると反撃した。UEFAは、シティの財政を調べろというテバスの要求を無視した。しかし、レアル・マドリーバルサが支配するリーグのトップからの口撃は、この2つのクラブ―非営利のファンクラブ会員が実権を持つ組織構造がゆえに、CFGのやり方でグローバル展開することができない―が感じている危機の現れである。

しかし、CFGがその力を持って規則の限界を広げてしまおうとしている、というテバスの訴えに効果がないわけではない。2014年、前年にFFPに違反したとして、シティに2,000万ユーロの罰金を課した。一方、オーストラリアのAリーグは、CFGが移籍金に関するリーグの罰則を回避した翌年、新たなルールを導入している。CFGが取った策略は、ある評論家からは「茶番」と評された。経緯はこうだ。マンチェスター・シティはアンソニーカセレスという地元の選手を獲得した―オーストラリアの他クラブより高い値を付けたのだが、そのままメルボルン・シティに貸し出したのだ。リーグは初年度の練習禁止で応えた。

こんな世界的な野心を可能にするほど大きな財布を持ったオーナーシップは、更なる問題を引き起こしうる。一つには、アブダビのイメージを守りたいという欲望が、CFGの前に立ちはだかっているからだ。サディヤット島の美術館のような、建設現場で働く移民労働者の権利を侵害しているとして人権団体から糾弾されているようなアブダビの野心的なプロジェクトがある中では特に。今年のはじめ、ワシントンのUAE大使館からのEメールがリークされた。その中には、NYCFCのスタジアムをクイーンズに建てるという計画について、CFGの重役が心配しているというメモがあった。このスタジアム建設に関して、ゲイの人権、女性、格差、イスラエル等に関する態度を対象として、アブダビの関与を批判する声が上がるのではないかという懸念からだ。もともと市民から反対の声が上がっていたプロジェクトだったが、NYCFCは未だに自前のスタジアムを持てていない。

https://media.gettyimages.com/photos/javier-tebas-la-liga-president-talks-during-day-3-of-the-soccerex-picture-id843226948

  

 

 

サッカー界のエコノミクスには根本的なパラドックスがある。グローバルのサッカー市場は年率10%以上で伸びているのに、利益を大きく伸ばしたクラブは数少なく、ましてやオーナーに配当を支払ったクラブなど尚更なのだ。偉大なるプレミアリーグのクラブですら、この5年間で3回は(合計で)税前損失を計上している。しかし、クラブの企業価値は上昇している。例えば、マンスールは前のオーナー、逃亡の身であるかつてのタイ首相、タクシン・シナワトラがたった15ヶ月前に払ったよりも、推計で約2倍の金額を払ってシティを買収しているのだ。

ソリアーノは言う。スポーツ・フランチャイズ(球団所有)は、常に稼いだ利益を再投資しなければならないような熾烈な競争に晒されているのだと。つまり、オーナーが本当にキャシュを得られるのは、彼らがクラブを売ったときだけだ。売らないオーナーたちは、サッカークラブを超リッチなコレクターのための「希少品」だと思っている。億万長者は列をなし、選ばれたもののみが加入できる“有名なクラブを持っている”という地位に加わりたがっているのだ。これは驚くほど保ちの良い資産でもある。労働者たちが飲酒と喧嘩から離れられるようにと、教区牧師の娘アンナ・コネルによって1880年に創設されたマンチェスター・シティは、創設から2世紀目を迎えた数あるクラブの1つだ。「1917年にNY株式市場に上場していた企業のうち、今も残っている企業はいくつある?」とソリアーノは問う。

究極的には、価値は才能と感動が合わさることで生まれる。つまり選手と、それを愛するファンだ。これがソリアーノのいう「愛」であり、CFGがオーナーの望むように多国籍企業として成功したいと思うのなら、金に変えて見せなければならないものなのだ。もしグアルディオラがシティのために泣く日が来るとすれば、それはチャンピオンズリーグを再び制したときだけだろう。ソリアーノは今季、それを期待している。そのとき、イングランドで最も歴史あるクラブの一つであるシティのファンは、喜んで愛に身を任せるだろう。そして、更に多くの新たなファンがそれに続く。

しかし、CFGの多国籍企業モデルについて、この「愛」が本当にどの程度価値あるものなのか、我々は冷静な目で見ざるを得ない。CFGはコカ・コーラや、ディスニー、グーグルのような価値を持つことがあるのか?そのためには、マンチェスター・シティはもっともっと試合に勝ち、タイトルを取らなければならない―そしてそうなれば、このモデルが成功を収めたときには、他にもサッカー多国籍企業が現れ、揃って世界中で愛を金に変えていくだろう。もちろん、世知辛いビジネスの世界において、CFGの強大な世界展開の真の、金銭的な価値を知る方法は一つしか無い。マンスール―それか、他の誰かに代替わりしているかもしれないが―この企業体を売り、市場が審判を下す。そして、この「愛」に値段をつけるのだ。

 

CFGが目指す世界支配(2/3) Guardianの記事訳

下の記事の翻訳 その2

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この3月に初めてエティハド・キャンパスを訪問したとき、受付デスクの後ろの壁にはシティ、NYCFCに加えてもう2つのクラブの紋章が掲げられていた。メルボルン・シティと、CFGが少数株主である日本の横浜F・マリノスだ。もともとメルボルン・ハートという名だった前者は、2009年に創設されたばかりだが、シティが経営権を獲得し、名称を変え、クラブカラーをスカイブルーにしたわずか2年後の昨シーズン、クラブ初の主要タイトルを獲得した。創設当時のCEOだったスコット・マンは「スタートアップのテックファームを立ち上げて、アップルに買収されたようなものだよ」と語る。このアナロジーに則れば、イースト・マンチェスターはサッカーのシリコンバレーになるだろう。

2ヶ月後に再訪したとき、シティはまたしてもクラブを買収していた。今度はウルグアイアトレティコ・トルケ。2007年に創設され、2012年にプロになったばかりの2部リーグのクラブだ。5月に行われたCFGの年次スタッフミーティングでは、トルケの代表はこんなスライドでプレゼンを始めた。南米全体を書いた地図の上で、デカい矢印がウルグアイを指しているのだ。「トルケのことは誰も知りません。どこにあるかも」と代表は半分冗談で認めた(場所だけで言えば、首都のモンテビデオにある)。「この部屋の中にいる人数は、トルケの試合の観客数とほぼ一緒ですし」。しかし、目標は大きい。ルイス・スアレスエディンソン・カバーニのようなワールドクラスを排出してきたこの国において、トルケを1部に昇格させ、4位以内でフィニッシュし、大陸選手権に出ることだ。不思議なことに、トルケは「遍く南米中から選手と契約し、登録する」という目標も掲げている。これは、ウルグアイが1人あたりの金額で見れば世界最高のプロサッカー選手輸出国だという統計的な分析に基づいている。驚くべきことに、その学は1年当り2,500万ポンドにも達する。数多くの小さなクラブが、目先の金欲しさにしばしば10代の選手を安価で叩き売っていることを含めてもそうなのだ。ソリアーノは「驚異的だよ。我々は巨大だし、彼らを持ち続けて、さらに価値を高めて行きたいと思っている」と語る。

次にソリアーノに会ったのは7月。彼はまたもや新たなディールを纏めたばかりだった。350万ユーロで、シティはスペイン1部リーグのクラブ、ジローナの株式44%を購入した。これは今までよりも遥かに大物だった。昨年価格に合意した段階では、ジローナはまだ2部にいたが、マンチェスター・シティからレンタルされた選手の助けもあって、約1年後にはレアル・マドリーを倒すまでになった。CFGからの資金とノウハウの注入は、トルケには(ジローナより)さらに劇的な効果を与えた。買収からわずか半年で、2部リーグで優勝したのだ。つまり、1部昇格である。

 

 

 

ソリアーノは、サッカーはいずれ、世界中のほぼ全ての国で最も人気のスポーツになると考えている。アメリカやインドも含めてだ。では、CFGはどこまで行くのか?「我々はオープンだ。アフリカではガーナのアカデミーと関係を構築しているし、南アフリカでも機会を探している。」CFGはカラカスのアトレティコベネズエラと強い関係を築いている。ソリアーノは、マレーシアとベトナムにも言及した。上限は、1つの大陸に2つか3つのクラブだろう。だが、次の大きな買収はCFGが「積極的に買収の機会を探している」と公言している中国になると思われる。

2015年10月、中国のサッカー大好き国家主席である習近平が、シティのエティハド・スタジアムを訪問した。その2ヶ月後、中国の投資家グループが、CFG株式の13%を4億ドルで買収した。全体の評価額は30億ドルに達するが、これはマンスールがCFGにつぎ込んできた額の合計よりも、恐らく30%程度は大きい。シティのCEOに就任して以来、ソリアーノは中国サッカーの劇的かつ混沌とした進化に注目してきた。当初、ソリアーノは混乱と腐敗の噂、そして価格の高騰に辟易としていたが、今は「市場は合理的になり、リーグも組織されてきた」と考えている。

習近平は10年以内に、中国に5万か所の特別なサッカースクールと、14万のグラウンドを作りたいと考えている。一つの理由は、勉強漬けの子どもたちをより健康にするためだ。数百万の子どもたちにサッカーを教えるという機会を、ソリアーノは「もしかしたらマンチェスター・シティのビジネスよりも大きな事業になりうる」と見ている。CFGが興味を持っているのはクラブ運営だけではなく、サッカーに関するあらゆるセクターだということを思い出させる事実だ。CFGは最近アメリカにおいて、都市部でファイブ・ア・サイド*1を運営するジョイント・ベンチャーを立ち上げ、1,600万ポンドを投入している。

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複数のクラブを保有するオーナーは、CFG以外にもある。徐々に統合を試みているクラブもあるが、大半はただ投資のポートフォリオに過ぎない。CFGの特殊性は、意識的に生み出された単一のコーポレートカルチャーを世界中に展開している(同じスカイブルーのシャツを着る場合もある)、唯一のオーナーだという点にある。スペインのデロイトでスポーツ部門のパートナーを務めるフェルナンド・ポンスは、これをコンサルタントが言う所謂「グローカライゼーション」―グローバルなプロダクトを手掛けるが、ローカルなマーケットに適合もするというコンセプト―の典型例と評価している。例えば、「ジローナやNYCFCのファンは、ほぼ確実にシティファンにもなるでしょう」。また、マンチェスターのエティハド・スタジアムで見られる日産やSAP、ウィックスの広告は、メルボルンやNYでも掲示される。アメリカやオーストラリアの選手たちは、オフシーズンには世界最先端のトレーニング施設を体験することが出来る。

だが、ソリアーノの関心を最も引きつけるのは、選手のプールの広さと、彼らがプレイできるクラブの選択肢の多さだ。現時点ですでに、CFGは世界の誰よりも多くのプロサッカー選手と契約しており、今後もその数は増えていく一方だろう。すなわち、「エンタテインメント」とクラブ運営がグループの第一の事業であるとすれば、第二の事業は「選手のデベロップメント(育成・開発)」だ。着想のもとは、バルサの名高いユースアカデミーであり、世界中でコピーされているマシアだ。マシアは1人あたり約2百万ユーロ程度の費用で、メッシ、チャビ、イニエスタプジョル、そしてグアルディオラのような伝説的選手を生み出してきた。今日の価格でこの5人を買おうと思えば、合計で10億ユーロ近くはするだろう。我々はバルサのモデルをグローバルに展開している、とソリアーノは語る。

 

CFGの計画の根拠となるロジックは、私とソリアーノが7月に会ったまさにその週、さらに明確になった。PSGを所有するカタールのオーナーたちが、ネイマールのために1億9,800万ポンドを支払うことに同意したのだ。移籍金記録はほぼ毎年破られるようになった。ソリアーノは今や、インフレはこの業界における必然と見ている―そしてそれは、富豪のオーナー達によってではなく、ファンの要求に依るものだとも。

「なぜか?答えは簡単だ。市場が成長しているんだ。究極的には、市場は顧客次第だ。そこには、良いサッカーを見たいと願い、それに金を払う気があるファンが居る。だからクラブが払える金は増える。でもトップクラスの選手が生まれる数は変わらない」

「これは典型的な“Make-or-Buy”の問題だ。市場で買えないのなら、作るしかない。つまり、アカデミー、コーチ、若い選手の獲得に多額の資金を投じるということだ。ベンチャーキャピタルみたいなものだよ。10人の選手に1,000万ずつ投資したとしたら、1億の値がつくようなトップ選手に育ってくれるのは1人だけで良い」

マンチェスター・シティについて言えば、CFGのクラブ網を拡大していくことは、イングランド・サッカー界が17歳から18歳の有望な選手に関して抱えている問題を解決することに繋がる。ソリアーノはこれを育成ギャップと呼んでいるが、イングランド代表がなぜいつも残念なのかの説明にもなるかもしれない。

「もしトップクオリティの(才能がある)選手がいたら、彼は成長のために、コンペティティブな環境でプレイしなければならない。技術的な面だけでなく、プレッシャーの面でもだ。イングランドのU21やU19の大会ではそれが叶わない。なぜなら、試合にはほとんど客が来ないし、コンペティティブなテンションも不足しているからだ。」

「もしスペインやドイツが育成において(イングランドより)ずっと上だとしたら、それはバルサレアル・マドリーバイエルンのようなクラブが皆、下部リーグで他のプロクラブと戦っているようなリザーブチームを持っているからだ。イングランドで行われているような、完全に切り離されたリーグではなくね。」

「もし才能があり有望な18歳から19歳の選手がいるなら、彼を一軍と一緒に練習させてもいいが、試合は2部の、タフでコンペティティブな、3万人の観客が来るようなリーグでさせるべきだ」。

 

プレミアリーグのクラブはセカンドチームを持つことが許されていないため、若い有望選手を育てる最もありがちな方法は、下部リーグへの貸し出しだ。例えば、マンチェスター・シティは現在約20人を貸し出している。しかし一旦貸し出してしまえば、親クラブは各選手の育成をコントロールできない。30人以上の選手を24の異なるクラブにレンタルさせているくらい、大量の若い選手を獲得しているチェルシーが証明しているようにである。最悪の場合、これは選手を倉庫にしまい込んだまま、キャリアを潰してしまうことにも繋がりうる。(理屈の上では)全てが同じスタイルのサッカーをプレイする、というCFGのクラブ網は、この問題を解決するためのものだ。ソリアーノは「このシステムにおいて、我々はグループ内のクラブが何をしているか、ということを完璧に把握している。指導法も、プレイスタイルも、あらゆる面で同じなのだ」と言う。

 

このビジョンが上手く機能すれば、期待通り育った選手は、例えばトルケからニューヨークへ、そしてジローナへ、最終的にはマンチェスター・シティへ、といったキャリアを歩むことだろう。選手1人1人はグループ内の各クラブに所属しているから、CFGには所有権はない。つまり、それぞれのクラブはグループ外のクラブとの競争に勝ち、適切な移籍金を払って(グループ内の)選手を獲得する必要がある。だが、CFG内のクラブは、どの選手がCFG内の他のクラブにフィットするかについて、内部で選手の情報を共有している。また、移籍金は究極的には1つの企業体(CFG)の中で循環するのだ。好例はアーロン・モーイだろう。2014年にメルボルン・シティに加入したモーイは、2年連続でメルボルンのクラブ最優秀選手に輝いた。CFGはモーイがイングランドでプレイ出来るレベルにあると見て、メルボルンマンチェスター・シティにモーイを42.5万ポンドで売った。モーイは1試合もシティでプレイすることなくハダーズフィールドに貸し出され、彼らの昇格に貢献し、そのまま完全移籍となった―移籍金は1,000万ポンドだ。このディールは、CFGがグループ内選手に関する内部の知見をどう活用出来るかを示している(実際にはマンチェスターでプレイしたことがなくてもだ。)この移籍で生み出された利益は、メルボルン・シティを購入した際の価格の40%以上にも達した。

 

*1:5人制のミニサッカー

CFGが目指す世界支配(1/3) Guardianの記事訳

(The Guardianの記事が面白かったので翻訳した)

www.theguardian.com

サッカーはすでに巨額の金によって変貌を遂げてきた。しかし、マンチェスター・シティの背後にいるビジネスマンは、業界を永久に変えるグローバルな企業体を構築しようとしている。(By Giles Tremlit)

 

 

2009年12月19日、ペップ・グアルディオラは、アブダビはザーイド・スポーツ・シティ・スタジアムの真ん中で立ち尽くし、涙を流していた。(中略)世界で最も著名な監督がこんな風に取り乱すとは奇妙なことだが、それというのもこの日の勝利が、1つのクラブが1年で手にしうる6つ全てのタイトルのうち、最後の1つを確定させるものだったからである。

一方、フェラン・ソリアーノにとっては残念な瞬間だった。ソリアーノはヘアドレッサーの息子で、バルセロナの労働者階級が多い地区で育った。FCバルセロナの経営幹部の1人となり、バルサが”史上最高のサッカーチーム”と呼ばれるようになる過程に、多大な貢献を果たしてきた。「幸せだったが、チームが頂点に達した瞬間に立ち会えなかったのは辛かった」とソリアーノは語った。代わりに、彼はグアルディオラに電話した。

ソリアーノは2008年までの5年間、バルサの財務を管轄してきた。また、彼が発展させてきた構想は、近年のバルサの栄光に大きく貢献してきた。ソリアーノが2003年の会長選挙でアメリカ式の選挙キャンペーンを持ち込み、向こう見ずでビシっと決まったスーツの若いビジネスマンたちをクラブの要職に付けて以来のことだ。彼は『ゴールは偶然の産物ではない』という本まで書いたが、その中で「バルサの成功と栄光は、的確かつクリエイティブな経営の結果だ」と主張している。悪意ある政治的内紛によって、彼は6冠達成の前年にバルサを追われていたが、その前から、「他国でフランチャイズクラブを設立する」という彼の野心的なアイディアはバルサ内部で妨害にあっていた。クラブ運営の議決権を持つ14.3万人のファンを持ち、バルセロナの街とカタルーニャに深く根を下ろしたクラブにとっては、余りにも突飛な計画だったのだ。

 

しかし、ソリアーノの壮大な構想は、グアルディオラが号泣したアブダビの夜を注視していた2人の男によって、息を吹き返した。片方はアブダビ王家の1人、マンスール・ビン・ザイード・アール=ナヒヤーン。もう片方は、若き要人にして王家のアドバイザーであるハルドゥーン・アル=ムバラクである。彼らの支援を得て、ソリアーノは今、世界初の真の多国籍企業体、いわばサッカー版コカ・コーラを作り上げることで、サッカー界の既存秩序をひっくり返そうとしている。

その企業体が、シティ・フットボール・グループ(CFG)だ。CFGはすでに4大陸に6つのクラブを所有、あるいは共同所有しており、240人の男子サッカー選手と20数人の女子サッカー選手と契約している。そして、慎重に選別された100人以上の育成年代の選手が、大志を抱き、下部組織でプレイしている。長期的な野心は壮大である。CFGは世界中で優れた選手を探し回り、最先端のアカデミーと育成施設で彼らを磨き上げ、10を超える国のクラブ(CFGが既に持っているか、今後取り込むもの)の中で、最良と思われるものに売るか、送り出す。護送兼供給船団に守られた、この新たなサッカー艦隊の旗艦がマンチェスター・シティである。シティの役割は、これまでも目覚ましい成果を上げてきた、世界一のクラブを目指すという取り組みを続けていくことだ。

これがソリアーノの構想、あるいは少なくとも、複雑な計画の簡易版である。CFGは設立されてたった4年だが、短期間で、世界で最も人気のあるスポーツにおける最大勢力の1つになった。CFGがサッカー版のGoogleFacebookになりうるのではないかと考える人々から、畏怖をや嫉妬、恐怖を向けられているというわけだ。

 

 

 

 

トップ選手に2億ポンドの値が付き、数億人が試合を観戦し、世界有数の金持ちがクラブを保有する時代において、優位を得るための出費が惜しまれることはない。昔々、違いを生み出すためには、お金だけで十分だった(賢く使われさえすれば)。しかし、もはやそれだけでは足りない。一つには、サッカー業界に金が溢れるようになったからだ。

シティが2012年にリーグ優勝したとき、マンスールは「10億ポンドでタイトルを買った」と広く批判された。10億ポンドとは、その前に4年間に彼がシティにつぎ込んだ金額だ。(中略)しかし、それはある時代の終わりでもあった。欧州サッカー界の規制機関であるUEFAは、クラブが自分たちで稼いだ以上に資金を費やすことができないよう、新たなルールを制定した。否定派は、マンスールを道楽者の戯れと批判する。今日でさえ、彼の「個人的な」(シティの)所有が、アブダビソフトパワーの道具として使われているのではないかという疑念を呈するものもいる。しかし、彼の声明(滅多にない)は、彼がシティを純粋かつ長期的な投資として買収し、資金を投入してきたことを明らかにしている。というのも、「ビジネス的に言えば、プレミアリーグは世界最高のエンタテインメント商品の1つ」だからだ。

ソリアーノの野心はその倍だった。彼はサッカーとビジネス両方で勝とうと考えていた。しかし、UEFAが資金投下にブレーキをかけたため、目標達成ははるかに難しくなりそうだた。ソリアーノには、新しい何かが必要だった。シティは、金を失うことなく勝てるのか?

 

実際のところ、ソリアーノを筆頭とする若くて賢いビジネスマンの一味がバルセロナの経営に就いたとき、バルサは赤字クラブだった。財務部門のトップとして、ソリアーノは「多額の投資、タイトル、増収」という好循環をもたらすことに貢献した。(中略)しかしソリアーノは、バルサを単なる都市のクラブよりはるかに大きな存在として見ていた。グローバルのサッカービジネス自体が、新たな時代を迎えようとしていることに気づいていたのだ。2006年にロンドンで行った講演で、ソリアーノは初期の頃の構想についてプレゼンしている。すなわち、世界中でファンベースが凄まじい勢いで拡大しているために、ビッグクラブは「サーカスのような、地元のイベントのプロモーター兼オーガナイザー」から、「ウォルト・ディズニーのようなグローバルエンタテインメント企業に変貌しつつある」。もしビッグクラブが「拡大と、グローバルなフランチャイズとなるチャンス」を掴むことができれば、ライバルに圧倒的な差をつけた、新たな支配的エリートとなるだろうというのだ。

実はその頃、ソリアーノイングランドのサッカーが古いモデルに捕らわれていることに失望していた。ヴェンゲルやファーガソンはまるで自分がクラブを所有しているようだったし、ビジネスモデルの概念化は皆無に等しい状況だった。そもそも言葉の使い方からしてそうなのだ。「イングランド人は監督(Coach)を“Manager”と呼ぶが、まるで監督がクラブのすべてをManageしているみたいじゃないか」とソリアーノは回想する。(中略)バルサを去った後、彼はスパンエアーのチェアマンに就任していたが、ピッチ内外両方での優位性を探し求めていたマンスールによって、NYの弁護士であるマーティ・エデルマンとの邂逅を迎えることになる。

 

エデルマンはマンスールに雇われ、ごく初期からハルドゥーン・アル=ムバラクとともに働いてきた。不動産のエキスパートであるエデルマンは、以前からアブダビの信頼厚いアドバイザーであり、このアメリカ人の登用は、シティの新たなコスモポリタニズムの表れだったと言えよう。当初、ソリアーノはシティの成長を一笑に付していた。ライバルであるマンチェスター・ユナイテッドと付き合っていたし、「ステレオタイプな富豪オーナー」を信頼していなかった。本の中で、シティを「非合理的な投資によって野放図なインフレを引き起こしている」クラブの1つとして挙げていたほどだ。だが、両者は徐々に共通する価値観を見つけていった。中心にあったのは、野心-現状に挑戦する意欲であった。

(中略)そして、シティは「バルセロナ級のクラブに成長する」という長期計画へのマンスールのコミットメントを示すことでソリアーノを説得し、ソリアーノは多額の投資、イマジネーション、そして冷静さを必要とする先駆的な計画をピッチした。両者は、シティは世界最高のクラブを目指していくべきだということに同意した。長きに渡って、バルサレアル・マドリーマンチェスター・ユナイテッドによって占められていた地位だ。「それも世界の2位や3位じゃない。ナンバーワンだ。」とソリアーノは語った。

世界一のクラブにあるという構想は、虚栄やビジネス的強がりではない。ソリアーノははるか以前から、少数のエリートクラブが新たに拓かれたグローバル市場を獲得するだろうと考えていたが、彼は「はるかに大きなもの」を構築しようとしていた。ソリアーノの指摘では、サッカークラブは巨大なブランドだが、ビジネスとしてはバカバカしいくらい小さい。5億人のファンを持つクラブでも、収入は5億ポンド程度。ファン1人当たり1ポンドしか稼げていないのだ。まったくバカげてる、と彼は言う。ビジネス用語で言えば、これは「愛情(消費)溢れる人々と、愛情ゼロの人々の組み合わせ」だ。なぜなら、(例えば)インドネシアにいるファンは、応援するクラブに1銭たりとも使ってはいないからである。「じゃあどうする?答えは単純だ。単純すぎるかもしれない。しかし、実行には勇気を要する。グローバルでありながら、同時にローカルでもいなければならない。インドネシアに行って店を開くんだ」。ソリアーノの構想はこうだ。グローバルブランド(マンチェスター・シティ)と多数のローカルブランド、両方を持つ。クラブ間のネットワークを通して才能ある選手を育成する。同時にそれは、シティへの選手供給源にもなる。突拍子もないアイディアに聞こえることは、彼も理解していた。「もしこの構想をレアル・マドリーに提案していたら、『頭おかしいんじゃないの』って言われただろう。バルサでは実際そうだった」。

 

だが、シティはすでに革命のさなかにあり、その先に進む準備もできていた。エデルマンにとって、ソリアーノの構想は、マンスールの巨額投資で作られた骨格を肉付けするものだった。「偉大な構想には必ずホスト役が必要だ。我々は理想のホスト役だった。フェランの構想だけ盗んで、ゼロから始めようったってうまくいかない。彼の構想は、マンスールのもともとのビジョン-ただのオールスターチームを作るのではなく、未来への枠組みを作る-を実現し、強化するものだった」とエデルマンは言う。

ソリアーノは2012年9月1日から、シティのCEOとして働き始めた。2日後には、新クラブ設立のためにNYにいた。MLSに1億ドルを支払い、ゼロから新たなクラブを作るのだ。ローカルパートナーを探した結果、エデルマンはソリアーノを、ヤンキースのオーナーであるハンクとハル・スタインブレナー兄弟に引き合わせた。ハンクはサッカーファンで、大学でもプレイしていたし、高校の部活でコーチもやっていた。15秒で合意したというから、エデルマンが成立させた中でも、最速のディールの1つだった。ヤンキースは株式の20%を得て、臨時のホームとしてヤンキースタジアムを貸し出すことに合意した。ニューヨーク・シティFCと名付けられた新クラブは2015年からリーグに参加し、今やForbesから(企業価値を)2億5百万ポンドと評価されるに至った。ファンからは「NYCFC」あるいは「ニューヨーク・シティ」と呼ばれている―マーケターにとっては夢のようだ。「我々のブランドは理想的だ。なぜなら、ブランドネームは『シティ』だから、どんな都市名にも『シティ』と付けられる」と、洗剤のマーケターとしてキャリアを始めたソリアーノは考えている。