スーパーリーグ騒動に関する雑感
その名も「ザ・スーパーリーグ」(以下TSL)である。「ザ」て。
「ヨーロピアン」をつけないところに、俺たちの客は中国と中東・アフリカだが?という意気込みをビンビンに感じる。
日曜深夜の宣言初日こそサッカー界に激震をもたらしたTSLだったが、その後いつまで経っても記者会見もオフィシャルウェブサイトもデモムービーも出てこず、意思決定を下したはずの各クラブの経営陣は雲隠れという異様な手際の悪さで加速度的に状況が悪化。
辛うじて月曜深夜に首魁の一人フロレンティーノ・ペレスが地元トークショーに出てみたものの時既に遅し、火曜午後の段階で
- 英国を中心にファンの抗議行動が勃発、
- プレミアのTSL参加組の選手が断固反対で一致妥結、
- 大御所監督陣からも総スカン、
- さらにボリスにウィリアム王子まで前のめりで反対派へのサポートを表明
というブリテン4連パンチを叩き込まれ、イングランド勢が腰砕けとなって一瞬で決着した。
最後はアニェッリが「俺たちの戦いは終わらない」という車田正美感あふれるメッセージとともにプロジェクトの停止を仄めかすも、レアル、バルサ、ユーヴェの3巨頭は結局TSLから離脱せず、恐らくは違約金を人質にしての籠城を決断。スポンサーのJPモルガンも弱気のステートメントを発する中で、もはや令和の鳥取城といった様相を呈している。
そもそもそんなにその主張に義があると思うなら、TSL側は日曜深夜11時にプレスリリース1枚だけ出してあとは黙り込むのではなく、ファンにも各リーグにも選手にもUEFAにも正面から宣言して回るべきだっただろう。UEFAの新CL案に対して真正面から反対宣言出すとか。アニェッリもビジョンや危機感はわかるが、わざわざ前日にUEFAのチェフェリンに「うんうん、全然嘘!大丈夫!安心して!!」と電話で明言してから裏切るなど、今回はシンプルにおもろい嘘つきすぎており、今から明るい未来をサッカー界に提示しようとしている人が取る態度としては厳しいものがあった。顔を晒す勇気があるのがフロレンティーノだけってあんた。
私は騒動が始まってからは下らないことばっかりTwitterで呟いていたが、色々思うところもあったのでいくつかまとめておきたい。
TSLは何がまずかったのか
思うに致命的だったのは、その「サッカー界を救う」「これまでにない観客体験」の具体的なイメージが全然示されなかったことではなかろうか。今回の提案は要するに「欧州サッカーという知的財産の価値の源泉は我々ビッグクラブのブランドであり、(現状の管理団体では埒が明かないので)我々に好きにさせてくれた方がみんな豊かになるのだ」という主張であり、これ自体は理屈としては成り立ちうるが、それだけ言うからにはさぞすごいものを見せてくれるんでしょうねと思ったら特になにもないのである。口頭説明と文章だけでは厳しいだろ。
これだけ大きく構造を変えようとするからには、記者会見と同時にオフィシャルYouTubeとInstagramとTikTokチャンネルに動画を投稿、スーパースターの共演をスマホで観て中国のティーンエイジャーが熱狂するおしゃムービーが全世界を席巻する、とかやってたらまだ空気は違ったと思うが、74の爺さんが「今の10代は」とか言ってるだけではかなり厳しい*1。あれではTSL肯定派も擁護するのにいちいちTwitterで言葉を重ねざるを得ず、伝播力がなさすぎた。
まあ、というようなことは既にNYTが書いているが。
財務的インパクト
TSLに入るメガクラブの経営が改善するのかという点に加えて、フロレンティーノの言葉を借りれば「フットボールを救う」のであるから、TSLに入らない無数のクラブにとっても経済的に良いディールである必要があるが、報道されている内容を見ると、実体はまず間違いなく「TSLに招待されなかったクラブから収入を剥がしてメガに配分する」という結果になっただろう。このままだと皆死んでしまいます、よってまずあなたを殺します。
TSLが今よりも高額の放映契約を得られるとすると、それだけTSLメンバーのブランドに価値があることになり、つまりTSLの価値が高い分だけCL/ELの価値は下がることになる。また、CL出場権を争う必要がなくなる国内リーグの価値も下がるので、放映権料は下がる。
「その分改革して魅力を高めてトップラインが伸びて補填できるんですよ」と言いたいのだろうが、TSL発足で失われる分を埋め切るためには
- 放映権料がDAZNが払うと報道された額よりも圧倒的に上振れし、
- CL/EL・国内リーグの放映権料がさほど落ちず、
- TSL側が相当量の連帯分配金支払に合意する、
というミラクル3連発が重なる必要があり、しかも③がTSL側の胸先三寸とあっては信じろという方が無理があった。「連帯分配金(TSLに参加しないクラブへの分配)が今後成長の中で100億ユーロを超えていくと予想されます」というプレスリリースに至っては、報道されているDAZNの放映権料が全体で35億ユーロなのにお爺ちゃんいくらなんでもフカシにも限度がありますよという他はない。
(→この部分は誤解で、こういうことでした↓。一見すると6割増しじゃん!という感じだが、上に書いたようにCLも各国リーグも多分放映権料が減るので、全体としては雀の涙、しかも額固定だから多分金利上昇分とか無視というすごい条件になっている)
全体的に最高だと思います。ただ一点、連帯貢献金の100億ユーロ超に関しては、創立クラブの初回契約期間全体を通じての物としての言及となっており、その期間は別途の報道で23年間と明らかになっています。年間にすると4.5億ユーロ弱であり、現在のUEFAの6割増し程度になりますね。
— r4lx (@r4lx_j1897) 2021年4月24日
あとビールを2パイントくらい入れたあとの友人との会話で出てきた説なのでどう扱っていいか自分でも困惑してるが、TSLは欧州サッカーのブランド価値を短期的にキャッシュに換えて投資に充てようとというものであるが、DCF的に言えば事業の価値を決めるのは5年程度のキャッシュフロー予測よりも圧倒的に長期の成長率である。その点でこの記事にもあるように、クラブ以外の育成組織が弱い欧州各国において、アマチュア市場を焼け野原にしていくTSLの計画が長期の成長率を担保できるかは怪しく、少なくともこれだけの変化を起こそうというには説得力が無さすぎた、というのも一理あるなと思っている。
ちなみに、「TSLのメガクラブの売上が伸びればその他のクラブは選手の売り手として商売ができる」説についても、20クラブ×25人=500人しか市場がないこと、TSLの中では移籍金の比率に制限がかかることから、現実味は高くないと見ている。
競争バランス
個人的にTSLの残念な点は、競争のバランスを取り戻すという課題を解決しなさそうなことだ。まずメガクラブとその他の格差については、コレはもういっそ切り離してなかったコトにしましょうという話であり、部屋の中に象がいるからといって目を瞑っても解決にはならない。
メガクラブ間の競争バランスに対しては「給与とネット移籍金が売上の55%」というキャップがある分多少マシになっているように見えるが、結局P/Lの外でどれだけ有利な条件を構築するかの勝負になって、結局は軍拡競争の末のキャッシュ枯渇という今と同じ状況に陥ると思われる。
例えばシティ、PSGといった産油国勢をどう制限するかという問題があるが、彼らが有利なのは突き詰めると①投資ホライズンが長い(だから短期的に利益を追求しなくて良い)、②リターンの間口が広い(だから他の株主を入れることもできる)、③手元キャッシュがある(だから育成や施設といったFFPの対象範囲外だが間接的に利益につながるものに投資できる)という3点から来ているのであり、TSLの仕組みでも別にこれは解決しない*2。
アブダビのオーナーはもう6年間もシティに直接金を入れていないが、それでもシティは資金的にマンUを除くライバルに対してある程度優位にあるのはそういうことだ。この差を本当になくそうと思うと全クラブをリーグの子会社にして株式発行を封じて費用は上から配った分だけにするという手もあるが、そうなるともはやペレスとアニェッリ間ですら刺し合いが始まってしまうだろう。
各ステークホルダーの利害
と色々言ったが、本件様々なステークホルダーの利害が錯綜しており、魔法の杖は存在しない。
例えば日本で大人気の「UEFAが元凶」論。多分Niziuより人気がある。今回の件に至っては「UEFAはCL放映権料の7割を懐に入れている」というかなり思い切った怪情報が飛び出す大盛況であった。
みなさん認知されていないようですが莫大な放送料の70%ほどUEFAに持っていかれます。
— santiago (@ZH_432) 2021年4月18日
支持・不支持の前に「どんな理由でスーパーリーグが生まれたのか」理解するべきだと思います。
おそらく欧州5大リーグすべてのクラブがUEFAの日程と金の流れについて不満を持ってます。
実際のところUEFAは総収入の87%をクラブ・各国協会に分配しており、残りの13%も審判の派遣、情報通信機器の整備、イベント開催費用など必要経費に消えて、最終的には赤字である*3。よって、これ以上UEFAが絞り出せる金はほぼ無い。「UEFAちゃんとしろ論」に立つならば、むしろUEFAはもっと受け取るべきですらある。
それはさておき、この記事に詳しいように、UEFAはアマチュア含めたサッカー界全体の統括団体なので、「UEFA vs メガクラブ」という利害対立があるとしたら、それは「弱小国・弱小クラブ vs メガクラブ」の対立である。文句を言われながらもUEFAがネーションズリーグを止められないのは、そこで稼いだ金を各国協会の草の根の活動資金に充てるというミッションがあるからだ。そして、そのNLや親善試合もメガクラブの圧力を受けて昔に比べるとかなり減っている。悪評高い新CLの方式も、元はと言えば「試合数は増やしたいし安定してCL出場を確保したい」というメガクラブの圧力で形成されている。ギュンドアンやグアルディオラがUEFAに文句を言うのは結構だが、自分たちの雇用主にも同じように文句を言うのが筋ではなかろうか。
TSLのような、ブランドを目先のキャッシュに変えて下を切り捨てて生き延びるという戦略は持続性がなく、価値の源泉である選手と、雇用主であり資金調達主体であるクラブ、市場拡大機能を担っている各国協会(代表)の三者が長期的に安定した関係を築けるスキームを模索していくより他はない。で、実際には短期的には誰かが痛みを享受するしかなく、キャパが小さいところがそれをやっても意味がないので、それを引き受けるとしたら主にビッグクラブと選手ではないかと思っている。
価値を生む資産である選手の保護のためにカップ戦を中心として試合数を減らすが、その代償として給与の削減・ボーナス比重の増加に合意を取り付ける。試合数を減らして減った収入に対しては下位・辺境国への分配を増やして補填するとともに、CLとその他の段差を小さくし、過剰投資を抑制する。分配ルール変更でメガクラブの資金繰りが厳しくなる場合、長期のデットかエクイティを引いて対応する。メガクラブの資産はその耐久力のあるブランドであり、セリエA、ブンデス、プレミアに投資ファンドが殺到している情勢から見ても、メガ・準メガなら資金調達できそうに思われる。併せて、売上比率か絶対額でサラリー+移籍金キャップを設けて競争バランスをコントロールし、リーグの競争性を高めてパッケージとしての価値を高めていく。
とかね。メガクラブにとっては既得権益を一定程度手放すことになるが、それを嫌って焼畑農業しても長期の成長率を保てないと思う。上手くいくかは何とも言えないが。
(追記:NYTのこの記事が良いこと言っているが、ビッグクラブが痛みを引き受ける、というのはとどのつまり、ファンがもっと負けることを許容するということだ。しかしながら、Twitterのようなメディアの普及と近年の各リーグの寡占化によって、事態はかなり逆の方に行っているように見える)
で若いファンを開拓するというのは、それはそれでやれば良いと思う。NBA・NHLがやっている新しいソーシャルメディアや配信系サービスへのアプローチとか、周辺層にコンテンツ制作に参加させてファンにしていくような間接的なエンゲージメント施策とか、やれる余地は広い(広くなければCVCがセリエAの放映権料管理会社に出資したり、ブンデスの配信プラットフォームにファンドが群がったりしてないだろう)。
マンチェスター・シティ
ちなみに我がマンチェスター・シティだが、直前の金曜日になって初めてマジでTSLやるということを聞かされ、じゃあ皆行くなら・・・ということで最後尾から参加、情勢が危うくなると真っ先に逃げ出すというなんともご立派な醜態を晒していた。唯一強みがあるとすれば、ペレスが言うところの「違約金があるんだぞ!」は、アブダビが本気になれば痛くも痒くもなさそうなところだろうか。強みて。
で、競争のバランスを取り戻すという意味ではそろそろ潮時だと思っている。そもそもシティとPSGはFFP疑惑を通じてUEFAの権威失墜に一役買ってしまっており、メガクラブの無法化を加速させたと言われても反論できない立場にある。また、「FFPの計算対象外になる育成や姉妹クラブで利益を生んで本社に還元」みたいな合法だけどそりゃ資金力で差が付くわなみたいな戦略を取りながらリーグのブランドの恩恵には預かる、というのは他のクラブからずるいと思われるのも無理はなく、そろそろ規制入れていかないとスポーツ自体の価値を損なうと思う。
TSLへの提案
さて。ボヤッとした提案ばかりしていても何なので、最後にどうしてもTSL籠城を選ぶ場合の具体的ソリューションを提示しておきたい。TSLが焼畑農業的であるもう一つの理由は、世界のトップ20だけを囲い込んでリーグ化しても、そのうち味噌っかすになるクラブが出てくるという点にある。ブランドが希薄化してしまうのだ。また今回シティとチェルシーが示したように、数を増やせばそれだけ切り崩しにも弱くなる。
そこで提案したいのが、スーパー空(キャ)リーグの設立である。
世界最高のクラブが虚空を相手に戦う、これ以上ブランドの希薄化しようがない究極のスーパーリーグ。それがスーパー空リーグ。スポーツは違うが、イメージとしてはこんな感じだろうか。
スーパー空リーグには対戦相手との接触が存在しないため、選手の疲労は現状よりもかなり小さくなり、興行上のボトルネックである「試合数が増やせない」という問題を大幅に改善できる。恐らく年間300試合は可能だろう。
また、調整の必要がないため試合時間も区切り放題であり、45分間はCMを入れられない既存のサッカー中継よりも遥かに多く露出機会をスポンサーに提供することが可能である。相手をなくすことで試合展開の操作性と多様性は比較にならないほど向上するため、オンラインベッティングやライブ配信での投げ銭にも相性が良い。「空」というオリエンタルな概念を取り入れているところも、巨大な中国市場で顧客との親密な関係を築く上でプラスになるものと見込んでいる。
どうだろうか。
実にしょうもない話をしたという確信は、私にはあるが。
プレミアビッグ6の給料の払い方を比べよう
- トッテナム:3階建てのベイル御殿
- リヴァプール:再編成に影を落とすX構造
- チェルシー:柱が見つかるか?
- アーセナル:体制に筋を通そう
- マンチェスター・ユナイテッド:改善の余地は大きい
- マンチェスター・シティ:一見バランスは良くても
「素人は移籍金を見るが、プロは給与を見る」。皆さんご存知、かのマザー・テレサの名言ですね。
ということで、各クラブが誰にどのくらい払ってるのか、払っただけの働きはさせられてるのかということを考えたい。プロじゃないけど。どうするかというと、出場分数と給与を下のようにプロットしてみるのだ。
その前に、一旦全体感を確認したい。
まずマンUが飛び抜けていて、それ以外は(トッテナムを除くと)かなり似たりよったりだということがわかる。
これは結構エライことで、リヴァプールやシティとアーセナルでは売上に百十億円の差がある。でも選手には同じくらい金をかけているのだから、アーセナルはかなりリスクを取っているということだ。
マンUは、相変わらず払う能力は高いが、結果にはあまり結びついてない。でも最近新しいスポンサーが取れたことを公式アナウンスで「とんでもない成功」と言ってたから、試合に勝つとか負けるとかいうことでガタガタ言うなと。古いぞと。そういうイノベーションかもしれない。
トッテナム:3階建てのベイル御殿
ベイル
ケイン / ソンフンミン / エンドンベレ
その他の三階建てという、ものすごくいびつな構造をしている。
ベイルはぶっちぎりでプレミア最高額だ。過去10年のトッテナムは、人件費に対して獲得した勝ち点の効率が異様に高い、奇跡のクラブだった。それは主に「本来もっと高い給与が払われていてもおかしくない選手を、安く囲ってしまう」という手練手管に長けていたからだが、これはある種時限爆弾を抱えているようなもので、勝利がついてくると「何で俺たちこんな強いのに給料こんな安いの?」という心理を持つ選手が増える。そうなると戦力がキープできなくなる。
爆発を遅らせる方法の一つは全員の給与水準を合わせて団結させることだが、今の3階建てではそれもままならない。自分の6倍給料もらってるのに自分より働かない人間と団結するのは簡単ではない。しかも上司でもないし。
もう一つ気になるのが、ローズ、アリといった発言力がありそうな面子が試合に出てないこと。自国の選手は主力になればチームの雰囲気作りの点で多大な貢献を果たしてくれるが、関係がこじれてしまうと、発信力がある分だけリスクが大きいように思われる。キャプテンのヨリスが「近頃は正直言ってまとまってない」と公言していたように(する方もどうかと思ったが)、スパーズのロッカールームは理想的な状態とは言い難いようだ。こんなところにその原因の一端を感じてしまうのである。
リヴァプール:再編成に影を落とすX構造
今回一番奇っ怪な曲線を描いているチーム。
Xなんですよね。ここだけ。
まず右下、一番試合に出ている面々の給与が安い。とくにアレグザンダー=アーノルドとロバートソンのSBコンビとワイナルドゥムの3人は、このレベルの選手としてはかなり安い。ワイナルドゥムが今シーズン限りでバルセロナに行く、というのは待遇の問題もあるかもしれない。逆に、SBの二人がリヴァプール愛ゆえにこの給料で全然構いませんということなら、雇う方としては願ったり叶ったりだ。
また、週給10万ポンド付近に達するような高給取りが、結構試合に出ていない。ヴァン・ダイクは不慮の事故だとしても、チェンバレン、ケイタ、マティプ、ゴメスといった辺りは毎年長期離脱していて、稼働率が中々上がらない印象がある。そのもう一つ下の層、シャチリ、南野、オリジ、ツィミカスといった辺りもバカにならない額がかかっているが、あまり戦力になっているようには見えない。
ちょっと厳しいのが、チーム自体がピークをやや過ぎて、刷新しようというフェーズにあるということだ。怪我人が戻ってくれば来年はまた優勝争いに絡めるかもしれないが、多分2年後以降はキツい。そのときに、いま左半分にいる面子の中で主力にとって代われそうな選手がいるかというと、なんかいなさそうだ。
だから、
- ヴァン・ダイク、チアゴといった既存の高給取りのパフォーマンスを最大限に発揮させるチーム作りをする
- SBコンビやジョーンズの契約内容高騰を慎重に抑える
- 左の選手をまだ売れるうちに換金して、トップチームをスリム化しつつ、10万ポンド前後の主力候補を買ってくる
という治療と手術がいるんじゃないかな、と思う。
チェルシー:柱が見つかるか?
平均額はマンU、シティに次いで高いチェルシーだが、実は最高額はそんなに高くない(チルウェルの19万ポンド)。一見すると左下から右上へのきれいな曲線を描いているが、この「飛び抜けて高い選手がいない」というのは、アザール後に絶対的な核がいなくなってしまった、そして監督選びが中々落ち着かないチェルシーを象徴しているなという気がする。
数年前のトッテナムのように、「待遇としては差がついてない」「でも実体としてはケインという唯一絶対の戦力がいる(でもケインには色々個別の事情があって給与は抑えられている)」という状態だと、費用を抑えつつ戦力を保てるが、今のチェルシーは、言い方は悪いが「ハイレベルな烏合の衆」になりうる可能性がある。単純に、主力中の主力でありリーグ屈指の実力者、という選手がいないだけの話だからだ。
ただ、ヴェルナー、ハヴァーツ、コヴァチッチ、プリジックといった、ワールドクラスになりそうな若い選手はいるので、トゥヘルがハマればそういった絶対的主力は育てられる。言い換えると、編成の問題は過ぎていて、あとは技術の問題だと思うのだ。
それより気になるのは、ロフタス=チーク、バチュアイ、ドリンクウォーター、ザッパコスタ、バカヨコといった、この表に乗ってない大量のレンタル選手だ。シニアな選手がこれだけバランスシートに載ってるのは不健康でしかない。給与をどっちが負担してるのか知らんが、もし全部チェルシーが負担してたら年間4,800万ポンドにもなる。もし負担が小さいにしても、トモリとアンパドゥを除けば時間が経つほど価値が目減りする年齢の選手ばかりなので、早く換金してトップチームの補強に充てた方が良いだろう。
アーセナル:体制に筋を通そう
意外と高給取りが多い。ちょっとトッテナムやシティっぽい2層構造だ。でもそれ以上にアーセナルが珍しいのは、とにかく死に金が多いことだ。コラシナツ、ムスタフィ、パパスタソプロス、サリバ、チェンバーズ、そして何よりエジルと、そこそこ金払ってるシニアな選手なのに、様々な理由でほぼ貢献できてない選手が多すぎるのである。それもまた、エジルしかりサリバしかり、理由がよく分からんというのが健康的ではない。
マンUにもそういうところはあるが、
- 良からぬ利害関係がありそうな人間をフロントに据える
- 彼らが現場のニーズに合致しない選手を取ってくる
- 合致しないから成績が上がらない
- 成績が上がらないからフロントが挿げ替えられる
- 挿げ替わるから方針が変わる
- 方針が変わるから能力を十分に発揮できない選手が更に増える
- 結果として払っただけの金に対して成績がついてこない
という現象が起きているように思われる。
勝負事なので、勝ち点が上がらないことについて、コーポレート側や編成側で直接どうこうはできない。それは仕方ないんだけど、チーム最大の大物が謎の理由で試合に一切出場しないとか、キャプテンがプレシーズンツアーをばっくれてより給料が安いであろうクラブに強行移籍するとか、半年追いかけて既存のCBより給料払うことにした選手が全く試合に出てこないとか、そういうことが起きるようなマネジメントをやってると、CL復帰や優勝戦線への復帰は中々近づかない。「金を投じる」ということと、「実際に集団を機能させる」ということの間には、当たり前だが、踏まなければならない数多のステップがあるからだ。
マンチェスター・ユナイテッド:改善の余地は大きい
高い!とにかく平均の水準が高い。
ケインがあれだけ頑張ってようやく週給20万ポンドなのに、ラッシュフォードやマーシャル、マグワイア、ブルーノと、その水準がごろごろしている。シティも平均水準は高いが、デ・ブライネ、スターリング、アグエロ以外の選手は上限15万ポンドに抑えられているから、15万ポンド超えが9人いるマンUの水準の高さがよく分かる。
- まず、マタ、カバーニ、ポグバ、デ・ヘアといった、あまり試合に出ていない選手の給与が異常に高い。
- 加えて、イガロ、ファン・デ・ベーク、マティッチといった辺りの稼働率の低い選手も、10万ポンド以上もらってるのは気になる。
🚨 NEW IMO 🚨
— Ste Howson (@MrStephenHowson) 2021年3月25日
David De Gea vs Dean Henderson... Who should be #MUFC's no.1?!
Watch the video and let me know your thoughts in the comments.
👉 https://t.co/9tc6O1oefE 👈 pic.twitter.com/unAjszfHAH
高いこと自体は別に構わないが、結果につなげようと思った場合、止めたほうが良さそうな思うことは2点ある。
まず、どうせ1,2年しか保たない超大物ベテランを買ったり借りたりするのは止めたほうが良い。ファルカオやカバーニのことだが。彼らは給与が下げられないくせに、チームに居るのはどう長く考えても2年だから、せっかく高給を払っても、能力がディスカウントされた状態になる可能性が高い。ベテランではないが、ディ・マリア、ムヒタリャンといった短期放出組にも同じことが言える。
Can Edinson Cavani emulate Zlatan and become a 'Golden Oldie' for Manchester United... or will he flop like Falcao? https://t.co/T8jaqmluad
— MailOnline Sport (@MailSport) 2020年10月6日
あと、デ・ヘアとヘンダーソン、マーシャルとラシュフォードとカバーニのように、ポジションが被ってる高給取りを揃えるのも効率が悪い。この5人を3人に減らして、浮いた金でボランチを買ったりマグワイアの相方を雇ったりしたほうが強くなりそうだ。
いずれにせよ、これだけ給与を出す力があるのは事実なので、使い方が改善されれば強くなる余地は大きいように思われる。
マンチェスター・シティ:一見バランスは良くても
一見バランスが良い。
というのは、左上に選手が少ない。つまり、給料は高いのにあまり試合に出ていない選手がいない。怪我や不調で試合に出ていないシニアな選手といえばメンディとアケだが、彼らの給与は相対的には低い方だ。その他のそこそこ給与が高い選手は、皆かなり試合に出ている。つまり、バランスは良さそうに見える。
が、そう言い切れないところもある。
デ・ブライネ、スターリングとその他の差がめっちゃでかい。
彼らは確かに継続的に結果を残してきたし、怪我も少ないし、ピッチ外でのリーダーシップもあるのだろう。あと広告塔としても価値がある。それでも2倍以上というのは大きな差で、相当なパフォーマンスがついてこないと納得できない選手も出てきそうだ。
#ManCity are convinced that Kevin De Bruyne will sign a new contract and it’s “just a matter of time”, he’s says. Raheem Sterling is also on the list of players to negotiate a new contract. Sergio Agüero is set to decide his future in the next weeks.
— City Chief (@City_Chief) 2021年3月27日
[@FabrizioRomano] pic.twitter.com/zBovNKIPlP
加えて、獲りたいというドルトムントのホーランは、週給35万ポンドを要求している。デ・ブライネ、スターリングと同額だ。ベルナルド、ギュンドアン、マレズ辺りは面白くないだろう。最近マレズに契約更新するのしないのという噂が出るのも、根拠のない話ではないのである。
ただし、マレズは契約の切れ目が2年後で、その頃には32歳になっている。そうなると「更新しないでタダで出ていくぞ」作戦も使いづらい。これがあと1,2年若かったら生涯年収が億単位で変わってくるわけだから、マレズがレスターを早めに出たがってゴネていた理由もわかる。
European clubs have been ‘alerted’ to Riyad Mahrez not yet agreeing a new contract at #ManCity with two seasons left on his current deal. The Algerian is said to be approaching a time when players would look at extension but there has been no agreement made.
— City Chief (@City_Chief) 2021年3月23日
[via @mcgrathmike] pic.twitter.com/UpdHSUrcZ2
あと、今は安く使えているが、フォーデン、カンセロ、ジンチェンコは次の契約更改で間違いなく大幅増額を求められるだろう。フォーデンとジンチェンコはシティの若手育成戦略の中ではかなりの例外で、10年かけてこの二人しか育成組からトップに定着していない。と考えると、今シーズン増えそうな勝利ボーナスを差し引いても、多分全体的に人件費は上がるだろうと思われるのである。
『プレミアリーグ完全ガイド』を読んだら過去のキワモノチームたちの記憶が蘇ってきた件
献本してもらいました。
予測不能の プレミアリーグ 完全ガイド (エルゴラッソ) | 内藤 秀明, サッカー新聞エル・ゴラッソ編集部 |本 | 通販 | Amazon
一番共感したのは、あとがきのこの部分。
ただ何回もプレミアパブの会員の皆さんに壁打ちをさせてもらって「結局、〇〇のクラブの今の魅力って何なんでしたっけ?」「散々語られてきてるなかで、僕たちが面白いとしている部分ってどこでしたっけ?」なんて議論を重ねながら書き進めていったわけなのですが
そうなんですよ。プレミアは20チームのいずれにも愛すべきポイントがあり、そしてそれが見つけやすい(あと英語圏だから継続的にアクセスしやすい)。サッカー観戦がグローバルに広がれば広がるほど、ビッグクラブとその他の差は広がってしまう。最近では欧州スーパーリーグという、「もうビッグクラブ以外全部2部で良いでしょ!w」的な提案をする奴も出てきているが、ビッグクラブ以外にも、面白いチームは山ほどあった。というか、ビッグクラブ以外こそ面白いのである。この本を読んでいると、ラブリーさが溢れていた過去の記憶が蘇ってくる。
例えば03年から05年のエヴァートン。
まずもう、ダブルボランチのビジュアル的存在感がすごかった。ジンチェンコとデブライネでダブルデブライネとか言ってる場合ではない。
例えば04-05シーズンのボルトン。世界のロングボール史に燦然と輝くこのチームは、とにかくどさくさ紛れで点を取ることがべらぼうに上手かった。
これとか
これとか
あるいはこれとかな。
しかもそれをやらせたメンバーが凄かった。凄かったと言うか、キワかった。
レアル・マドリーで野次られすぎて鬱になった男、イバン・カンポ。
イングランドで一旗揚げたいガチムチチュニジアレスリング、ラディ・ジャイディ。
リヴァプールが扱いきれなくて追い出されたセネガルの火薬庫、ディウフ
レアルのキャプテンとしてCL優勝3回、もうキャリアでやること1つもなし!の余生過ごしおじさんフェルナンド・イエロ
上手すぎて何でボルトンにいるのか誰もわからんジェイ=ジェイ・オコチャ
若いときに「シアラー二世」の看板が壮大にコケたあと、FWから尻相撲取りにクラスチェンジしたケヴィン・デイヴィス
レスターが優勝したときに「雑草軍団」という評があったが、あっちが雑草軍団ならこっちはアストロ球団であった。
あるいは08-09シーズンのWBA。
最終的には降格してしまったが、このシーズンのWBAはとにかく「丁寧」であった。4-1-4-1のフォーメーションで、アンカーには後にセリエAのベストイレブンにも輝くボルハ・バレロ。インサイドには交通整理マンのジョナサン・グリーニングと、スロヴァキアのダビ・シルバことロベルト・コレン。これに点は取れないがポストプレーは上手いFWのロマン・ベドナーシュが絡んで、とにかく丁寧に丁寧に崩す。
さっきも書いたように結局降格したのだが、なんか見てると爽やかな気分になるチームだったと思う。未来があるな、みたいな。実際あって、監督だったトニー・モウブレーは現在ブラックバーンを指揮しているが、今やブラックバーンは丁寧なサッカーが身につくチームとして、チェルシー、リヴァプール、シティなどから若手のレンタル先として人気がある。
(まあ、この記事はThe Athleticの記事をそのまんまコピーし過ぎで、ボリスタの記事として出すのはどうかとは思ったが)
あるいは、09-10シーズンのブラックプール。
ブラックプールは、持ってる戦力とやりたいことの差がプレミア史上最も激しかったチームの1つであった。1人を除いてどう見ても2部の中堅レベルのメンバーで、むちゃんこ攻めたのである。
ボールを持ったら前に7人。後にリヴァプールでもプレイしたチャーリー・アダムが繰り出すタッチダウンパスめがけて走る3トップ。突っ込むMF。がら空きの後ろ。リヴァプール、アーセナル、シティといった強豪を苦しめたブラックプールは、ハチャメチャに失点を重ねて降格した。
あとブラックプールは、監督のたとえ話力が高かった。
例えばグアルディオラなりモウリーニョなりが、ギリギリ勝った試合を「紳士的な例えで言うと、ナンパ行って、最高とは言えないけどまあとりあえずタクシー乗せてお持ち帰りはできましたと。あっ、でも明かりの下で見たらあんまり可愛くねーな、ってなって、じゃあ送って帰ろうかなって思ったら、向こうめっちゃ乗り気で、コーヒーでも飲んでく?って言われちゃって、どうすんべみたいな感じかな」とか言ってくれるだろうか?絶対言ってくれないでしょう。
話が長くなったが。プレミアを見ていると、そういう愛すべきチーム、愛すべきシーズンが見つかる。そのためにはまず全体像を掴めていると役に立つ。昔はそれがコージー東元先生のテッキトーなコラムだった(若い子は知らなくて良いが)。今はこんなにしっかりした本があるのである。
ということで、『プレミア完全ガイド』おすすめです。ちなみに内容はこのブログより相当ちゃんと書いてあるので、お前のキワチームは自分で見つけろよな。
予測不能の プレミアリーグ 完全ガイド (エルゴラッソ) | 内藤 秀明, サッカー新聞エル・ゴラッソ編集部 |本 | 通販 | Amazon
プレミアが一周したので全チームの感想を言おう
- ウォルヴァーハンプトン ○3-1(A)
- レスター・シティ ●2-5(H)
- リーズ・ユナイテッド △1-1(A)
- アーセナル ○1-0(H)
- ウェストハム・ユナイテッド △1-1(A)
- シェフィールド・ユナイテッド ○1-0(A)
- リヴァプール △1-1(H)
- トッテナム ●2-0(A)
- バーンリー ○5-0(H)
- フラム ○2-0(H)
- マンU △0-0(A)
- WBA △1-1(H)
- サウサンプトン ○1-0(A)
- ニューカッスル・ユナイテッド 2-0(H)
- チェルシー ○3-1(A)
- ブライトン&ホーヴ・アルビオン ○1-0(H)
- クリスタル・パレス ○4-0(H)
- アストン・ヴィラ ○2-0(H)
ウォルヴァーハンプトン ○3-1(A)
ジョルジュ・メンデスのフロント企業みたいになったウォルヴァーハンプトンとの対戦で開幕。ロドリとフェルナンジーニョのダブルボランチを底にした4-2-3-1で望んだ。かなり苦戦したが、ウォルヴァーハンプトンのDF陣、とくにハーフバックのサイスとボリーがかなり雑にポケット裏抜けに対応していたので何とかなった。ちなみに私が昨年はまっていたマッスルミュージカルは、なんでこんな男に夢中だったんだろう・・・と思うくらい魅力がなくなっていた。ううん、ごめんなさい。あたしが悪いの。忘れて。
アダマ・トラオレ、絶対にシティに来て欲しい。戦術的にどうこうだとかは一切関係なく、ただ私が素っ頓狂なプレースタイルの選手が好きすぎるから
— sake (@szakekovci) 2020年3月23日
気になった人 ダニエル・ポデンセ
う、うまい・・・。裏抜けも出来るし、ドリブルも上手いし、アーリークロスの精度も高い。まあ経歴を見る限り点が取れるタイプじゃないんだろうが(昔のオリヴァー・ノイヴィルみたいな感じだ)、ヒメネスのような良いストライカーと組ませると怖い。
レスター・シティ ●2-5(H)
5-4-1から繰り出されるカウンターに全く対応できずボコボコに。4-2-3-1ではMFラインで歯止めがかからずDFラインが裸にされ、点がほしいと言って4-1-4-1にしたらアンカー脇を蹂躙された。エリック・ガルシアに恨みは全然ないが、せっかくだからスペインに帰る前にもう一回ヴァーディにめちゃめちゃシバかれてから帰ったらいい思い出になると思う。
レスターは脇を固めるメンバーがかなり充実していた。右ハーフのプラート、右バックのカスターニュ、左バックのジャスティン辺りはしっかりボールが持てる上に突撃性能も高いから、プレスがかけられないシティが最も苦手にするタイプだ。DFラインもカバーができるエヴァンズに、スピードのチャーラルがいて固い。ヴァーディの控えがイヘアナチョとアヨセだという点に目をつぶれば、CLも夢ではなかろう。
気になった人 チャーラル・ソユンジュ
通称「ソユンク」。割とどうでもいいことではあるが、まず「チャーラル」と呼ぶべきだと思うんですよね。トルコ人だから。「エムレ」とか「イルハン」とか「アルパイ」とか呼んできたじゃないですか。「ベロゾール」とか「エザラン」ではなかったじゃないですか。一貫性持ちましょうや、みたいな。まあ、そこは一旦置いておいたとして、苗字の方も「ソユンク」より「ソユンジュ」と読んであげたい。
リーズ・ユナイテッド △1-1(A)
FFPというのはまさに20年前のリーズのようなクラブを生まないための制度なのだが、みんなが「財務的健全性」を気にする今日この頃、リーズのプレミア復帰にあたっては結構エモーショナルに歓迎ムードだったのでちょっと笑った。ちなみに、最後にシティがプレミア昇格したときの初戦がリーズだったんですよね。0-3でボコボコにされたが。
試合は双方バカみたいにカウンターで切り合っていた。リーズがそれをするのは分かるが、なぜシティは付き合ったのだろうか?あまりにもあからさまだったので、試合後にグアルディオラが「急ぎすぎた」と言ってたのが意味がよくわからなかった。
リーズはさすがビエルサらしい良いチームで、ちゃんと点が取れるストライカーとまともなGKもいるので、トップ10には十分入れるだろう。どこでビエルサが投げ出すかは別の話だが。
気になった人 カルヴィン・フィリップス
CBとしても使える“ディープライイング・プレイメーカー”(日本語に良い訳がないけど、サッカーファンがイメージするところの「いわゆるピルロ」みたいなポジションだ)というのがまずかっこいい。そして見た目もかっこいい。試合ではデ・ブライネに張り付かれてかなり痛い目に会っていた。
アーセナル ○1-0(H)
ボール持ってるときの3バック、俗に言う『カンセロロール』ことカンセロ・マヌーバ、幅を取る両ウイング、縦に混ざり合うベルナルド、カンセロ、スターリングなど、現在のシティの形が実は結構見られるのである。見返してみると。実質ほとんど左サイドのティアニー&サカしか攻め手がないアーセナルは前から守りに行ったが、シティのDFラインからスパッと通されて失点。サカ、ウィリアン、ぺぺのうちサカしか脅威にならない上、交代選手がその3人以下、というのはかなりきちい。
このあとカラバオかなんかでもう1回やって、そのときは4-1で勝ったのだが、そのときもアーセナルの守備がだいぶきちいことになっていた。WBAですら(失礼)実装しているポケット裏抜け潰しが全くできないというのは正直どうかしている。アルテタは何がしたいのか、ちょっとよくわからない。ごめん。
気になった人 ウィリアン
かつてチェルシーで猛威を奮ったとは思えない萎れっぷり。去年も二桁近く取っていたはずでは。ウィリアンもそうなんだけど、最近のアーセナルというのは「クラブ屈指の高額設備が全く稼働しない(エジル)」とか、「高額設備を売却したのにほとんどリクープできない(コシエルニ)」とか、そりゃ勝てなくなるわなという案件が多すぎる。ウィリアンもそう。
ウェストハム・ユナイテッド △1-1(A)
まあ決まらないんだこれが。珍しくこの試合は中央で持ってポケットに抜けるスターリングとマレズにスルーパスが出ているのだが、全然決まらない。でも、GK引きつけ過ぎなだけなんじゃないかという気もするので、崩す角度がそもそも悪い説を取るのはもうちょっと待ちたい。ちなみにウェストハムのことは全然覚えていないが、いいチームだったのは間違いない。
気になった人 マイケル・アントニオ
フィジカル方面への明るさだけで最前線を張り、さらっとスーパーゴールを決めていた。私はこういう、「身体が張れるからという理由の起用」に弱い。
シェフィールド・ユナイテッド ○1-0(A)
最下位を独走するブレイズを相手に、今日も今日とて6バックチャレンジ!なにせ相手SBの裏を取ってポケットに入っても、まだ4枚エリア内にいるのだ。キツすぎる。決勝点も、スターリングが4人を捌いてドリブルで40m進む→デ・ブライネが神業の如きサイドチェンジを繰り出す→ウォーカーが2年に1度しか出ないスーパーミドルを決める、というかなり無茶と幸運の積み重ねで取っていた。点が入らないので批判されているが、この頃のスターリングは見返してみるとキレッキレだ。点は取れないが。
気になった人 エンダ・スティーヴンズ&クリス・バシャム
エンダはアメリカ人オーナーの下でどんどん弱くなっていったときのヴィラが大量に抱えていた選手の一人。名前が可愛くない?バシャムは10年強前にボルトンで出てきたとき、地味に良くて注目してたんですよね。30を過ぎて立派なプレミア戦士になって喜ばしい。まあ今年限りっぽいけど。
リヴァプール △1-1(H)
この2年半、この世の春を謳歌していたリヴァプールも年の暮れからまさかの停滞。プレミアリーグというのは怖いリーグですね。でも素晴らしいことでもある。同じリーグが10連覇みたいになったら、もうそれはラトヴィアリーグじゃないすか。ラトヴィアがいかんとは言わんが。昨日バーンリーに負けたということもあって、「CL圏も危ない」という声すらあるが、まだまだ優勝は射程範囲内だろう。シティも勝ち点9とか8とかひっくり返して優勝したことあるし。
ちなみにこの試合は「選手のレベルは高いんだけど若干拍子抜け」というところ。毎試合サイドブレーキ掛けたまま走っているようなシティに割とあっさりボールを通されるリヴァプールもどうかと思ったし、一方で回すのは良いがさしてチャンスも作れないシティもどうかと思った。一人ひとりは勿論上手いですよ。高いからね。みんな。でもチームとしては「あっ、そんなもんなの?」感があった。両方。
気になった人 チアゴ・アルカンタラ
この試合には出てないが、その後見て衝撃的に上手かったので言及。サッカーが上手すぎる。プレミアリーグでデ・ブライネとヴァン・ダイクの次に良い選手だろう(5番目はもちろんギュンドアンだ)。それが勝ち点につながるかというと微妙なところだが、チアゴくらい上手かったらそんなのどうでも良くなってくる。
トッテナム ●2-0(A)
悪くなかったが、エンドンベレ=ケイン=ソンフンミン打線とは破壊力が違いすぎてカウンターで一蹴された。中盤に強度がない当時のシティに対して、背負って回ってパスが出せるエンドンベレとケインと、ダイレクトで受けてミスをしないホイビェアという組み合わせは相性が悪すぎる。これは今年こそスパーズの優勝があるか?と思って、9月末に仲間内で予想したときも「優勝」にしたのだが、その後・・・。見てないので何が悪いかは判らないが、いつの間にかCL圏外にいる。
気になった人 ピエール=エミール・ホイビェア
10代で抜擢されたときの記憶とか、そのあとセインツに行ったところとかのせいで線の細いお坊ちゃんのイメージがあったが、ゴリゴリにヤンキーだった。自分が倒した選手に(ダイブだろ的に)イキるところは巨人の中島を彷彿とさせた。モウリーニョはどこ行っても、こういう子飼いの武闘派を作るのが上手いね。そしてめちゃ良い選手だった。
バーンリー ○5-0(H)
今日も一日頑張るぞい!って感じだったと思うが、ターコウスキのミスパスを拾われて1点、ウォーカーのセコいスローインでマレズに裏を取られて2点で、前半早々に終戦。バーンリーの戦術は「でかい男が揃いも揃って大騒ぎ」以上には特に無いので、こうなるともうどうしようもなかった。
気になった人 チャーリー・テイラー
何が取り柄かよくわからないが、バーンリーの左サイドバックの座をがっちり握って離さないヨークシャー男。まあ頑丈であることは確かだと思う。
フラム ○2-0(H)
5-2-3で勇気をもって封じに来たパーカー・ボーイズだったが、中盤で引っ掛けられてミドルレンジのカウンターを食らって万事休す。アンギサとロフタス=チークで中盤を突破するというのは、机上の計算としては悪くなかった。アンギサからなかなかボールは取れないし。ちなみにこの辺りで、スターリングと同じかそれ以上くらいに、デ・ブライネもGKとの1vs1が苦手なことが明らかになるのだった。
気になった人 トーシン・アダラバイヨ
もう立派なプレミアリーグのDFだ。5歳からシティにいたバイヨ。将来はシティでキャプテンになりたいんだと言っていたバイヨ。WBAとブラックバーンに場所を借りながら、着実にプロとしてまともになっていったバイヨ。自分の意志で、買戻条項も拒否してシティを出ていったバイヨ。この日はフラムのDF陣随一のパフォーマンスで、守備の中心となっていた(まあ、昔からこいつは負けるときに責任被らない場所にいるのが結構上手いんですが・・・)。フラムのファンがどう思っているか走らないが、この試合ではちょっと感動したのであった。
マンU △0-0(A)
双方腰が引けて引き分け。最後の方のデ・ヘアの時間の使い方には思わず笑ってしまった。こんな双方慎重なダービーはなかなか見たことがない。
さて、この試合とカラバオの準決勝(○2-0)の2試合やってみて、正直ラッシュフォードのオフサイドとブルーノの一発以外には怖さがあんまりなかった。守備もまあ、固いんだけど・・・みたいな。なによりカラバオでの、チームもファンも、「まあ負けますわな・・・」みたいな淡白さにちょっと驚いた。カラバオだからという可能性もあるが。
と思っていたが、リヴァプール戦はかなり強めだった。ポグバで貯めてラッシュフォードでオフサイド。あるいはブルーノに入れてショウがサポートしてクロス。あの位置でポール・シャルナーみたいな仕事させられてるポグバもどうかと思ったが。拮抗した試合だったが、勝ちに近かったのはマンUだと思ったくらい強かったのである。私は「マンUはこの先数年、物の弾みで優勝したりすることもあるけど、基本シティとリヴァプールには距離を開けられてる」と予想していたので、それが外れるかどうか注目している。
気になった人 ルーク・ショウ
今の調子が維持できるなら、世界有数の左サイドバックとすら言っていいのではないか。シティにほしい。
WBA △1-1(H)
低迷中のWBA相手にホームで引き分け。セットプレーで追いつかれ、最後はデ・ブライネに渡してクロス、次にデ・ブライネに渡してクロス、さらにデ・ブライネに渡してクロスと多彩な攻撃を繰り出すシティをGKジョンストンが全部気合で防ぐというすごい試合だった。どっちもアホ。WBAはバートリー、ギブス、リヴァモア、ソウヤーズとセンターラインに体を張れるイギリス人がいるのは頼りになるが、どうやって点を取るかは見えなかったのでさすがにアラダイスでも厳しそうに思える。
気になった人 スラヴェン・ビリッチ&WBA首脳陣
アウェイでシティに引き分けて解任、というかなり斬新な侮辱を思いついたのが偉い。
サウサンプトン ○1-0(A)
怪しいPK疑惑も見逃してもらって、ギリギリの勝利。シティは攻めるときもとかく急いで相手PAに到達するので、全然強いシュートが打てない。ちゃんとセットし直すころには、文字通りゴールに1,2人入ってGKをカバーしているので、かなりの確率でブロックされたり。このエリア内での時間的余裕の無さというのは、シティの割と長年の宿痾で、これまではDFラインとGKの間に入れてダイレクトで叩いていっちょ上がりとしていたが、相手のラインが下がって狭くなるし、ゴールに入るカバーも増えたしでもう全然入らない。これを解決しないとかなりこの先きついと思う。
セインツは、ヴェスターゴーアの右足一発ロングパスでウォルコット先生にチャンス来まくり。多分、長いパス以外にはあんまり攻め手がないチームなのではないかという印象を持ったが、マッカーシー / ヴェスターゴーア / ウォード=プラウズ / イングスを抱えて長距離の殴り合いをするのはロジカルな選択だ。余裕で残留、下手したらELも行けるだろう。
気になった人 ヤニック・ヴェスターゴーア
ありとあらゆる面で北欧っぽさ100%の雷神ヴェスターゴーア。199cmのデカさもいいし、右足一振りでめちゃめちゃフィードが飛ばせるのも良い。もうちょっと若ければ、ヴァン・ダイクのように飛躍したかもしれなかった。ちなみにヴェスターガード(英語読み)と聞くと名作『クリムゾン・タイド』を思い出すのは私だけでしょうか。
ニューカッスル・ユナイテッド 2-0(H)
カンセロ・マヌーバの脅威が世に知れ渡った試合。右サイドバックとインサイドハーフとウイングとシャドーを全部一人でやる(しかも配置変更ではなく流れの中で)、というスゴいことをしていた。でも守備はマジでペラペラ。
あともう一つ変化を挙げておくと、一時期びっくりするほど使われていなかったベルナルド・シルバが、この頃スタメンとしての地位を取り戻した。全員どこでもやらされるシティではあるが、実はウイング=トップ=インサイドハーフを全て同じようにこなせるのはベルナルドだけだったりする。
ニューカッスルはしばらく見ないうちに、かなりキャラが薄いチームになっていた。シセ&バのような看板クリーンナップがいるわけでもなく、キャバイエ・シソコ・ベナルファ率いるフランス傭兵軍団がいるわけでもなく、アンディ・キャロルが昔の杵柄でいるだけという・・・「緊縮財政」の4文字しか浮かんでこない。日本経済をサッカーチームにしたらこんな感じかもしれない。滅茶苦茶言ってごめんなさい。キャロルは相変わらず大きかったが、あまりにも身体が動かなすぎて、こりゃ最初から使うのは無理だなという感じだった。
気になった人 ジョエリントン
ヴィッセル神戸におられた方とは違うんでしたっけ?
チェルシー ○3-1(A)
申し訳ないが、今シーズン一番楽な試合だったと思う。これか、相手のミスで早々にカタがついてしまったバーンリー戦か。最初10分はハイプレスで主導権を握られたが、慣れたらもう。3トップが後ろとも横とも連携せずに個々で突っ込んでくるんだから、前進したい放題よ。そりゃ。今シーズンのシティ相手ならどうせ最終局面で外すからあえて切り合いに行くというのもありだが、チェルシーの前線に破壊力があるわけでもなかった。プリジックのドリブル頼みではいかに相手がカンセロでもちょっと無理。
気になった人 エンゴロ・カンテ&ハキム・ジエシュ
カンテは広大な中盤中央を埋めようと頑張っていたが、何度と無く裏を取られて陥落。スターリングのドリブルにふっとばされる姿は悲しみに満ちていた。
ジエシュ?それはあれですよ、あの、「オランダリーグで活躍したって保障にならない」って私言ってたじゃないですか。何回も。信用するなっつって。ニステルローイとスアレスだけだぞっつって。
ブライトン&ホーヴ・アルビオン ○1-0(H)
なかなか勝ち点が伸びないブライトン相手に先制するも、後半はゴリゴリに押し込まれてかなりきつめにシバかれた。勝てたのは幸運も大きい。ブライトンはこれだけ自力があって、そこそこ点が取れるモペイもいて、本当に良いチームなんだが、グロス、ララーナ、ジャハンバクシュ辺りのアシストが出来そうな連中を入れるとバランスが崩れるんだろうか。
気になった人 ダン・バーン
201cmの左利きのCB/LB。これはね~まだサッカー界にこのジャンルはなかったですよ。ちょっと消化しきれない。しかもこの身体で長所はスタミナがあること。色々斬新すぎる。足が遅めなのも萌えポイント。
クリスタル・パレス ○4-0(H)
クリアなチャンスはほとんど作れてないが、全部セットプレーで4点ゲット。パレスは中盤センターのおじさん3人が明らかにタスク過多で苦しんでおり、頼みのザハもいないのでちょっとどうしようもなかった。残留は余裕だろうが、ザハは流石にそろそろ、ビッグクラブに再挑戦しないのだろうか。
気になった人 ビセンテ・グアイタ
この人、かなり微妙じゃないですか?スタッツも相当悪いし・・・と思っていたら、少なくとも昨シーズンは大活躍で「代表に呼べ」というパレスのファンもいたらしいので、今年調子が悪いか、私に見る目がないかどっちかだろう(多分後者だ)。
アストン・ヴィラ ○2-0(H)
2000年代まではスパーズ、ニューカッスルと並んで第ニ集団を牽引していた名門ヴィラ。プレミア復帰後、かなりソリッドで良いチームを作っていた。長所のウイング2枚(グリーリッシュとトラオレ)を下げずにカウンターで切り合うぞ!6バックにしないぞ!という強い気持ちを感じた。
結果、ポケットに抜けるフォーデンやカンセロからチャンスを作られまくっていたが、最後の答えが出ないのが今のシティなので、ディーン・スミスの賭けはかなりいいところまで行っていたと思う。マッギンとD. ルイスの中盤も強いし、DFラインにはプレミアで一番かっこいい男の一人であるタイロン・ミングスもいるし、GKマルティネスは素晴らしいし、アーセナルやエヴァートンと五分でEL圏を争いそうには見える。選手層は若干きついだろうが。
気になった人 ベルトラン・トラオレ
「トラオレ」という名前のせいで若干得してるところがあって、こっちは別にフィジカルは強くない。アデバヨールをウィングにしたみたいな選手だ。
気になった人2 タイロン・ミングス
数年前から好きでした!付き合ってください!と言ってしまいそうになる。気を抜くと。そう、かっこよすぎる。193cmで左利きのCB/LBというところもかっこいい。パレスのザハ、フラムのロフタス=チークに並ぶ、プレミアのハイエナ系男前。
ボリスタ対談で言いたかったこと、及び欧州サッカーの行く末
- プロの投資家がクラブを欲しがるようになっている
- 彼らは投資リターンを高めるために、欧州サッカーの枠組み自体を変えようとしていく
- アイデンティティが揺らいだ反動で、各クラブの「本物っぽさ」を語るためのストーリーメイキングに金が使われるようになる
- サッカーファンは自分がどっちに行ってほしいか、自分の意見を持っといた方が良いのでは
Footballistaの10月号で、サッカージャーナリストの片野道郎さんと、ミランファンでFFPに詳しいSchumpeter氏と対談をさせて頂いた。雑誌に収録された対談を見直してみると、何を言いたいんだかイマイチよくわからねえなこのおじさんはって感じで、大いに自分の発言を反省したところです。対談って難しいね。Podcastで人気出てる人とかすごいよな。
まあとにかく。この号の発売からこの年末までのわずか数ヶ月の間にも、サッカー界のあり方を揺るがすような出来事がいくつもあった。それらのいずれも、自分が対談のときに言いたかった(けどあんまり面白い感じに伝えられなかった)内容に関連することばかりなのである。ということで、この年末にもう一度、この先欧州サッカーにおいて何が起こりそうなのかについて自分の考えをまとめておきたい。
プロの投資家がクラブを欲しがるようになっている
90年代のイングランド、イタリア、フランスでは、サッカークラブはもっぱら成功したローカルのビジネスマンが持つものだった。2000年代から2010年代になると、アブラモヴィッチやタクシン、ヴィンセント・タン、シーク・マンスールといったストラテジックなオーナーが増えてきた。「ストラテジック」というのは、直接的な金銭以外の見返りを求めている投資家という意味だ。目的は色々あるが、少なくともサッカーそのものから利益を上げることは目的にしていない人たちだ。
そして、2010年代も中盤になると、その「利益を上げること」が目的なオーナー、つまりフィナンシャルな投資家も目立つようになってきた。一番特徴的なのは、プライベートエクイティファンド(PEファンド)やヘッジファンドといった、他人の金を預かって投資している人たちがサッカークラブ、あるいはリーグに投資し始めたことだ。彼らが持っているのは他人の金だから、数年後には一定のリターンを出す必要がある。金儲けにガチなのだ。
具体例を挙げれば、リヨンの株式の20%、ボルドーの株式の100%はそれぞれ別のアメリカのPEファンドが持っている。マンチェスター・シティの親会社であるCFGも、株式の約20%を中国とアメリカのPEファンドが取得している。リヴァプールのFSGは厳密に言えばファンドではないが、ストラテジックといよりはフィナンシャルな投資家だ。
で、この人たちにとってコロナは、サッカークラブやサッカーリーグといった優良アセット(投資対象の資産)が安値で買える大チャンスである。買う側には金が余っていて、買われる側は金に困っているからだ。
そして、スポーツはコロナで打撃を受けた他の産業ほどには、構造的な変化がない。例えば、最近Ocadoとセインズベリー*1のネットスーパーが便利すぎて、私はほとんど近所のテスコに行かなくなった。多分コロナが収束してもそのままだろう。でも感染の心配がなくなれば多分大半の観客はスタジアムに戻る。そういうわけで、世界中のPEファンドが今欧州サッカーに大集合しているのである。*2
まず、セリエAの放映権(の管理会社の株式の一部)が、入札の結果CVCというファンドの手に渡った。セリエはブランドがある割に放映権料がプレミア、ブンデス、リーガと比べて低すぎるという現状があるから、金を入れて色々と手を加えればこの価値が上がって儲かるぜ、というストーリーが描きやすい。
さらに、ブンデスリーガが考えている海外向けのサブスクリプションサービスには20以上のPEファンドが殺到している。
金儲けにガチな人たちが入ってくるようになったというのは、彼らが欧州サッカーをこう見ているということだ。
1) 欧州サッカーは今後、さらに成長する
2) 欧州サッカーは投資リターンを期待できるくらいの規模と安定性がある
3) 一方で、欧州のサッカークラブやリーグのこれまでの運営方法にはまだ改善の余地がある
もう一つの原因は、単に富裕な(といっても、とてつもないレベルの富豪だが)個人のレベルでは、もはや5大リーグが求める量の金を出せなくなってきたことだ。だからもっと懐が深い、機関投資家を頼るしか無い。外資への売却を禁止し続けているドイツも、バイエルンとドルトムント、あと辛うじてシャルケ以外は、もう競争についていけなくなってきている。
彼らは投資リターンを高めるために、欧州サッカーの枠組み自体を変えようとしていく
ガチになったアメリカ人とは戦わないほうがいい、というのは人生のほとんどに通用する真理だ。あいつら遊びとかないから。で、人がガチになるタイミングの1つは金だ。
ところで、普通のビジネスでは利益を高めるために競争戦略があるわけだが、スポーツビジネスにはそれが適用しづらい。かの有名なポーター氏は「戦略とは競争を避けること」と言ったが、スポーツは競争することがビジネスだからだ。国内の競争が激しいので海外のリーグに移籍しますとか、ライバルクラブが強いのでうちはハンドボールで勝負します、とかいうことは出来ない(全社的な戦略としてはなくもないが、少なくともサッカー事業の経営戦略ではない)。じゃあどうするかというと、やっぱり構造に手を入れるのが効く。構造というのは、リーグの構成とか、日程とか、昇降格の条件とか、議決権とか、そういう形式と決まりごとのことだ。
そういうわけで、欧州スーパーリーグや、孫正義とFIFAが主導する新大会の構想が生まれてきた。市場が拡大していると言っても、我々ファンがサッカーに使える時間と金は限られているから、安定して利益を出すためには、市場の中でもっとでかい取り分を安定して取れるようにしたい。欧州スーパーリーグができれば、ファンの注目は「バルセロナvsレクレアティーボ」よりも、「バルセロナvsリヴァプール」に集注するだろう。しかも今のCLと違って、ビッグマッチが毎週ある。CL圏に入れずに100億円の収入を逃す心配もない。ビッグクラブだけの箱庭で、安定的に利益を享受していられるのだ。
もちろんそうなれば、各国リーグの価値は多分落ちる。セリエAの放映権を手に入れたCVCは、「もし欧州スーパーリーグができてしまったら、この契約を破棄して逃げられる」という緊急脱出条項を入れようと躍起になっている。
リヴァプールとマンチェスター・ユナイテッドのオーナーが主導した「プロジェクト・ビッグ・ピクチャー(PBP)」は、資金難の下部リーグに短期的に金を出す代わりにビッグクラブに権力をよこせという提案だったが、これもそういった動きの1つだ。PBPの提案の時点で国内カップ戦とコミュニティシールドの廃止、チーム数の削減が既に入っていたが、ビッグ6が議決権の過半を取れればこのあとも色々とリーグフォーマットの改変ができる。上位クラブだけでプレイオフをしてもいいし、アジアやアメリカで開幕戦をやってもいい。この動きがアブラモヴィッチやADUGからは出てこず、アメリカ人投資家のFSGとグレイザーから出てきたというのはそういうことだ(アブラモヴィッチやADUGにしたところで、話があれば乗っかるだろうが)。
F1では実際にあった。F1は2006年に米ファンドのCVCが9.5億ドルで買収したが、その後はF1を開催したがっている非伝統国(アゼルバイジャン、インド、韓国)に開催権を売ったり、レースの開催数を増やしたり、放映権料の配分を変えたりした。CVCは10年後に約7倍の67億ドルで売却に成功した。IRRが21%だから、そんなに悪くない儲けだ。
何が言いたいかというと、今後増えていくはずのオーナーや投資家は、リターンを確保するために、これまで我々が当然だと思ってきたフォーマットを変えるだろうということだ。例えば、
- 各国のリーグがあって、独立したクラブが各リーグに所属している。
- リーグの中で上位数チームに入ればCLに出る。
- CLの下にはELがある。
- 自国のリーグで下位に沈むと降格の危険がある。
- チケットの値段はこれくらい。
- 2年に1回W杯かEURO。
- コパとアジアカップとネーションズカップはその間にちょこちょこ。
- クラブワールドカップもある(誰も見てないけど)。
そういうものが全部変わって、例えば欧州トップの12クラブだけで行うスーパーリーグが出来るかも知れないし、4部以下のクラブはノンプロ化するかも知れない。待て待て、大体試合が90分じゃないとダメって誰が決めたんだっけ?みたいな。
リーグの枠組みに比べると比較的どうでもいい領域かもしれないが、例えば今シティがやっているような「複数クラブのネットワークを複数のリーグにまたがって広げる」という手法、あれが流行りそうな気配がある。例えばリヴァプールを所有しているFSGも、欧州で別のクラブを買おうとしているという噂がある。理屈としては当然で、違うリーグに色々持っておくほうが便利なのだ。例えば最近禁止されたローン規制も、最初から姉妹クラブに獲得させれば回避できる。
アイデンティティが揺らいだ反動で、各クラブの「本物っぽさ」を語るためのストーリーメイキングに金が使われるようになる
もともと欧州のサッカークラブは、その土地の文脈に強く影響を受けている。でも海外にファンが増えて、かつ投資家が金銭的なリターンを求めるようになると、海外ファンを意識した意思決定が増えていき、その土地固有の文脈からは切り離されていく。
いい例だなと思ったのが、リヴァプールのチケット値上げ問題。街としてのリヴァプールは、欧州でも有数の左翼の都市だ。1971年以降保守党が勝ったことはない。サッカークラブとしてのリヴァプールも、サッカー界でも最も労働者寄りの、社会主義的なクラブだと言われている。
だからチケット値上げとか、PBPとか、そういう件には地元のファンはしっかり抗議している。労働者のクラブというアイデンティティを損なうからだ。でも海外のファンの中には、ぶっちゃけどうでもいいという人も多いだろう。クラブとしてのリヴァプールに思い入れはあっても、都市としてのリヴァプールに思い入れがあるとは限らない。こういう風に、アイデンティティを自ら弱めるような動きを取るクラブは増えていくだろう。一方で、アイデンティティや歴史はファンを増やすのに役に立つ。だから、そのギャップを埋め、「本物っぽさ」を醸し出すためのマーケティングに投じられる金は増えていくだろうと思う。
もちろんこういうのはリヴァプールに限った話ではなく、例えばマンチェスター・シティは世界中にバコバコ姉妹クラブを作っておきながら、「本物の地元民が応援するのはシティ」みたいなストーリーも同時に追求しようとしているように見える。Oasisのノエルは「地元のやつばっかり応援に来て弱いより、日本人とアラブ人だらけで強い方がいいだろ」と言っていたが、もし弱くなって金もなくなったときには地元のファン基盤が弱まっていたなんてことになる可能性もある。
サッカーファンは自分がどっちに行ってほしいか、自分の意見を持っといた方が良いのでは
ファン1人1人には影響力もないし、議決権も(大体の場合は)ない。それでも、自分が好きなクラブは、そのクラブがいるリーグは、そのリーグがある地域のサッカーはどういう方向に行ってほしいのか、少なくとも自分の中では考えておいた方が良いと思う。それ無しにただ批評家的なポジションを取るのはダサいから。
「自分に決定権ないし、どうなっても〇〇〇を応援する」というのも、それはそれで立派な1つの意見だ。そもそも我々の大半は本国から遠く離れたアジアのファンで、その時点で当事者性をかなり失っているわけだし。それは別に、それでいい。
ちなみに自分はと言うと。欧州スーパーリーグのような偽善者な戯言は早く潰れてほしいと思っているが、発足してしまった場合は、残念ながら、マンチェスター・シティにもそこに参加してほしいと言わざるを得ない。自分が好きなクラブが取り残されるのも嫌だからである。自分でもわがままだと思うが、それが偽らざる心境だ。
そして、海外サッカーを扱う雑誌やジャーナリストに追求してほしいのは、当事者の声である。買うクラブと買われるクラブのオーナーやCEO。リーグ改革案に賛成票を投じた中堅クラブのオーナー。放映権を買った投資ファンドのマネージャー。そういう当事者に、「なぜ?」を聞いてほしいのだ。こたつで書いた記事ではやはり表面しか判らない。我々はリアルなものに金を払いたい。そういうわけで、ジャーナリストと編集者の皆さんには、一つ宜しくおねがいします。
*1:どっちもイギリスのスーパー
*2:この他にも、サッカーを含むスポーツがPEファンドの投資先として人気が高まっている構造的な原因はいくつかあるが、詳細はこの記事を参照されたい The new playbook: How private equity fell in love with sport | Private Equity International
最近のシティのダメだこりゃ感について
今日はマンチェスター・シティが今どういう状態なのか、そこそこ弱くなってしまったのはどうしてなのかということについて話をしたいと思います。
問題と言っても、ピッチ内の話です。私は普段、ピッチ内の話については語る気があまりないのですが、先日『サムライブルーの勝利と敗北』の著者である五百蔵 容さんのYoutubeにてシティvsリヴァプールの試合が取り上げられまして、その際にシティの現状について色々とお喋りをしたので、せっかくなのでそれをまとめておこうと思います。
シティvsリヴァプール、試合観ながら分析配信終了しました。お越し戴いた方有り難うございます!
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2020年11月10日
アーカイヴ残りますので、DAZN配信終了迄お楽しみ戴けると思います。LIVEで前半20分迄観た時は(凡戦になるかな)と思ったのですが、フルで観るとやはり見応えありました。https://t.co/ixoYqeeInN
さて、マンシティは2016/17シーズンからペップ・グアルディオラが指揮しています。2017/18シーズンと2018/19シーズンの2年間、シティは国内でバチボコに勝っていました。どのくらい勝ったかというと、こんな感じでした。
- 国内の計6タイトルのうち5つ優勝
- 勝ち点は最初の年に100、次に98
- 勝ち点100到達は史上初
- 得点は106点、95点( 1試合当たりの平均得点はそれぞれ2.8点と2.5点)
- ニコニコ動画に「エティハド大虐殺シリーズ」というタグが出来る
勝ち方もえげつなくて、相手がちょっと気を抜くと、6点とか7点とか平気で入っていました。雪が降るような最悪の天気の冬の日にアーセナルを0-3で降して、スタンドのアーセナルファンが全員「俺なんでこんな日にこんなとこ来てんの?」みたいな感じになって、エミレーツの雰囲気がめっちゃ最悪になってしまったこともありました。
しかし、昨季から成績は低下し始め、結局リヴァプールに大差をつけられて2位になりました。今シーズンも開幕3試合を消化してすでに3分け1敗の10位ですから、もはや一時期の強さは消えてしまったと言えます。
今のシティを簡単に説明すると、こういう状態です。
- プレスがあんまりかからない
- チャンスが作れない
- 個人技でゴリ押し
現在の症状
プレスがあんまりかからない
相手の組み立てを阻止できません。割と前線から中盤がすっ通しで、簡単にゴール前まで運ばれてしまいます。とくにボールを失ったときに顕著で、今シーズンの最初期は、ボールを失う→サイドチェンジだけでほぼ確実にゴール前まで運ばれる、という状況になっていました。昨年夏に横浜F・マリノスと対戦したときも、度々危ない場面を作られていました。相手がフリーでDFラインに向かって突進してくるわけですから、良いフォワード(例:レスターのヴァーディ、ノリッジのプッキ)がいるチームの場合、何回か繰り返しているうちにまず間違いなく失点します。
チャンスが作れない
過去3シーズンのシティのxG(ゴール期待値)は93.15、95.04、103.87でした。1シーズンは38試合なので、1試合平均2.5から2.7点は入りそうなチャンスがあったということです。一方今シーズンは、7試合やって10.85ですから、1.6点しかありません。1試合に1回強しか決定機を作れていないということですから、引き分けや負けが増えるのも無理はありません。
カウンターができない
一時期に比べると本当にカウンターができなくなりました。できなくなったと言うか、めちゃんこ遅くなりました。結果として、後ろでぐるぐる回して、最終的にはデ・ブライネが何とかするという感じです。
個人技でゴリ押し
上に書いた「送りバントで二塁に送ってデ・ブライネ」とも重複しますが、中々崩せなくなってきたため、デ・ブライネの超人的なクロスだったり、スターリングのドリブル突破だったり、ウォーカーのミドルだったり、個人技で無理やり点をもぎ取る場面が増えました。一人ひとりは良い選手が揃っているのでそこそこ点は取れますが、ロジカルに崩しているわけではないので、点が取れるか取れないかはかなり時の運です。
在りし日のシティ
では逆に、2017年から2019年の、全盛期のグアルディオラ・シティはどうだったのかというと、こんな感じでした。
即時奪還ができた
グアルディオラのチームは基本的に引いて守りませんし、守れません。よってどうするかというと、ボールを失った瞬間に猛烈にプレスをかけてボールを奪い返したがります。かつてはこれがよくハマっており、相手を敵陣に閉じ込めて延々とハーフコートゲームができました。
高速カウンターがあった
グアルディオラのシティは実はカウンターが上手いチームでした。前述した即時奪還のあと、デ・ブライネやシルバからのスルーパスにザネーやスターリングが走り、逆サイドに折り返して一丁上がり、というパターンで多数の得点が生まれていました。
(参考までに、いくつか得点シーンを抜粋しておきます)
延々と二択デスゲームができた
相手にボールを持たれさえしなければ、グアルディオラのシティは異様に複雑なことができました。複雑というのは、相手の守り方や時間帯、点差によって、「誰がどこにいるか」「誰がどんな役割をこなすか」をグルグル変えながら、どこかが崩れるまで、手を変え品を変えて攻撃ができたということです。
相手からしてみると、前からプレスに行くとバイタルエリアにパスを通され、
ラインを揃えて守ってるとハーフスペースの裏に走られ、
じゃあといって5バックで引いてると大外をゴリ押しされ
マンツーでプレスに行ってみたらゴールキックで裏抜けされて
という風に手札が多かったので、どっちを守るかの二択を延々迫られて間違えたら死ぬ、という結構きちぃ感じのゲームになっていました。
繰り返しになりますが、今はどれもかつてのようにはできません。どこのTV局だったか、多分BTだったと思いますが、コメンテーターが「今のシティは、シティのトリビュートバンドみたいですね」と言っていました。言い得て妙です。
なぜこうなった?
さて、なぜシティは一時期の競争力を失ってしまったのでしょうか。プレミアは他の国のリーグより拮抗しているので、2017年の暮れくらいにはシティ対策法が色々編み出されていました。ここで詳細に触れることは避けますが、一言でまとめてしまえば、そうした対策側の進化と、シティ側の進化が競い合う中で、3年経って対策側が上回るようになってきたということなのですが、1点、非常に不可解なことがあります。
「なぜ4-2-3-1なんだハゲ」問題
それまでの4-3-3に代わって昨シーズン開幕から導入している4-2-3-1ですが、素人目に見ても結構きちぃところがあります。プレスが全然かからないのです。
ボールを引っ掛けるのが抜群に上手いデ・ブライネはインサイドハーフから一列上がり、ほとんどFWの位置で守備をするようになりました。いかに守備が上手くとも、このエリアでボールを引っ掛けるのは困難です。追う対象が広すぎます。加えてダブルボランチはさして機動力がないロドリとギュンドアンなので、ボランチが前に出て捕まえる事もできません。その割にウィングは前プレ志向なので前に出ています。よってどうなるかというと、ボールを奪われたときに奪還できず、ゴール前まですっ通しで運ばれてしまうわけです。
後ろで守れないチームなのに、なんでわざわざ後ろ重心の4-2-3-1を使い続け、しかも修正も特にしないのか、という点は不可解ですが、考えられる要因はいくつかあります。
仮説①)ロドリが遅すぎる
このスペイン人ピボーテは、まあシティとバイエルンが高値をつけただけあって良い選手なのですが、いかんせんアンカーとしては俊敏さに欠けます。遅いのです。
4-2-3-1になって拍車がかかりましたが、4-3-3時代にも前プレがかからない問題は発生しており、その一因はロドリがいろんな局面に間に合わないということにありました。結果として、前プレかからない問題にはより加速してしまったものの、ギュンドアンを隣に置いて保険をかけるという選択に至ったように思えます(さしてかかってませんが)。
仮説②)DFラインが相手FWに勝てない
今のシティは「ボールを保持し続けるか、失ってもすぐ奪回する」という特殊な仮定の上で成り立っているチームです。よって、相手のFWにロングボールを収められてしまうと非常に面倒なことになります。しかし、2019/20シーズンはコンパニの退団と残った選手の怪我で、CBがフェルナンジーニョ+誰か、という運用にならざるを得ませんでした。フェルナンジーニョというのは、ボランチが本職のおじさんです。身長が180cmあるかないかみたいな非本職の人間で、プレミアリーグのFWを抑えるのは辛いものがあります。よって、長いボールを押し返せないため、ボランチの人数を増やして面倒を見させるという方向になったのではないかと想定されます。
仮説③)ダビ・シルバの代わりがいない
2010年代のプレミアにひっそりと君臨した男、ダビ・シルバは2019/20シーズンをもってシティを去りました。
シルバはパスは出せるしキープは出来るし、スペースには走れるし、プレスは上手いし頭はいいし、おまけに逸物は大きいと、話がぜんぜん面白くない以外には非の打ち所がない、素晴らしい選手でした。前述したようにシティが異様に複雑なサッカーができたのも、並の選手の10倍くらい複雑なことができるシルバがいてこそと言えます。そのシルバがいなくなったことで、グアルディオラ的には「デ・ブライネと誰かを並べるより、デ・ブライネが最大限ゴールに近いところにおる方がええ」と思ったのかもしれません。
仮説④)相手が単純に慣れた
①から③が一つも当てはまらない試合でも、症状が出ている試合もあります。この現象については、単純に相手が慣れた面もありそうです。ビッグ6と他のクラブの格差は確かに大きいのですが、他のリーグの同じ順位のクラブと比べると、プレミアのクラブは遥かに金持ちなので、それなりに代表選手も揃えられますし、監督やコーチにも投資できます。そんなチームが3年も与えられれば、ある程度対応策が生み出されてしまうものです。加えて、今のシティはカウンターと即時奪還プレスが無いという縛りプレイです。
解決できるのか
要因仮説を①から④まで並べるというのは、問題解決の手法としてはへっぽこもいいところなのですが、そこには一旦目を瞑ります。
さて、①から④は解決できるのでしょうか。②はルベン・ディアスが加入し、ラポルトが戻ってきたので大分いい感じになりつつあります。左サイドバックには相変わらず適任者がいませんが。
③はグアルディオラがなぜベルナルドを信用しないのかよくわからないのですが、ベルナルドかフォーデンを素直に使ってほしいところではあります。ただし、ダビ・シルバの穴を埋め切るのは難しいだろうとは思います。
①が結構辛いところで、現在のチームでアンカーが務まるのは、遅いロドリか、これまた遅いギュンドアンか、35になってさすがにきつくなってきたフェルナンジーニョのどれかです。誰を出しても大差ないと言う気がします。
ちなみにロドリは、ジョルジーニョ(現チェルシー)、デ・ヨン(現バルサ)を逃した末に手に入れた選手ですが、仮にどちらかが買えていてもロドリと似たようなものな気がするので、グアルディオラの好みがちょっとおかしい気がします。昔500zooさんが呟いていましたが、現ナポリのバカヨコがシティで魔改造されていたら、ワンチャン面白かったかもしれません。
オワタ。グアルディオラの采配が当たった最後のが決まってればというマンC。しかしグアルディオラの要求に応えられるアンカーで歳食ってない選手ってマーケットにいるのかな?モナコのバカヨコはいい感じだったが
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2017年3月19日
「ファーストタッチ下手すぎ人間」として有名になってしまったバカヨコですが、あのパワーとリーチの長さは魅力的です。エヴァンゲリオンみたいな体型しているところもとてもたまりません。
検証したい。したくない?
ここから復活はあるのか、というと、グアルディオラにはちょっと引き出しがなさそうな気がしますが、まあそれは仕方のないことです。諸行無常、万物は流転するローリングストーンズです。
しかし、近年稀に見る支配を(1シーズン強とは言え)築いたチームがどうやって競争力を失うのか、という話として考えると、その裏には一般化できる法則がありそうな気がします。
ジャーナリストの方には、ぜひグアルディオラが「見え見え(に見える)問題をあえて放っておくに至ったトレードオフは何なのか」について聞いていただきたいところです。まあThe Athleticのサム・リーにDMして頼むのが一番早いとは思いますが。
戦術クラスタの方には、2年前と今で、シティと相手チームがそれぞれどう変わったのか、分析してみて頂きたいところです。今強いリヴァプールもきっとこうなるし、その次に出てくるチームもそうなるでしょう。それはなぜなのか、一般化出来る法則はあるのかというところが気になります。
プレミアリーグで経営が上手いのはどこなのか(中)
前回のまとめ
wegottadigitupsomehow.hatenablog.com
- サッカークラブの経営に関する指標の一つとして、順位に加えて、総資産当たりの勝ち点つーのはあるんじゃないですかね
- ビッグ6以外のクラブが6位以上に入るケースはどんどんレアになってきてますね
- 今から差を縮めることはできるんでしたっけ
- 一旦サッカー面だけ見てみると、「投じた人件費に対して得られた勝ち点」ではビッグ6みんなどんぐりの背比べですね。トッテナムを除いて
なぜトッテナムは奇跡を起こせたのか?
問題は、なぜトッテナムはそんなことができたのか、そしてそれを模倣することはできるのか、ということだ。すでに人が言っていることを得意げにまとめてみても仕方ないが、可能性をリストアップしてみる。
- 予測される原因①:選定・交渉が上手い人間がいる、または組織として上手い
ほぼ毎シーズン、獲得したうちの誰かは当たっている。でもなんで上手なのかはわからん。すまん。わからんわ。いきなりトートロジーっぽくて申し訳ないが。わからんが、トッテナムは2000年代からずっと、英国系を中心に若手を獲得するというトライアンドエラーを繰り返してきた。その蓄積かもしれない。ただし、これは人の引き抜きや模倣でそのうち追いつかれてしまう部分だ。
- 予測される原因②:耐用年数が長い資産を揃えて減価償却負担を下げつつ、リセールバリューを高める
要するに若い選手を買って長く使っている。契約年数が長くなれば単年の償却費負担は小さくなるし、若い段階から使えば、契約が更新できなくても売るときに高く売りやすいから、次の選手も買いやすい。そうでない例を挙げてみると、例えばマン・シティは基本的にブレイクしきった段階で買って30過ぎまで使い切ることが多いから単年の負担も高いし、売る頃にはすっかりベテランなので売っても二束三文だ。
- 予測される原因③:成績連動ボーナスの比重を高くして給料を抑えている
これはもう予測というか事実で、スパーズは売上高に対して偶発債務(条件を満たすと発動する負債)がめちゃでかい。タイトル取ったときのボーナスの比重を高くする代わりに、人件費を抑えているのだ。
- 予測される原因④:安いうちに長期契約を結んで高い移籍金設定で縛ることで人件費の値上がりを防いでいる
ケインの例のように、契約解除金を設定しないか、しても相当高めにしておくことで、引き抜かれるのを極力防ぐ。選手の入れ替えがあるとそれだけボラティリティが高まるし、費用上もなるべく長く在籍してもらったほうが旨味がでる。
- 予測される原因⑤:高値で売れる時期を見つけるのが上手い人間がいる、または組織として上手い
分母を大きくしようと思うと、高値で売却できることも大事だ。2010年代のスパーズは、この見極めもうまかった。モドリッチ、ベイル、ウォーカーはわかり易い例だが、カーディフからコウルカーに900万ユーロ出させるとか、トロントから(トロントから!)デフォーに730万ユーロ出させるとか、ケヴィン・ヴィマーとベンタレブで合わせて4,000万ユーロ近く稼ぐとか、そういう細かいところがうまかったのだ。さっき書いたように、若い選手が多いから価格が上がりやすいというのは大きいだろうが、デフォーまでそこそこで売れるのはよくわからない。売り先に対する分析が細かくて、提案営業ができていたのかもしれない。
- 予測される原因⑥:ロンドンライフ
④で長期契約を結んだとはいえ、選手からは不満も出てくる。なにせ右を見ても左を見ても、隣の芝は青いのだ。半分冗談ではあるが、そういうときに、ロンドンにあるというのは割と有利に働くのではないだろうか。少なくとも、リヴァプールやマンチェスター、バーミンガムにあるクラブと比較したら、給料以上のものが提供できると思われる。
なぜポイント収益性は下がってしまうのか
でもこのやり方、選手がいつまでも低待遇で我慢する秘密があるか、魔法が解ける前に収入規模で他の5クラブに追いつくかどっちかしないと、どっかで維持できなくなる。そして実際そうなった。
まず、人件費が爆増した。まだ業界トップのマンU、シティ、リヴァプールなどと比べると低い水準にあるが、売上と違って給与は一度上がると下がらないから、成績が下がればすぐ苦しくなる。
ケイン、ソン・フンミン、アリの給与は契約更改で上がってしまった(それでも後者二人の給料はびっくりするくらい安いが。スパーズ以外のビッグ6ならどこで1.5倍はもらえるだろう)。エンドンベレは初っ端から週給20万の大盤振る舞いだ。2018年には「給料が安すぎる」といってダニー・ローズが反乱を起こしていたが、多分ケインやその他の選手も、クラブとは緊張関係にあっただろう。今もあるかもしれない。
また、さっき挙げた5つのうち、⑥以外は全部、維持できる期間に限りがある。維持できなくなるとどうなるかというと、エリクセンのように普通に契約を消化されて、無料か安値で放出しなければならなくなる。エリクセン、ヴェルトンゲン、ワニャマ、ジョレンテ、デンベレといった辺りからは売却益があまり取れていない。スパーズはもともと総収入に占める選手売却益の比重が高い。つまり売る方にも結構依存していて、ずっと歯車を回し続けるのはやはり難しいのだ。
また、いかに人件費が勝ち点との相関が強いといっても、説明力は(たしか)0.5から0.6程度しかないから、成績の変動は他の要素でも簡単に起こりうる。また、金を積むと良い人材が取れるというのは市場が効率的であることを前提としているが、例えば監督やコーチについての市場は選手のそれよりも遥かに非効率だろうから、ハズレを引いてしまう可能性も高い。何が言いたいかというと、上で書いたのは全部、「比較的安価に、有能と想定される人材を取り揃え続けるための術」だから、実行できたところで勝ちを保証してくれるわけではないということだ。まあ、コーポレートサイドができることとしてはそんなもんなんじゃないかという気がするが。
綱渡りを余儀なくされる中堅勢
話が長くなったが、人材関連投資に対するポイント収益性において、スパーズという例は確かにある。でもそれをずっと維持し続けるのは難しく、2010年代のスパーズはそれこそ奇跡的なアウトパフォーマンスだった。
じゃあそれが真似できんのか?と期待したいところだが、中堅勢力自身のポイント収益性もすごい勢いで下がっているのである。
例えばエヴァートン。2017年以降の人件費の伸びは凄まじい。ベルナルジ、ミナ、ゴメス、ピックフォード、シグルズソンといった辺りは移籍金も高かったが給料のインパクトも大きい。その結果、売上高人件費率は100%を超えてしまった。こんな水準は何年も維持できない。かなり危ない橋を突っ走っているのだ。
この投資を支えるためにオーナーのモシリから3億ポンドの貸付がブチ込まれているが、そこから売上を生み出すのは簡単ではない。優れた人材を雇えばいいと言っても、それもまた金がかかる。しかも、他の19のクラブも(何なら他のリーグも)みんな同じことを考えているのだ。レスターやセインツ、ウェストハムも同様で、それぞれ収入の7割から8割を人件費に充ててかなり危ない橋を渡っているが、勝ち点は思うように伸びない。つまり、サッカー面で上手くやり続けること(だけ)でビッグクラブに成長するというのは、実際問題かなり難しいのだ。
サステナブルに強くなるには
勝ち点の収益性が一定の水準に収束すると想定すると、資産回転率を高めていかなければならない。でないと、赤字こきまくってしまうからである。オーナーが金を入れ続ければキャッシュフローは回るが、FFPに引っかかってしまう。だから売上を大きくしなければならない。
じゃあどうやって売上を大きくしていくねんというと、大まかには4つやり方がある。
- 選手に投資する→勝ち点→放映権料
- スタジアム等の設備に投資する→入場料
- 設備・人材・ネットワークに投資する→育成・獲得した選手の売却益
- 営業・マーケティングに費用を投じる→スポンサー収入
つまり、選手、スタッフ、スタジアム、練習場といった資産に投資する必要がある。
エヴァートンの資金の使い途(2019年時点)を2016年時点のシティと比べてみると、固定資産への投資が小さいのが分かる。
買収後にスタジアムの拡張工事、トレーニングコンプレックスの建設などインフラを整備したシティと比べると、エヴァートンはまだ投資先がサッカー面にとどまっているが、収入を増やそうと思うと、遅かれ早かれスタジアムやトレーニング施設に手を付けることになる。グディソン・パークはエティハド・スタジアムと比べると小さく、1試合あたりの平均観客数は約1万人も少ない。この間、5億ポンドで新しいスタジアムを建てる計画が通ったのは、このハンデを克服するためだ。
スポンサーシップ収入はどうだろうか。エヴァートンもこの10年で3倍まで増やしているが、上位クラブがそれ以上の勢いでスポンサー契約を増やしていくので、差は開く傾向にある。市場がグローバルに広がれば、人気があるクラブほど海外でスポンサーを見つけやすくなる。倍々ゲームだ(つらい)。
シティは、オーナーと関係が深い会社(エティハド航空、エティサラート、アーバルなど)からの契約を積み重ねて滑走路を作り、次に、営業チームを強化してグローバルにスポンサーを獲得していった。その強化も、イングランドだけでなく、アメリカ、日本、中国、南米、インドと各大陸に統括会社を置き、姉妹クラブを作ることで、世界で同時多発的に露出できますという形にした。
あるいは、トッテナムが北米でやったように、比較的手がついておらず、先行者優位が取れそうな地域に重点的に営業をかけるという手もある。スパーズは2010年代の前半から北米市場を重点的に攻めており、そのために招聘したグローバルパートナーシップのヘッドを結果が出ないので1年で解任したり、結構アグレッシブな人事をしていた。現在、アメリカにあるファンクラブの数ではトッテナムはプレミア最多だ。
ただしこれも、よほど空白地帯があるのでない限り、その国出身の選手がいるとか(例えばフリーデル、デンプシー、イェドリン)、オーナー企業がその国の会社だとか(例えばレスターとタイ)、あるいは極端な話その国にチームがあるとか(例えばCFGの姉妹クラブ)、特別な条件がないと一旦シェアを得ても長期的に維持するのは難しいように思われる。一般的なビジネスと違って、スポーツで競争を避けるというのはかなり難しい。
いずれにせよ、すでにリソースを持っている上位クラブに挑戦しよう、追いつこうと思うと、どうしても先行投資が必要になる。シェイク・マンスールやアブラモヴィッチがこれまで10億ポンドも突っ込んできたのも、それだけ積んで初めて、ビッグクラブとまともに優勝を争い、リーグにおいて優位に立てる、ということの裏返しでもある。それくらい、人気、ブランド、戦力、組織のあらゆる面で、伝統的なビッグクラブが積み上げてきたものは大きいということだ。まあミランみたいに自分からボロボロ取り崩していくところもあるが。
今シーズンはこれまでのところ、ビッグクラブとその他の成績が割と拮抗しているが、やっぱり不確実性はスポーツ観戦の醍醐味なので、道のりは厳しいが、エヴァートン、レスター、ニューカッスル、ウェストハムといった中堅どころには頑張ってほしいところ。多分、本気で追いつこうと思えば、かなり高い確率でFFPのVA(一定期間の赤字許容ルール)を使うことになるのではないだろうか。
次回、ビッグ6の10年史とこれから編に続く。