『プレミアリーグ完全ガイド』を読んだら過去のキワモノチームたちの記憶が蘇ってきた件
献本してもらいました。
予測不能の プレミアリーグ 完全ガイド (エルゴラッソ) | 内藤 秀明, サッカー新聞エル・ゴラッソ編集部 |本 | 通販 | Amazon
一番共感したのは、あとがきのこの部分。
ただ何回もプレミアパブの会員の皆さんに壁打ちをさせてもらって「結局、〇〇のクラブの今の魅力って何なんでしたっけ?」「散々語られてきてるなかで、僕たちが面白いとしている部分ってどこでしたっけ?」なんて議論を重ねながら書き進めていったわけなのですが
そうなんですよ。プレミアは20チームのいずれにも愛すべきポイントがあり、そしてそれが見つけやすい(あと英語圏だから継続的にアクセスしやすい)。サッカー観戦がグローバルに広がれば広がるほど、ビッグクラブとその他の差は広がってしまう。最近では欧州スーパーリーグという、「もうビッグクラブ以外全部2部で良いでしょ!w」的な提案をする奴も出てきているが、ビッグクラブ以外にも、面白いチームは山ほどあった。というか、ビッグクラブ以外こそ面白いのである。この本を読んでいると、ラブリーさが溢れていた過去の記憶が蘇ってくる。
例えば03年から05年のエヴァートン。
まずもう、ダブルボランチのビジュアル的存在感がすごかった。ジンチェンコとデブライネでダブルデブライネとか言ってる場合ではない。
例えば04-05シーズンのボルトン。世界のロングボール史に燦然と輝くこのチームは、とにかくどさくさ紛れで点を取ることがべらぼうに上手かった。
これとか
これとか
あるいはこれとかな。
しかもそれをやらせたメンバーが凄かった。凄かったと言うか、キワかった。
レアル・マドリーで野次られすぎて鬱になった男、イバン・カンポ。
イングランドで一旗揚げたいガチムチチュニジアレスリング、ラディ・ジャイディ。
リヴァプールが扱いきれなくて追い出されたセネガルの火薬庫、ディウフ
レアルのキャプテンとしてCL優勝3回、もうキャリアでやること1つもなし!の余生過ごしおじさんフェルナンド・イエロ
上手すぎて何でボルトンにいるのか誰もわからんジェイ=ジェイ・オコチャ
若いときに「シアラー二世」の看板が壮大にコケたあと、FWから尻相撲取りにクラスチェンジしたケヴィン・デイヴィス
レスターが優勝したときに「雑草軍団」という評があったが、あっちが雑草軍団ならこっちはアストロ球団であった。
あるいは08-09シーズンのWBA。
最終的には降格してしまったが、このシーズンのWBAはとにかく「丁寧」であった。4-1-4-1のフォーメーションで、アンカーには後にセリエAのベストイレブンにも輝くボルハ・バレロ。インサイドには交通整理マンのジョナサン・グリーニングと、スロヴァキアのダビ・シルバことロベルト・コレン。これに点は取れないがポストプレーは上手いFWのロマン・ベドナーシュが絡んで、とにかく丁寧に丁寧に崩す。
さっきも書いたように結局降格したのだが、なんか見てると爽やかな気分になるチームだったと思う。未来があるな、みたいな。実際あって、監督だったトニー・モウブレーは現在ブラックバーンを指揮しているが、今やブラックバーンは丁寧なサッカーが身につくチームとして、チェルシー、リヴァプール、シティなどから若手のレンタル先として人気がある。
(まあ、この記事はThe Athleticの記事をそのまんまコピーし過ぎで、ボリスタの記事として出すのはどうかとは思ったが)
あるいは、09-10シーズンのブラックプール。
ブラックプールは、持ってる戦力とやりたいことの差がプレミア史上最も激しかったチームの1つであった。1人を除いてどう見ても2部の中堅レベルのメンバーで、むちゃんこ攻めたのである。
ボールを持ったら前に7人。後にリヴァプールでもプレイしたチャーリー・アダムが繰り出すタッチダウンパスめがけて走る3トップ。突っ込むMF。がら空きの後ろ。リヴァプール、アーセナル、シティといった強豪を苦しめたブラックプールは、ハチャメチャに失点を重ねて降格した。
あとブラックプールは、監督のたとえ話力が高かった。
例えばグアルディオラなりモウリーニョなりが、ギリギリ勝った試合を「紳士的な例えで言うと、ナンパ行って、最高とは言えないけどまあとりあえずタクシー乗せてお持ち帰りはできましたと。あっ、でも明かりの下で見たらあんまり可愛くねーな、ってなって、じゃあ送って帰ろうかなって思ったら、向こうめっちゃ乗り気で、コーヒーでも飲んでく?って言われちゃって、どうすんべみたいな感じかな」とか言ってくれるだろうか?絶対言ってくれないでしょう。
話が長くなったが。プレミアを見ていると、そういう愛すべきチーム、愛すべきシーズンが見つかる。そのためにはまず全体像を掴めていると役に立つ。昔はそれがコージー東元先生のテッキトーなコラムだった(若い子は知らなくて良いが)。今はこんなにしっかりした本があるのである。
ということで、『プレミア完全ガイド』おすすめです。ちなみに内容はこのブログより相当ちゃんと書いてあるので、お前のキワチームは自分で見つけろよな。
予測不能の プレミアリーグ 完全ガイド (エルゴラッソ) | 内藤 秀明, サッカー新聞エル・ゴラッソ編集部 |本 | 通販 | Amazon
プレミアが一周したので全チームの感想を言おう
- ウォルヴァーハンプトン ○3-1(A)
- レスター・シティ ●2-5(H)
- リーズ・ユナイテッド △1-1(A)
- アーセナル ○1-0(H)
- ウェストハム・ユナイテッド △1-1(A)
- シェフィールド・ユナイテッド ○1-0(A)
- リヴァプール △1-1(H)
- トッテナム ●2-0(A)
- バーンリー ○5-0(H)
- フラム ○2-0(H)
- マンU △0-0(A)
- WBA △1-1(H)
- サウサンプトン ○1-0(A)
- ニューカッスル・ユナイテッド 2-0(H)
- チェルシー ○3-1(A)
- ブライトン&ホーヴ・アルビオン ○1-0(H)
- クリスタル・パレス ○4-0(H)
- アストン・ヴィラ ○2-0(H)
ウォルヴァーハンプトン ○3-1(A)
ジョルジュ・メンデスのフロント企業みたいになったウォルヴァーハンプトンとの対戦で開幕。ロドリとフェルナンジーニョのダブルボランチを底にした4-2-3-1で望んだ。かなり苦戦したが、ウォルヴァーハンプトンのDF陣、とくにハーフバックのサイスとボリーがかなり雑にポケット裏抜けに対応していたので何とかなった。ちなみに私が昨年はまっていたマッスルミュージカルは、なんでこんな男に夢中だったんだろう・・・と思うくらい魅力がなくなっていた。ううん、ごめんなさい。あたしが悪いの。忘れて。
アダマ・トラオレ、絶対にシティに来て欲しい。戦術的にどうこうだとかは一切関係なく、ただ私が素っ頓狂なプレースタイルの選手が好きすぎるから
— sake (@szakekovci) 2020年3月23日
気になった人 ダニエル・ポデンセ
う、うまい・・・。裏抜けも出来るし、ドリブルも上手いし、アーリークロスの精度も高い。まあ経歴を見る限り点が取れるタイプじゃないんだろうが(昔のオリヴァー・ノイヴィルみたいな感じだ)、ヒメネスのような良いストライカーと組ませると怖い。
レスター・シティ ●2-5(H)
5-4-1から繰り出されるカウンターに全く対応できずボコボコに。4-2-3-1ではMFラインで歯止めがかからずDFラインが裸にされ、点がほしいと言って4-1-4-1にしたらアンカー脇を蹂躙された。エリック・ガルシアに恨みは全然ないが、せっかくだからスペインに帰る前にもう一回ヴァーディにめちゃめちゃシバかれてから帰ったらいい思い出になると思う。
レスターは脇を固めるメンバーがかなり充実していた。右ハーフのプラート、右バックのカスターニュ、左バックのジャスティン辺りはしっかりボールが持てる上に突撃性能も高いから、プレスがかけられないシティが最も苦手にするタイプだ。DFラインもカバーができるエヴァンズに、スピードのチャーラルがいて固い。ヴァーディの控えがイヘアナチョとアヨセだという点に目をつぶれば、CLも夢ではなかろう。
気になった人 チャーラル・ソユンジュ
通称「ソユンク」。割とどうでもいいことではあるが、まず「チャーラル」と呼ぶべきだと思うんですよね。トルコ人だから。「エムレ」とか「イルハン」とか「アルパイ」とか呼んできたじゃないですか。「ベロゾール」とか「エザラン」ではなかったじゃないですか。一貫性持ちましょうや、みたいな。まあ、そこは一旦置いておいたとして、苗字の方も「ソユンク」より「ソユンジュ」と読んであげたい。
リーズ・ユナイテッド △1-1(A)
FFPというのはまさに20年前のリーズのようなクラブを生まないための制度なのだが、みんなが「財務的健全性」を気にする今日この頃、リーズのプレミア復帰にあたっては結構エモーショナルに歓迎ムードだったのでちょっと笑った。ちなみに、最後にシティがプレミア昇格したときの初戦がリーズだったんですよね。0-3でボコボコにされたが。
試合は双方バカみたいにカウンターで切り合っていた。リーズがそれをするのは分かるが、なぜシティは付き合ったのだろうか?あまりにもあからさまだったので、試合後にグアルディオラが「急ぎすぎた」と言ってたのが意味がよくわからなかった。
リーズはさすがビエルサらしい良いチームで、ちゃんと点が取れるストライカーとまともなGKもいるので、トップ10には十分入れるだろう。どこでビエルサが投げ出すかは別の話だが。
気になった人 カルヴィン・フィリップス
CBとしても使える“ディープライイング・プレイメーカー”(日本語に良い訳がないけど、サッカーファンがイメージするところの「いわゆるピルロ」みたいなポジションだ)というのがまずかっこいい。そして見た目もかっこいい。試合ではデ・ブライネに張り付かれてかなり痛い目に会っていた。
アーセナル ○1-0(H)
ボール持ってるときの3バック、俗に言う『カンセロロール』ことカンセロ・マヌーバ、幅を取る両ウイング、縦に混ざり合うベルナルド、カンセロ、スターリングなど、現在のシティの形が実は結構見られるのである。見返してみると。実質ほとんど左サイドのティアニー&サカしか攻め手がないアーセナルは前から守りに行ったが、シティのDFラインからスパッと通されて失点。サカ、ウィリアン、ぺぺのうちサカしか脅威にならない上、交代選手がその3人以下、というのはかなりきちい。
このあとカラバオかなんかでもう1回やって、そのときは4-1で勝ったのだが、そのときもアーセナルの守備がだいぶきちいことになっていた。WBAですら(失礼)実装しているポケット裏抜け潰しが全くできないというのは正直どうかしている。アルテタは何がしたいのか、ちょっとよくわからない。ごめん。
気になった人 ウィリアン
かつてチェルシーで猛威を奮ったとは思えない萎れっぷり。去年も二桁近く取っていたはずでは。ウィリアンもそうなんだけど、最近のアーセナルというのは「クラブ屈指の高額設備が全く稼働しない(エジル)」とか、「高額設備を売却したのにほとんどリクープできない(コシエルニ)」とか、そりゃ勝てなくなるわなという案件が多すぎる。ウィリアンもそう。
ウェストハム・ユナイテッド △1-1(A)
まあ決まらないんだこれが。珍しくこの試合は中央で持ってポケットに抜けるスターリングとマレズにスルーパスが出ているのだが、全然決まらない。でも、GK引きつけ過ぎなだけなんじゃないかという気もするので、崩す角度がそもそも悪い説を取るのはもうちょっと待ちたい。ちなみにウェストハムのことは全然覚えていないが、いいチームだったのは間違いない。
気になった人 マイケル・アントニオ
フィジカル方面への明るさだけで最前線を張り、さらっとスーパーゴールを決めていた。私はこういう、「身体が張れるからという理由の起用」に弱い。
シェフィールド・ユナイテッド ○1-0(A)
最下位を独走するブレイズを相手に、今日も今日とて6バックチャレンジ!なにせ相手SBの裏を取ってポケットに入っても、まだ4枚エリア内にいるのだ。キツすぎる。決勝点も、スターリングが4人を捌いてドリブルで40m進む→デ・ブライネが神業の如きサイドチェンジを繰り出す→ウォーカーが2年に1度しか出ないスーパーミドルを決める、というかなり無茶と幸運の積み重ねで取っていた。点が入らないので批判されているが、この頃のスターリングは見返してみるとキレッキレだ。点は取れないが。
気になった人 エンダ・スティーヴンズ&クリス・バシャム
エンダはアメリカ人オーナーの下でどんどん弱くなっていったときのヴィラが大量に抱えていた選手の一人。名前が可愛くない?バシャムは10年強前にボルトンで出てきたとき、地味に良くて注目してたんですよね。30を過ぎて立派なプレミア戦士になって喜ばしい。まあ今年限りっぽいけど。
リヴァプール △1-1(H)
この2年半、この世の春を謳歌していたリヴァプールも年の暮れからまさかの停滞。プレミアリーグというのは怖いリーグですね。でも素晴らしいことでもある。同じリーグが10連覇みたいになったら、もうそれはラトヴィアリーグじゃないすか。ラトヴィアがいかんとは言わんが。昨日バーンリーに負けたということもあって、「CL圏も危ない」という声すらあるが、まだまだ優勝は射程範囲内だろう。シティも勝ち点9とか8とかひっくり返して優勝したことあるし。
ちなみにこの試合は「選手のレベルは高いんだけど若干拍子抜け」というところ。毎試合サイドブレーキ掛けたまま走っているようなシティに割とあっさりボールを通されるリヴァプールもどうかと思ったし、一方で回すのは良いがさしてチャンスも作れないシティもどうかと思った。一人ひとりは勿論上手いですよ。高いからね。みんな。でもチームとしては「あっ、そんなもんなの?」感があった。両方。
気になった人 チアゴ・アルカンタラ
この試合には出てないが、その後見て衝撃的に上手かったので言及。サッカーが上手すぎる。プレミアリーグでデ・ブライネとヴァン・ダイクの次に良い選手だろう(5番目はもちろんギュンドアンだ)。それが勝ち点につながるかというと微妙なところだが、チアゴくらい上手かったらそんなのどうでも良くなってくる。
トッテナム ●2-0(A)
悪くなかったが、エンドンベレ=ケイン=ソンフンミン打線とは破壊力が違いすぎてカウンターで一蹴された。中盤に強度がない当時のシティに対して、背負って回ってパスが出せるエンドンベレとケインと、ダイレクトで受けてミスをしないホイビェアという組み合わせは相性が悪すぎる。これは今年こそスパーズの優勝があるか?と思って、9月末に仲間内で予想したときも「優勝」にしたのだが、その後・・・。見てないので何が悪いかは判らないが、いつの間にかCL圏外にいる。
気になった人 ピエール=エミール・ホイビェア
10代で抜擢されたときの記憶とか、そのあとセインツに行ったところとかのせいで線の細いお坊ちゃんのイメージがあったが、ゴリゴリにヤンキーだった。自分が倒した選手に(ダイブだろ的に)イキるところは巨人の中島を彷彿とさせた。モウリーニョはどこ行っても、こういう子飼いの武闘派を作るのが上手いね。そしてめちゃ良い選手だった。
バーンリー ○5-0(H)
今日も一日頑張るぞい!って感じだったと思うが、ターコウスキのミスパスを拾われて1点、ウォーカーのセコいスローインでマレズに裏を取られて2点で、前半早々に終戦。バーンリーの戦術は「でかい男が揃いも揃って大騒ぎ」以上には特に無いので、こうなるともうどうしようもなかった。
気になった人 チャーリー・テイラー
何が取り柄かよくわからないが、バーンリーの左サイドバックの座をがっちり握って離さないヨークシャー男。まあ頑丈であることは確かだと思う。
フラム ○2-0(H)
5-2-3で勇気をもって封じに来たパーカー・ボーイズだったが、中盤で引っ掛けられてミドルレンジのカウンターを食らって万事休す。アンギサとロフタス=チークで中盤を突破するというのは、机上の計算としては悪くなかった。アンギサからなかなかボールは取れないし。ちなみにこの辺りで、スターリングと同じかそれ以上くらいに、デ・ブライネもGKとの1vs1が苦手なことが明らかになるのだった。
気になった人 トーシン・アダラバイヨ
もう立派なプレミアリーグのDFだ。5歳からシティにいたバイヨ。将来はシティでキャプテンになりたいんだと言っていたバイヨ。WBAとブラックバーンに場所を借りながら、着実にプロとしてまともになっていったバイヨ。自分の意志で、買戻条項も拒否してシティを出ていったバイヨ。この日はフラムのDF陣随一のパフォーマンスで、守備の中心となっていた(まあ、昔からこいつは負けるときに責任被らない場所にいるのが結構上手いんですが・・・)。フラムのファンがどう思っているか走らないが、この試合ではちょっと感動したのであった。
マンU △0-0(A)
双方腰が引けて引き分け。最後の方のデ・ヘアの時間の使い方には思わず笑ってしまった。こんな双方慎重なダービーはなかなか見たことがない。
さて、この試合とカラバオの準決勝(○2-0)の2試合やってみて、正直ラッシュフォードのオフサイドとブルーノの一発以外には怖さがあんまりなかった。守備もまあ、固いんだけど・・・みたいな。なによりカラバオでの、チームもファンも、「まあ負けますわな・・・」みたいな淡白さにちょっと驚いた。カラバオだからという可能性もあるが。
と思っていたが、リヴァプール戦はかなり強めだった。ポグバで貯めてラッシュフォードでオフサイド。あるいはブルーノに入れてショウがサポートしてクロス。あの位置でポール・シャルナーみたいな仕事させられてるポグバもどうかと思ったが。拮抗した試合だったが、勝ちに近かったのはマンUだと思ったくらい強かったのである。私は「マンUはこの先数年、物の弾みで優勝したりすることもあるけど、基本シティとリヴァプールには距離を開けられてる」と予想していたので、それが外れるかどうか注目している。
気になった人 ルーク・ショウ
今の調子が維持できるなら、世界有数の左サイドバックとすら言っていいのではないか。シティにほしい。
WBA △1-1(H)
低迷中のWBA相手にホームで引き分け。セットプレーで追いつかれ、最後はデ・ブライネに渡してクロス、次にデ・ブライネに渡してクロス、さらにデ・ブライネに渡してクロスと多彩な攻撃を繰り出すシティをGKジョンストンが全部気合で防ぐというすごい試合だった。どっちもアホ。WBAはバートリー、ギブス、リヴァモア、ソウヤーズとセンターラインに体を張れるイギリス人がいるのは頼りになるが、どうやって点を取るかは見えなかったのでさすがにアラダイスでも厳しそうに思える。
気になった人 スラヴェン・ビリッチ&WBA首脳陣
アウェイでシティに引き分けて解任、というかなり斬新な侮辱を思いついたのが偉い。
サウサンプトン ○1-0(A)
怪しいPK疑惑も見逃してもらって、ギリギリの勝利。シティは攻めるときもとかく急いで相手PAに到達するので、全然強いシュートが打てない。ちゃんとセットし直すころには、文字通りゴールに1,2人入ってGKをカバーしているので、かなりの確率でブロックされたり。このエリア内での時間的余裕の無さというのは、シティの割と長年の宿痾で、これまではDFラインとGKの間に入れてダイレクトで叩いていっちょ上がりとしていたが、相手のラインが下がって狭くなるし、ゴールに入るカバーも増えたしでもう全然入らない。これを解決しないとかなりこの先きついと思う。
セインツは、ヴェスターゴーアの右足一発ロングパスでウォルコット先生にチャンス来まくり。多分、長いパス以外にはあんまり攻め手がないチームなのではないかという印象を持ったが、マッカーシー / ヴェスターゴーア / ウォード=プラウズ / イングスを抱えて長距離の殴り合いをするのはロジカルな選択だ。余裕で残留、下手したらELも行けるだろう。
気になった人 ヤニック・ヴェスターゴーア
ありとあらゆる面で北欧っぽさ100%の雷神ヴェスターゴーア。199cmのデカさもいいし、右足一振りでめちゃめちゃフィードが飛ばせるのも良い。もうちょっと若ければ、ヴァン・ダイクのように飛躍したかもしれなかった。ちなみにヴェスターガード(英語読み)と聞くと名作『クリムゾン・タイド』を思い出すのは私だけでしょうか。
ニューカッスル・ユナイテッド 2-0(H)
カンセロ・マヌーバの脅威が世に知れ渡った試合。右サイドバックとインサイドハーフとウイングとシャドーを全部一人でやる(しかも配置変更ではなく流れの中で)、というスゴいことをしていた。でも守備はマジでペラペラ。
あともう一つ変化を挙げておくと、一時期びっくりするほど使われていなかったベルナルド・シルバが、この頃スタメンとしての地位を取り戻した。全員どこでもやらされるシティではあるが、実はウイング=トップ=インサイドハーフを全て同じようにこなせるのはベルナルドだけだったりする。
ニューカッスルはしばらく見ないうちに、かなりキャラが薄いチームになっていた。シセ&バのような看板クリーンナップがいるわけでもなく、キャバイエ・シソコ・ベナルファ率いるフランス傭兵軍団がいるわけでもなく、アンディ・キャロルが昔の杵柄でいるだけという・・・「緊縮財政」の4文字しか浮かんでこない。日本経済をサッカーチームにしたらこんな感じかもしれない。滅茶苦茶言ってごめんなさい。キャロルは相変わらず大きかったが、あまりにも身体が動かなすぎて、こりゃ最初から使うのは無理だなという感じだった。
気になった人 ジョエリントン
ヴィッセル神戸におられた方とは違うんでしたっけ?
チェルシー ○3-1(A)
申し訳ないが、今シーズン一番楽な試合だったと思う。これか、相手のミスで早々にカタがついてしまったバーンリー戦か。最初10分はハイプレスで主導権を握られたが、慣れたらもう。3トップが後ろとも横とも連携せずに個々で突っ込んでくるんだから、前進したい放題よ。そりゃ。今シーズンのシティ相手ならどうせ最終局面で外すからあえて切り合いに行くというのもありだが、チェルシーの前線に破壊力があるわけでもなかった。プリジックのドリブル頼みではいかに相手がカンセロでもちょっと無理。
気になった人 エンゴロ・カンテ&ハキム・ジエシュ
カンテは広大な中盤中央を埋めようと頑張っていたが、何度と無く裏を取られて陥落。スターリングのドリブルにふっとばされる姿は悲しみに満ちていた。
ジエシュ?それはあれですよ、あの、「オランダリーグで活躍したって保障にならない」って私言ってたじゃないですか。何回も。信用するなっつって。ニステルローイとスアレスだけだぞっつって。
ブライトン&ホーヴ・アルビオン ○1-0(H)
なかなか勝ち点が伸びないブライトン相手に先制するも、後半はゴリゴリに押し込まれてかなりきつめにシバかれた。勝てたのは幸運も大きい。ブライトンはこれだけ自力があって、そこそこ点が取れるモペイもいて、本当に良いチームなんだが、グロス、ララーナ、ジャハンバクシュ辺りのアシストが出来そうな連中を入れるとバランスが崩れるんだろうか。
気になった人 ダン・バーン
201cmの左利きのCB/LB。これはね~まだサッカー界にこのジャンルはなかったですよ。ちょっと消化しきれない。しかもこの身体で長所はスタミナがあること。色々斬新すぎる。足が遅めなのも萌えポイント。
クリスタル・パレス ○4-0(H)
クリアなチャンスはほとんど作れてないが、全部セットプレーで4点ゲット。パレスは中盤センターのおじさん3人が明らかにタスク過多で苦しんでおり、頼みのザハもいないのでちょっとどうしようもなかった。残留は余裕だろうが、ザハは流石にそろそろ、ビッグクラブに再挑戦しないのだろうか。
気になった人 ビセンテ・グアイタ
この人、かなり微妙じゃないですか?スタッツも相当悪いし・・・と思っていたら、少なくとも昨シーズンは大活躍で「代表に呼べ」というパレスのファンもいたらしいので、今年調子が悪いか、私に見る目がないかどっちかだろう(多分後者だ)。
アストン・ヴィラ ○2-0(H)
2000年代まではスパーズ、ニューカッスルと並んで第ニ集団を牽引していた名門ヴィラ。プレミア復帰後、かなりソリッドで良いチームを作っていた。長所のウイング2枚(グリーリッシュとトラオレ)を下げずにカウンターで切り合うぞ!6バックにしないぞ!という強い気持ちを感じた。
結果、ポケットに抜けるフォーデンやカンセロからチャンスを作られまくっていたが、最後の答えが出ないのが今のシティなので、ディーン・スミスの賭けはかなりいいところまで行っていたと思う。マッギンとD. ルイスの中盤も強いし、DFラインにはプレミアで一番かっこいい男の一人であるタイロン・ミングスもいるし、GKマルティネスは素晴らしいし、アーセナルやエヴァートンと五分でEL圏を争いそうには見える。選手層は若干きついだろうが。
気になった人 ベルトラン・トラオレ
「トラオレ」という名前のせいで若干得してるところがあって、こっちは別にフィジカルは強くない。アデバヨールをウィングにしたみたいな選手だ。
気になった人2 タイロン・ミングス
数年前から好きでした!付き合ってください!と言ってしまいそうになる。気を抜くと。そう、かっこよすぎる。193cmで左利きのCB/LBというところもかっこいい。パレスのザハ、フラムのロフタス=チークに並ぶ、プレミアのハイエナ系男前。
ボリスタ対談で言いたかったこと、及び欧州サッカーの行く末
- プロの投資家がクラブを欲しがるようになっている
- 彼らは投資リターンを高めるために、欧州サッカーの枠組み自体を変えようとしていく
- アイデンティティが揺らいだ反動で、各クラブの「本物っぽさ」を語るためのストーリーメイキングに金が使われるようになる
- サッカーファンは自分がどっちに行ってほしいか、自分の意見を持っといた方が良いのでは
Footballistaの10月号で、サッカージャーナリストの片野道郎さんと、ミランファンでFFPに詳しいSchumpeter氏と対談をさせて頂いた。雑誌に収録された対談を見直してみると、何を言いたいんだかイマイチよくわからねえなこのおじさんはって感じで、大いに自分の発言を反省したところです。対談って難しいね。Podcastで人気出てる人とかすごいよな。
まあとにかく。この号の発売からこの年末までのわずか数ヶ月の間にも、サッカー界のあり方を揺るがすような出来事がいくつもあった。それらのいずれも、自分が対談のときに言いたかった(けどあんまり面白い感じに伝えられなかった)内容に関連することばかりなのである。ということで、この年末にもう一度、この先欧州サッカーにおいて何が起こりそうなのかについて自分の考えをまとめておきたい。
プロの投資家がクラブを欲しがるようになっている
90年代のイングランド、イタリア、フランスでは、サッカークラブはもっぱら成功したローカルのビジネスマンが持つものだった。2000年代から2010年代になると、アブラモヴィッチやタクシン、ヴィンセント・タン、シーク・マンスールといったストラテジックなオーナーが増えてきた。「ストラテジック」というのは、直接的な金銭以外の見返りを求めている投資家という意味だ。目的は色々あるが、少なくともサッカーそのものから利益を上げることは目的にしていない人たちだ。
そして、2010年代も中盤になると、その「利益を上げること」が目的なオーナー、つまりフィナンシャルな投資家も目立つようになってきた。一番特徴的なのは、プライベートエクイティファンド(PEファンド)やヘッジファンドといった、他人の金を預かって投資している人たちがサッカークラブ、あるいはリーグに投資し始めたことだ。彼らが持っているのは他人の金だから、数年後には一定のリターンを出す必要がある。金儲けにガチなのだ。
具体例を挙げれば、リヨンの株式の20%、ボルドーの株式の100%はそれぞれ別のアメリカのPEファンドが持っている。マンチェスター・シティの親会社であるCFGも、株式の約20%を中国とアメリカのPEファンドが取得している。リヴァプールのFSGは厳密に言えばファンドではないが、ストラテジックといよりはフィナンシャルな投資家だ。
で、この人たちにとってコロナは、サッカークラブやサッカーリーグといった優良アセット(投資対象の資産)が安値で買える大チャンスである。買う側には金が余っていて、買われる側は金に困っているからだ。
そして、スポーツはコロナで打撃を受けた他の産業ほどには、構造的な変化がない。例えば、最近Ocadoとセインズベリー*1のネットスーパーが便利すぎて、私はほとんど近所のテスコに行かなくなった。多分コロナが収束してもそのままだろう。でも感染の心配がなくなれば多分大半の観客はスタジアムに戻る。そういうわけで、世界中のPEファンドが今欧州サッカーに大集合しているのである。*2
まず、セリエAの放映権(の管理会社の株式の一部)が、入札の結果CVCというファンドの手に渡った。セリエはブランドがある割に放映権料がプレミア、ブンデス、リーガと比べて低すぎるという現状があるから、金を入れて色々と手を加えればこの価値が上がって儲かるぜ、というストーリーが描きやすい。
さらに、ブンデスリーガが考えている海外向けのサブスクリプションサービスには20以上のPEファンドが殺到している。
金儲けにガチな人たちが入ってくるようになったというのは、彼らが欧州サッカーをこう見ているということだ。
1) 欧州サッカーは今後、さらに成長する
2) 欧州サッカーは投資リターンを期待できるくらいの規模と安定性がある
3) 一方で、欧州のサッカークラブやリーグのこれまでの運営方法にはまだ改善の余地がある
もう一つの原因は、単に富裕な(といっても、とてつもないレベルの富豪だが)個人のレベルでは、もはや5大リーグが求める量の金を出せなくなってきたことだ。だからもっと懐が深い、機関投資家を頼るしか無い。外資への売却を禁止し続けているドイツも、バイエルンとドルトムント、あと辛うじてシャルケ以外は、もう競争についていけなくなってきている。
彼らは投資リターンを高めるために、欧州サッカーの枠組み自体を変えようとしていく
ガチになったアメリカ人とは戦わないほうがいい、というのは人生のほとんどに通用する真理だ。あいつら遊びとかないから。で、人がガチになるタイミングの1つは金だ。
ところで、普通のビジネスでは利益を高めるために競争戦略があるわけだが、スポーツビジネスにはそれが適用しづらい。かの有名なポーター氏は「戦略とは競争を避けること」と言ったが、スポーツは競争することがビジネスだからだ。国内の競争が激しいので海外のリーグに移籍しますとか、ライバルクラブが強いのでうちはハンドボールで勝負します、とかいうことは出来ない(全社的な戦略としてはなくもないが、少なくともサッカー事業の経営戦略ではない)。じゃあどうするかというと、やっぱり構造に手を入れるのが効く。構造というのは、リーグの構成とか、日程とか、昇降格の条件とか、議決権とか、そういう形式と決まりごとのことだ。
そういうわけで、欧州スーパーリーグや、孫正義とFIFAが主導する新大会の構想が生まれてきた。市場が拡大していると言っても、我々ファンがサッカーに使える時間と金は限られているから、安定して利益を出すためには、市場の中でもっとでかい取り分を安定して取れるようにしたい。欧州スーパーリーグができれば、ファンの注目は「バルセロナvsレクレアティーボ」よりも、「バルセロナvsリヴァプール」に集注するだろう。しかも今のCLと違って、ビッグマッチが毎週ある。CL圏に入れずに100億円の収入を逃す心配もない。ビッグクラブだけの箱庭で、安定的に利益を享受していられるのだ。
もちろんそうなれば、各国リーグの価値は多分落ちる。セリエAの放映権を手に入れたCVCは、「もし欧州スーパーリーグができてしまったら、この契約を破棄して逃げられる」という緊急脱出条項を入れようと躍起になっている。
リヴァプールとマンチェスター・ユナイテッドのオーナーが主導した「プロジェクト・ビッグ・ピクチャー(PBP)」は、資金難の下部リーグに短期的に金を出す代わりにビッグクラブに権力をよこせという提案だったが、これもそういった動きの1つだ。PBPの提案の時点で国内カップ戦とコミュニティシールドの廃止、チーム数の削減が既に入っていたが、ビッグ6が議決権の過半を取れればこのあとも色々とリーグフォーマットの改変ができる。上位クラブだけでプレイオフをしてもいいし、アジアやアメリカで開幕戦をやってもいい。この動きがアブラモヴィッチやADUGからは出てこず、アメリカ人投資家のFSGとグレイザーから出てきたというのはそういうことだ(アブラモヴィッチやADUGにしたところで、話があれば乗っかるだろうが)。
F1では実際にあった。F1は2006年に米ファンドのCVCが9.5億ドルで買収したが、その後はF1を開催したがっている非伝統国(アゼルバイジャン、インド、韓国)に開催権を売ったり、レースの開催数を増やしたり、放映権料の配分を変えたりした。CVCは10年後に約7倍の67億ドルで売却に成功した。IRRが21%だから、そんなに悪くない儲けだ。
何が言いたいかというと、今後増えていくはずのオーナーや投資家は、リターンを確保するために、これまで我々が当然だと思ってきたフォーマットを変えるだろうということだ。例えば、
- 各国のリーグがあって、独立したクラブが各リーグに所属している。
- リーグの中で上位数チームに入ればCLに出る。
- CLの下にはELがある。
- 自国のリーグで下位に沈むと降格の危険がある。
- チケットの値段はこれくらい。
- 2年に1回W杯かEURO。
- コパとアジアカップとネーションズカップはその間にちょこちょこ。
- クラブワールドカップもある(誰も見てないけど)。
そういうものが全部変わって、例えば欧州トップの12クラブだけで行うスーパーリーグが出来るかも知れないし、4部以下のクラブはノンプロ化するかも知れない。待て待て、大体試合が90分じゃないとダメって誰が決めたんだっけ?みたいな。
リーグの枠組みに比べると比較的どうでもいい領域かもしれないが、例えば今シティがやっているような「複数クラブのネットワークを複数のリーグにまたがって広げる」という手法、あれが流行りそうな気配がある。例えばリヴァプールを所有しているFSGも、欧州で別のクラブを買おうとしているという噂がある。理屈としては当然で、違うリーグに色々持っておくほうが便利なのだ。例えば最近禁止されたローン規制も、最初から姉妹クラブに獲得させれば回避できる。
アイデンティティが揺らいだ反動で、各クラブの「本物っぽさ」を語るためのストーリーメイキングに金が使われるようになる
もともと欧州のサッカークラブは、その土地の文脈に強く影響を受けている。でも海外にファンが増えて、かつ投資家が金銭的なリターンを求めるようになると、海外ファンを意識した意思決定が増えていき、その土地固有の文脈からは切り離されていく。
いい例だなと思ったのが、リヴァプールのチケット値上げ問題。街としてのリヴァプールは、欧州でも有数の左翼の都市だ。1971年以降保守党が勝ったことはない。サッカークラブとしてのリヴァプールも、サッカー界でも最も労働者寄りの、社会主義的なクラブだと言われている。
だからチケット値上げとか、PBPとか、そういう件には地元のファンはしっかり抗議している。労働者のクラブというアイデンティティを損なうからだ。でも海外のファンの中には、ぶっちゃけどうでもいいという人も多いだろう。クラブとしてのリヴァプールに思い入れはあっても、都市としてのリヴァプールに思い入れがあるとは限らない。こういう風に、アイデンティティを自ら弱めるような動きを取るクラブは増えていくだろう。一方で、アイデンティティや歴史はファンを増やすのに役に立つ。だから、そのギャップを埋め、「本物っぽさ」を醸し出すためのマーケティングに投じられる金は増えていくだろうと思う。
もちろんこういうのはリヴァプールに限った話ではなく、例えばマンチェスター・シティは世界中にバコバコ姉妹クラブを作っておきながら、「本物の地元民が応援するのはシティ」みたいなストーリーも同時に追求しようとしているように見える。Oasisのノエルは「地元のやつばっかり応援に来て弱いより、日本人とアラブ人だらけで強い方がいいだろ」と言っていたが、もし弱くなって金もなくなったときには地元のファン基盤が弱まっていたなんてことになる可能性もある。
サッカーファンは自分がどっちに行ってほしいか、自分の意見を持っといた方が良いのでは
ファン1人1人には影響力もないし、議決権も(大体の場合は)ない。それでも、自分が好きなクラブは、そのクラブがいるリーグは、そのリーグがある地域のサッカーはどういう方向に行ってほしいのか、少なくとも自分の中では考えておいた方が良いと思う。それ無しにただ批評家的なポジションを取るのはダサいから。
「自分に決定権ないし、どうなっても〇〇〇を応援する」というのも、それはそれで立派な1つの意見だ。そもそも我々の大半は本国から遠く離れたアジアのファンで、その時点で当事者性をかなり失っているわけだし。それは別に、それでいい。
ちなみに自分はと言うと。欧州スーパーリーグのような偽善者な戯言は早く潰れてほしいと思っているが、発足してしまった場合は、残念ながら、マンチェスター・シティにもそこに参加してほしいと言わざるを得ない。自分が好きなクラブが取り残されるのも嫌だからである。自分でもわがままだと思うが、それが偽らざる心境だ。
そして、海外サッカーを扱う雑誌やジャーナリストに追求してほしいのは、当事者の声である。買うクラブと買われるクラブのオーナーやCEO。リーグ改革案に賛成票を投じた中堅クラブのオーナー。放映権を買った投資ファンドのマネージャー。そういう当事者に、「なぜ?」を聞いてほしいのだ。こたつで書いた記事ではやはり表面しか判らない。我々はリアルなものに金を払いたい。そういうわけで、ジャーナリストと編集者の皆さんには、一つ宜しくおねがいします。
*1:どっちもイギリスのスーパー
*2:この他にも、サッカーを含むスポーツがPEファンドの投資先として人気が高まっている構造的な原因はいくつかあるが、詳細はこの記事を参照されたい The new playbook: How private equity fell in love with sport | Private Equity International
最近のシティのダメだこりゃ感について
今日はマンチェスター・シティが今どういう状態なのか、そこそこ弱くなってしまったのはどうしてなのかということについて話をしたいと思います。
問題と言っても、ピッチ内の話です。私は普段、ピッチ内の話については語る気があまりないのですが、先日『サムライブルーの勝利と敗北』の著者である五百蔵 容さんのYoutubeにてシティvsリヴァプールの試合が取り上げられまして、その際にシティの現状について色々とお喋りをしたので、せっかくなのでそれをまとめておこうと思います。
シティvsリヴァプール、試合観ながら分析配信終了しました。お越し戴いた方有り難うございます!
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2020年11月10日
アーカイヴ残りますので、DAZN配信終了迄お楽しみ戴けると思います。LIVEで前半20分迄観た時は(凡戦になるかな)と思ったのですが、フルで観るとやはり見応えありました。https://t.co/ixoYqeeInN
さて、マンシティは2016/17シーズンからペップ・グアルディオラが指揮しています。2017/18シーズンと2018/19シーズンの2年間、シティは国内でバチボコに勝っていました。どのくらい勝ったかというと、こんな感じでした。
- 国内の計6タイトルのうち5つ優勝
- 勝ち点は最初の年に100、次に98
- 勝ち点100到達は史上初
- 得点は106点、95点( 1試合当たりの平均得点はそれぞれ2.8点と2.5点)
- ニコニコ動画に「エティハド大虐殺シリーズ」というタグが出来る
勝ち方もえげつなくて、相手がちょっと気を抜くと、6点とか7点とか平気で入っていました。雪が降るような最悪の天気の冬の日にアーセナルを0-3で降して、スタンドのアーセナルファンが全員「俺なんでこんな日にこんなとこ来てんの?」みたいな感じになって、エミレーツの雰囲気がめっちゃ最悪になってしまったこともありました。
しかし、昨季から成績は低下し始め、結局リヴァプールに大差をつけられて2位になりました。今シーズンも開幕3試合を消化してすでに3分け1敗の10位ですから、もはや一時期の強さは消えてしまったと言えます。
今のシティを簡単に説明すると、こういう状態です。
- プレスがあんまりかからない
- チャンスが作れない
- 個人技でゴリ押し
現在の症状
プレスがあんまりかからない
相手の組み立てを阻止できません。割と前線から中盤がすっ通しで、簡単にゴール前まで運ばれてしまいます。とくにボールを失ったときに顕著で、今シーズンの最初期は、ボールを失う→サイドチェンジだけでほぼ確実にゴール前まで運ばれる、という状況になっていました。昨年夏に横浜F・マリノスと対戦したときも、度々危ない場面を作られていました。相手がフリーでDFラインに向かって突進してくるわけですから、良いフォワード(例:レスターのヴァーディ、ノリッジのプッキ)がいるチームの場合、何回か繰り返しているうちにまず間違いなく失点します。
チャンスが作れない
過去3シーズンのシティのxG(ゴール期待値)は93.15、95.04、103.87でした。1シーズンは38試合なので、1試合平均2.5から2.7点は入りそうなチャンスがあったということです。一方今シーズンは、7試合やって10.85ですから、1.6点しかありません。1試合に1回強しか決定機を作れていないということですから、引き分けや負けが増えるのも無理はありません。
カウンターができない
一時期に比べると本当にカウンターができなくなりました。できなくなったと言うか、めちゃんこ遅くなりました。結果として、後ろでぐるぐる回して、最終的にはデ・ブライネが何とかするという感じです。
個人技でゴリ押し
上に書いた「送りバントで二塁に送ってデ・ブライネ」とも重複しますが、中々崩せなくなってきたため、デ・ブライネの超人的なクロスだったり、スターリングのドリブル突破だったり、ウォーカーのミドルだったり、個人技で無理やり点をもぎ取る場面が増えました。一人ひとりは良い選手が揃っているのでそこそこ点は取れますが、ロジカルに崩しているわけではないので、点が取れるか取れないかはかなり時の運です。
在りし日のシティ
では逆に、2017年から2019年の、全盛期のグアルディオラ・シティはどうだったのかというと、こんな感じでした。
即時奪還ができた
グアルディオラのチームは基本的に引いて守りませんし、守れません。よってどうするかというと、ボールを失った瞬間に猛烈にプレスをかけてボールを奪い返したがります。かつてはこれがよくハマっており、相手を敵陣に閉じ込めて延々とハーフコートゲームができました。
高速カウンターがあった
グアルディオラのシティは実はカウンターが上手いチームでした。前述した即時奪還のあと、デ・ブライネやシルバからのスルーパスにザネーやスターリングが走り、逆サイドに折り返して一丁上がり、というパターンで多数の得点が生まれていました。
(参考までに、いくつか得点シーンを抜粋しておきます)
延々と二択デスゲームができた
相手にボールを持たれさえしなければ、グアルディオラのシティは異様に複雑なことができました。複雑というのは、相手の守り方や時間帯、点差によって、「誰がどこにいるか」「誰がどんな役割をこなすか」をグルグル変えながら、どこかが崩れるまで、手を変え品を変えて攻撃ができたということです。
相手からしてみると、前からプレスに行くとバイタルエリアにパスを通され、
ラインを揃えて守ってるとハーフスペースの裏に走られ、
じゃあといって5バックで引いてると大外をゴリ押しされ
マンツーでプレスに行ってみたらゴールキックで裏抜けされて
という風に手札が多かったので、どっちを守るかの二択を延々迫られて間違えたら死ぬ、という結構きちぃ感じのゲームになっていました。
繰り返しになりますが、今はどれもかつてのようにはできません。どこのTV局だったか、多分BTだったと思いますが、コメンテーターが「今のシティは、シティのトリビュートバンドみたいですね」と言っていました。言い得て妙です。
なぜこうなった?
さて、なぜシティは一時期の競争力を失ってしまったのでしょうか。プレミアは他の国のリーグより拮抗しているので、2017年の暮れくらいにはシティ対策法が色々編み出されていました。ここで詳細に触れることは避けますが、一言でまとめてしまえば、そうした対策側の進化と、シティ側の進化が競い合う中で、3年経って対策側が上回るようになってきたということなのですが、1点、非常に不可解なことがあります。
「なぜ4-2-3-1なんだハゲ」問題
それまでの4-3-3に代わって昨シーズン開幕から導入している4-2-3-1ですが、素人目に見ても結構きちぃところがあります。プレスが全然かからないのです。
ボールを引っ掛けるのが抜群に上手いデ・ブライネはインサイドハーフから一列上がり、ほとんどFWの位置で守備をするようになりました。いかに守備が上手くとも、このエリアでボールを引っ掛けるのは困難です。追う対象が広すぎます。加えてダブルボランチはさして機動力がないロドリとギュンドアンなので、ボランチが前に出て捕まえる事もできません。その割にウィングは前プレ志向なので前に出ています。よってどうなるかというと、ボールを奪われたときに奪還できず、ゴール前まですっ通しで運ばれてしまうわけです。
後ろで守れないチームなのに、なんでわざわざ後ろ重心の4-2-3-1を使い続け、しかも修正も特にしないのか、という点は不可解ですが、考えられる要因はいくつかあります。
仮説①)ロドリが遅すぎる
このスペイン人ピボーテは、まあシティとバイエルンが高値をつけただけあって良い選手なのですが、いかんせんアンカーとしては俊敏さに欠けます。遅いのです。
4-2-3-1になって拍車がかかりましたが、4-3-3時代にも前プレがかからない問題は発生しており、その一因はロドリがいろんな局面に間に合わないということにありました。結果として、前プレかからない問題にはより加速してしまったものの、ギュンドアンを隣に置いて保険をかけるという選択に至ったように思えます(さしてかかってませんが)。
仮説②)DFラインが相手FWに勝てない
今のシティは「ボールを保持し続けるか、失ってもすぐ奪回する」という特殊な仮定の上で成り立っているチームです。よって、相手のFWにロングボールを収められてしまうと非常に面倒なことになります。しかし、2019/20シーズンはコンパニの退団と残った選手の怪我で、CBがフェルナンジーニョ+誰か、という運用にならざるを得ませんでした。フェルナンジーニョというのは、ボランチが本職のおじさんです。身長が180cmあるかないかみたいな非本職の人間で、プレミアリーグのFWを抑えるのは辛いものがあります。よって、長いボールを押し返せないため、ボランチの人数を増やして面倒を見させるという方向になったのではないかと想定されます。
仮説③)ダビ・シルバの代わりがいない
2010年代のプレミアにひっそりと君臨した男、ダビ・シルバは2019/20シーズンをもってシティを去りました。
シルバはパスは出せるしキープは出来るし、スペースには走れるし、プレスは上手いし頭はいいし、おまけに逸物は大きいと、話がぜんぜん面白くない以外には非の打ち所がない、素晴らしい選手でした。前述したようにシティが異様に複雑なサッカーができたのも、並の選手の10倍くらい複雑なことができるシルバがいてこそと言えます。そのシルバがいなくなったことで、グアルディオラ的には「デ・ブライネと誰かを並べるより、デ・ブライネが最大限ゴールに近いところにおる方がええ」と思ったのかもしれません。
仮説④)相手が単純に慣れた
①から③が一つも当てはまらない試合でも、症状が出ている試合もあります。この現象については、単純に相手が慣れた面もありそうです。ビッグ6と他のクラブの格差は確かに大きいのですが、他のリーグの同じ順位のクラブと比べると、プレミアのクラブは遥かに金持ちなので、それなりに代表選手も揃えられますし、監督やコーチにも投資できます。そんなチームが3年も与えられれば、ある程度対応策が生み出されてしまうものです。加えて、今のシティはカウンターと即時奪還プレスが無いという縛りプレイです。
解決できるのか
要因仮説を①から④まで並べるというのは、問題解決の手法としてはへっぽこもいいところなのですが、そこには一旦目を瞑ります。
さて、①から④は解決できるのでしょうか。②はルベン・ディアスが加入し、ラポルトが戻ってきたので大分いい感じになりつつあります。左サイドバックには相変わらず適任者がいませんが。
③はグアルディオラがなぜベルナルドを信用しないのかよくわからないのですが、ベルナルドかフォーデンを素直に使ってほしいところではあります。ただし、ダビ・シルバの穴を埋め切るのは難しいだろうとは思います。
①が結構辛いところで、現在のチームでアンカーが務まるのは、遅いロドリか、これまた遅いギュンドアンか、35になってさすがにきつくなってきたフェルナンジーニョのどれかです。誰を出しても大差ないと言う気がします。
ちなみにロドリは、ジョルジーニョ(現チェルシー)、デ・ヨン(現バルサ)を逃した末に手に入れた選手ですが、仮にどちらかが買えていてもロドリと似たようなものな気がするので、グアルディオラの好みがちょっとおかしい気がします。昔500zooさんが呟いていましたが、現ナポリのバカヨコがシティで魔改造されていたら、ワンチャン面白かったかもしれません。
オワタ。グアルディオラの采配が当たった最後のが決まってればというマンC。しかしグアルディオラの要求に応えられるアンカーで歳食ってない選手ってマーケットにいるのかな?モナコのバカヨコはいい感じだったが
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2017年3月19日
「ファーストタッチ下手すぎ人間」として有名になってしまったバカヨコですが、あのパワーとリーチの長さは魅力的です。エヴァンゲリオンみたいな体型しているところもとてもたまりません。
検証したい。したくない?
ここから復活はあるのか、というと、グアルディオラにはちょっと引き出しがなさそうな気がしますが、まあそれは仕方のないことです。諸行無常、万物は流転するローリングストーンズです。
しかし、近年稀に見る支配を(1シーズン強とは言え)築いたチームがどうやって競争力を失うのか、という話として考えると、その裏には一般化できる法則がありそうな気がします。
ジャーナリストの方には、ぜひグアルディオラが「見え見え(に見える)問題をあえて放っておくに至ったトレードオフは何なのか」について聞いていただきたいところです。まあThe Athleticのサム・リーにDMして頼むのが一番早いとは思いますが。
戦術クラスタの方には、2年前と今で、シティと相手チームがそれぞれどう変わったのか、分析してみて頂きたいところです。今強いリヴァプールもきっとこうなるし、その次に出てくるチームもそうなるでしょう。それはなぜなのか、一般化出来る法則はあるのかというところが気になります。
プレミアリーグで経営が上手いのはどこなのか(中)
前回のまとめ
wegottadigitupsomehow.hatenablog.com
- サッカークラブの経営に関する指標の一つとして、順位に加えて、総資産当たりの勝ち点つーのはあるんじゃないですかね
- ビッグ6以外のクラブが6位以上に入るケースはどんどんレアになってきてますね
- 今から差を縮めることはできるんでしたっけ
- 一旦サッカー面だけ見てみると、「投じた人件費に対して得られた勝ち点」ではビッグ6みんなどんぐりの背比べですね。トッテナムを除いて
なぜトッテナムは奇跡を起こせたのか?
問題は、なぜトッテナムはそんなことができたのか、そしてそれを模倣することはできるのか、ということだ。すでに人が言っていることを得意げにまとめてみても仕方ないが、可能性をリストアップしてみる。
- 予測される原因①:選定・交渉が上手い人間がいる、または組織として上手い
ほぼ毎シーズン、獲得したうちの誰かは当たっている。でもなんで上手なのかはわからん。すまん。わからんわ。いきなりトートロジーっぽくて申し訳ないが。わからんが、トッテナムは2000年代からずっと、英国系を中心に若手を獲得するというトライアンドエラーを繰り返してきた。その蓄積かもしれない。ただし、これは人の引き抜きや模倣でそのうち追いつかれてしまう部分だ。
- 予測される原因②:耐用年数が長い資産を揃えて減価償却負担を下げつつ、リセールバリューを高める
要するに若い選手を買って長く使っている。契約年数が長くなれば単年の償却費負担は小さくなるし、若い段階から使えば、契約が更新できなくても売るときに高く売りやすいから、次の選手も買いやすい。そうでない例を挙げてみると、例えばマン・シティは基本的にブレイクしきった段階で買って30過ぎまで使い切ることが多いから単年の負担も高いし、売る頃にはすっかりベテランなので売っても二束三文だ。
- 予測される原因③:成績連動ボーナスの比重を高くして給料を抑えている
これはもう予測というか事実で、スパーズは売上高に対して偶発債務(条件を満たすと発動する負債)がめちゃでかい。タイトル取ったときのボーナスの比重を高くする代わりに、人件費を抑えているのだ。
- 予測される原因④:安いうちに長期契約を結んで高い移籍金設定で縛ることで人件費の値上がりを防いでいる
ケインの例のように、契約解除金を設定しないか、しても相当高めにしておくことで、引き抜かれるのを極力防ぐ。選手の入れ替えがあるとそれだけボラティリティが高まるし、費用上もなるべく長く在籍してもらったほうが旨味がでる。
- 予測される原因⑤:高値で売れる時期を見つけるのが上手い人間がいる、または組織として上手い
分母を大きくしようと思うと、高値で売却できることも大事だ。2010年代のスパーズは、この見極めもうまかった。モドリッチ、ベイル、ウォーカーはわかり易い例だが、カーディフからコウルカーに900万ユーロ出させるとか、トロントから(トロントから!)デフォーに730万ユーロ出させるとか、ケヴィン・ヴィマーとベンタレブで合わせて4,000万ユーロ近く稼ぐとか、そういう細かいところがうまかったのだ。さっき書いたように、若い選手が多いから価格が上がりやすいというのは大きいだろうが、デフォーまでそこそこで売れるのはよくわからない。売り先に対する分析が細かくて、提案営業ができていたのかもしれない。
- 予測される原因⑥:ロンドンライフ
④で長期契約を結んだとはいえ、選手からは不満も出てくる。なにせ右を見ても左を見ても、隣の芝は青いのだ。半分冗談ではあるが、そういうときに、ロンドンにあるというのは割と有利に働くのではないだろうか。少なくとも、リヴァプールやマンチェスター、バーミンガムにあるクラブと比較したら、給料以上のものが提供できると思われる。
なぜポイント収益性は下がってしまうのか
でもこのやり方、選手がいつまでも低待遇で我慢する秘密があるか、魔法が解ける前に収入規模で他の5クラブに追いつくかどっちかしないと、どっかで維持できなくなる。そして実際そうなった。
まず、人件費が爆増した。まだ業界トップのマンU、シティ、リヴァプールなどと比べると低い水準にあるが、売上と違って給与は一度上がると下がらないから、成績が下がればすぐ苦しくなる。
ケイン、ソン・フンミン、アリの給与は契約更改で上がってしまった(それでも後者二人の給料はびっくりするくらい安いが。スパーズ以外のビッグ6ならどこで1.5倍はもらえるだろう)。エンドンベレは初っ端から週給20万の大盤振る舞いだ。2018年には「給料が安すぎる」といってダニー・ローズが反乱を起こしていたが、多分ケインやその他の選手も、クラブとは緊張関係にあっただろう。今もあるかもしれない。
また、さっき挙げた5つのうち、⑥以外は全部、維持できる期間に限りがある。維持できなくなるとどうなるかというと、エリクセンのように普通に契約を消化されて、無料か安値で放出しなければならなくなる。エリクセン、ヴェルトンゲン、ワニャマ、ジョレンテ、デンベレといった辺りからは売却益があまり取れていない。スパーズはもともと総収入に占める選手売却益の比重が高い。つまり売る方にも結構依存していて、ずっと歯車を回し続けるのはやはり難しいのだ。
また、いかに人件費が勝ち点との相関が強いといっても、説明力は(たしか)0.5から0.6程度しかないから、成績の変動は他の要素でも簡単に起こりうる。また、金を積むと良い人材が取れるというのは市場が効率的であることを前提としているが、例えば監督やコーチについての市場は選手のそれよりも遥かに非効率だろうから、ハズレを引いてしまう可能性も高い。何が言いたいかというと、上で書いたのは全部、「比較的安価に、有能と想定される人材を取り揃え続けるための術」だから、実行できたところで勝ちを保証してくれるわけではないということだ。まあ、コーポレートサイドができることとしてはそんなもんなんじゃないかという気がするが。
綱渡りを余儀なくされる中堅勢
話が長くなったが、人材関連投資に対するポイント収益性において、スパーズという例は確かにある。でもそれをずっと維持し続けるのは難しく、2010年代のスパーズはそれこそ奇跡的なアウトパフォーマンスだった。
じゃあそれが真似できんのか?と期待したいところだが、中堅勢力自身のポイント収益性もすごい勢いで下がっているのである。
例えばエヴァートン。2017年以降の人件費の伸びは凄まじい。ベルナルジ、ミナ、ゴメス、ピックフォード、シグルズソンといった辺りは移籍金も高かったが給料のインパクトも大きい。その結果、売上高人件費率は100%を超えてしまった。こんな水準は何年も維持できない。かなり危ない橋を突っ走っているのだ。
この投資を支えるためにオーナーのモシリから3億ポンドの貸付がブチ込まれているが、そこから売上を生み出すのは簡単ではない。優れた人材を雇えばいいと言っても、それもまた金がかかる。しかも、他の19のクラブも(何なら他のリーグも)みんな同じことを考えているのだ。レスターやセインツ、ウェストハムも同様で、それぞれ収入の7割から8割を人件費に充ててかなり危ない橋を渡っているが、勝ち点は思うように伸びない。つまり、サッカー面で上手くやり続けること(だけ)でビッグクラブに成長するというのは、実際問題かなり難しいのだ。
サステナブルに強くなるには
勝ち点の収益性が一定の水準に収束すると想定すると、資産回転率を高めていかなければならない。でないと、赤字こきまくってしまうからである。オーナーが金を入れ続ければキャッシュフローは回るが、FFPに引っかかってしまう。だから売上を大きくしなければならない。
じゃあどうやって売上を大きくしていくねんというと、大まかには4つやり方がある。
- 選手に投資する→勝ち点→放映権料
- スタジアム等の設備に投資する→入場料
- 設備・人材・ネットワークに投資する→育成・獲得した選手の売却益
- 営業・マーケティングに費用を投じる→スポンサー収入
つまり、選手、スタッフ、スタジアム、練習場といった資産に投資する必要がある。
エヴァートンの資金の使い途(2019年時点)を2016年時点のシティと比べてみると、固定資産への投資が小さいのが分かる。
買収後にスタジアムの拡張工事、トレーニングコンプレックスの建設などインフラを整備したシティと比べると、エヴァートンはまだ投資先がサッカー面にとどまっているが、収入を増やそうと思うと、遅かれ早かれスタジアムやトレーニング施設に手を付けることになる。グディソン・パークはエティハド・スタジアムと比べると小さく、1試合あたりの平均観客数は約1万人も少ない。この間、5億ポンドで新しいスタジアムを建てる計画が通ったのは、このハンデを克服するためだ。
スポンサーシップ収入はどうだろうか。エヴァートンもこの10年で3倍まで増やしているが、上位クラブがそれ以上の勢いでスポンサー契約を増やしていくので、差は開く傾向にある。市場がグローバルに広がれば、人気があるクラブほど海外でスポンサーを見つけやすくなる。倍々ゲームだ(つらい)。
シティは、オーナーと関係が深い会社(エティハド航空、エティサラート、アーバルなど)からの契約を積み重ねて滑走路を作り、次に、営業チームを強化してグローバルにスポンサーを獲得していった。その強化も、イングランドだけでなく、アメリカ、日本、中国、南米、インドと各大陸に統括会社を置き、姉妹クラブを作ることで、世界で同時多発的に露出できますという形にした。
あるいは、トッテナムが北米でやったように、比較的手がついておらず、先行者優位が取れそうな地域に重点的に営業をかけるという手もある。スパーズは2010年代の前半から北米市場を重点的に攻めており、そのために招聘したグローバルパートナーシップのヘッドを結果が出ないので1年で解任したり、結構アグレッシブな人事をしていた。現在、アメリカにあるファンクラブの数ではトッテナムはプレミア最多だ。
ただしこれも、よほど空白地帯があるのでない限り、その国出身の選手がいるとか(例えばフリーデル、デンプシー、イェドリン)、オーナー企業がその国の会社だとか(例えばレスターとタイ)、あるいは極端な話その国にチームがあるとか(例えばCFGの姉妹クラブ)、特別な条件がないと一旦シェアを得ても長期的に維持するのは難しいように思われる。一般的なビジネスと違って、スポーツで競争を避けるというのはかなり難しい。
いずれにせよ、すでにリソースを持っている上位クラブに挑戦しよう、追いつこうと思うと、どうしても先行投資が必要になる。シェイク・マンスールやアブラモヴィッチがこれまで10億ポンドも突っ込んできたのも、それだけ積んで初めて、ビッグクラブとまともに優勝を争い、リーグにおいて優位に立てる、ということの裏返しでもある。それくらい、人気、ブランド、戦力、組織のあらゆる面で、伝統的なビッグクラブが積み上げてきたものは大きいということだ。まあミランみたいに自分からボロボロ取り崩していくところもあるが。
今シーズンはこれまでのところ、ビッグクラブとその他の成績が割と拮抗しているが、やっぱり不確実性はスポーツ観戦の醍醐味なので、道のりは厳しいが、エヴァートン、レスター、ニューカッスル、ウェストハムといった中堅どころには頑張ってほしいところ。多分、本気で追いつこうと思えば、かなり高い確率でFFPのVA(一定期間の赤字許容ルール)を使うことになるのではないだろうか。
次回、ビッグ6の10年史とこれから編に続く。
プレミアリーグで経営が上手いのはどこなのか(上)
ぷげ~。
じゃないわ、すみません。ジョンヨン活動休止のニュースに動揺して、#Likeyのモモちゃんになってしまいました。
さて、昨年末に2010年代のプレミアビッグ6を振り返ろうという企画をやった。
wegottadigitupsomehow.hatenablog.com
次は、なぜこうなったのか?というところを考えてみたい。
各クラブの“キャラ”はファンにある程度浸透している。ゲーゲンプレスのリヴァプール、ポジショナルナントカのシティ、小綺麗なサッカーのアーセナル。あるいは、固い守備とカウンターが有名だったかつてのチェルシー。放り込みのバーンリー。そういうサッカー面にキャラがあるように、経営の面でも“キャラ”がある。各クラブの経営にはどんなキャラがあるのか、経営の面でどこのクラブがうまくやっていたのか、そして次の10年で上手くやりそうなのはどこなのか、という点について、このクソコロナの世界から考えてみたいのである。だから「我がクラブこそは経営がうまい」と思っているファンの皆さんは覚悟していてください。
経営の“うまさ”をどう測るのか
まず、第一に考えるべきは順位だ。サッカーはスポーツだから、ピッチ内で勝つことが一番大事だ。降格したけど目標は達成できました、ということには普通ならない。よって、絶対的な順位やタイトルは指標の一つになる。
一方で、資金・歴史・文化など様々な意味でリソースはクラブごとに異なるので、それぞれのリソースの範囲内でどれだけいい成績を残せたか、という点も測りたい。もしそれが他のクラブよりも良ければ、そのクラブはリソースを使って継続的に勝利を生み出す術を他クラブよりも良く知っているのかもしれない。その強みを維持できるなら、もっとリソースがあれば更にいい成績を収められるかもしれない*1。
サッカークラブの活動は以下のような図で表すことができる。
このサイクルをどれだけうまく回すことができたかを図る指標として、総資産に対してどれだけの勝ち点を稼いだか(Points earned on Assets, POA)という概念を導入してみたい。勝ち点/総資産額。いわばサッカーのROAだ。目標といえそうな順位(例:優勝、CL、EL、残留)に継続して入っていて、POAも他のクラブより継続して高いところが、過去の10年間経営が上手かったクラブと言えるのではあるまいか。
POAで何がわかるか
総資産はビジネスにどれだけの資金をつぎ込んでいるかを示すので、まず「つぎ込んだリソースに対してどの程度の成績を収められたのか」ということがわかる。
また、成績が良い/悪いとしたら、その原因がどこにあるのかもある程度見ることができる。というのはつまり。POAは以下のように分解できる。
何が言いたいかというと、①②③はそれぞれ、さっき説明したサッカーの経営における活動を表しているということだ。
つまり、POAが競合と比べて高かったり、低かったりした場合、経営活動の中でどこが良いのか、悪いのかを分解してみることができる。
- ①が低ければ、例えばスタジアムの空席率が高かったり、スポンサー獲得が上手くいっていなかったり、あるいは現金を貯めこんで有効に使えていなかったりと、コーポレート側の問題が主に想起される。
- ③が低ければ、チームの戦術に合わない選手ばかり買っているとか、監督選びが一貫していないので選手が本領を発揮できていないとか、監督・FD含めて主にサッカー部門に問題があると考えられる。
- ②は高ければその分良い選手が買いやすいが、高すぎると赤字の原因になり、繰り返せば健全性が失われていくので、どの水準に保つかはクラブの経営方針が反映される。
つまり分解することで、各クラブの経営方針、いわばキャラがもう少し細かく見えるようになる。
なぜ移籍金ではないのか
閑話休題。よく、移籍金を「勝敗に直接的な影響を及ぼす指標」として語る話がある。今年で言えば、「チェルシーは2億ポンドもかけたんだから勝てるはず」みたいなやつだ。あれは割とナンセンスやなと思っている。
まず、移籍金はサッカークラブの経営の中のここしか測っていない。設備投資みたいなものだ。
他にも、指標として使うには、考えられるだけで以下のような欠点がある。
- 取引相手の性質や状況、選手の意向などで変動しやすい
- ワンタイムである
- ピャニッチ=アルトゥールの件のように水増しされている可能性がある
- 成績との相関が給与に比べて薄い
よって「選手への投資の多寡」を表す指標としては人件費の方が適切だ。とはいえ、FFPのルール上、移籍金(が減価償却される費用)も重要な費用項目だし、最近は売る方の移籍金を収入の柱に据えているクラブも多い。よって、「投資率」の指標としては「人件費+移籍金減価償却費」を使うこととする。
この10年で何が起きたのか?
年々金がかかるリーグに
2009/10から18/19までのPOAの平均を取ると、資産額1万ポンド当たりの勝ち点は、約70から20まで落ち込んだ。10年間で1/3以下だ。プレミアリーグという事業が拡大していて、勝ち点は有限だから当たり前といえば当たり前だが、プレミアで戦うためにはめちゃんこ金がかかるようになってきた。
突き抜けて投資しないと勝てない
ビッグ6のPOAはそれ以下のどのクラブよりも低い。辛うじてニューカッスルが近いくらいだ。
また下の表を見ると、上位クラブほど資産回転率が低いこと、また上位クラブほど人件費当たりで稼ぐ勝ち点が小さい傾向がわかる。
つまり、プレミアの上位クラブは生産性も、勝ち点の収益性も下位より悪いが、それでも気にせず突き進んでCL出場権や優勝を争っている。それぐらい投資しないと勝てないということだ。
ビッグ6とその他の差の格差拡大
ビッグ6とそれ以下のクラブの差がこの10年間で開いた、とはみんなが薄々思っていることではないだろうか。数字的にもそれは顕著で、09-14の間はスパーズ、リヴァプールとエヴァートンの間にほとんど差はなかったが、14-19になると平均勝ち点で約20の差がついている。もう遥か彼方だ。実際、14年以降にビッグ6以外で6位以内に入ったのはレスターとセインツが1回ずつしかない(09年から14年の間には4回あった)。中位クラブのファンから時折、プレミアを戦うのは虚しくなったという声を聞くのもおかしな話ではない。
ビッグ6に追いつくことはできるのか?
さて、2010年代の初頭にFFPが制定されて、ビッグクラブ行きのバスは出発してしまったと言われている。トッテナムとシティはギリギリ間に合った。リヴァプールも間に合った。エヴァートンは乗り遅れ、追いつくために猛チャージしている(もしFSGが2010年のタイミングでエヴァートンを買収していたらどうなっていただろうか?)。
理念はどうだか知らんが、実際問題、FFPの内容が競争バランスを歪める可能性が高いことは制定直後から指摘されており、今になって「うわー格差が広がってしまったー、そんな趣旨じゃなかったのにー」なんていうのはたわごともいいところだ。しかし、本当にバスは行ってしまったのだろうか?追いつくためには何が必要なのだろうか?
一旦、資金を調達すること、資産から売上を生み出すことは置いておこう。出来たとしようや。
例えばの話、優れた戦略、戦術、スカウティング、獲得交渉、分析、リロケーション、監督選び、セットプレー、分析、トレーニング、その他諸々の、すなわちサッカーマネジメントの面で競争相手を出し抜いて、リーグを“ハック”してしまうことはできるのだろうか。出来たとして、それを長期にわたって維持できるのだろうか。
トップ6の勝ち点収益性を見てみると、どこも同じような水準に収束してしまっている。どこも「かけた人件費に対して得ている勝ち点」では似たり寄ったりで、飛び抜けたパフォーマンスを見せているところはない。ただ一つの例外を除いては。
なぜトッテナムは奇跡を起こせたのか?
トッテナムの人件費当たりの勝ち点は、他のビッグ6を圧倒している。他の5クラブの約半分から2/3程度の人件費で、同じ勝ち点が取れていることになる。しかも10年間ずっとだ。10年間に渡って、同じように努力している他クラブをポイントの収益性で圧倒しまくっているのである。やばすぎる。
なんでこんな事ができるのか?ということについては、良い解説がネットの海にはすでに転がっていたりする。
スパーズがすげえぞっていうのは2つあって、年俸と補強費の強化費用に対してスポーツ面の結果が秀でててコスパが異常ってのがまず1つ。そして中位から上位に食い込んでちゃんと定着したっていうのがもう1つ。前者は現状で、後者は過去。もちろん未来の見通しはまた別。ただそれだけ。
— BANQ (@BANQUEBLEU) 2019年9月4日
あけすけに言っちゃえば、ケインやアリの出現は外れ値のラッキーだけど彼らをベースに今のスパーズのサッカー的成功は作られてるから、彼らを放出するとアカデミーから同じレベルの奴は出て来ないでしょ?じゃあ彼らを同じ年俸水準のまま引き止められるの?どんなレヴィの魔術で?ってことです。
— BANQ (@BANQUEBLEU) 2019年4月8日
すでに人が言っていることを得意げにまとめてみても仕方ないが、それでも、整理した上でエヴァートンやウェストハムがそれを模倣できるのかを考えてみたい。
が、長くなったので、今回はここまで。次回は、「ビッグ6に追いつくことはできるのか」をお楽しみに。
5分で知るマン・シティ / 2020/21 マンチェスター・シティ選手別プレビュウ
私が選手名鑑を書くとき、私は自分が読みたい文章を書いている。それが目的。
選手名鑑というのはかなりフォーマット化されていて、プレースタイルと、去年の調子と、ちょっと笑える(と書き手が信じる)アネクドートと、ネットジャーゴンを混ぜてぐるぐるっとするとできる。当然文章とか、ネタの選び方に個人の好みがあって、なかなか自分の好みに合うものがないので自分で書いてたんだけど、最近いろんな方が素晴らしいシティの名鑑を書かれるようになって、もう自分で書くことはないなと思うようになった。
ただ、各選手に感じている現時点での感慨を書き留めておくことには意味はあるだろうから、今年はそれを書く。
GK エデルソン・モライス
足元が上手すぎるとショットストッピングについて過小評価されるという好例。飛び出しが中途半端になりがちだという点を除けば、最高級のGK。でも最近パンチングが怪しくなったり、少しずつガタが来ている気配もある。
GK ザック・ステッフェン
Nobody Gets Fired For Buying an American Goalie. 安心と信頼の米国GKブランド。アドリアンを見ても分かるが、スタメンが強すぎると第2GKに良い選手が取れなくなるわけだが、ステッフェンのことは信頼している。
GK スコット・カーソン
実はまだダービーからローンしてるって知ってた?この、「ある程度の力があって第3GKでも文句言わないホームグロウン」枠、まさかジョー・ハートがこの歳で入っちゃうとは。
CB ルベン・ディアス
惚れた。
まず体格が良い。筋肉質で胸板が厚く、脚が短く手が長い。オタメンディはちょっと小さかったからな。そして強力なインサイドキック。FKもなんかうまそうな気がする(知らんけど)。その昔、多々良学園に田村さんというDFがいて、その後レノファ山口とかでもちょっとプレーしていたが、この人のパスやFKがまた上手で憧れてたのよ。その田村さんに似た、非常に安定感のあるボールの持ち方をしている。ルベンは田村さんです。
CB ジョン・ストーンズ
私は「ストーンズ、またもパワー負け」みたいなこと言っときゃ済むやろという風潮には全く与してなくて、彼がシティ移籍後に失望ばっかり残してきたというのも明確な事実誤認だと考えている。お前、2018年のレスター戦で怪我するまでのスーパーストーンズ知っとんか、と。しかしこの2年は悪い方にローリングストーンズだというのもまた事実だ。何ぼ何でも、怪我しすぎやね。アーセナル移籍のうわさもあったが、こういうタイプは絶対順位を下げる移籍をしない方がいい。多分そのまま格がずるずる落ちて行って終わりだ。
CB エメリック・ラポルト
ヴァンダイクの次にすごいCB。復帰直後のリーズ戦でいきなり縦パス一発で相手を崩した(その後先制点につながった)のを見て、やはりレベルが違うなと思った。怪我しないでほしいということ以外には特に要求はない。デシャンは一体何が気に入らんのだろうか?
CB ネイサン・アケ
有能なことはわかっているんだけど、こういう「良い選手であることには誰もが同意するんだけど、スーパーな選手とは誰も言わない」補強ってあんまり上手くいかんのよね。右のウォーカー的にCB/SBとして使えるというのもわかるが、ちょっと貧乏臭くてどうかと思う。
なんでそんなに嫌かというと、チェルシーがブラルーズとかベン=ハイム買ってお茶濁してたときと被るんだよね。良い選手なんだが。
CB エリック・ガルシア
そんなにバルサに帰りたいか!まあ良いけどさ。しかし、この「契約残り1年で延長せず残留」というのは、試合に全く出してもらえないかもしれないリスクをクラブに預けているわけで、個人事業主としてはかなり大胆なリスクテイクではないだろうか。ボハルデ状態になっても知らんぞ。
CB フィリップ・サンドラー
いるんだかいないんだか。スケールはでかいんだが。
RB カイル・ウォーカー
対面の相手を殺すということにかけては多分人類史上でも屈指の能力を持っているが、如何せん状況を侮りすぎるという資質が、世界的名声を得ることを妨げている。あと三次元になると対応が下手なんですね。もうちょっとDFとして洗練されていたら、多分世界最強のリベロになっただろうが。
RB ジョアン・カンセロ
狭い空間でも前を向ける自信と技術、多彩なクロス、デュエルの脆さ、スカスカな対地戦という特徴から、「左サイドバックでメンディと比較されてる」ときが一番輝いているという、訳わからん状態になってしまっている。まあ左サイドバックとしては第一選択肢でいいと思う。
関係ないが、カンセロとダニーロの交換も、双方で移籍金額を釣り上げて短期的な会計上の利益を高めに行っていたのではないか(アルトゥールとピャニッチでやったやつだ)という説を聞き、やはり移籍金の額をもって戦力をどうこう語るのはナンセンスだという思いを新たにした。選手の能力と差が生じ易すぎるのだ。
LB バンジャマン・メンディ
「生み出した決定機-生み出した決定的ピンチ」で考えたら実はかなりプラスなんじゃないか?という気もちょっとしている。少なくとも、自分の真横、またはやや後ろから来たボールをインサイドで叩いて内側に曲げながらゴール前に入れる、という芸当は世界広しといえどメンディ以外になかなか出来ないわけで、エリア内に叩ける人間がいないことで損している気配もある。
とはいえ、やはり決定的なミスが多すぎるのである。前任者のコラロフも正直守備はできなかったが、コラロフは「決定的にやられたときにその場にいないことで責任から逃れる」という能力がべらぼうに高かった。あんまり仕事しないのに謎に怒られない先輩みたいな。メンディにはそれがない。そして我々がアルバイトから学ぶように、この種の能力を後天的に身に着けることはまずできないのだ。
LB オレクサンドル・ジンチェンコ
やっぱりこのままサイドでやっていくには、もう少し強さか速さが欲しいよね。かわいいやつだよ、本当に。でもここにいるべきじゃないかもしれない。
DMF フェルナンジーニョ
昔マスチェラーノ、今フェルナンジーニョ。35になっても元気だが、最近ちょっと中盤で突っ込んでターンされる場面が目立ってきた。なぜか。ジーニョはプログラム次第でどうにでもプレーできる天才で、ファールマシーンとしても使えるし(@2014WC)、万能型のボランチにもなるし(@ペレグリーニ期)、マケレレとブスケッツを足して2で割ったみたいなアンカーにもなる。多分最近のガタは、やってるサッカーが過渡期で固まってなくて、ジーニョに入れるプログラムが曖昧になってるのを反映しているのだろう。あんまりアドリブは利かない人なのだ。
DMF ロドリ
マイボールにする能力とか、キープ力とか、縦パスの鋭さはさすがなんだが、ちょっと遅すぎて苦しんでいる。彼が遅いから前のプレシングが嵌らないのか、プレシングが嵌らないから彼の遅さが目立つのかはわからない。
CMF イルカイ・ギュンドアン
人類で5番目くらいにサッカーがうまい。デ・ブライネやシルバと違って一人で相手を崩せないし、チャレンジしないし、ということでファンからはすこぶる人気がなかったが、18/19、19/20とチームの競争力が落ちていく中で、安定したパフォーマンスを見せ続けるギュンドアンの価値が上がり続けている気がする。
CMF ケヴィン・デ・ブライネ
メッシとロナウドの次に来る人間。つまり、人類最高のサッカー選手ということだ。レヴァンドフスキとヴァンダイクも良い線行ってるが。もう攻撃から守備から、あらゆる局面で上手すぎて、特に言うことがない。ボールを絡めとる力も圧倒的で、多分今アンカーに据えたらサッカー史上に残る革命が起きると思う。まあKDB以上のアタッキングMFがいないからやれないが。
CMF トミー・ドイル
アカデミー上がりの若い子。キュッキュキュッキュターンして、上手いし周りが見えてるのはわかったが、もう少し意味のあるプレー選択をしてほしいなと思っている。まあ中盤の枚数足りないから、使わざるを得ないんだろう。今のチームの非力を感じさせる。
FW コール・パーマー
ひょろっとした身体に空いた口でテレンコテレンコ走る左利きの攻撃的MF。うん、いる!いるね!こういうタイプの選手!!この10年くらいあんまり見ないけど!少なくともシティでは初めて見たわ。現代的なドメニコ・モルフェオという趣もちょっとある。まあカップ戦で頑張ってほしい。
FW ベルナルド・シルバ
めちゃめちゃ疲れてましたね。去年は。いろいろさせたいのはわかるが、やっぱり、インサイドで使ってボール運搬とカウンタープレスに従事させた方がいいと思う。あれをやっているときのベルナルドは、今のシティに欠けているプレミアム感というか、一流感が出ているから(ほかの選手からは、悲しいかなあんまり出ていない)。
FW フィル・フォーデン
実は足が速くて体力がある、ということが分かってすっかりウィングになった。まあ上手いし、良い選手だけど、正直ウィングとしては平凡だと思う。これでバイエルンに勝つとか言ってても、みみっちくて悲しくなる。やはりダビ・シルバ路線を突き詰めるべきだと思う。
あくまでウィング路線で行くなら、突破力があるわけでもなし、とにかく点。点。点を取ることだけでしか評価されないと思う。点だ。不祥事は別にいいから(でもどんな顔して実家帰るんでしょうね)。
FW ラヒーム・スターリング
シーズン20点(リーグ)取ってもベストイレブンに入れないというのは、スターリングのある種の行き詰まりを示していて、いろんなことができるようになった結果、ちょっとインパクトが薄くなったかもしれない。ただのスーパーなアタッカー。ただのシーズン20点取れる人。次はもう一回、「カットインからの対角線ショット」と「抜け出してのフィニッシュ」を鍛えてみますか。とりあえずアーセナル戦のような、KDBかシルバの真似事のようなタスクはさせない方がいい。あれはいくらなんでも辛い。別にキープが上手いわけでもないし。
そういえばついでに書いておくが、こういうライバルクラブファンのアカウントを見た。シティに移籍した当初はひたすらスターリングを嘲笑していたのが、スターリングがシーズン15点から20点量産するようになり、ピッチ外でも黒人差別の打破に立ち上がり、1つのアイコンになっていくのにつれ、「スターリングはもっとチームの中心選手として輝ける素材だったのに、今はただグアルディオラのチームの部品の1つになった。僕はスターリングをずっと見てきて愛しているからわかる」と言うようになった。
圧倒的な姑息さである。「昔から知ってる」と「愛してるから苦言を呈してもいい」の重ね掛けだ。まあそっちに逃げたくなる気持ちはわからんでもない。でもやるのは道義に悖る。人として安い。だからやめましょうね、そういうの。あなたも私も。
FW リヤド・マレズ
あんまり言うことがない。普通に上手くて役に立ってると思います。シーズン二桁取るしね。でも競争を考えると、マネ&サラーに勝てるか?という点は問われてしかるべきだとは思う。 多分今サッカーファン1万人に聞いたら、1万人が負けてると言うだろう。二桁得点くらい、今のチームならナスリだって多分取る。
FW フェラン・トーレス
「バレンシアを出ていきたい3か条」、言ってる内容は別に良いんだけど、シティのようなメトロポリタンな職場では絶対に公言されてはならない(たとえ内容が妥当でもだ)タイプの発言なのでそれが不安だという話はした。要はマインドが少々田舎者なのではないかということだ。ノリートもちょっとそういうタイプだったと思うが。あと、ザネーと比べてのスケールの小ささを心配している。
FW セルヒオ・アグエロ
審判に触っちゃダメ、絶対。
やっぱり、KDB不在かつシルバ退団後のチームに戻ってくると、格が違うね。この10年でアグエロが歩んできた道のりを感じる。でもジェズス不在の中で、フィルミノ、オバメヤンといった他クラブのエースと本当に張った張ったで行けるか?というと、ちょっと衰えが来てるところもある。
FW ガブリエウ・ジェズス
怪我だとコメントのしようがない。早く戻ってきてほしい。左ウィングで使ったらプレミアでマネの次にすごい選手になれると思う。
FW リアム・デラップ
サイズの割にスピードがあるのが良いが、若すぎてまだカウントできない。頼るようになったら終わりだ。
ちなみにお父さんはロングスローを投げ始める前は、「怪我ばっかりしてるが、スキルがあって数年に一回超スーパーゴールを決める人」だったんだけど、その血は遺伝していないだろうか。
父ロリーのスーパーゴール
父ロリーのスーパーゴールその2(2:37から)