プレミアリーグで経営が上手いのはどこなのか(中)
前回のまとめ
wegottadigitupsomehow.hatenablog.com
- サッカークラブの経営に関する指標の一つとして、順位に加えて、総資産当たりの勝ち点つーのはあるんじゃないですかね
- ビッグ6以外のクラブが6位以上に入るケースはどんどんレアになってきてますね
- 今から差を縮めることはできるんでしたっけ
- 一旦サッカー面だけ見てみると、「投じた人件費に対して得られた勝ち点」ではビッグ6みんなどんぐりの背比べですね。トッテナムを除いて
なぜトッテナムは奇跡を起こせたのか?
問題は、なぜトッテナムはそんなことができたのか、そしてそれを模倣することはできるのか、ということだ。すでに人が言っていることを得意げにまとめてみても仕方ないが、可能性をリストアップしてみる。
- 予測される原因①:選定・交渉が上手い人間がいる、または組織として上手い
ほぼ毎シーズン、獲得したうちの誰かは当たっている。でもなんで上手なのかはわからん。すまん。わからんわ。いきなりトートロジーっぽくて申し訳ないが。わからんが、トッテナムは2000年代からずっと、英国系を中心に若手を獲得するというトライアンドエラーを繰り返してきた。その蓄積かもしれない。ただし、これは人の引き抜きや模倣でそのうち追いつかれてしまう部分だ。
- 予測される原因②:耐用年数が長い資産を揃えて減価償却負担を下げつつ、リセールバリューを高める
要するに若い選手を買って長く使っている。契約年数が長くなれば単年の償却費負担は小さくなるし、若い段階から使えば、契約が更新できなくても売るときに高く売りやすいから、次の選手も買いやすい。そうでない例を挙げてみると、例えばマン・シティは基本的にブレイクしきった段階で買って30過ぎまで使い切ることが多いから単年の負担も高いし、売る頃にはすっかりベテランなので売っても二束三文だ。
- 予測される原因③:成績連動ボーナスの比重を高くして給料を抑えている
これはもう予測というか事実で、スパーズは売上高に対して偶発債務(条件を満たすと発動する負債)がめちゃでかい。タイトル取ったときのボーナスの比重を高くする代わりに、人件費を抑えているのだ。
- 予測される原因④:安いうちに長期契約を結んで高い移籍金設定で縛ることで人件費の値上がりを防いでいる
ケインの例のように、契約解除金を設定しないか、しても相当高めにしておくことで、引き抜かれるのを極力防ぐ。選手の入れ替えがあるとそれだけボラティリティが高まるし、費用上もなるべく長く在籍してもらったほうが旨味がでる。
- 予測される原因⑤:高値で売れる時期を見つけるのが上手い人間がいる、または組織として上手い
分母を大きくしようと思うと、高値で売却できることも大事だ。2010年代のスパーズは、この見極めもうまかった。モドリッチ、ベイル、ウォーカーはわかり易い例だが、カーディフからコウルカーに900万ユーロ出させるとか、トロントから(トロントから!)デフォーに730万ユーロ出させるとか、ケヴィン・ヴィマーとベンタレブで合わせて4,000万ユーロ近く稼ぐとか、そういう細かいところがうまかったのだ。さっき書いたように、若い選手が多いから価格が上がりやすいというのは大きいだろうが、デフォーまでそこそこで売れるのはよくわからない。売り先に対する分析が細かくて、提案営業ができていたのかもしれない。
- 予測される原因⑥:ロンドンライフ
④で長期契約を結んだとはいえ、選手からは不満も出てくる。なにせ右を見ても左を見ても、隣の芝は青いのだ。半分冗談ではあるが、そういうときに、ロンドンにあるというのは割と有利に働くのではないだろうか。少なくとも、リヴァプールやマンチェスター、バーミンガムにあるクラブと比較したら、給料以上のものが提供できると思われる。
なぜポイント収益性は下がってしまうのか
でもこのやり方、選手がいつまでも低待遇で我慢する秘密があるか、魔法が解ける前に収入規模で他の5クラブに追いつくかどっちかしないと、どっかで維持できなくなる。そして実際そうなった。
まず、人件費が爆増した。まだ業界トップのマンU、シティ、リヴァプールなどと比べると低い水準にあるが、売上と違って給与は一度上がると下がらないから、成績が下がればすぐ苦しくなる。
ケイン、ソン・フンミン、アリの給与は契約更改で上がってしまった(それでも後者二人の給料はびっくりするくらい安いが。スパーズ以外のビッグ6ならどこで1.5倍はもらえるだろう)。エンドンベレは初っ端から週給20万の大盤振る舞いだ。2018年には「給料が安すぎる」といってダニー・ローズが反乱を起こしていたが、多分ケインやその他の選手も、クラブとは緊張関係にあっただろう。今もあるかもしれない。
また、さっき挙げた5つのうち、⑥以外は全部、維持できる期間に限りがある。維持できなくなるとどうなるかというと、エリクセンのように普通に契約を消化されて、無料か安値で放出しなければならなくなる。エリクセン、ヴェルトンゲン、ワニャマ、ジョレンテ、デンベレといった辺りからは売却益があまり取れていない。スパーズはもともと総収入に占める選手売却益の比重が高い。つまり売る方にも結構依存していて、ずっと歯車を回し続けるのはやはり難しいのだ。
また、いかに人件費が勝ち点との相関が強いといっても、説明力は(たしか)0.5から0.6程度しかないから、成績の変動は他の要素でも簡単に起こりうる。また、金を積むと良い人材が取れるというのは市場が効率的であることを前提としているが、例えば監督やコーチについての市場は選手のそれよりも遥かに非効率だろうから、ハズレを引いてしまう可能性も高い。何が言いたいかというと、上で書いたのは全部、「比較的安価に、有能と想定される人材を取り揃え続けるための術」だから、実行できたところで勝ちを保証してくれるわけではないということだ。まあ、コーポレートサイドができることとしてはそんなもんなんじゃないかという気がするが。
綱渡りを余儀なくされる中堅勢
話が長くなったが、人材関連投資に対するポイント収益性において、スパーズという例は確かにある。でもそれをずっと維持し続けるのは難しく、2010年代のスパーズはそれこそ奇跡的なアウトパフォーマンスだった。
じゃあそれが真似できんのか?と期待したいところだが、中堅勢力自身のポイント収益性もすごい勢いで下がっているのである。
例えばエヴァートン。2017年以降の人件費の伸びは凄まじい。ベルナルジ、ミナ、ゴメス、ピックフォード、シグルズソンといった辺りは移籍金も高かったが給料のインパクトも大きい。その結果、売上高人件費率は100%を超えてしまった。こんな水準は何年も維持できない。かなり危ない橋を突っ走っているのだ。
この投資を支えるためにオーナーのモシリから3億ポンドの貸付がブチ込まれているが、そこから売上を生み出すのは簡単ではない。優れた人材を雇えばいいと言っても、それもまた金がかかる。しかも、他の19のクラブも(何なら他のリーグも)みんな同じことを考えているのだ。レスターやセインツ、ウェストハムも同様で、それぞれ収入の7割から8割を人件費に充ててかなり危ない橋を渡っているが、勝ち点は思うように伸びない。つまり、サッカー面で上手くやり続けること(だけ)でビッグクラブに成長するというのは、実際問題かなり難しいのだ。
サステナブルに強くなるには
勝ち点の収益性が一定の水準に収束すると想定すると、資産回転率を高めていかなければならない。でないと、赤字こきまくってしまうからである。オーナーが金を入れ続ければキャッシュフローは回るが、FFPに引っかかってしまう。だから売上を大きくしなければならない。
じゃあどうやって売上を大きくしていくねんというと、大まかには4つやり方がある。
- 選手に投資する→勝ち点→放映権料
- スタジアム等の設備に投資する→入場料
- 設備・人材・ネットワークに投資する→育成・獲得した選手の売却益
- 営業・マーケティングに費用を投じる→スポンサー収入
つまり、選手、スタッフ、スタジアム、練習場といった資産に投資する必要がある。
エヴァートンの資金の使い途(2019年時点)を2016年時点のシティと比べてみると、固定資産への投資が小さいのが分かる。
買収後にスタジアムの拡張工事、トレーニングコンプレックスの建設などインフラを整備したシティと比べると、エヴァートンはまだ投資先がサッカー面にとどまっているが、収入を増やそうと思うと、遅かれ早かれスタジアムやトレーニング施設に手を付けることになる。グディソン・パークはエティハド・スタジアムと比べると小さく、1試合あたりの平均観客数は約1万人も少ない。この間、5億ポンドで新しいスタジアムを建てる計画が通ったのは、このハンデを克服するためだ。
スポンサーシップ収入はどうだろうか。エヴァートンもこの10年で3倍まで増やしているが、上位クラブがそれ以上の勢いでスポンサー契約を増やしていくので、差は開く傾向にある。市場がグローバルに広がれば、人気があるクラブほど海外でスポンサーを見つけやすくなる。倍々ゲームだ(つらい)。
シティは、オーナーと関係が深い会社(エティハド航空、エティサラート、アーバルなど)からの契約を積み重ねて滑走路を作り、次に、営業チームを強化してグローバルにスポンサーを獲得していった。その強化も、イングランドだけでなく、アメリカ、日本、中国、南米、インドと各大陸に統括会社を置き、姉妹クラブを作ることで、世界で同時多発的に露出できますという形にした。
あるいは、トッテナムが北米でやったように、比較的手がついておらず、先行者優位が取れそうな地域に重点的に営業をかけるという手もある。スパーズは2010年代の前半から北米市場を重点的に攻めており、そのために招聘したグローバルパートナーシップのヘッドを結果が出ないので1年で解任したり、結構アグレッシブな人事をしていた。現在、アメリカにあるファンクラブの数ではトッテナムはプレミア最多だ。
ただしこれも、よほど空白地帯があるのでない限り、その国出身の選手がいるとか(例えばフリーデル、デンプシー、イェドリン)、オーナー企業がその国の会社だとか(例えばレスターとタイ)、あるいは極端な話その国にチームがあるとか(例えばCFGの姉妹クラブ)、特別な条件がないと一旦シェアを得ても長期的に維持するのは難しいように思われる。一般的なビジネスと違って、スポーツで競争を避けるというのはかなり難しい。
いずれにせよ、すでにリソースを持っている上位クラブに挑戦しよう、追いつこうと思うと、どうしても先行投資が必要になる。シェイク・マンスールやアブラモヴィッチがこれまで10億ポンドも突っ込んできたのも、それだけ積んで初めて、ビッグクラブとまともに優勝を争い、リーグにおいて優位に立てる、ということの裏返しでもある。それくらい、人気、ブランド、戦力、組織のあらゆる面で、伝統的なビッグクラブが積み上げてきたものは大きいということだ。まあミランみたいに自分からボロボロ取り崩していくところもあるが。
今シーズンはこれまでのところ、ビッグクラブとその他の成績が割と拮抗しているが、やっぱり不確実性はスポーツ観戦の醍醐味なので、道のりは厳しいが、エヴァートン、レスター、ニューカッスル、ウェストハムといった中堅どころには頑張ってほしいところ。多分、本気で追いつこうと思えば、かなり高い確率でFFPのVA(一定期間の赤字許容ルール)を使うことになるのではないだろうか。
次回、ビッグ6の10年史とこれから編に続く。
プレミアリーグで経営が上手いのはどこなのか(上)
ぷげ~。
じゃないわ、すみません。ジョンヨン活動休止のニュースに動揺して、#Likeyのモモちゃんになってしまいました。
さて、昨年末に2010年代のプレミアビッグ6を振り返ろうという企画をやった。
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次は、なぜこうなったのか?というところを考えてみたい。
各クラブの“キャラ”はファンにある程度浸透している。ゲーゲンプレスのリヴァプール、ポジショナルナントカのシティ、小綺麗なサッカーのアーセナル。あるいは、固い守備とカウンターが有名だったかつてのチェルシー。放り込みのバーンリー。そういうサッカー面にキャラがあるように、経営の面でも“キャラ”がある。各クラブの経営にはどんなキャラがあるのか、経営の面でどこのクラブがうまくやっていたのか、そして次の10年で上手くやりそうなのはどこなのか、という点について、このクソコロナの世界から考えてみたいのである。だから「我がクラブこそは経営がうまい」と思っているファンの皆さんは覚悟していてください。
経営の“うまさ”をどう測るのか
まず、第一に考えるべきは順位だ。サッカーはスポーツだから、ピッチ内で勝つことが一番大事だ。降格したけど目標は達成できました、ということには普通ならない。よって、絶対的な順位やタイトルは指標の一つになる。
一方で、資金・歴史・文化など様々な意味でリソースはクラブごとに異なるので、それぞれのリソースの範囲内でどれだけいい成績を残せたか、という点も測りたい。もしそれが他のクラブよりも良ければ、そのクラブはリソースを使って継続的に勝利を生み出す術を他クラブよりも良く知っているのかもしれない。その強みを維持できるなら、もっとリソースがあれば更にいい成績を収められるかもしれない*1。
サッカークラブの活動は以下のような図で表すことができる。
このサイクルをどれだけうまく回すことができたかを図る指標として、総資産に対してどれだけの勝ち点を稼いだか(Points earned on Assets, POA)という概念を導入してみたい。勝ち点/総資産額。いわばサッカーのROAだ。目標といえそうな順位(例:優勝、CL、EL、残留)に継続して入っていて、POAも他のクラブより継続して高いところが、過去の10年間経営が上手かったクラブと言えるのではあるまいか。
POAで何がわかるか
総資産はビジネスにどれだけの資金をつぎ込んでいるかを示すので、まず「つぎ込んだリソースに対してどの程度の成績を収められたのか」ということがわかる。
また、成績が良い/悪いとしたら、その原因がどこにあるのかもある程度見ることができる。というのはつまり。POAは以下のように分解できる。
何が言いたいかというと、①②③はそれぞれ、さっき説明したサッカーの経営における活動を表しているということだ。
つまり、POAが競合と比べて高かったり、低かったりした場合、経営活動の中でどこが良いのか、悪いのかを分解してみることができる。
- ①が低ければ、例えばスタジアムの空席率が高かったり、スポンサー獲得が上手くいっていなかったり、あるいは現金を貯めこんで有効に使えていなかったりと、コーポレート側の問題が主に想起される。
- ③が低ければ、チームの戦術に合わない選手ばかり買っているとか、監督選びが一貫していないので選手が本領を発揮できていないとか、監督・FD含めて主にサッカー部門に問題があると考えられる。
- ②は高ければその分良い選手が買いやすいが、高すぎると赤字の原因になり、繰り返せば健全性が失われていくので、どの水準に保つかはクラブの経営方針が反映される。
つまり分解することで、各クラブの経営方針、いわばキャラがもう少し細かく見えるようになる。
なぜ移籍金ではないのか
閑話休題。よく、移籍金を「勝敗に直接的な影響を及ぼす指標」として語る話がある。今年で言えば、「チェルシーは2億ポンドもかけたんだから勝てるはず」みたいなやつだ。あれは割とナンセンスやなと思っている。
まず、移籍金はサッカークラブの経営の中のここしか測っていない。設備投資みたいなものだ。
他にも、指標として使うには、考えられるだけで以下のような欠点がある。
- 取引相手の性質や状況、選手の意向などで変動しやすい
- ワンタイムである
- ピャニッチ=アルトゥールの件のように水増しされている可能性がある
- 成績との相関が給与に比べて薄い
よって「選手への投資の多寡」を表す指標としては人件費の方が適切だ。とはいえ、FFPのルール上、移籍金(が減価償却される費用)も重要な費用項目だし、最近は売る方の移籍金を収入の柱に据えているクラブも多い。よって、「投資率」の指標としては「人件費+移籍金減価償却費」を使うこととする。
この10年で何が起きたのか?
年々金がかかるリーグに
2009/10から18/19までのPOAの平均を取ると、資産額1万ポンド当たりの勝ち点は、約70から20まで落ち込んだ。10年間で1/3以下だ。プレミアリーグという事業が拡大していて、勝ち点は有限だから当たり前といえば当たり前だが、プレミアで戦うためにはめちゃんこ金がかかるようになってきた。
突き抜けて投資しないと勝てない
ビッグ6のPOAはそれ以下のどのクラブよりも低い。辛うじてニューカッスルが近いくらいだ。
また下の表を見ると、上位クラブほど資産回転率が低いこと、また上位クラブほど人件費当たりで稼ぐ勝ち点が小さい傾向がわかる。
つまり、プレミアの上位クラブは生産性も、勝ち点の収益性も下位より悪いが、それでも気にせず突き進んでCL出場権や優勝を争っている。それぐらい投資しないと勝てないということだ。
ビッグ6とその他の差の格差拡大
ビッグ6とそれ以下のクラブの差がこの10年間で開いた、とはみんなが薄々思っていることではないだろうか。数字的にもそれは顕著で、09-14の間はスパーズ、リヴァプールとエヴァートンの間にほとんど差はなかったが、14-19になると平均勝ち点で約20の差がついている。もう遥か彼方だ。実際、14年以降にビッグ6以外で6位以内に入ったのはレスターとセインツが1回ずつしかない(09年から14年の間には4回あった)。中位クラブのファンから時折、プレミアを戦うのは虚しくなったという声を聞くのもおかしな話ではない。
ビッグ6に追いつくことはできるのか?
さて、2010年代の初頭にFFPが制定されて、ビッグクラブ行きのバスは出発してしまったと言われている。トッテナムとシティはギリギリ間に合った。リヴァプールも間に合った。エヴァートンは乗り遅れ、追いつくために猛チャージしている(もしFSGが2010年のタイミングでエヴァートンを買収していたらどうなっていただろうか?)。
理念はどうだか知らんが、実際問題、FFPの内容が競争バランスを歪める可能性が高いことは制定直後から指摘されており、今になって「うわー格差が広がってしまったー、そんな趣旨じゃなかったのにー」なんていうのはたわごともいいところだ。しかし、本当にバスは行ってしまったのだろうか?追いつくためには何が必要なのだろうか?
一旦、資金を調達すること、資産から売上を生み出すことは置いておこう。出来たとしようや。
例えばの話、優れた戦略、戦術、スカウティング、獲得交渉、分析、リロケーション、監督選び、セットプレー、分析、トレーニング、その他諸々の、すなわちサッカーマネジメントの面で競争相手を出し抜いて、リーグを“ハック”してしまうことはできるのだろうか。出来たとして、それを長期にわたって維持できるのだろうか。
トップ6の勝ち点収益性を見てみると、どこも同じような水準に収束してしまっている。どこも「かけた人件費に対して得ている勝ち点」では似たり寄ったりで、飛び抜けたパフォーマンスを見せているところはない。ただ一つの例外を除いては。
なぜトッテナムは奇跡を起こせたのか?
トッテナムの人件費当たりの勝ち点は、他のビッグ6を圧倒している。他の5クラブの約半分から2/3程度の人件費で、同じ勝ち点が取れていることになる。しかも10年間ずっとだ。10年間に渡って、同じように努力している他クラブをポイントの収益性で圧倒しまくっているのである。やばすぎる。
なんでこんな事ができるのか?ということについては、良い解説がネットの海にはすでに転がっていたりする。
スパーズがすげえぞっていうのは2つあって、年俸と補強費の強化費用に対してスポーツ面の結果が秀でててコスパが異常ってのがまず1つ。そして中位から上位に食い込んでちゃんと定着したっていうのがもう1つ。前者は現状で、後者は過去。もちろん未来の見通しはまた別。ただそれだけ。
— BANQ (@BANQUEBLEU) 2019年9月4日
あけすけに言っちゃえば、ケインやアリの出現は外れ値のラッキーだけど彼らをベースに今のスパーズのサッカー的成功は作られてるから、彼らを放出するとアカデミーから同じレベルの奴は出て来ないでしょ?じゃあ彼らを同じ年俸水準のまま引き止められるの?どんなレヴィの魔術で?ってことです。
— BANQ (@BANQUEBLEU) 2019年4月8日
すでに人が言っていることを得意げにまとめてみても仕方ないが、それでも、整理した上でエヴァートンやウェストハムがそれを模倣できるのかを考えてみたい。
が、長くなったので、今回はここまで。次回は、「ビッグ6に追いつくことはできるのか」をお楽しみに。
5分で知るマン・シティ / 2020/21 マンチェスター・シティ選手別プレビュウ
私が選手名鑑を書くとき、私は自分が読みたい文章を書いている。それが目的。
選手名鑑というのはかなりフォーマット化されていて、プレースタイルと、去年の調子と、ちょっと笑える(と書き手が信じる)アネクドートと、ネットジャーゴンを混ぜてぐるぐるっとするとできる。当然文章とか、ネタの選び方に個人の好みがあって、なかなか自分の好みに合うものがないので自分で書いてたんだけど、最近いろんな方が素晴らしいシティの名鑑を書かれるようになって、もう自分で書くことはないなと思うようになった。
ただ、各選手に感じている現時点での感慨を書き留めておくことには意味はあるだろうから、今年はそれを書く。
GK エデルソン・モライス
足元が上手すぎるとショットストッピングについて過小評価されるという好例。飛び出しが中途半端になりがちだという点を除けば、最高級のGK。でも最近パンチングが怪しくなったり、少しずつガタが来ている気配もある。
GK ザック・ステッフェン
Nobody Gets Fired For Buying an American Goalie. 安心と信頼の米国GKブランド。アドリアンを見ても分かるが、スタメンが強すぎると第2GKに良い選手が取れなくなるわけだが、ステッフェンのことは信頼している。
GK スコット・カーソン
実はまだダービーからローンしてるって知ってた?この、「ある程度の力があって第3GKでも文句言わないホームグロウン」枠、まさかジョー・ハートがこの歳で入っちゃうとは。
CB ルベン・ディアス
惚れた。
まず体格が良い。筋肉質で胸板が厚く、脚が短く手が長い。オタメンディはちょっと小さかったからな。そして強力なインサイドキック。FKもなんかうまそうな気がする(知らんけど)。その昔、多々良学園に田村さんというDFがいて、その後レノファ山口とかでもちょっとプレーしていたが、この人のパスやFKがまた上手で憧れてたのよ。その田村さんに似た、非常に安定感のあるボールの持ち方をしている。ルベンは田村さんです。
CB ジョン・ストーンズ
私は「ストーンズ、またもパワー負け」みたいなこと言っときゃ済むやろという風潮には全く与してなくて、彼がシティ移籍後に失望ばっかり残してきたというのも明確な事実誤認だと考えている。お前、2018年のレスター戦で怪我するまでのスーパーストーンズ知っとんか、と。しかしこの2年は悪い方にローリングストーンズだというのもまた事実だ。何ぼ何でも、怪我しすぎやね。アーセナル移籍のうわさもあったが、こういうタイプは絶対順位を下げる移籍をしない方がいい。多分そのまま格がずるずる落ちて行って終わりだ。
CB エメリック・ラポルト
ヴァンダイクの次にすごいCB。復帰直後のリーズ戦でいきなり縦パス一発で相手を崩した(その後先制点につながった)のを見て、やはりレベルが違うなと思った。怪我しないでほしいということ以外には特に要求はない。デシャンは一体何が気に入らんのだろうか?
CB ネイサン・アケ
有能なことはわかっているんだけど、こういう「良い選手であることには誰もが同意するんだけど、スーパーな選手とは誰も言わない」補強ってあんまり上手くいかんのよね。右のウォーカー的にCB/SBとして使えるというのもわかるが、ちょっと貧乏臭くてどうかと思う。
なんでそんなに嫌かというと、チェルシーがブラルーズとかベン=ハイム買ってお茶濁してたときと被るんだよね。良い選手なんだが。
CB エリック・ガルシア
そんなにバルサに帰りたいか!まあ良いけどさ。しかし、この「契約残り1年で延長せず残留」というのは、試合に全く出してもらえないかもしれないリスクをクラブに預けているわけで、個人事業主としてはかなり大胆なリスクテイクではないだろうか。ボハルデ状態になっても知らんぞ。
CB フィリップ・サンドラー
いるんだかいないんだか。スケールはでかいんだが。
RB カイル・ウォーカー
対面の相手を殺すということにかけては多分人類史上でも屈指の能力を持っているが、如何せん状況を侮りすぎるという資質が、世界的名声を得ることを妨げている。あと三次元になると対応が下手なんですね。もうちょっとDFとして洗練されていたら、多分世界最強のリベロになっただろうが。
RB ジョアン・カンセロ
狭い空間でも前を向ける自信と技術、多彩なクロス、デュエルの脆さ、スカスカな対地戦という特徴から、「左サイドバックでメンディと比較されてる」ときが一番輝いているという、訳わからん状態になってしまっている。まあ左サイドバックとしては第一選択肢でいいと思う。
関係ないが、カンセロとダニーロの交換も、双方で移籍金額を釣り上げて短期的な会計上の利益を高めに行っていたのではないか(アルトゥールとピャニッチでやったやつだ)という説を聞き、やはり移籍金の額をもって戦力をどうこう語るのはナンセンスだという思いを新たにした。選手の能力と差が生じ易すぎるのだ。
LB バンジャマン・メンディ
「生み出した決定機-生み出した決定的ピンチ」で考えたら実はかなりプラスなんじゃないか?という気もちょっとしている。少なくとも、自分の真横、またはやや後ろから来たボールをインサイドで叩いて内側に曲げながらゴール前に入れる、という芸当は世界広しといえどメンディ以外になかなか出来ないわけで、エリア内に叩ける人間がいないことで損している気配もある。
とはいえ、やはり決定的なミスが多すぎるのである。前任者のコラロフも正直守備はできなかったが、コラロフは「決定的にやられたときにその場にいないことで責任から逃れる」という能力がべらぼうに高かった。あんまり仕事しないのに謎に怒られない先輩みたいな。メンディにはそれがない。そして我々がアルバイトから学ぶように、この種の能力を後天的に身に着けることはまずできないのだ。
LB オレクサンドル・ジンチェンコ
やっぱりこのままサイドでやっていくには、もう少し強さか速さが欲しいよね。かわいいやつだよ、本当に。でもここにいるべきじゃないかもしれない。
DMF フェルナンジーニョ
昔マスチェラーノ、今フェルナンジーニョ。35になっても元気だが、最近ちょっと中盤で突っ込んでターンされる場面が目立ってきた。なぜか。ジーニョはプログラム次第でどうにでもプレーできる天才で、ファールマシーンとしても使えるし(@2014WC)、万能型のボランチにもなるし(@ペレグリーニ期)、マケレレとブスケッツを足して2で割ったみたいなアンカーにもなる。多分最近のガタは、やってるサッカーが過渡期で固まってなくて、ジーニョに入れるプログラムが曖昧になってるのを反映しているのだろう。あんまりアドリブは利かない人なのだ。
DMF ロドリ
マイボールにする能力とか、キープ力とか、縦パスの鋭さはさすがなんだが、ちょっと遅すぎて苦しんでいる。彼が遅いから前のプレシングが嵌らないのか、プレシングが嵌らないから彼の遅さが目立つのかはわからない。
CMF イルカイ・ギュンドアン
人類で5番目くらいにサッカーがうまい。デ・ブライネやシルバと違って一人で相手を崩せないし、チャレンジしないし、ということでファンからはすこぶる人気がなかったが、18/19、19/20とチームの競争力が落ちていく中で、安定したパフォーマンスを見せ続けるギュンドアンの価値が上がり続けている気がする。
CMF ケヴィン・デ・ブライネ
メッシとロナウドの次に来る人間。つまり、人類最高のサッカー選手ということだ。レヴァンドフスキとヴァンダイクも良い線行ってるが。もう攻撃から守備から、あらゆる局面で上手すぎて、特に言うことがない。ボールを絡めとる力も圧倒的で、多分今アンカーに据えたらサッカー史上に残る革命が起きると思う。まあKDB以上のアタッキングMFがいないからやれないが。
CMF トミー・ドイル
アカデミー上がりの若い子。キュッキュキュッキュターンして、上手いし周りが見えてるのはわかったが、もう少し意味のあるプレー選択をしてほしいなと思っている。まあ中盤の枚数足りないから、使わざるを得ないんだろう。今のチームの非力を感じさせる。
FW コール・パーマー
ひょろっとした身体に空いた口でテレンコテレンコ走る左利きの攻撃的MF。うん、いる!いるね!こういうタイプの選手!!この10年くらいあんまり見ないけど!少なくともシティでは初めて見たわ。現代的なドメニコ・モルフェオという趣もちょっとある。まあカップ戦で頑張ってほしい。
FW ベルナルド・シルバ
めちゃめちゃ疲れてましたね。去年は。いろいろさせたいのはわかるが、やっぱり、インサイドで使ってボール運搬とカウンタープレスに従事させた方がいいと思う。あれをやっているときのベルナルドは、今のシティに欠けているプレミアム感というか、一流感が出ているから(ほかの選手からは、悲しいかなあんまり出ていない)。
FW フィル・フォーデン
実は足が速くて体力がある、ということが分かってすっかりウィングになった。まあ上手いし、良い選手だけど、正直ウィングとしては平凡だと思う。これでバイエルンに勝つとか言ってても、みみっちくて悲しくなる。やはりダビ・シルバ路線を突き詰めるべきだと思う。
あくまでウィング路線で行くなら、突破力があるわけでもなし、とにかく点。点。点を取ることだけでしか評価されないと思う。点だ。不祥事は別にいいから(でもどんな顔して実家帰るんでしょうね)。
FW ラヒーム・スターリング
シーズン20点(リーグ)取ってもベストイレブンに入れないというのは、スターリングのある種の行き詰まりを示していて、いろんなことができるようになった結果、ちょっとインパクトが薄くなったかもしれない。ただのスーパーなアタッカー。ただのシーズン20点取れる人。次はもう一回、「カットインからの対角線ショット」と「抜け出してのフィニッシュ」を鍛えてみますか。とりあえずアーセナル戦のような、KDBかシルバの真似事のようなタスクはさせない方がいい。あれはいくらなんでも辛い。別にキープが上手いわけでもないし。
そういえばついでに書いておくが、こういうライバルクラブファンのアカウントを見た。シティに移籍した当初はひたすらスターリングを嘲笑していたのが、スターリングがシーズン15点から20点量産するようになり、ピッチ外でも黒人差別の打破に立ち上がり、1つのアイコンになっていくのにつれ、「スターリングはもっとチームの中心選手として輝ける素材だったのに、今はただグアルディオラのチームの部品の1つになった。僕はスターリングをずっと見てきて愛しているからわかる」と言うようになった。
圧倒的な姑息さである。「昔から知ってる」と「愛してるから苦言を呈してもいい」の重ね掛けだ。まあそっちに逃げたくなる気持ちはわからんでもない。でもやるのは道義に悖る。人として安い。だからやめましょうね、そういうの。あなたも私も。
FW リヤド・マレズ
あんまり言うことがない。普通に上手くて役に立ってると思います。シーズン二桁取るしね。でも競争を考えると、マネ&サラーに勝てるか?という点は問われてしかるべきだとは思う。 多分今サッカーファン1万人に聞いたら、1万人が負けてると言うだろう。二桁得点くらい、今のチームならナスリだって多分取る。
FW フェラン・トーレス
「バレンシアを出ていきたい3か条」、言ってる内容は別に良いんだけど、シティのようなメトロポリタンな職場では絶対に公言されてはならない(たとえ内容が妥当でもだ)タイプの発言なのでそれが不安だという話はした。要はマインドが少々田舎者なのではないかということだ。ノリートもちょっとそういうタイプだったと思うが。あと、ザネーと比べてのスケールの小ささを心配している。
FW セルヒオ・アグエロ
審判に触っちゃダメ、絶対。
やっぱり、KDB不在かつシルバ退団後のチームに戻ってくると、格が違うね。この10年でアグエロが歩んできた道のりを感じる。でもジェズス不在の中で、フィルミノ、オバメヤンといった他クラブのエースと本当に張った張ったで行けるか?というと、ちょっと衰えが来てるところもある。
FW ガブリエウ・ジェズス
怪我だとコメントのしようがない。早く戻ってきてほしい。左ウィングで使ったらプレミアでマネの次にすごい選手になれると思う。
FW リアム・デラップ
サイズの割にスピードがあるのが良いが、若すぎてまだカウントできない。頼るようになったら終わりだ。
ちなみにお父さんはロングスローを投げ始める前は、「怪我ばっかりしてるが、スキルがあって数年に一回超スーパーゴールを決める人」だったんだけど、その血は遺伝していないだろうか。
父ロリーのスーパーゴール
父ロリーのスーパーゴールその2(2:37から)
プロジェクト・ビッグピクチャーのインパクトと不条理について
泥棒がたまたま火事場にいるんじゃない、火事場が泥棒を引き寄せるんだ。
リヴァプールのオーナーであるジョン・W・ヘンリー、マンUのオーナーであるグレイザー家、そしてEFL会長のリック・パリーが提案したプロジェクト・ビッグピクチャーのおかげで、日曜から大騒ぎになっている。
提案の内容は、こちらに詳しい。
ただテレグラフは英語だし、ペイウォールがあるんですよね。日本語でまとめたもの、そして再編案の当事者であるEFL(2部~4部リーグ)の現状をまとめた資料としては、下記が詳しい。
想定される金銭的なインパクト
この案が通ったら(通らなかったが)、果たして実際どの程度の影響があったのだろうか。不確定要素もあるが、さくっと「Back-of-envelope」な計算をしてみたい。金額は18/19シーズンのものを使っている。
現時点でプレミア(EPL)→EFLに流れている金
- パラシュートペイメント:£265m
- ソリダリティペイメント:£106m 合計£371m
内訳:チャンピオンシップ(CS、2部)が£344m(93%)、リーグワンが4%、リーグツーが3%。
PBPが実行された場合のEFLへの収入
―)パラシュートペイメント £265m
+)放映権料 £3,000m x (25%-4%) = £630m
計)+£365m。
CSを例に取ると、このうち75%がCSに入るので、365 x 75% =£274m。1クラブ当たり+£11mの収入増加になる。
EFLへのインパクトの大きさ
- パラシュートペイメントを受け取っていないCSのクラブの平均収入は£23mなので、+11mがあれば売上が約5倍に増える。
- また、リーグ全体で人件費は売上よりも£52m高いという危険な状態にあるが、年間£274mの追加収入があればそれも埋まる。当期利益で黒を出すまでには至らないが、少なくともキャッシュフローを大幅に改善するだろう
- よって、EFLクラブの大半がPBPに賛成だったというのも無理はない
+)パラシュートペイメント £265m
―)放映権料 £3,000m x (25%-4%) = £630m
―)グラスルーツ分配金 £5,157m x 5% = £258m
計)マイナス £623m
上記は各クラブほぼ一律に拠出することになると想定されるので、1クラブ当たりの収入は約£35m減ることになる。
どれくらい痛いのか?
プレミアリーグ各クラブの収入を比べて見ると、大きく3つか4つのグループに分けることができる。
ビッグ6にとって年間△35mのマイナスは年間6~9%の売上に相当するが、欧州カップ戦の出場如何で変動する額よりも小さい。ビッグ6のどこも、£35m引かれても人件費割れ(人件費引いた時点で赤字になる状態)しない。
ウェストハム以下はインパクトが大きい。年間18%~29%の売上減になり、14クラブ中5クラブは人件費割れする。また、PBP案では各クラブが年間8試合まで放映権料を独自に管理できるが、中堅以下層がこのアップサイドを取る難易度は高い。
よって、プレミアリーグの上位層には影響は小さく、かつ(A)放映権料の分配における順位の比重が高くなること、(B)ルール変更のアップサイドを取りやすいことから、プレミアリーグ内での収入バランスは上位層に集中するのではないかと予想される。
PBPのおかしい点
「サステナビリティのために下部リーグへの分配を増やす」ということと、「プレミアリーグのガバナンスを上位クラブに集中させる」ということは、全然関係がない。全く違う2つの話が、トレードオフとしてプレートに載せられている。「やらない善よりやる偽善」という指摘が一部にあるが、「ガバナンスを明け渡す代わりに資金を受け取るか、破産するか」という問題のフレーミング自体がおかしいのである。下部リーグを救いたかったら前者だけやればいいし、そうすべきなのだ。
そもそもEFLのクラブが慢性的な資金難に喘いでいるのは現行の放映権料分配ルールの影響が大きく、それを決めたのは今のプレミアリーグを作った当時のビッグクラブだ。人の首を絞めて、絞めて絞めて絞めて、死にそうになってから離してやるとむしろ感謝される、というのは社会の哀しい一面だが、それを見て見ぬ振りするのは人心に悖るだろう。
というところで、プレミアリーグ内の緊急会議でPBPは却下された(リバプールとマンUも含めた全会一致で廃止という点が笑わせてくれる)。
All 20 @premierleague clubs agreed Project Big Picture “will not be endorsed or pursued”. Agreed to work “on a strategic plan for the future structures and financing of English football”. Will consult Govt, EFL and fans “to ensure a vibrant, competitive and sustainable pyramid”.
— Henry Winter (@henrywinter) 2020年10月14日
もちろん、次はCSへの短期救済案と、プレミア・EFL全体の収入配分の再編案を実行する必要がある。前者はプレミアリーグが担保するなりして早期に融資を取り付けるべきだが、緊急性が高いリーグワンとツーにひとまずの融資策がまとまったようなのでそれは安心した。後者の決定に当たっては、ファンの意見を反映した議論が行われるべきだろう。そう、私は今、べき論を話している。べき論なかりせば、ただ強い方、金がある方に流れてしまうだけだから。
ちなみに、PBPの出現に際して、わずか2日足らずの間にプレミアリーグ、しかもビッグ6のファンから組織だった抗議運動が出てきた点は特筆しておくべきだと思った。Integrityとはこういうことだと思う。
Joint Statement: Project Big Picture
— Kevin Parker (@KevinP184) 2020年10月13日
The OSC joins fans of Arsenal, Liverpool, Spurs, Chelsea and Manchester United to oppose Project Big Picture
Just spoken to Man City fans group @WeAre1894 who say 96% of their members oppose Project ‘Big Picture’
— Alan Myers (@ALANMYERSMEDIA) 2020年10月14日
イングランドのサッカーリーグの改造余地
ちなみに、「起こってほしくはないが」という仮定付きで、ビッグクラブがより「イングランドのサッカーリーグが持つ素晴らしい商業ポテンシャルを解き放ち」、「より大きな価値を世界に届けることができる」かもしれない案としては、何があるだろうか。
プレーオフの創出
リーグ戦の終盤には、視聴率的に死に試合が結構出てもったいない。2/3くらいやったところで上位6から8クラブだけがプレーオフに進み、2ヶ月くらい戦って優勝を決めるようにすれば、1試合当たりのPPVは高まるかもしれない(試合数全体の減少と天秤だが)
上位クラブへの固定分配制度の設立
海外におけるイングランドサッカーの人気を牽引し、グラスルーツや女子サッカーにも多大な貢献をする大手クラブに、貢献への対価として特別待遇枠の固定分配金を設ける。大手クラブの収益性は更に安定し、投資家に対して確実なリターンを保証することができ、サッカー界を牽引するための投資が可能になるという、正のサイクルが回せる。
リーグ戦の海外開催の導入
アメリカ、極東、中東、アフリカ、東南アジア・・・プレミアリーグ観戦を夢見ていても、様々な理由でそれを果たせないファンは世界中にいる。彼らに一生に一度のプレミアムな体験をしてもらうことで、プレミアリーグはもっと大きな価値をファンに届けられる。
他リーグ選抜との“ドリームマッチ”の創出
3年に1回、ラ・リーガ、ブンデス、セリエ、リーグ・アン、エールディビジ、あとはポルトガル辺りのリーグ選抜チームとのトーナメントを開催する。リーグカップとコミュニティーシールドの廃止、FAカップの短縮でカレンダー上の余裕は作れる。
FAカップリプレイの完全廃止
疲れるだけだ。
と、ここに挙げた例がどの程度現実的かは置いておいて、商業的なポテンシャルを追求しようと思うと、リーグのフォーマットから何から変えられる可能性がある。それが良いか悪いか。少なくとも、ファンの意見を十分に聞いて議論が行われるべきだろう。
レスター戦。あるいは競争による超過リターンの収束
こいつはやばいぜ!
いや本当に。昨シーズンからそうだったが、ボールを失う→サイドチェンジ。これだけでかなりの高確率でクリティカルなピンチにつながる、というのは何かがおかしい。いくらなんでも、間に合ってなさすぎる(なぜサイドチェンジだけでそうなるのだ?SBが両方上がっているからか?)。いくらなんでも、再現されすぎてる。昨シーズンから、最終ラインがあまりにも暴露されすぎており、CBだけ変えても解決しないんじゃないかと思っていたが、確信に変わった。
ところで、シティが5点以上失点したというのはここ最近記憶にない。あったっけ?記憶にある最後の5失点は、2007/08シーズンにチェルシーに6点食らったやつだ。ハビエル・ガリードが面白いように裏を取られていた。あとは、リバプールにCLで5点決められたんでしたっけ。見れなかったんですよね。
ところで思い返してみると、シティは多分、この10年で、プレミアリーグのほぼ全てのチームに5点以上決めている(こういうときは、良いことだけ思い出して精神の安定を図りたい。)
マンUは「Why always me?」のとき。
www.youtube.comアーセナルはペレグリーニ時代の6-3。
www.youtube.comリヴァプールはマネキックのとき。
スパーズは向こうがヴィラス=ボアスのとき(景気が良くて楽しくなる試合だった。日本代表はヴィラス=ボアスを雇ったほうが良い)。
チェルシーは2018/19シーズン。
シティもやられる側になっちまったと思うと非常に残念で、インターネットを開く気もしなくなるが(しかも失礼ながら、相手はレスターだ。シティに5点取られるのと、レスターに5点取られるのでは再現性がぜんぜん違うというのはレスターファンでも同意するところだろう)、一方でちょっと目線を変えてみると、1つのチームが持つピッチ内での優位性は、中長期的には競争によって縮小するという原則がしっかりと働いているのは興味深い。
上記はマッキンゼーが米国企業(金融機関除く)の成長率を集計したもので、当初は「超高成長グループ」と「縮小~横ばいグループ」で30%強もの差があったのに、わずか5年でほぼ同水準まで縮小している。ちなみにROEでも同じような結果が出ている。
これはすなわち、一時的に競争相手を大きく上回る成績を上げていても新規参入や競合による模倣、新たなビジネスモデルの登場、顧客やサプライヤーとのパワーバランスの変化、成長を維持するコストの増大などによって、優位性は徐々に失われてしまうということだ。
で、これはFFPが加速させる、すでに規模が大きいクラブの寡占化に反するような動きに見える。もちろん業界も違えば、売上高/資本リターンと、競技上のテクニカルな優位性の違いもある。競争を避けることが超過リターンにつながる一般企業、と異なり、サッカークラブは競争すること自体がレゾンデートルで、それが故に取りうる戦略の幅も狭い。よって、一概に同様の力学が働くとは言えないが、アナロジーが成立するようにも見えるのである。強いクラブは下位クラブよりも主に放映権料の面で大きな収入を得て、さらに選手に投資することでますます強くなり、差が開く・・・というのが基本的なメカニズムだが、一方でその優位性には、中長期的には消失していく力学も働くのだ。
まあ、「この力学は主に同じサイズのクラブの中だけで働く」とか、「今回のレスターのように中位~下位のクラブが1試合単位で優位に立つことはあっても、シーズンを通した成績で見ればリーグの構造は固定されて変わらないまま」というのも十分ありえることだが。例えばエヴァートンのオーナーはかなりの投資を行っており、P/L上も人件費をかなり危険な水準まで積み上げてビッグ6入りを狙っているが、功を奏していないのは結果を見るとおりだ。エヴァートンは今やカウントダウン中の爆弾を抱えているに等しい。
というようなことを、週末は考えていたのでした。
マンチェスター・シティはなぜCL出場停止にならなかったのか
前提事項
※用語
パネル:3人の弁護士から構成される評議会
CFCB:UEFAの独立審議機関
MCFC:マンチェスター・シティ
ADUG:アブダビ・ユナイテッド・グループ(シティの大株主)
HHSM:シェイク・マンスール(シティのオーナー)
エティハド:エティハド航空
以下、「xxx.」 という形で数字が付いているパラグラフは、下記CAS評決文の邦訳である。
https://www.tas-cas.org/fileadmin/user_upload/CAS_Award_6785___internet__.pdf
以下、UCLAロースクールの教授であるSteve Bank氏の解説を引用する箇所にはSB)と表記する。Tweetの詳細な解説は以下のスレッドを参照されたし。
93 pages. This should be fun. https://t.co/k4PoUeuwYr
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
筆者による文章は以降青字とする。
結論
- 上記に基づき、提出されたすべての証拠と弁論を十分に考慮した上で、パネルの大多数は以下の結論を出した。
(略)
- ii) 2014年の和解合意は、現在の控訴仲裁手続で問題となっている問題について、UEFA が MCFC を請求することを禁じているわけではない。
- iii) 2012 年 5 月に終了した年度及び 2013 年 5 月に終了した年度の財務諸表に関連する違反疑惑は時効となるが、2014 年 5 月に終了した年度の財務諸表に関連する違反疑惑は時効とならない。
- iv) 2013/2014シーズンのモニタリングプロセスで提出されたブレークイーブン情報に関連した違反疑惑は時効であるが、2014/15シーズンのモニタリングプロセスで提出されたブレークイーブン情報に関連した違反疑惑は時効ではない。
- vi) Etisalat からのスポンサーフィーを装った(ADUGまたはHHSMからの)資本注入疑惑に関する告発は時効となる。
- vii) リークされた電子メールは認められる証拠である。
- viii) パネルは、MCFCがHESMおよび/またはADUGからの出資をエティハドからの出資と偽っていたとは納得できない。
- ix) パネルは、MCFC が 2 つの問題に関して CFCB の調査に協力しなかったと認める。
- x) パネルは、MCFCに1,000万ユーロの罰金を科すことが適切であると判断する。
- xi) CFCB の訴訟費用の補償として、MCFC が控訴審判決で UEFA に支払うよう命じられた 10 万ユーロの金額を確認する。
344, その他のすべての申し立て、またはそれ以上の救済のための申し立ては却下される。
詳細
SB)CASパネルは、リークされたEメールに信憑性・信頼性がない、または認められないという潜在的な異議申し立てを却下することから始めている。つまり、ハッキングで得られた証拠だから無効という申し立ては予め排除している
本件の論点
2014年の和解合意の影響について
Q) 2014年の和解合意によって、今回の嫌疑は既に解決済みとみなされ、新たに罰せられることがなくなるのか
A) ならない。
154. 和解契約の締結に至った規制違反の疑惑は、現在の訴訟では争点にされていない。むしろ、本訴訟の主要な争点は、HHSM及び/又はADUGがエティハド及びエティサラットを通じてMCFCに偽装出資を行ったかどうか、また、MCFCがライセンス及びモニタリングのためにUEFAに提出した財務情報にこれが適切に反映されていたかどうかである。これらの具体的な請求は、和解契約で取り上げられている問題には触れていない。
時効について
Q) 時効が適用されるか?適用されるなら、どこまでが時効か?
A) 5 年の期間がいつから始まったのかについては、CASは両方の主張を棄却した。
- MCFCは制裁の5年前(つまり2015年2月14日)としている。
- UEFAは調査開始の5年前(つまり2014年2月7日)としている。
CASは、起訴開始日=2019年5月14日が重要であり、時効は2014年5月14日以前と指摘した。UEFAも、2012年5月締めシーズンと、2013年5月締めシーズンについては既に時効と認識していたため、UEFAの告発には実質的に影響しない。
SB)これによって、Etisalatに関する資本注入疑惑は、嫌疑の対象から外される。Etisalatからのスポンサーフィーの受け取りは時効期間内に行われているためである。
The impact of this decision is to exclude the alleged disguised equity funding through Etisalat, which occurred in 2012/2013 and was referenced in subsequent financial submissions pic.twitter.com/ZcJt0EugQU
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
SB)一方、Etihadからのスポンサーフィーについては時効期間と時効外期間にまたがっているため、一部のみ嫌疑の対象から外れる。
It also excludes part, but not all of the alleged disguised equity funding through Etihad, which went on longer than Etisalat pic.twitter.com/DfAnKwlM2b
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
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参考資料
漏洩メール1号(CAS評決文210.)
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漏洩メール3号
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漏洩メール6号
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資本注入があったのかについて
SB) 次の問題は、UEFAがその告発が期限切れではなかったことを証明できたかどうかである。多くの場合そうであるように、論点は立証基準である。パネルは、その基準が「Comfortable Satisfaction」であることには同意する*1が、主張が深刻であればあるほど、より高い基準が求められるという点ではMCFCとの意見が一致している。
The next issue is whether UEFA proved its charges that weren't time-barred. As is often true, this comes down to standard of proof. The Panel agrees that the standard is "comfortable satisfaction," but agrees with MCFC that the more serious the allegations, the higher the bar pic.twitter.com/c5jVl0QACz
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
SB) パネルの過半数は、漏洩した電子メールは、議論された取り決めが実際に実行されたことを証明していないため、それだけでは不正行為の直接の証拠を提供するのに十分であるとは認めなかった。
A majority of the panel didn't find that the leaked e-mails were sufficient by themselves to provide direct evidence of wrongdoing b/c they didn't prove that the arrangements discussed were actually executed pic.twitter.com/IRF9AnrLr9
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
SB) もう一つの問題は、流出したメールがあくまでMCFCの関係者間のものであって、疑惑のある第三者の資金提供者間のものではないということである。唯一の例外は、サイモン・ピアース氏であり、ピアース氏はMCFCとADUG、両者とのつながりがあった。しかし、パネルは、ピアース氏による疑惑の否定は信憑性があると判断した。
Another issue is that the leaked e-mails were between MCFC people, not the alleged third party funders. The one exception was Simon Pearce, who had ties to both. The Panel, however, found his denials credible pic.twitter.com/mchA0piFEY
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
- サイモン・ピアースがシェイク・マンスールまたはADUGを代表して契約を締結する権限があったことが立証されていない
- サイモン・ピアースの証言が虚偽であることの認定が必要だが、ピアースが実際にADUGを代表していたことを示す証拠がないことから、そのような結論は妥当ではない
- UEFAの主張は漏洩メール1号*2の記述に依拠しているが、ピアースはその資料内の「殿下」とは、シェイク・マンスールではなく、シェイク・スルタン・ビン・タフノン・アル・ナヒヤン殿下のことであると証言した
- パネルは、この点でのピアース氏の証言が不正確であったと考える理由はなく、UEFA からの「殿下」との言及が実際には マンスールのことであったという主張を裏付ける証拠もない。よってパネルは、漏洩メール1号が、ピアース氏がADUGの命令で契約を締結する権利を有していたことを示すということを、UEFAが証明できなかったと結論付けなければならない。
(以上、215から229を要約)
225. いずれにしても、漏洩メール1号の記述だけでは、ピアースが実際にマンスールまたはADUGからの資金注入によってスポンサー収入を偽装していたと立証することはできないとパネルは判断した。さらに言えば、漏洩メール1号は2010年に送信されたものであり、FFP成立の2年前であるため、仮にこれが実際に行われていたとしても当時は問題なかった。
漏洩メール6号に記載された、分割払いの件
236. こちらも、パネルの過半数の見解では、UEFAが主張しているように、59,500,000英ポンドの支払いがHHSMおよび/またはADUGによって資金提供された、または資金提供されるように調達されたという結論を裏付ける証拠はない
結果として、UEFAは求められる水準の立証が出来なかった。
証人喚問:
サイモン・ピアース、エティハド航空の元CEOであるジェイムズ・ホーガンが証言を行った。またMCFCは、エティハド航空グループの取締役兼財務投資委員長であるアフメド・アリ・アル・サイェフ、エティハド航空の企業内弁護士ヘニング・ズル・ハウゼン、およびエティハド航空グループCEOトニー・ダグラスからの書簡を提出した。
以下は246.のエティハド航空元CEOホーガン氏の証言の抜粋である。
"HHSMも、彼のプライベート投資ビークルADUGも、彼らの代理を務めるいかなる団体も、スポンサーシップ契約に基づくエティハドのスポンサーシップ義務を出資したり、償還したりしていません。スポンサーシップ義務は、上記の通り、エティハドの自己資金から支払われています。
私は関連する期間中ずっとPCEOを務めておりましたし、UEFAが申し立てたようにエティハドがMCFCに支払ったスポンサー料の確保または償還のための取り決めが存在していれば知っていたはずですが、私はそのような取り決めは承知しておりません"
以下は249. のアル・サイェフ氏の書簡の抜粋である。
当社は、スポンサーシップ契約のいずれに関連しても、直接・間接を問わず、前払金やその後の払い戻しの方法を問わず、ADUG、HHSM、またはそれらに支配されているか影響を受けている個人・団体から、いかなる支払いも受けていませんでした。この証明書を提供する一環として、私のチームのメンバーが、2008 年 8 月 23 日から今日までの間、会社の電子版総勘定元帳のキーワード検索を行いました。現金出納帳全体の検索では、HHSMまたはADUGのいずれからも£250,000(または他の通貨での同等額)を超える領収書は確認されませんでした。
以下は251. のダグラス氏の書簡の抜粋である。
書簡の第 4 項には、当社がスポンサー契約に関連して ADUGや HHSM からいかなる支払いも受けていないことが記載されています。私は、疑義を避けるために、当社が[ADUG]または[HHSM]またはそれらに支配されている、または影響を受けている個人または団体から、直接的、間接的を問わず、いかなる金銭も受け取っていないことを確認します。当社はアブダビを拠点とする民間航空会社です。ご理解いただけると思いますが、[ADUG]および/または[HHSM]は、スポンサー契約やその他のスポンサーシップとは一切関係なく、当社から航空券を購入している可能性があります。
会計上のエビデンスについて
- パネルの過半数は、いずれにせよ、エティハドが関連機間中にスポンサー契約に基づく全額をMCFCに譲渡したことが会計上の証拠から明らかになっており、HHSMおよび/またはADUGからの資金提供が直接エティハドに送金されたか、または正体不明の第三者を通じてHHSMおよび/またはADUGから資金提供を受けるために調達されたという仮説を裏付ける意味のある証拠はないと判断している
資本注入があったかどうかに関する結論について
- 以上のことから、エティハドがMCFCに対する支払い義務を完全に遵守し、MCFCが契約上合意されたサービスをエティハドに提供したことは疑う余地がない。パネルの大多数は、エティハド・スポンサーシップ契約は公正価値で交渉されたものと推定され、MCFC、HHSM、ADUGおよびエティハドは「関連当事者」には該当しないと判断している。エティハド・スポンサーシップ契約は法的拘束力のある契約であった。契約が遡及されていたという証拠はなく、また、MCFCがリークされた電子メールの公表後に遡及して違反の疑惑を隠蔽しようとしたという証拠もない。
- リークされた電子メールには、エティハドのスポンサーシップ拠出金がHHSMおよび/またはADUGによって資金提供される、または資金提供されるように調達されるという取り決めが記載されています。HHSMおよび/またはADUGとエティハドの参加は、取り決めが実行されるための前提条件であるが、そのような参加は確立されていない。ピアース氏はリーク電子メールで議論された取り決めを実行しようとした可能性があるが、パネルの大多数の見解では、ピアース氏が実際にそのような試みを実行した、あるいは成功したことを立証する証拠はファイルに存在しない。
- 目の前にある証拠、特にパネルが再度指摘するように裁決会議所に提出されなかった証人の供述、エティハドの幹部が発行した書簡、MCFCが提供した会計証拠に基づいて、パネルの大多数は、リークされた電子メールで議論された取り決めが実際に実行されたとは確信していない。MCFCとHHSMおよび/またはADUG、あるいはHHSMおよび/またはADUGとエティハドとの間で実際に取り決めが行われたこと、あるいはHHSMおよび/またはADUGがエティハドのスポンサーシップ義務の一部に直接資金を提供していたことを立証する十分な証拠はファイルにはない。下図に示すように、HHSMおよび/またはADUGとエティハドとの間に関連性が証明されていない場合、パネルの大多数は、エクイティファンディングの偽装に関するUEFAの理論は、依然として根拠がないと判断している。
MCFCのCFCB調査への非協力に基づく不利益推論について
- パネルは、MCFC が CFCB に要求された情報を提供することに非常に消極的で、時には非協力的であり、MCFC がパネルに提出した実質的な証拠は、調査会議所や裁定会議所に提出されなかったものであると判断した。後述の非協力の罪状について、以下に詳述するが、パネルは、裁決会議所は、このような非協力を理由に MCFC に正当な制裁を与えたと判断した。この不協力の程度と厳しさについては後述するが、MCFC が出資金をスポンサー収入として偽装していたかどうかを判断するという観点からは、パネルの大多数は、流出した電子メールで議論された「取り決め」が実際に実行されたという UEFA の主張を裏付ける証拠がファイル上にほとんど存在しないという状況に直面している。
- パネルは、十分な説明もなく証拠が提出されなかったことから不利な推論を導き出す可能性があることを認識しており、すなわち、証拠が提出されなかったと仮定することは、MCFC の利益に反することになる。(※証拠(データ)が破壊されたり,なくなったりしたことにより,それを提供できなかった当事者にとってそのデータは不利であったのだろうと推定できるということ)*3
- UEFA の答弁書には、4 回の文書提出要求が含まれていたが、MCFC はその要求に一部応じただけであり、その後 UEFA は、残りの証拠の提出要求を追及する必要はないと考えた。したがって、審問時点では、パネルに未解決の証拠開示請求はなかった。
- 結果として、UEFAが、リークされた電子メールの一部を構成する一連の電子メールの提供要求を追求しなかったため、パネルの大多数は、MCFC がそのような情報を提供しなかったことから不利益な推論を引き出すことはできないと判断した。
SB) では、なぜCASの過半数はシティにとって不利な推論をしなかったのだろうか(※資料の一部を最後まで提出しなかった=この証拠はシティにとって不利な情報が入っているのだろう、と推論することをしなかった)。それは、流出した電子メールのうち、流出していない部分の証拠請求をUEFAが行わなかったからだ。国際仲裁規則では、不利な推論を主張するためには、提出されなかった証拠を要求しなければならない。
So, why didn't a majority of CAS draw the adverse inference? Because UEFA didn't follow through on its evidentiary requests for the unleaked part of the leaked e-mails. You have to request the evidence not produced to argue adverse inference under Int'l Arbitration rules pic.twitter.com/s7yEIyNqrU
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
SB) なぜだろうか?どうやら、もしUEFAが仮に証拠の提出を求めていたならば、2020-2021年のUEFAクラブコンペティションシーズン中に提出することになっていたようだが、UEFAはそうしなかった。
Why not? Apparently, if UEFA had pushed for production of the evidence through an interlocutory proceeding, it would have pushed the case in the 2020-2021 UEFA club competition season, which it chose not to do pic.twitter.com/R4e1QD39Ci
— Steven Bank (@ProfBank) 2020年7月28日
- この点でのUEFAのアプローチは、追加の証拠を入手することと、2020/21 UEFA クラブ競技会シーズンの開始前に裁定を受けることとの間のジレンマに直面していたため、理解できる。UEFAが追加証拠の提出を主張すれば、新シーズンへの手続きを引き延ばすことになるのは必至であるため、この2つの選択肢は現実的には両立しなかった。このジレンマに直面したUEFAは、後者の選択肢を支持することにした。
UEFAは、情報請求を続けた場合、CASの裁定が遅れるリスクと天秤にかけ、情報請求をやめることにした。結果として、MCFCが要求された情報の一部を提供しなかったことについて、不利益推論は成り立たないとCASは判断した。
MCFCはCFCB調査に協力しなかったかについて
- パネルは、CFCB 首席調査官が要求した証拠のうち、CFCB に提供されなかったが、最終的に CAS の本手続で提出されたものと、一度も提出されなかったものを区別することが重要であると考えている。
提出されなかった資料
- UEFAは証拠開示請求2号を追求することができたにもかかわらず、2020年5月15日付の書簡で「証拠開示請求2号を主張する必要はない」とし、「証拠開示請求2号を維持していない」ことを示したため、証拠開示請求2号を追求しなかった、とパネルは判断した。そのため、UEFAはMCFCが電子メールを提供することを期待していなかったし、パネルにMCFCに文書の提出を求めることもしていなかった。パネルの過半数の見解によれば、MCFCがこれらの文書を提出しなかったことから不利益な推論を引き出すことはできないだけでなく、提出しなかったことを理由にMCFCを制裁することはできない。
最終的にCASに提出された資料
- サイモン・ピアース、アンドリュー・ウィドウスンの招喚
- 漏洩メール2号における「モハメド」が誰なのかに関する開示
- 漏洩したメールの完全かつ正確なコピー
上記3点については、シティはCFCBの要求に答えず、CASの本手続きで始めて回答した(3点目は最後まで部分的であった)。
- したがって、パネルの過半数は、MCFC が 3 つの個別の問題に関して CFCB の調査に協力せず、CLFFPR 第 56 条に違反したと判断する。
UEFAは最後まで、求められる水準の立証が出来なかった。シティが非協力的だった3つの事柄(上記参照)がより早い段階で提供されていれば、立証できただろうか?それは判断しかねるが、そもそもハッキングされたメールは550万通あった。なぜここに至るまで、6通のメールしか使っておらず、残りの549万9,994通を使わなかったかは判らない。
なお、このこと(要求された情報を部分的にのみ提供したこと)は、前述の「資本注入があったのか」についての判断を覆すほどの重要性があったとは判断されていない。
感想)
個人的な意見としては、シティのような特別なオーナーシップのクラブで、リークされたようなメールのやり取りをしていれば、事実に関係なくサッカーファンから疑いを受けても致し方ない(正当とは言わんが、疑われるのを避けるのは無理)ので、あの名言を胸に刻んで頑張ってくださいという感じ。 pic.twitter.com/5nfZvDK4gV— sake (@szakekovci) 2020年7月29日
空しき勝利である。いや、勝つに越したこたあないよ。CL出場停止になるより2万倍良い。このCASの仲裁手続において、今回以上の結果を収めることは難しかっただろう。そういう意味では完勝だ。しかし、誰かが「黒だ」と言ってきたら、「いや、そうとは判定されませんでしたよ」と言い返しはするが、「白だ」と言って回る気は無い。そういう感じだ。
立証責任がUEFAにあり、かつその立証が全く出来なかったこと(読めば判るが、資本注入疑惑については、UEFAは可哀想なくらい完敗している)、シティ側もエティハド航空の会計記録を最終的に提供していることは事実としても、リークされたメールはあまりに明け透けで、邪推を呼ぶものだ。あのメールが出てれば、いくら裁判で勝っても、そりゃ「インチキだ」と言ってくる奴は世に尽きまい。現に、IndependentやThe Guardian、Sport Intelligenceのようなマスメディアのジャーナリストが、ちょっとどうかと思うくらい、評決文中の超どうでも良い(けどそこだけ切り出したらセンセーショナルに聞こえる)形容詞を抜き出してエグい見出しをつけて記事を出している。興行ビジネスでここまでの敵意・悪意を持たれてしまったら負けでしょう。
また、シティ側がUEFAの焦りを知っていたかどうかを知る由はないが、結果的にCFCBの要求に対して情報提供が遅れたことがプラスに働いた可能性はある。UEFAがその追求を途中で放棄したために、その点について脛に傷があると推測されなかったことはラッキーだが、同時に「意図的にプロセスを遅らせて有利に持ち込んだんだ」という指摘を棄却しきれないということでもある。気分悪いね。
どうもこうも。
マンチェスター・シティはなぜCL出場停止にならなかったのかについての推測
う~I just wanna make you happy あーもう!
じゃないわ。すみません間違えました。
- 前文
- Stefan氏の問題提起: UEFAの立場から見て、この件でCityを出場停止とするには大きなハードルが2つ(時効と、和解合意の存在)がある
- まず事実確認
- 過去にシティが下された処分
- それらを踏まえて、Stefan氏の見解を再確認
- 論点①:証拠がハッキングで取得されたものだから撤回されたのか
- 論点②:「時効引き伸ばし問題」はあり得たのか
- 論点③:時効でない期間の疑惑は追求できるのか
- 論点④:なぜ罰金があるのか。「非協力的だった」というのはどういう意味か
- 論点⑤:FFP自体の正当性を訴えると脅したのか
- 関連する報道 - UEFAは何を考えていたのか?
前文
さて、7月13日にシティのCL出場停止が撤回された件について。この件に関して、実に色んな人が、色んな話をしている。問題は、この件について話をしている人の大半、あなたも私も、ジャーナリストもアナウンサーも、ぶっちゃけこの件についてよくわかっている状態で喋ってるようには見えないということである*1。
最終的に何らかの論点がブラックボックスなプロセスとロジックで決まったというなら、それはそれでいい。だとしたら、何が論点だったのか、それがこの結果になりうるとしたらどんなロジックと政治的駆け引きが想定されるのか。そういうことを知りたい。それらに踏み込まないで、「産油国の財力を持ってすればUEFAやスイスの裁判所など一捻りなのだ」とか、「UEFAは無能」とかで片付けられるとちょっと物足りないのである。
大前提として、CASは非常にシンプルな発表しかしておらず、「どの部分が“時効“で、どの部分が“成立していない”なのか」「なぜ罰金の額を減額するのか」等は、追加発表がないと判らない。
一方で、何が論点になりそうかという点については、約半年前の時点で弁護士による解説が公開されており、これが現時点で発表されているCASの判決文にかなり関連していそうなのである。参考にしたのは、英国の弁護士であるStefan Borson氏の寄稿。氏はシティファンだということではあるものの、内容は極めてテクニカルな内容になっており、今回の件の論点と、一般的な法解釈に照らした場合の見解が包括的に把握できるものとなっている。
ちなみに、この記事は2月にはもう出ていて、日本語でもSchumpeter氏がもう解説して下さってたのだが、不勉強ながらチェックしていなかったので、最近まで論点が分かっていませんでした。
>RT CFCB手続規則の第37条に
— schumpeter🍣 (@milanistaricky) 2020年2月18日
Prosecution is barred after five years for all breaches of the UEFA Club Licensing and Financial Fair Play Regulations.
と書いてあるのだが、どうしてCFCBは2012年以降の情報についてシティに制裁を科せたんだろうか?https://t.co/LTAqKM1m0O
Stefan氏の問題提起: UEFAの立場から見て、この件でCityを出場停止とするには大きなハードルが2つ(時効と、和解合意の存在)がある
まず事実確認
そもそも何の疑いが掛けられているのか
2019年3月7日のUEFA発表。"独立したUEFAクラブ財務管理機関(以下「IC」)の調査室は本日、マンチェスター・シティFCに対し、フィナンシャル・フェアプレー(FFP)規則違反の可能性があるとして正式な調査を開始した。調査は、最近様々なメディアで公表されたいくつかのFFP違反疑惑に焦点を当てることになる。"
2019年5月16日、UEFAは次のような審判決定を発表した。"クラブ財務管理機関(CFCB)の主任調査官は、CFCBの独立調査室の他のメンバーと協議した後、マンチェスター・シティFCをCFCBの審査期間(Adjudicatory Chamber)に送致することを決定した。"
そしてどんな決定が下ったのか;UEFAクラブ財務管理機関の審査機関の決定
2020年2月14日、UEFA発表。"審査機関は、すべての証拠を検討した結果、マンチェスター・シティ・フットボールクラブが、2012年から2016年の間にUEFAに提出された決算書と損益分岐情報においてスポンサー収入を過大表示することにより、UEFAクラブライセンスおよび財務フェアプレー規則に重大な違反を犯したことを明らかにした。"
過去にシティが下された処分
2014年の和解合意
2014年5月16日、シティはUEFAとの間で、2013/14、2014/15、2015/16の3シーズンを対象とした報告期間中のFFP調査に関する和解合意書(Settlement Agreement)を締結した(以下「2014年和解合意書」と呼ぶ)
2014年和解合意書の期間中、シティは自らの合意のもとで、すべての関連条件を遵守していることを証明する進捗報告書を半年ごとに提出することを含む制限を受けた。
→どういうことかと言うと、2012年から2014年にかけて、シティはFFPに違反した(損失を一定範囲以内に抑えるというルールを守れなかった)ので、それに対して2014年の時点で処罰を受けて、かつその後、上記3シーズンにかけてモニタリングを受けることになった、ということである。この処罰の内容は、罰金、CL登録人数の削減、給与を一定範囲内に抑えること、などであった。*2
2017年のリリースレター
2017年4月21日のUEFA発表。UEFAのCFCB調査室は、シティが前述の和解合意に関する全ての要件を完全に遵守し、開放されることを確認するレター(リリースレター、Letter of Release)を発行した。
それらを踏まえて、Stefan氏の見解を再確認
1)2019年5月15日から5年以上前の違反疑惑は、時効のため訴追できない(→2014年5月15日以前の疑惑が対象外になり、2014-15、2015-16の疑惑のみが対象になる)
2) 2014-15, 2015-16の2シーズンについては、上記の和解合意にある通り、既にFFP違反で処罰され、またリリースレターの発行によってその処置が完了し、最終的かつ拘束力のあるものになったので、これ以上訴追できない。(→2014-2016の疑惑が対象外になる)
2) は云わば、同じことを2度は罰せず、またすでに決定された訴訟や和解は最終性を持っている(再審できない)という原則である。これが適用されるか否かは、当事者(UEFA とシティ)、問題の主題(過大なスポンサー契約)、法的根拠(FFP)の同一性が同一である場合にのみ適用されるというトリプル・アイデンティティ・テストによって決定されるそうである。
パッと考えて、上記の2点から、UEFAが今回シティをFFP違反自体で罰するのは難しいのではないか、という指摘である。これに対して、UEFAがどんなディフェンスを展開するのかが本件の焦点であった。*3
論点①:証拠がハッキングで取得されたものだから撤回されたのか
多分違うっぽい。詳細は発表を待たなければならないが、1)CASの声明には証拠の信頼性を伺わせるものはない、2) 違法に取得した情報でも、過去に証拠として扱われた例はある
論点②:「時効引き伸ばし問題」はあり得たのか
「シティはUEFAの調査に協力しないことで操作を引き伸ばし、時効に持ち込むことに成功した」という説がある。具体的にはベン・メイブリー氏が主張している以下のような意見がある。
NYタイムズ紙の記者によると、元々シティを調査していた、UEFAのCFCBという機関が2年程前、この時効について確認を求めたところ、「違反が見つかって調査を始めた時点から5年という意味だ」とUEFAの弁護士から説明を受けたという。
— Ben Mabley(ベン・メイブリー) (@BenMabley) 2020年7月15日
だが、シティは恐らく「違反の時点から5年」との解釈で動いたはず。 https://t.co/CRm0nB934O
元々、ルールの表現が曖昧過ぎて、色々な解釈をする余地を残してしまったので、「こういう解釈のつもりで」処分を科されても、自信を持って裁判を起こし、「私たちの解釈ではおかしいぞ」と主張できる。
— Ben Mabley(ベン・メイブリー) (@BenMabley) 2020年7月15日
そしてその逃げ道があれば、時効が切れるまで協力せず、時間を稼ぐという戦略もできる。 https://t.co/mdkfjOnrZM
SAのハードルを有効だと考えた場合、SAの対象外である=訴追できる疑惑の対象は、2013年6月30日以前のものになる。しかしUEFAが調査を開始したのは2019年3月7日、RFが出たのは2019年5月16日であるから、それぞれ5年前(時効にならない最も早いタイミング)は2014年3月7日と2014年5月16日になり、どちらもSAの対象期間内に入ってしまう。極端な話、Der Spiegelによる最初のスクープ記事が出た翌日に調査を開始しても、2013年11月以降しか対象にならない。なので、時効を引き伸ばすまでもない。
一方、もしSAのハードルをUEFAが覆すことが出来ていた場合、(ベン氏が主張するように)シティが「違反の時点から5年」と主張しようが、2015年7月13日以降は時効の対象ではないので、こちらも場合も、シティは「捜査を引き伸ばして時効に持ち込むことに成功」することは不可能に思われる。
論点③:時効でない期間の疑惑は追求できるのか
シティの主張によれば、SAは2016/2017シーズン以前のFFP違反を対象に含んでおり、かつ2017年のリリースレター発行によって完了されてしまっている。
これをもう一度訴追するのは、Stefan氏によれば、
「あなたが和解金を支払い、和解体制を経て、UEFA自身が考案したいくつかのテストやチェックに合格し、公式かつ決定的に和解体制から抜け出したことは認めますが、それはさておき3年後、全く同じ時期に戻って、もう一回あなたを有罪にしようと思います」
と言っているようなもので、法律がそのように出来ているとは考えがたいということである。
またこれは私の推測だが、FFPは結局規定の範囲内に赤字が収まるか否か、収まらなかったら罰則というルールなので、仮に今回スポンサーフィーが実際にはオーナーから支払われているという主張に信憑性が認められたとしても、「もう違反している(そしてもう罰されている)」ということをこれ以上悪くしようがないようにも思われる。
論点④:なぜ罰金があるのか。「非協力的だった」というのはどういう意味か
なぜ罰金があるのか:*4
しかし、①MCFC の財力、②CFCB の調査手段が限られていることによるクラブの協力の重要性、③MCFC のこのような原則を無視して調査を妨害したことを考慮すると、CAS パネルは、以下のように判断した;
MCFCに多額の罰金を課すべきであり、かつUEFAの最初の罰金を2/3まで、すなわち1,000万ユーロの金額まで減額することが適切である。
(However, considering i) the financial resources of MCFC; ii) the importance of the cooperation of clubs in investigations conducted by the CFCB, because of its limited investigative means; and iii) MCFC’s disregard of such principle and its obstruction of the investigations, the CAS Panel found that
a significant fine should be imposed on MCFC and considered it appropriate to reduce UEFA’s initial
fine by 2/3, i.e. to the amount of EUR 10 million.)
「非協力的だった」とはどういう意味か:不明。CASの追加発表を待つか、関係者からThe Guardianにしばらくしてからリークされるのを待つのが良いだろう。
論点⑤:FFP自体の正当性を訴えると脅したのか
不明。ただし、FFPがEU競争法に違反していないこと、かつEU競争法がFFP一般に対して適用されないことはUEFAも以前から主張しており、ACミランとの裁判で「各クラブは欧州コンペティションに参加するために自主的に規則に従っている」との主張に成功している。つまり、仮にそうだったとしてもUEFAには勝算がありそうだった。
関連する報道 - UEFAは何を考えていたのか?
Stefan氏が再三指摘しているのが、「ここまで書いたようなUEFAにとってのハードルは、UEFA側だって当然わかりきっていたはず」ということである。
「これらの主張のほとんどは、比較的明白であり、裁決会議所の「審議」の時点で知られていたものであるように思われる。また、現段階では公表されていないこれらの点について、UEFAがどのような反論を裁決会議所に提示したのかを見てみるのも興味深い」。
つまり、UEFAもこんなことは百も承知で、覆すための準備をしていて当然だと思われるのである。では、ここまで挙げてきたようなハードルをひっくり返すためにUEFAが用意した秘策とは。
それがどうもなかったっぽいのである。
いや、あったのかも知れんが。でも余りにもあっさりとした、予想された負け方であり、それがNYTやFTなど一部の報道で「UEFAは自分たちのルールが分かってなかったんじゃないか」などと書かれた理由であろう。詳細は追加の発表を待つしかないのだが、いくつか興味深い報道がある。
Sam LeeとMatt SlaterによるThe Athleticの記事*5によると、UEFAの内部でも、“この件はFFP違反じゃなくて、規律委員会で扱うべきマターなんじゃないか"という議論があったという。この場合、何か罰則があったとしても、その対象はクラブ全体ではなくシティの首脳陣個人になる。
また、昨年の年末時点では「罰金だけになるらしい」という報道をシティの番記者が得ていて、彼らはかなりその情報確度に自信を持っていた様子もある(The Athleticのシティ番のSam Leeは、最初に2年の出場停止が下ったとき、かなり不思議がっていた)
もしこれらの報道が事実だったとしたら、この件におけるUEFAの目的は何だったのだろう?そして今、彼らは目的を達成できたのだろうか?(という問題設定の仕方は、発展性がなくて嫌ですね。止めましょうね)
CASからの評決の詳細は月曜日に公表されるらしい。答え合わせが楽しみですね。楽しみじゃないか別に。こんなこと。う~Happy Happy!とは行かなくて嫌ですね。本当。
ディスクレイマー
筆者は法律の専門家ではありません。上記の内容は公表された公式発表・記事等を元にしたものであり、誤りを含んでいる可能性があります。