2018/19 マンチェスター・シティ シーズンレビュー個人編(後編)

MF

18 フェイビアン・デルフ Fabian DELPH***

 アラバモード、終~了~。2シーズン保たせるのは難しかったですね。もともと相手を同一視野に置くのが苦手で、DFとしてのポジショニングも良くない、ということに加えて、身体のコーディネーションがガチャガチャなので反転して走るのが遅すぎる、という弱点を研究されまくっており、裏を着かれての失点多数。リーグ戦の出場はわずか11に留まった。今更このチームでMFとして使う見込みも立たないし、もはや売れるうちに出来るだけ高値で売るしかないと思う。つまり今だ。

 ただデルフの良いところは、買った値段が破格に安かったんですね。たった800万ポンド。アストン・ヴィラには本当に悪いことをしたと思う。まだまだプレミアリーグで出来る選手なので、どこか良いところで夢を叶えてほしい。ジェフでも良い。

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25 フェルナンジーニョ FERNANDINHO

 控え無しで始まった今シーズン、さすがに身体が保たずちょくちょく負傷で離脱。一方で、出場したときのクオリティは素晴らしく、WhoScored.comのレイティングもリーグ平均7.31。守備時はCB、ボール持ったらDMFという奇天烈な新作戦も難なくこなしており、そら27試合しかスタメンで出てなくてもベストイレブン取るわという1年だった。何気に10年前のウクライナ時代(リーグMVP)以来、プロとしては2つ目の個人タイトルなんだよね。報われて良かったと思う。

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8 イルカイ・ギュンドアン İlkay GÜNDOĞAN

 いいかい学生さん、ギュンドアンをな、ギュンドアンを控えで使えるくらいになりなよ。それが、人間カップ戦も勝てるリーグ戦も勝てる、ちょうどいいくらいってことなんだ。

 

 そういうことなんですよ。あんまり人気はないが、今年の貢献度で言えばチームでトップ5くらいに入るのではないだろうか。下手すると。プレッシャーを掛けられた際の冷静な処理とか、5バックを崩す裏への浮き玉スルーパスとか、ギュンドアンのおかげで助かったシーンは数え切れない。

 まあ守備とかちょいちょい怪しいシーンはあったが、ジョルジーニョが取れなくても何とかなったのは、間違いなくこのウィル・ウィートン似のおかげだ。契約延長の件はしっかり考えたいとのことだが、残ってくれれば儲けもの。というか他のポジションで買い物の必要性が出てきすぎて、アンカーに回してる余裕があるようには思えず。

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17 ケヴィン・デ・ブライネ Kevin De BRUYNE

 いつか壊れると言われていたが、その通り開幕直後に大怪我。戻ってきても大技を狙いすぎてのミスやしょうもないボールロストが目立ち、ようやく調子を取り戻してきたかと思えばまた怪我・・・ということでシーズンの半分しか出場できず。

 ベルナルドとスターリングが超人になったし、フォーデンも成長してきたので、来年はリラックスしてもう一度、あの一人だけ22世紀から来たかのようなプレーを取り戻してほしい。

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21 ダビ・シルバ David SILVA

 シルバくらいになるともう、居てくださってありがとうございますという心持ちしかない。シルバでも衰えるもんなんですなあ、しかし。

 野球の立浪だったか、衰えるときは足から来るんだと言っていた気がするが、シルバも何気にしっかり足が遅くなっていた。マッチョマンにがっちりスペースを消されるとえぐり込めず、弾かれてウロウロするシーンは少々切なさを感じたが、それでも要所ではさすがのクオリティ。FAカップ決勝の先制点は、その前の空中戦も含めてシルバらしくて良かったですね。意外と空中戦強いんだよな。

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35 オレクサンドル・ジンチェンコ Oleksandr ZINCHENKO

 ウォルバーハンプトンの収容所に送られる前日、青年オレクサンドルは予審判事グアルディオーラに人生を賭けた決意を告げる。純真で無垢な心を持ったオレクサンドルは、すべての人から愛され、彼らの魂をゆさぶるが、アラブ的因習のなかにある人々は、そのためにかえって混乱し騒動の渦をまき起す。この騒動は、汚辱のなかにあっても誇りを失わない美貌の女性デ・ブライネをめぐってさらに深まっていく・・・

 

 ということで、退団報道から一転残留、メンディとデルフの稼働率が低かったので左サイドバックのレギュラー格に収まり、守備力も向上してめでたしめでたし・・・と言いたいところだが、あえて言おう。

  

この方向性はイカン!!!

 

 ゼロ年代テキストサイトみたいで恥ずかしいが、イカンと思う。この方向性はよろしくない。今のジンチェンコが褒められているのは、あくまで「MFにしては頑張ってるね」というだけだ。結局大事な試合では信頼されてない。6-0のチェルシー戦みたいな例外もあるが。そしてこの手の起用が面倒なのは、時折本来のポジションに戻ったときの評価も歪めることだと思う。たまに中盤やってみたら、「ああやっぱり本職だから上手いね」みたいな。でもそれでレギュラーが脅かせてますか?ノーでしょう!んん!?(ガンギマリツイート)。あとこの方向性が機能するのは、ジンチェンコが若いからというのもある。24,5になってもこの状態だったら絶対飽きて出ていくでしょう。

 参考)ガンギマリツイートの例

 然るに、ジンチェンコが取るべきオプションは3つだ。①SBで生きていく覚悟を決める、②中盤に戻ることを志願する。最後はヨシュア・キミッヒのように、SBとしてもCMとしても超一流になるかだが、まあこれはやろうと思ってできるもんでもないしな。結局一流になれ!しか言ってなくて自分でも笑ってしまうが、そういうことだと思います。

 最初の2つのオプションを取ることは、結果としてシティ退団につながる可能性もあるが、長期的には双方にとっていい結果になると思う。プレーは良かったです。

https://media.gettyimages.com/photos/kevin-de-bruyne-and-oleksandr-zinchenko-of-manchester-city-celebrate-picture-id1150126113?s=2048x2048

 

47 フィル・フォーデン Phil FODEN

 全コンペティション合わせて26試合に出場。平均出場時間で見ると、リーグが25分、FAカップが65分、リーグカップが78分、CLが30分ということで、リーグカップではほぼスタメンを張った。シーズン前半は「シティで飼い殺されていくフォーデン」という記事が(サンチョの活躍もあって)多かったが、出場が増えるに連れて減っていったのは楽しいところだ。

 プレーとしては、ドリブル突破からのパワフルなシュートが目立った一方、無理だろそれはという狭いシーンに突っ込んでは退却・・・というシーンも多かった。でもまだ18だからな。来年は抜けてるかもしれんし。1万回ダメでヘトヘトになっても1万1回目は抜けるかもしれんし。

 セクシーなガールフレンドと子供作っちゃったけど結婚はしないんだよね、という意外なやんちゃさを見せられてドキッとしたが、まあ色々ともう子供ではないということなんだろう。来年も、期待は大きい。

https://media.gettyimages.com/photos/phil-foden-of-manchester-city-in-action-during-the-premier-league-picture-id1147391859?s=2048x2048

 

 

FW

7 ラヒーム・スターリング Raheem STERLING

 精神の強さにも色々ある。責任を背負って他人の前に立つというコンパニ的強さもあれば、集中治療室にいる息子のためにスペインとイギリスを往復する生活を強いられながらもコンディションを崩さず、自分からは何も言わないというシルバ的な強さもある。怪我続きで稼動できない立場でもSNSで露出し続けるメンディも、あれはあれで一つの強さかも知れない。

  グアルディオラの改造手術で、スターリングもただの素早い人から、精神の強さで勝つ人になった。今のスターリングは、ドリブル、ワンタッチゴー、バックドア裏抜けの三択を、相手が対応しきれなくなるまでひたすら繰り返せる。要はフットボールリセマラおじさんだ。言うのは簡単だが、90分間、週に2、3試合、それを繰り返し続けるのは極めて難しい…そう言う意味で、実は今一番クリスチアーノ・ロナウドに近い選手かも知れない。スターリングにロナウドの身体がついてたらあと10点は取っただろう。

 

 スターリングの心の強さはもう1つあって、黒人差別に立ち上がって声をあげたのは純粋に素晴らしいことだと思った。あのチェルシー戦やSUNの報道…あのクラブのファンベースといえば頻繁に人種差別のトラブルを起こすので有名だったが、いや許さねーよ、と言う姿勢を示すのは・・・なんというか、当たり前なんだが凄いことだ。去年別のクラブのファンに駐車場で襲われたりもしているから、ガチで生命の危険もあるわけだ。あの犯人が武器を持っていたらどうなっていたかとは考えたくない。そういうものに立ち向かえる強さを、今のスターリングは持っている。

 そう言うわけで、今年もリーグ戦17点10アシストの活躍。そのうちレアル・マドリーに行きたいとか言い出しそうだが、まあこっちだってレアルが欲しがらない程度の選手を囲ってるつもりはないからな。もしそうなったら、さしものフロレンティーノも吐き気がするくらいフィーを稼いで欲しい。

Chelsea v Manchester City - Carabao Cup Final : ニュース写真

 

16 リロイ・ザネー Leroy SANÉ

 1年通してほぼムスッとしていたせいで、ゼンデイヤにしか見えなかった。ゼンデイヤと言えば、ジミー・ファロンの番組に出たときのゼンデイヤは可愛すぎるのでみんな見てくれよな。

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 まあええわ。今年もしっかりシーズン10得点10アシストと結果を残し、新たに習得した無回転FKで2回もチームの窮地を救ったが、全体としては評価もいまいち、本人も露骨に満足していない様子が伝わってくる苦しいシーズンだった。これはもう、スターリングとベルナルドが良すぎたとしか言いようがない。

 何だかんだ残ってくれるだろうと思っていたが、今日ネットを漁っていてバイエルンロッベンとリベリ揃って退団という事実を知ってしまい、移籍濃厚すぎるなと思いを新たにした。母国だし、名門だし、ポジション完全に空いてるし。残って欲しいところだが・・・

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20 ベルナルド・シルバ BERNARDO SILVA

 ボール運搬も出来るし、守備でも走れるし、ドリブルで突破もできるし、さらに点も取れるという超人になっていた。ウケる…当然ながら、不動のレギュラーに定着。グアルディオラも「まずベルナルドを選んでからあとの10人を選ぶ」と言い出すくらいすごかった。ベストイレブンも当然。今、海外サッカーで通ぶりたい諸兄が挙げるべきサッカー選手世界1位だと思う。

「誰が好き?んー・・・ベルナルド・シルバ、かな」。

名前の絶妙な長さ、華麗なプレースタイル、通ならではの褒めるポイントとしての泥臭さ・・・完璧か。今夜もコリドーで、恵比寿横丁で、ベルナルド・シルバの名が囁かれているのだ。東京カレンダーが取り上げるべきサッカー選手No.1。

 

 真面目な話、先代シルバが衰えたタイミングでしっかり代役を用意できたというのは素晴らしい兵站力だと思う。補強禁止になる前で良かったですね。あと、良い人っぽく見えるというのもいいと思う。誰からもあんまりライバル視されていないシティにはぴったりのキャラクターだ。そのキャラクターも含めて先代のあとを継ぎ、シティの歴史に名を残す選手になってほしいところ。

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26 リヤド・マーレズ Riyad MAHREZ

 念願の移籍が叶うも、不完全燃焼。常にしょんぼりした顔をしていたのもその印象を強めた。とはいえ右に張ってドリブル、という最低限の仕事はこなしていたので、来年の改造手術に期待したい。コメントが短いのは疲れてきたからです。

https://media.gettyimages.com/photos/riyad-mahrez-of-manchester-city-celebrates-after-scoring-his-teams-picture-id1148637925?s=2048x2048

 

10 セルヒオ・アグエロ Sergio KUN” AGÜERO

 カフカの有名な短編に「流刑地にて」というのがあって、旅行家がどっかの島かに行くわけよ。カフカだから、それはどこにあるどんな島なんだとか聞いても無駄なんだが。そこには1人の将校がいて、流刑地にいる囚人を処刑する機械を管理している。この機械がまたすごいやつで、棺桶を2つ上下に並べてベッドのようにしてあって、間の空間に死刑囚を縛り付けると、上から針が下りてくる。そして半日かけて罪状を死刑囚の身体に刻みつけて殺すのだ。けったいすぎる機械である。

 なぜこんな話をしたかと言うと、シティがワトフォードを虐殺したFAカップの決勝を受けて、「潤沢すぎる資金とまともなビジネスマンが合わさると、ビッグクラブとそれ以外の間にグロテスクな格差が生まれてよろしくない」という議論が出ているんですね。*1シティに限らず今日のビッグクラブは「パワーバランスを崩していて、しかもそれが構造的に固定されすぎている」と。まあ確かにそうで、自分が応援するクラブだから良いものの、他のクラブが今のシティのようなサッカーをやってたら、第三者としては見る気全く起こらないのもわかる。グアルディオラバルセロナも、全然面白くなかったし。そういう記事を読んでいて、今のシティはほとんど処刑機械だなと思ったのだった。90分もひたすら責められて結局殺す。ひどい話だ。

 

 前置きが長くなりすぎたが、何が言いたかったかというと、シティがそういう可愛げがなさすぎるフットボール処刑機械になった要因をあえてピッチ内に探したとき、実は無視できないファクターとしてアグエロの成長があるのではないか?ということだ。グアルディオラが来る前のアグエロはある種びっくり箱で、ものすごいゴールは決めるんだけど、持ちすぎだったり中盤と絡むのが下手だったり、あと展開が速くなると消えてしまったりで、早い話がいても味方の点が増えるわけではない、という選手だった。 が、今やポストプレーは失敗しないわ、90分守備に奔走できるわで、めちゃめちゃ集団で機能する選手になっている。そして、この能力でミスをしない選手がどうなるかというと、弱い者いじめがひたすら上手くなる。それでいてリヴァプール戦の先制点のように、統計的オッズをひっくり返してスーパーゴールも決められる。ひどい話だ。

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33 ガブリエウ・ジェズス Gabriel JESÚS

 リーグ戦わずか7得点とスランプに陥ったように見えて、実はカップ戦で荒稼ぎしたため、シーズン合計では21得点。全部ひっくるめたらアザールやラカゼットより点取ってるのだが、ダメですかね。まあ、ダメでしょうね。期待が高いからな。

 もともとの売りだった守備での献身やポストプレーの面でアグエロが成長してしまったので、点が取れないところばっかり目立った。ここから巻き返すにはまあ色々あるだろうが、あえて1つに絞ろう。シュート。強いシュートだ。ジャストミートした強いシュートさえ打ってれば、人は何となく「こいつ点取りそうだな」と思ってくれるものなのだ。例えばスティーヴン・ドビーみたいに。ミートさえしていれば、多分来年の評価は爆上がりだ。

https://media.gettyimages.com/photos/gabriel-jesus-of-manchester-city-celebrate-during-the-fa-cup-final-picture-id1144716810?s=2048x2048

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シュートだけはすごかったドビー先生

*1:一部の過激派(グアルディオラに、「あんたアブダビから袖の下もらってんでしょ?」と聞いたような人たち)はアブダビの人権問題とオイルマネーを主に問題にしたがっているが、ジョナサン・ウィルソンのようなもう少しバランスが取れたジャーナリストはもう少し広く問題を捉えているようだ