今年のシティ総括、そしてFFPの件はアリかナシか マンチェスター・シティ2018/19シーズンレビュウ(改訂版)

※読み返したら、あんまり面白くなかったので書き足しました。消すのもしょっぱいので残しておくけど。

 

日曜日は飲むためにある。そういう訳で、夕方からカンパリで酔っ払っていた2018/19シーズンのプレミアリーグ最終日は、優勝という最高の結果で終わった(夏はカンパリがうまいからいいですよね)。10年間で4度目の優勝。そしてリーグカップ優勝に、FAカップ決勝進出。素晴らしい。いつもこんなことばっかり言ってるのもダサいが、ジョン・マッケンに僅かな希望をかけていたあの頃、こんな未来が想像できただろうか。人生の春である。

https://media.gettyimages.com/photos/apr-2002-jon-macken-of-man-city-celebrates-his-goal-during-the-first-picture-id1005577?s=2048x2048

 

 

良かったこと

ピッチ内は総じて良かった。私はチャンピオンズリーグがどうなろうがリーグで優勝できないのは嫌というタイプなので、今年の成績には満足である。

なぜチャンピオンズリーグが割とどうでも良いのかというと、アレは基本的に、他人のコンペティションという感覚なんすよね。シティがアブダビ資本に買われた2008/09シーズン以降、降格を経験していないのはかつてのビッグ4と、スパーズ、エヴァートン、シティだけだ。ブラックバーンも、ニューカッスルも、アストン・ヴィラも、全て降格していった。ということは、これら4チームに比べて特段ファンベースも裕福なオーナーも持っていなかったシティがもしADUGに買収されていなかったら、多分シティも降格していただろう。2007/08シーズンの最終戦ミドルズブラはシティに8-1で勝った。その後の11シーズン、ミドルズブラプレミアリーグで過ごしたのは2シーズンだけだ。シティは“あっち側”のクラブだった。そしてCLには、”あっち側”がない。存在しない。CLは楽しいコンペティションだ。バルセロナvsパリSGリヴァプールvsレアル・マドリーバイエルンvsチェルシー。だが私は、アラブの大富豪の胸先三寸で行けなかったかもしれない世界に、未だもってプレミアリーグほどの親近感を覚えられないでいる。もちろん、シティの経営陣は同意しないだろうが。

https://media.gettyimages.com/photos/fans-display-encouragement-for-their-manchester-city-manager-sven-picture-id81054117?s=2048x2048

 

また、ラポルト、ベルナルド、スターリングと、各ポジションで今後5年程度中核を担ってくれそうな選手が一本立ちしたことも良かった。なにせ3人全員ベストイレブンだし。スターリングが最たる例だが、3人共グアルディオラの改造手術の結果、90分間ひたすら二択を迫り続けるめちゃめちゃ嫌らしい選手になった。それでいて、スペシャルな突破力は残しているという(ベルナルドに至ってはむしろドリブル突破が強力になっている)。他にも、アグエロメガシンカギュンドアンの適応、ジンチェンコの成長、フォーデンの戦力化と、ポジティブなファクターは多かった。ピッチ内には。

 

 

 

悪かったこと

ピッチ外のスキャンダル。なにせUEFAFIFA、FA、プレミアリーグの4つから取り調べが入っているのである。ロイヤルストレートフラッシュかよ。その中でも一番注目を集めたのがFootball Leaksのタレコミに端を発するUEFAからのそれで、細かいところはこれを読んでほしいが、要するに「(FFPのブレイクイーブンルール抵触を避けるために)エティハド航空からのスポンサーフィーと偽ってオーナーの会社から資金を注入し、売上計上した」という疑いだ(ただし後述するが、不思議なことに、今日時点でUEFAの調査機関がシティを「疑わしい」と見ているのはこのこと自体ではない)

調査の結果自体はまだ見えないが、CL出場停止になっても1,2シーズン後になりそうとのことなので、今年どうこうにはならなさそうな気配ではある。補強禁止を食らうと辛いが。ただこの件については、ダンマリを決め込むのかと思いきやいきなり「この動きのウラにはライバルクラブが絡んでると思います」と無理筋の主張をクラブのオフィシャルで繰り出してすぐ消す、という対応がダサすぎたので残念。まあこういうときのPRチームが辛いというのは、よく分かる。FACTAで書かれたりしてね。

 

事実として、シティは2014年にフィナンシャル・フェア・プレイ(以下FFP)のブレイクイーブンルールが満たせなかったことで、CLの登録選手枠削減と、移籍市場(1回)でのネットでの上限額設定という罰を受けた。ここまでは事実だ。

問題はなぜその罰を受けたかということだが、2つの説明がある。

<説明1>

  • なぜ?:費用計算に当たり、FFP導入、ないしは導入が準備される以前に契約していた選手の給与が計算に含まれるか否かに関してシティとUEFAの見解が違ったため、結果としてブレイクイーブンに達しなかったから。
  • なぜ違った?FFP規則の附則第11条に沿って、「対象期間に損失が発生したことは、FY2012の損失のみが原因であること」「損益のトレンドが改善傾向にあり、今後はFFPを遵守できると見込まれること」という条件がクリアできれば、シティの場合£80mが控除でき、損失額は£35mに縮小。FFPはクリア、制裁なし。のはずであった。が、UEFAは2011年に発表した"toolkit"というテンプレートを、2013年4月に更新。更新版は附則第11条に関する部分の計算方法が変わっており、更新版に沿って計算すると、シティは附則第11条を適用できない、すなわちFFPをパスしないことになってしまった。要約すると、途中でルールが変わったから。
  • UEFAは知ってた?:もちろん
  • この話いつ出てきた?:2016年2月
  • この話、全体としてどの程度信憑性があんの?:Colin Savageっていうシティファンのおっちゃんが言っていることなので確証なし。本業はIT/戦略コンサルタントらしい。

www.mcfcwatch.com

es.mancity.com

 

<説明2>

  • なぜ?アブダビ関連企業からのスポンサーフィーがフェアバリューじゃなかった。実際に支払われた額よりも、PwCに妥当と判断された額が小さかった。
  • それでどうなった?:シティの弁護士がUEFAに「んなこと言うなら訴えたるぞ」と強硬姿勢を取り、定かではないプロセスのあと、前述の処分で手打ちになった。Football Leaksは、当時のUEFA事務局長ジャンニ・インファンティーノが(色々と損得を考えて)便宜を図ってやったのだと推測している
  • UEFAは知ってた?:みたいよ。
  • この話いつ出てきた?:2018年11月。Football Leaksのリークに端を発する、Der Spiegelの報道によって
  • この話、全体としてどの程度信憑性があんの?:不明。ただし、Football Leaksのリークが正しいと仮定するなら、シティ内部、およびシティとUEFAの間のメールが証拠になっている。

 

 

で、ここまでがDer Spiegel告発の第1弾だった。この時点では「まあ、そうでしょうね」という反応も多かった。UEFAも知っていることが明確で、既に手打ちになった話なので。が、Der Spiegelは第2弾の記事でとんでもない爆弾を放り込んできた。

 

 <説明3>

  • なぜ?:①アブダビ関連企業からのスポンサー契約をバックデートして締結し、2012/13シーズンに(ブレイクイーブンルールに抵触するほどの損失が発生しないようにした。②更に遡って、2010年の契約で、アブダビ関連企業からの契約のうち、額面の大半をオーナーの会社から支払い、売上計上した。つまり、スポンサーフィーを過大に計上した。
  • それでどうなった?:今どうなるか見てる。
  • UEFAは知ってた?:これが大事なところで、UEFAはFootball Leaksが暴露するまで知らなかったのではないかと思われる。当然えらいこっちゃだ。さっきの話とは全く違うのだから。(調査に入るときに、UEFAは「新事実が出てきたので」というようなことを仄めかしている。)
  • この話いつ出てきた?:2018年11月。Football Leaksのリークに端を発する、Der Spiegelの報道によって
  • この話、全体としてどの程度信憑性があんの?:不明だが、これもメールが出てきている(らしい)

 

このシュピーゲル砲でシティ城は言わば二の丸まで壊滅、もはやこれまでかと覚悟したが、さしものシュピーゲル砲も弾切れだったらしく、第3弾・第4弾は「グアルディオラに強引にアプローチしてバイエルンから寝取ったんや」とか、「テベスの所有権はキア・ジョオラビシャンがごっつ怪しい方法で持ってたんや」とかしょうもない方向に行き始めて沈静化。そして先日、UEFAFFP監視機関がシティを疑義ありと見なしてThe adjudicatory chamber(最終決定機関)送りにしたことで再燃したという次第である。興味深いのは、実はUEFAの調査機関がシティを罰すべきと見なしているのは「FFP抵触」ではなく、「UEFAを欺いた、またはミスリーディングした」ということである一方で、シティの反論は「財務的に不適切なことはしていない」なのだ。この食い違いはなんだろう?

 

 

 

私のスタンスはというと、昨秋にこれを書いたときから変わっていない。上記の仮定がもし本当だったとしたら(この留保は一応大事だ)、これは、アウトだ。ルールはルールで、UEFAプレミアリーグJリーグのようにオーナーがP/Lを気にせず自由にキャッシュを突っ込んでいいリーグではない。EU法に訴えるのもいいだろう。だが私は、自分が好きなクラブに強いだけでなく、正統なチャンピオンであってほしい。その意味で、私の中ではこれはナシだ。どうか嵐が早く過ぎ去ることを、そしてそのためにクラブが努力することを祈る。

wegottadigitupsomehow.hatenablog.com

 

 

 

どうでもいいこと。そして将来

4度目の優勝、しかもこの10年で始めての連覇を迎えて私が心底思うのは、「ガタガタ言うな」と言うことだ。勝負弱い、立ち上がりが悪い、落ち着いてない、セットプレーに弱いと、ぶっちゃけシティファンはガタガタ言い過ぎだと思う。スタジアムも、インターネットも。1点取られて「元気がよろしおすなあ」くらいの反応でいいのではないか。まあそれは冗談にしても。

 

こういうナラティブは歴史が長くて、英国のファンベース自体にも、“Cityitis”(”シティっぽさ””シティ感”。大事なところで失敗してチャンスを逃す歴史的習性といったところ)という言葉があるくらいなのだ。だが事実として、シティはこの10年で最も安定して勝ち点を取っているクラブだ(2位のマンチェスター・ユナイテッドに53ポイント差ある)。失点が多くもない、セットプレーに弱くもない。勝負弱いか?いや、そんなことはなかろう。チャンピオンズリーグを除いて、2011年から向こう、勝たねばならない試合には概ね勝っている。CL除いてだが。優勝できてないのは、大体「そもそも勝たねばならない試合にたどり着けてない」パターンだと思う。まあ感覚的な話でしかないが。

ともかく今のシティは、絶対勝利が義務付けられたプレッシャー下で先行されても、30秒で追いつけるレジリエントなチームなので、私はガタガタ言わず、広い心で応援したい。ファック再現性。93:20、サンダランド戦のヤヤのあっち向いてホイループ、アグエロの左足ニアポスト。今のシティはWhen it really matterな瞬間にスリップしないチームで、私はそれで十分だ。

https://media.gettyimages.com/photos/sergio-aguero-of-man-city-celebrates-after-scoring-their-1st-goal-picture-id1077071470?s=2048x2048

 

 

Der Spiegelの見事なルポライティングによって「シティ=悪の帝国」のイメージ付けは着々と進み、ローン移籍規制で育成戦略は再考を強いられ、財政規律を重視するアプローチはサンチェス、ジョルジーニョに続いてフレンキー・デヨンも取り逃すという窮地にあり、これでもし2,3年後に補強禁止とCL出場禁止(収入減)を食らったタイミングで監督交代と考えると、アルテタになるかどうか知らんが、ペップの後任は相当に辛そうな気もする。ベニテスを1回挟んで全部被ってもらうのが良いのかもしれない。すまんな、ラファ。

https://media.gettyimages.com/photos/newcastle-manager-rafael-benitez-applauds-the-support-after-the-picture-id1142439118?s=2048x2048