UEFA、シティ、FFPーDer Spiegelの暴露記事は何の話をしているのか

飛行機から降りたら、朝からエラいニュースになってたね。

『マン・シティとパリSGオイルマネーは如何にしてサッカー界を捻じ曲げたのか』という御大層なタイトルを引っさげて登場したのは、ドイツの雑誌Der Spiegel。Football Leaksっていう、WikiLeaksのサッカー版みたいなやつがハッキングしてきた情報をもとにした記事やね。

www.spiegel.de

なぜこれが騒ぎになっているかというと、シティとパリSGに対するFFPの制裁が緩和されるよう、UEFAの事務局長だったジャンニ・インファンティーノ(現FIFA会長)が便宜を図ってやったんや、ということが指摘されているからやね。

Sportintelligence.comを主催しているニック・ハリスいうジャーナリストのオッサンは、以下のように内容をまとめている。

  • シティとパリSGは、何年もの間、“システマティックに”FIFAのフィナンシャル・フェアプレイを破ってきたんや
  • UEFAの事務局長インファンティーノは、アブダビカタールの圧力に負けて、両クラブを実質的には無罪放免にしたるよう、取り計らってやってたんよ
  • こいつらはCLの参加禁止にもなってへんしな
  • インファンティーノは、中立の立場でおらなあかんっちゅうのに、両クラブの首脳陣と何度も交渉をかさねてやがったんや
  • こいつは内部情報を両クラブに流して、「和解」するルートを探っとった。そんな権限ないのにな

 

どう?結構刺激的?個人的には、ここまでについては特に新しい情報は無かったんやけどね。シティがFFPのブレイクイーブンルールが満たせなかったことで2014年に制裁を受けたのはみんな知ってるし、当時からずっと、シティの首脳陣(フェラン・ソリアーノたちやね)がUEFAのトップと交渉を重ねている、という報道も出てた。シティが「そもそもFFPってEU法に反してへん?」って言い出したのもめっちゃ昔やしね。

あと、このハリスおじさんも興奮してついタイピングが滑っちゃったのかなと思うのは、『何年もの間、“システマティックに”破ってきた』というところとかね。2014年って、UEFAの国際大会に出るクラブがFFP充足を求められた最初の年なんやけどね。

 

こういう意見もある。

「FootballLeaksはおもろい読み物をくれたし、みんなが疑ってたことに対する証拠を出してくれたけど、あっと驚く新発見とかではないね」

 

まあ多分、大概の人は長々と読む気力がないやろうから、ワシの結論は先に書いとくよ。

  • 今回出てきた話は、①2012年から2014年までの間で、フェアバリューじゃないと判断されたスポンサー契約があったということ、②交渉スタイルがかなり脅しに近いものだった可能性があるということの2つ
  • 逆に言えば、2015年以降から現在に至るまで関連会社というヴィークルを使って不当に金を注ぎ込み続けていたのだ・・・とかいうおどろおどろしい話では無かった。
  • 今回の件で、シティが何らかの具体的な罰則を受ける可能性は低いんじゃないかな?というのは、上に書いた通り、①はもう罰則受けてるし、②は法律の専門家じゃないからどうこう言われへんけど、法的措置を取るぞという姿勢自体を罰するのは難しいんやないかということよ。もちろん、このあと具体的に袖の下を渡してたとかいう話が出たら別やけどね。
  • ただ、シティのイメージは確実に悪くはなるやろうね。ファンとしてあまり気持ちの良いものじゃないよね。

 

そしたら、周辺のTweetや報道ばっかり見ててもしゃあないから、肝心のDer Spiegelの記事を見てみるで。以下の箇条書きは、「Der Spiegel」が書いてることであって、ワシの考えはまたあとで書く。あと、当たり前やけど、元の記事も読んでね。

 

  1. 2014年5月、シティとパリSGFFP(のブレークイーブンルール)に違反したと判定されそうになっており、そうなればUEFAコンペティション(CL)から閉め出される可能性があった
  2. FFP審査の手続き中、ジャンニ・インファンティーノは数回に渡ってシティとパリSGと非公開の会合を持ち、機密情報を提供もした(even supplying them with confidential materials.)
  3. Der Spiegelが入手した書類によれば、インファンティーノは(FFP遵守のモニタリングと罰則の提案を行うUEFA内の組織である)Club Financial Control Body、通称CFCBが追求を辞めるように取り計らっていたかのように見える。
    (That, though, is exactly the red line that Gianni Infantino crossed in spring 2014. The leaked documents make it look as though he was the willing executioner for two clubs that wanted to get UEFA investigators and auditors off their backs.)

  4. マン・シティの経営陣は、2013年5月の段階で、FFPのブレークイーブンルールに抵触するかもしれないということを察していた
  5. 2014年1月、UEFA監査法人PwCマンチェスターに送って監査をさせた。「その他の商業収入の84%はアブダビ関連のスポンサー」のもので、レポートによれば、3,500万€の費用が、年次報告書から隠蔽されていた
  6. シティは弁護士団を雇い、UEFAに対して徹底抗戦の構えを見せた。3月半ばには、シティのCEO、フェラン・ソリアーノはインファンティーノに対して欧州司法裁判所(European Court)に持ち込むぞ、と”脅した”。
  7. しかし、Octagon(スポーツエージェンシー)の専門家は、シティがアブダビ関連企業と結んでいる4つのスポンサー契約の内、3つは「著しく過大計上されている」と判断した。彼らによれば、クラブに合計5,000万€をもたらしたこの契約群は、ものによっては市場価値よりも最大80%過大に計上されている、とも付け加えた。
  8. また、PwCは再訪問時に、2つのスポンサーが「(オーナーの)関連企業」と判断した。

  9. しかし、4月上旬に、インファンティーノは、双方の弁護士を伴ってソリアーノと会談し、シティ側が有効的な解決策を提案するという方向性で合意した。
  10. ソリアーノはシティの会長、ムバラクに「インファンティーノと電話で話して、シティのビジネスに影響がない範囲で合意できそう」と伝えた
  11. しかし、4月末になっても、結局シティは交渉の進捗に満足していなかった。クラブ弁護士のサイモン・クリフは、とあるメールで「ムバラク会長は、インファンティーノに『3,000万使って世界最高の弁護士50人雇ってこの先UEFAを10年間訴え続ける方がマシ』と伝えた」と書いている。
  12. そして5月2日、シティとパリSGはCFCBのInvestigatory Chamber(調査委員会)から書簡を受け取った。会長のブライアン・クインは処置が寛大すぎると反対して辞任し、署名していなかった。クインのあとを継いだイタリア人、ウンベルト・ラーゴが代わりに署名した。

  13. パリSGは合意したが、シティのはもっと複雑だった。ラーゴは「5月中旬までに友好的合意に達しなければ、CFCBの評決委員会に諮ることになり、そうなればCLへの参加禁止に至る可能性がある」と書いた。
  14. 5月9日、シティの首脳陣はフランスのニヨンで、調査委員会と会合を持った。その前日、シティの首脳陣はロンドンでインファンティーノと密かに会談し、詳細を詰めていた。しかし、UEFAとの会合は合意に達しなかった。
  15. サイモン・クリフはUEFAに「取りうる法的措置」という覚書を送った。またクリフは、プラティニとインファンティーノにスイスの法廷に出てくることを要求した。クリフは(※多分メールで)「この法廷闘争は、UEFA全体を数週間で崩壊させうる。もしPwCも訴えられれば、PwCUEFAを相手取って訴訟に及ぶだろう。もし破談に終われば、UEFAの債権者がこぞってUEFAを訴えることになる」と書いた。
  16. 5月11日、インファンティーノはムバラクに「残念ながら、調査委員会は和解に達するには意見の相違が大きすぎるとの結論に達しました」と伝えた。「しかし、調査委員会は独立した組織であり、私としては彼らの決定を尊重せざるを得ません」とも。
  17. そして、シティは当時のUEFA会長プラティニからのメッセージを、パトリック・ヴィエラを通じて受け取った。「アブダビのオーナーたちに、私を信用してくれと伝えてくれ。我々は彼らがやっていることを理解しているし、好意的に捉えてもいる」と。
  18. そして、インファンティーノは新たな和解策をシティに提案した。
  19. 5月16日、シティのCEO、ソリアーノは和解合意に署名した。罰則は2,000万€で、ソリアーノはクラブ内部に送ったメールで「実質的には我々のビジネスに影響しない」と書いた。

 

どう?贔屓目が入ってることはもちろんやけど、#dirtydeals とかいうタグをつけるほどの話かな?と思った。その理由を以下に書いていくわ。 

 

まずワシが知らんかったことから言えば、一番ショックだったのはスポンサーフィーの一部がフェアバリューだと評価されていなかったことやね。パリSGのスポンサー契約が過大計上されている、というのは報道でも確認されていたことやったけど、シティについては、ワシが知る限り(ファンがあれこれ疑惑を掻き立てることはあったとしても)確認された報道は無かったはずなんよ。だからワシも『ちなみに、つぶやきついでに言うと数年前にシティがFFPに引っかかったのは、直接的には損失を出していたからなんだけど、それは「オーナーが関連する企業からのスポンサーシップが認められなかったから」ではなくて、費用の計算方法が途中で変わったからなのね。今更何にもならないが。』とか呟いてた。言い切るべきではなかったね。ごめんなさい。

 

まあ「その他商業収入の84%がアブダビ関連企業」というのは別にそれ自体が悪いことじゃないし、エティハド航空が胸スポンサーだったり、エティサラート(通信会社)も早い段階からスポンサーについてた時点で自明のことやからね。それに膨らまし具合も最大1.8倍やから、「10.4倍の過大計上」と評価されたパリSGとはレベルが違うということもできる。それでもやっぱり、「オーナーが関連企業を使って不正に売上高を膨らましている」っていう批判には、胸を張って違うでと言いたかったところやけど、そうもいかんようやね。

 

なんでこれがいかんことなのかというと、売上高が膨らむと当然損失が減るわけで、そうなるとFFPのブレークイーブンルールに引っかからない可能性が高まるからよね。キャッシュの形でオーナーが金を入れることには問題はないわけよ。ていうか、それがオーナーの仕事やからね。でも売上計上さしたらダメ。

(11/6追記:ごめん、自分で書いてて赤っ恥なんやけど、不正確やったわ。売上(=スポンサーディール)で入れてもいいのよ。関連会社の場合、フェアバリューじゃないとダメFinancial Fair Play: How clubs justify spending & related party transactions

 

もう一つ知らんかったのは、シティが思いの外ストロングスタイルで交渉に臨んでいたことやね。訴えるつもり満々だったという話自体は、前からシティファン界隈では出てはいたんよ。

www.mcfcwatch.com

www.mcfcwatch.com

 

もうアカウントないけど、ワシの昔のTweetから引用すると、こういう話やった。

  • FFPの評価対象第1期は2013/14シーズン。評価対象となる数値は2011/12、2012/13の合計(翌期からは3年間の合計)
  • 第1期の損失限度額は€45m
  • シティの同期間の損失額合計は控除分を戻しても約€138m。超過だが、当初はOKの見込みだった。というのも、FFP規則の附則第11条というのがあって、これはFFP導入、ないしは導入が準備される以前に契約していた選手の給与が計算に含まれるのはおかしいのでは?というクラブ側の訴えを汲んだもの。
  • 従って、「対象期間に損失が発生したことは、FY2012の損失のみが原因であること」「損益のトレンドが改善傾向にあり、今後はFFPを遵守できると見込まれること」という条件がクリアできれば、シティの場合£80mが控除でき、損失額は£35mに縮小。FFPはクリア、制裁なし。のはずであった。
  • が、シティは急転直下、2014年5月FFPの制裁を受け入れたことを発表。内容は以下。
    • FY2014の損失限度額は€20m、FY2015は€10m
    • グループ内での資産売却益は計算から除外
    • 2年間は給与総額の増加禁止 
    • UEFA-Aリストを21人に制限
    • 移籍金のネット総額制限(£49m)(続
  • なぜか?FFPの報告用に、UEFAは2011年に"toolkit"と名付けられたテンプレートを発表。他のクラブ同様、シティもこのシートに従って計算を行い、附則第11条の適用条件を満たしていた。が、2013年4月、UEFAがtoolkitの更新版を発表。
  • 更新版は附則第11条に関する部分の計算方法が変わっており、更新版に沿って計算すると、シティは附則第11条を適用できない、すなわちFFPをパスしないことになってしまった。
  • どうする?どうもできません。だって、FY2012はもう終わってるんやもん。
  • 当然、最初のクラブ側は怒ったらしい。UEFAの擁護をすると改訂版の方が計算はより適切なのだが、問題はルールを後から変えんなという話である。UEFAを訴える手もあったが、結局制裁は受け入れた。理由を考えると、おそらくクラブのイメージ的戦略に宜しくなかろうということが一つ
  • 他には、制裁の内容を考えると実はさほど痛手では無かったのだろうということ。売上は伸びていたし、そのときの費用にはマンチョ一味の解任違約金とか、そういう一時的費用が大きかったからね。だからCLメンバーから外されたヨベティッチ一人が割りを食って終わった。

 

今回の報道で、その「怒った」内容が思いの外ストロングスタイルだったということがわかった。まあイメージは悪いよね。

まとめると、フェアバリューじゃないと判断された契約があったということ、交渉スタイルがかなり脅しに近いものだった可能性があるということが今回わかったことで、「破ってたのに破ってなかったかのように装っていた」という話ではなかった。まあ、1回破ってたのはみんな知ってたからね。一つも褒められる話じゃないけど。

 

 

それで結局どうするんやろうね?

成り行きを見てみなわからんけど、シティのイメージが悪くなることは間違いないやろね。すでにTwitterでは「28億€もの資金を違法にクラブに注ぎ込んでいた」という煽りもそこかしこに出てるみたいやし(その数字はDer Spiegelの記事の中になかったから、どれのことを言うてるんかわからへんけど)。結局イメージが悪くなるなら、ムバラクソリアーノが取った方法は失敗だったと言えるのかもしれん。

 

1ファンとして見ると、自分が決めたことでもないし、自分の金でもないから、本来はどうでもいいはずなんやけどね。けどやっぱり、自分が好きなクラブには、適法性だけじゃなくて、正統性の面でも評価されていてほしい、ピッチの中での成績を、正統なものとして認めてもらいたい。という人情がある。他のチームのファンからやいのやいの言われたくはないやんか。

 

そういう意味で、今回の報道はやっぱり残念よね。またDer Spiegelがこれでもかというくらい刺激的な書き方をしてるからね。しばらく、シティファンは多方面からの煽りに耐えなあかんやろうし、ないやろうとは思うけど、ひょっとすると追加調査・追加制裁みたいな話になるのかもわからへん。一方で、サッカービジネスウォッチャーにとっては面白い報道が続きそうではあるね。

 

にしても、ヨベティッチはかわいそうよね、というところで、今日の話を締めようか。