2017/18 マンチェスター・シティ シーズンレビュー個人編(中編)

MF

18 フェイビアン・デルフ Fabian DELPH***

 うちのアラバです。

 というスターリンアネクドートの一つも飛ばしたくなるくらいの華麗なコンバート成功。開幕前はストークに移籍寸前だった忘れられし男が、左サイドバックで復活し、メンディの穴を埋めて余りある活躍を見せた。まあしかし、ストークに行かなくて本当に良かったですね。アストン・ヴィラといい、泥舟を見捨てることにかけてのデルフの才能というのは、なかなか馬鹿にできないものがある。

 ボールを持っていないときのポジショニングに怪しい部分は多々あれど、タックルもできるし、楔も打てるし、サイドバックとしては相当に高い水準にある。特に狭いスペースでのキープ力は高く、ハイプレスを選んだ対戦相手の気力を密かに削り続けていた。スパーズとか。強いて言えば、インにせよアウトにせよもう少し攻め上がりの威力が増すと嬉しいくらいか。

 あともう一つ言えば、怪我の多さは依然として問題ではある。レギュラーに定着したような印象が強い今シーズンでも、結局リーグ戦は20試合しか出ていないのだ。来シーズンは面白フランス人が帰ってくるとはいえ、徐々にチームに慣らす余裕を持たせるためにも、ヨークシャーのアラバには健康体を維持してもらいたいところである。

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25 フェルナンジーニョ FERNANDINHO

 我々の監督がときに理解しがたいほどの原理主義者であり、その宗教じみた”あるべきサッカー”への執着ゆえに失敗と無縁ではないということを、我々はよく知っている。チグリンスキーとか。ブラボでも良いけど。御大層な言い方で私が何を言いたいのかというと、アンカーのポジション、いわゆるピボーテについて、来シーズンのグアルディオラはもう一度それをやらかすかもしれんなと疑っているのだ。

 思い出してほしい。2014年のW杯、(相対的には)貧弱な戦力で優勝を義務付けられ、確信犯で一人一殺のファウルゲームに持ち込もうとしたフェリポン・ブラジルで、訳わからないプロレス技を繰り出しまくっていたのは誰だったか?ネイマールの大怪我で終わったロシアンルーレットの最初の引き金を引いたのは誰だったか?そうです。フェルナンジーニョです。1-7で負けたから目立っていないようなもので、もし決勝まで行っていたらデ・ヨング・マークツーがまたしてもシティから誕生していた可能性は相当に高い。もともとは運動量ベースの8番的ボランチであって、やれと言われれば10億人が見守る前でおぞましいファウルも出来てしまう男なのだ。ジーニョは。

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 そういうジーニョだからこそ、プレミアリーグで“ペップ道”を貫く上でのバランスを絶妙に保っていたのではあるまいか。ジーニョ自体も相当に技量を高めてはいたが、やはりそもそも困ったときに無理が利く身体をしているというのは重要だ。今シーズンのジーニョは、組み立ての貢献―DFラインやGKからの引き出しや、ウィングへのクォーターバックパスーでも素晴らしかったが、同じくらい守備でも輝いていた。それをジョルジーニョとか、ユリアン・ヴァイグルに換えると言われると、まあそりゃあよりブスケツっぽいのはそっちでしょうけどねえ、みたいな。そういう不安がある。

 とは言え、その組み立てについてジーニョの限界が見えていたのもまた事実である。具体的には、後方からボールを受けたときに、前が向けない。というか、この人は多分”前を向いたプレイ”しか基本出来ないんだと思うのね。ここで前を向いてウィングに付けられると大分違うんだが、というシークエンスが多くなかったといえば嘘になる。その点では、前述の二人はシティの可能性を更に広げてくれるのかもしれない。

 長々と書いたが、第3キャプテンとして、そして“委員会”*1の一員として、素晴らしい活躍であった。ハリー・ケインよりはこっちがPFA TotYでしょう。

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42 ヤヤ・トゥレ Yaya TOURÉ

 ついに退団が決定した、シティ3大守護聖人の一人。今シーズンは完全におじいちゃん化しており、割とどうでもいい試合でたまに出場する以外は、もっぱら練習場でいじられていた。

 この記事は歴史の教科書ではないが、ご存じない方に近代シティの7大聖人を紹介しておきたい。まず最上位の3大守護聖人がコンパニ、トゥレ、シルバで、その次が2大準聖ハート、サバレタ。そして残り二人が2大偉人テベスアグエロとなっておりまして、7大聖人の姿を模したクッキーがエティハド・スタジアム2Fのお土産品コーナーで好評販売中ですので、ぜひお買い求めくださいませ。

 じゃないわ。何だっけ。トゥレ。ヤヤ・トゥレ。ついにこの男も退団のときを迎えたわけだが、コンパニとシルバと比べてもヤヤは唯一無二の、そしてシティの歴史上恐らく初の役割を背負っていた。それは“シティを勝たせる”ということ。ハンブルクにいたコンパニや、バレンシアにいたシルバと違い、ヤヤはシティに来る前にあらゆるタイトルを勝ち取っていた。シティを勝者にすることが、ヤヤの責務であった。素晴らしいROIではないだろうか。FAカップ決勝ストーク戦での決勝点、「アグエロオオオオオオオオ」の1週間前のニューカッスル戦での2得点、リーグカップ決勝サンダランド戦での芸術的カーラー、2年後のリーグカップ決勝での最後のPK。答えを出すということにおいて、コンパニよりも、シルバよりも、テベスよりも、ヤヤ・トゥレは頼れる男であった。さらば偉大なるアイボリアン。あと鬱陶しい代理人

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8 イルカイ・ギュンドアン İlkay GÜNDOĞAN

 ギュンドアンというのは存外ややこしい選手である。いわゆる司令塔型の、判断力と長短のパスで攻撃をオーガナイズするような選手だと思っていたのがシティに来る前。意外とランパード型というか、自分がゴール前に飛び込んでくる動きも得意なのだなと印象が変わったのが昨シーズン。怪我から完全復帰した今シーズンの発見は、なんというか、飛び込むのも得意っていうか、もしかしてこの人、そこにしか興味なくない?

 何がおかしいかっていうと、あんまりプレーの連続性を重視しないんですね。この人は。あるいは、決めに行けそうなタイミングしか興味がないと言った方が良いかも知れない。例えばダビ・シルバは一見無意味そうな顔出しとパスレシーブ/リターンを繰り返しながら、相手と自分たちの陣形を調整し、決定的なスペースを抽出していく、という作業を厭わない。ナスリやヤヤ・トゥレもその手の大家。デ・ブライネはもう少し単刀直入なプレーを好んでいるが、それでもプレーがなんというべきか、一本の線上にある。

 ギュンドアンはない。ぶつ切り。ボケっと突っ立ってるか、急にスイッチが入るか。スイッチが入ったときはシルバですら怖くてなかなか出さないような狭い場所にワンツーで突っ込んでいく。CMFとしてはスピードもあるし、長い距離も走る。一方で、セカンドボールへの反応は鈍め。性能がいちいちピーキーなのだ。世界仕様の稲本、という趣がある。

 今シーズンはシルバの離脱とトゥレの衰えのために、CMFの半レギュラー、およびアンカーの控えとして定期的に出場。CMFとしてはFW並の美麗なゴールを多々決めた一方、前述のように出入りの激しいプレーで数々のピンチを密かに演出していた。とは言っても基本的なレベルはめちゃめちゃ高いので半レギュラーとして居る分にはそんなに文句はないのだが、シルバの代役として本格的に使うと今ひとつなんだよなあ。ついでに言えば、アンカーとしても悪くはないが今ひとつであった。スパーズに3-1で勝っておいて今ひとつ、とかほざいちゃダメかも知れないが。全体的に貢献度は高かったが、来年も頼りたいかと言われると微妙なところである。

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17 ケヴィン・デ・ブライネ Kevin De BRUYNE

 後半戦に多少息切れしたものの、年間を通じて驚異的な質と量を示し、プレミアリーグの顔に。チーム内選挙で第5キャプテン及び選手委員会にも選出され、今後5年のシティを引っ張る存在として名実ともに地位を確立したシーズンであった。

 CMFコンビの片割れであるシルバの特徴が「間違えるけどミスは絶対しない」という点だとすれば、デ・ブライネは「ミスはするけど、絶対に間違えない」。シルバほどの完璧なボールコントロールがあるわけではないが、選択肢は常に正解。正解というか、「それができれば苦労無いですよね」というオプションを選べちゃう。しかもそれが、あのベッカムはだしの右足スルーパスだけでなく、 ゴリ押しのドリブルでも実行できるというのがデ・ブライネの特別さだと言えよう。

 あとはこのパフォーマンスを何年続けられるか。ぶっちゃけ今年は全部のコンペティションで頑張りすぎというか、グアルディオラも頼りすぎだったので、もう一人質の高いCMFを手に入れてローテを回していってもらいたいところ。

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21 ダビ・シルバ David SILVA

 ふざけるなよお前!

 お前だよお前!お前は本当に・・・座れお前は!お前は・・・どういうことよ!?どういうことなのよ?

 Player of the Yearの候補だったっちゅうんはお前、あれだろうお前、MVPの候補っちゅうことだろうが!あ!?

 しかもお前、Team of the Yearには入っとるっちゅうがな・・・こりゃお前、ベストイレブンちゅうことだろうが・・・ああ!?

 お前・・・なんちゅう活躍をしとるんだよお前は・・・本当に・・・。

 しかもお前アシストがいくつ?10超えた!?お前は本当に・・・いい加減にせえよ!!加減ちゅうものをしれよ!!

 いくつなんよお前は・・・毎年進化しとるじゃないの・・・回復力は落ちてるかも知れんけどピッチ上のクオリティは衰え知らずじゃないの・・・全く・・・いい加減にせえよ・・・。

 しかもお前、何?息子が早産で生まれて!?なるべくそばにいてやりたいからって!?スペインとイギリスを頻繁に往復して!?試合の直前に帰ってくるような強行スケジュールを続けたって!?

 お前は本当に・・・お前・・・舐めとんのか!!ええ!?舐めとんのか!!。

 それであのクオリティを出すてお前、どういうことよお前!!どれだけ精神的にタフなんよお前は!!プライベートの事情をピッチに持ち込まないことにかけては欧州1かよ!!

 

 

 お前は本当にもう・・・最高か!

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35 オレクサンドル・ジンチェンコ Oleksandr ZINCHENKO

 本職のAMFではなく左サイドバックの2番手として出場。試合数は多くないながら、印象的な活躍を見せた。

 シティのサイドバックというのは、試合中ほとんどボランチのように振る舞っていることも珍しくないポジションである。スプリントは専ら被カウンター時に行われるものであり、相手のクリアを回収するための読みとか、狭いスペースでボールを回せる技術とか、そういうものが重要になるわけだ。ということで、いきなりコンバートされたジンチェンコも特に問題なくサイドバックをこなしていた。なにせ本職が本職だけに、角度がないところから出すスルーパスなんかはデルフより上だったくらい。昨年はPSVでほとんど試合に出られなかったが、単純にどこそこで控えだったからこっちではダメとか、そういう単純な不等号が現実のサッカーには当てはまらないことを教えてくれる事例でもあった。

 来シーズンはメンディが戻ってくる左サイドバックに残り続けるのか、MFに戻るのか、あるいは改めてローンに出るのか定かではないが、しばらく育ててほしい逸材であることは確かである。顔も面白いし。

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47 フィル・フォーデン Phil FODEN

 昨年夏のアメリカツアーでトップチームデビュー。秋にはU17チームでW杯を制し、自らはMVP受賞。年末にはBBCの「年間最優秀若手アスリート」にも選ばれ、あとはテイラー・スウィフトとシングルを出すだけという若手の星。カップ戦を中心に何かとグアルディオラが使いたがり、全コンペティション合わせて9試合に出場した。

 左サイドバックで先発したシャフタール戦は消化試合ということもありうまく行かなかったようだが、CMFとして途中出場した試合では、細かいドリブル突破が普通に通用しまくっており、レスター戦ではアシストも記録。来シーズンに向けて、やれチアゴだのフレッジだのと獲得の噂は耐えないが、フォーデンと1年心中してみたいというファンも結構多そうな気がする。「1年間割り切って外に出す」というシルバやウィルシャーが経験したパターンを踏むのか、あくまで自前で育てるのか、上層部の判断に要注目。

*1:コンパニ、シルバ、フェルナンジーニョアグエロ、デ・ブライネで構成される、キャプテンの会。投票で選ばれるらしい