CFGが目指す世界支配(3/3) Guardianの記事訳

下の記事の翻訳 その3

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ペップ・グアルディオラの登用は、常にソリアーノの壮大な構想の中にあった。実現には時間と忍耐がかかったが。(中略)グアルディオラは一度は「来年行く」と言ったが、次の年には「すまない、バイエルンに行くよ」と言ってきたので、ソリアーノは「OK。じゃあ3年後だな」と返した。こうした忍耐は、儲けを焦らず、そしてファンがすぐ結果を求める移り変わりの激しいこのスポーツにおいて、根比べに勝つ方法を知っているオーナーがいなければできない。

グアルディオラの最優先タスクは、最低1シーズン当たり1つのタイトルを獲得し、ソリアーノが定義する「ナンバーワン」クラブの定義を満たすことである。「毎シーズン勝てという意味じゃなく、5シーズンあったら5つのタイトルを獲ってくれ、ということだ。つまり、4月の段階でプレミアリーグ有償の可能性を残し、CLで準決勝に進んでいるということだね」とソリアーノは説明する。シティが後者を達成できたのは一度しかない。グアルディオラが来る前の2015/16シーズンだ。しかし、先の目標は4年に1回CLを勝つ、ということをほのめかしている。

しかし、果てしなく続く試合とプレスカンファレンスから離れ、グアルディオラの隠された仕事は、究極的にはタイトルよりもっと価値ある何かを作り上げる手助けだ。つまり、全てのCFGクラブと選手たちの、はっきりそれと分かる、魅力的なスタイルのフットボールである。もう一度言おう。そのモデルはバルサから来ている。ジュニアチームの全員が同じ区ライフ式のサッカーを学んでいるために、シームレスにトップチームに移行できるクラブだ。CFGのモデルでは、数多の国にまたがるクラブとアカデミーは、同じもの―自動的にペップ式のサッカーをプレイする方法を学び、グループ内のチームを出入りできる明確な供給線―を作り上げる。ソリアーノによれば、これによって「よりシームレスに選手が(クラブ間を)移動できる」ようになり、そして最良の選手はマンチェスター・シティに行き着く。

これは聞こえよりも難しいかもしれない。(中略)今年の8月、NYCFCの試合を見たが、どちらかと言うとちぐはぐな、イングランドやスペインの2部か3部のようなサッカーだった。その数日前、NYCFCの監督であるパトリック・ヴィエラを見かけた。ヴィエラはシティの「エリート・ディベロップメント」U23チームの監督から、NYにやってきた。マンチェスターでキャリアを終えたアーセナルの元キャプテンに、NYCFC―MLSサラリーキャップ制の下、プレミアリーグの平均以下の給与総額のチームはいつも「シティのサッカー」をしているのかと尋ねると、彼はそうでないと認めた。「選手が違うから、NYでマンチェスターと同じサッカーはできないよ。我々が共有しているのは、我々が『美しいサッカー』と呼ぶフィロソフィだ。攻撃的で、ポゼッションを握ろうとし、チャンスを作り出し、特典し、魅力的なサッカーをプレイしようとするものだよ。レベルは違っても、フィロソフィは同じだ。」”

 

  

CFGが成長し、その影響が世界中で感じられるようになったことで、ライバルたちはその規模を恐れるようになり、CFGの周りを鷹の如くうろつくようになった。ラ・リーガの代表、歯に衣着せぬ弁護士であるハビエル・テバスはこの夏、シティからジローナに貸し出された5人の選手について、移籍の詳細が偽られているとして、自らのテリトリーに現れたCFGの翼を切り落としに出た。ジローナはこの5人の選手の会計的価値を積み増さねばならず、スペインの予算上限の仕組み上、選手の給与に使える費用の4%削減を余儀なくされた。(中略)

9月に行われたサッカーレックスのサッカービジネスカンファレンスで、テバスはまたもやシティに狙いを定めた。アブダビの公営企業からのスポンサーシップという名の国家資金によって、UEFAの規則を回避しているというのだ(彼はパリ・サンジェルマンカタール人たちにも、「プールで小便している」と同じような文句を言っている)。テバスの考えるところでは、移籍金や選手の給与高騰を引き起こしているのは、ファンの需要ではなく、湾岸諸国の資金と、「マンチェスター・シティと奴らの石油」を含む、いわゆる「国家クラブ」だという。シティは否定のみに留まらず、テバスを訴えると反撃した。UEFAは、シティの財政を調べろというテバスの要求を無視した。しかし、レアル・マドリーバルサが支配するリーグのトップからの口撃は、この2つのクラブ―非営利のファンクラブ会員が実権を持つ組織構造がゆえに、CFGのやり方でグローバル展開することができない―が感じている危機の現れである。

しかし、CFGがその力を持って規則の限界を広げてしまおうとしている、というテバスの訴えに効果がないわけではない。2014年、前年にFFPに違反したとして、シティに2,000万ユーロの罰金を課した。一方、オーストラリアのAリーグは、CFGが移籍金に関するリーグの罰則を回避した翌年、新たなルールを導入している。CFGが取った策略は、ある評論家からは「茶番」と評された。経緯はこうだ。マンチェスター・シティはアンソニーカセレスという地元の選手を獲得した―オーストラリアの他クラブより高い値を付けたのだが、そのままメルボルン・シティに貸し出したのだ。リーグは初年度の練習禁止で応えた。

こんな世界的な野心を可能にするほど大きな財布を持ったオーナーシップは、更なる問題を引き起こしうる。一つには、アブダビのイメージを守りたいという欲望が、CFGの前に立ちはだかっているからだ。サディヤット島の美術館のような、建設現場で働く移民労働者の権利を侵害しているとして人権団体から糾弾されているようなアブダビの野心的なプロジェクトがある中では特に。今年のはじめ、ワシントンのUAE大使館からのEメールがリークされた。その中には、NYCFCのスタジアムをクイーンズに建てるという計画について、CFGの重役が心配しているというメモがあった。このスタジアム建設に関して、ゲイの人権、女性、格差、イスラエル等に関する態度を対象として、アブダビの関与を批判する声が上がるのではないかという懸念からだ。もともと市民から反対の声が上がっていたプロジェクトだったが、NYCFCは未だに自前のスタジアムを持てていない。

https://media.gettyimages.com/photos/javier-tebas-la-liga-president-talks-during-day-3-of-the-soccerex-picture-id843226948

  

 

 

サッカー界のエコノミクスには根本的なパラドックスがある。グローバルのサッカー市場は年率10%以上で伸びているのに、利益を大きく伸ばしたクラブは数少なく、ましてやオーナーに配当を支払ったクラブなど尚更なのだ。偉大なるプレミアリーグのクラブですら、この5年間で3回は(合計で)税前損失を計上している。しかし、クラブの企業価値は上昇している。例えば、マンスールは前のオーナー、逃亡の身であるかつてのタイ首相、タクシン・シナワトラがたった15ヶ月前に払ったよりも、推計で約2倍の金額を払ってシティを買収しているのだ。

ソリアーノは言う。スポーツ・フランチャイズ(球団所有)は、常に稼いだ利益を再投資しなければならないような熾烈な競争に晒されているのだと。つまり、オーナーが本当にキャシュを得られるのは、彼らがクラブを売ったときだけだ。売らないオーナーたちは、サッカークラブを超リッチなコレクターのための「希少品」だと思っている。億万長者は列をなし、選ばれたもののみが加入できる“有名なクラブを持っている”という地位に加わりたがっているのだ。これは驚くほど保ちの良い資産でもある。労働者たちが飲酒と喧嘩から離れられるようにと、教区牧師の娘アンナ・コネルによって1880年に創設されたマンチェスター・シティは、創設から2世紀目を迎えた数あるクラブの1つだ。「1917年にNY株式市場に上場していた企業のうち、今も残っている企業はいくつある?」とソリアーノは問う。

究極的には、価値は才能と感動が合わさることで生まれる。つまり選手と、それを愛するファンだ。これがソリアーノのいう「愛」であり、CFGがオーナーの望むように多国籍企業として成功したいと思うのなら、金に変えて見せなければならないものなのだ。もしグアルディオラがシティのために泣く日が来るとすれば、それはチャンピオンズリーグを再び制したときだけだろう。ソリアーノは今季、それを期待している。そのとき、イングランドで最も歴史あるクラブの一つであるシティのファンは、喜んで愛に身を任せるだろう。そして、更に多くの新たなファンがそれに続く。

しかし、CFGの多国籍企業モデルについて、この「愛」が本当にどの程度価値あるものなのか、我々は冷静な目で見ざるを得ない。CFGはコカ・コーラや、ディスニー、グーグルのような価値を持つことがあるのか?そのためには、マンチェスター・シティはもっともっと試合に勝ち、タイトルを取らなければならない―そしてそうなれば、このモデルが成功を収めたときには、他にもサッカー多国籍企業が現れ、揃って世界中で愛を金に変えていくだろう。もちろん、世知辛いビジネスの世界において、CFGの強大な世界展開の真の、金銭的な価値を知る方法は一つしか無い。マンスール―それか、他の誰かに代替わりしているかもしれないが―この企業体を売り、市場が審判を下す。そして、この「愛」に値段をつけるのだ。