CFGが目指す世界支配(2/3) Guardianの記事訳

下の記事の翻訳 その2

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この3月に初めてエティハド・キャンパスを訪問したとき、受付デスクの後ろの壁にはシティ、NYCFCに加えてもう2つのクラブの紋章が掲げられていた。メルボルン・シティと、CFGが少数株主である日本の横浜F・マリノスだ。もともとメルボルン・ハートという名だった前者は、2009年に創設されたばかりだが、シティが経営権を獲得し、名称を変え、クラブカラーをスカイブルーにしたわずか2年後の昨シーズン、クラブ初の主要タイトルを獲得した。創設当時のCEOだったスコット・マンは「スタートアップのテックファームを立ち上げて、アップルに買収されたようなものだよ」と語る。このアナロジーに則れば、イースト・マンチェスターはサッカーのシリコンバレーになるだろう。

2ヶ月後に再訪したとき、シティはまたしてもクラブを買収していた。今度はウルグアイアトレティコ・トルケ。2007年に創設され、2012年にプロになったばかりの2部リーグのクラブだ。5月に行われたCFGの年次スタッフミーティングでは、トルケの代表はこんなスライドでプレゼンを始めた。南米全体を書いた地図の上で、デカい矢印がウルグアイを指しているのだ。「トルケのことは誰も知りません。どこにあるかも」と代表は半分冗談で認めた(場所だけで言えば、首都のモンテビデオにある)。「この部屋の中にいる人数は、トルケの試合の観客数とほぼ一緒ですし」。しかし、目標は大きい。ルイス・スアレスエディンソン・カバーニのようなワールドクラスを排出してきたこの国において、トルケを1部に昇格させ、4位以内でフィニッシュし、大陸選手権に出ることだ。不思議なことに、トルケは「遍く南米中から選手と契約し、登録する」という目標も掲げている。これは、ウルグアイが1人あたりの金額で見れば世界最高のプロサッカー選手輸出国だという統計的な分析に基づいている。驚くべきことに、その学は1年当り2,500万ポンドにも達する。数多くの小さなクラブが、目先の金欲しさにしばしば10代の選手を安価で叩き売っていることを含めてもそうなのだ。ソリアーノは「驚異的だよ。我々は巨大だし、彼らを持ち続けて、さらに価値を高めて行きたいと思っている」と語る。

次にソリアーノに会ったのは7月。彼はまたもや新たなディールを纏めたばかりだった。350万ユーロで、シティはスペイン1部リーグのクラブ、ジローナの株式44%を購入した。これは今までよりも遥かに大物だった。昨年価格に合意した段階では、ジローナはまだ2部にいたが、マンチェスター・シティからレンタルされた選手の助けもあって、約1年後にはレアル・マドリーを倒すまでになった。CFGからの資金とノウハウの注入は、トルケには(ジローナより)さらに劇的な効果を与えた。買収からわずか半年で、2部リーグで優勝したのだ。つまり、1部昇格である。

 

 

 

ソリアーノは、サッカーはいずれ、世界中のほぼ全ての国で最も人気のスポーツになると考えている。アメリカやインドも含めてだ。では、CFGはどこまで行くのか?「我々はオープンだ。アフリカではガーナのアカデミーと関係を構築しているし、南アフリカでも機会を探している。」CFGはカラカスのアトレティコベネズエラと強い関係を築いている。ソリアーノは、マレーシアとベトナムにも言及した。上限は、1つの大陸に2つか3つのクラブだろう。だが、次の大きな買収はCFGが「積極的に買収の機会を探している」と公言している中国になると思われる。

2015年10月、中国のサッカー大好き国家主席である習近平が、シティのエティハド・スタジアムを訪問した。その2ヶ月後、中国の投資家グループが、CFG株式の13%を4億ドルで買収した。全体の評価額は30億ドルに達するが、これはマンスールがCFGにつぎ込んできた額の合計よりも、恐らく30%程度は大きい。シティのCEOに就任して以来、ソリアーノは中国サッカーの劇的かつ混沌とした進化に注目してきた。当初、ソリアーノは混乱と腐敗の噂、そして価格の高騰に辟易としていたが、今は「市場は合理的になり、リーグも組織されてきた」と考えている。

習近平は10年以内に、中国に5万か所の特別なサッカースクールと、14万のグラウンドを作りたいと考えている。一つの理由は、勉強漬けの子どもたちをより健康にするためだ。数百万の子どもたちにサッカーを教えるという機会を、ソリアーノは「もしかしたらマンチェスター・シティのビジネスよりも大きな事業になりうる」と見ている。CFGが興味を持っているのはクラブ運営だけではなく、サッカーに関するあらゆるセクターだということを思い出させる事実だ。CFGは最近アメリカにおいて、都市部でファイブ・ア・サイド*1を運営するジョイント・ベンチャーを立ち上げ、1,600万ポンドを投入している。

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複数のクラブを保有するオーナーは、CFG以外にもある。徐々に統合を試みているクラブもあるが、大半はただ投資のポートフォリオに過ぎない。CFGの特殊性は、意識的に生み出された単一のコーポレートカルチャーを世界中に展開している(同じスカイブルーのシャツを着る場合もある)、唯一のオーナーだという点にある。スペインのデロイトでスポーツ部門のパートナーを務めるフェルナンド・ポンスは、これをコンサルタントが言う所謂「グローカライゼーション」―グローバルなプロダクトを手掛けるが、ローカルなマーケットに適合もするというコンセプト―の典型例と評価している。例えば、「ジローナやNYCFCのファンは、ほぼ確実にシティファンにもなるでしょう」。また、マンチェスターのエティハド・スタジアムで見られる日産やSAP、ウィックスの広告は、メルボルンやNYでも掲示される。アメリカやオーストラリアの選手たちは、オフシーズンには世界最先端のトレーニング施設を体験することが出来る。

だが、ソリアーノの関心を最も引きつけるのは、選手のプールの広さと、彼らがプレイできるクラブの選択肢の多さだ。現時点ですでに、CFGは世界の誰よりも多くのプロサッカー選手と契約しており、今後もその数は増えていく一方だろう。すなわち、「エンタテインメント」とクラブ運営がグループの第一の事業であるとすれば、第二の事業は「選手のデベロップメント(育成・開発)」だ。着想のもとは、バルサの名高いユースアカデミーであり、世界中でコピーされているマシアだ。マシアは1人あたり約2百万ユーロ程度の費用で、メッシ、チャビ、イニエスタプジョル、そしてグアルディオラのような伝説的選手を生み出してきた。今日の価格でこの5人を買おうと思えば、合計で10億ユーロ近くはするだろう。我々はバルサのモデルをグローバルに展開している、とソリアーノは語る。

 

CFGの計画の根拠となるロジックは、私とソリアーノが7月に会ったまさにその週、さらに明確になった。PSGを所有するカタールのオーナーたちが、ネイマールのために1億9,800万ポンドを支払うことに同意したのだ。移籍金記録はほぼ毎年破られるようになった。ソリアーノは今や、インフレはこの業界における必然と見ている―そしてそれは、富豪のオーナー達によってではなく、ファンの要求に依るものだとも。

「なぜか?答えは簡単だ。市場が成長しているんだ。究極的には、市場は顧客次第だ。そこには、良いサッカーを見たいと願い、それに金を払う気があるファンが居る。だからクラブが払える金は増える。でもトップクラスの選手が生まれる数は変わらない」

「これは典型的な“Make-or-Buy”の問題だ。市場で買えないのなら、作るしかない。つまり、アカデミー、コーチ、若い選手の獲得に多額の資金を投じるということだ。ベンチャーキャピタルみたいなものだよ。10人の選手に1,000万ずつ投資したとしたら、1億の値がつくようなトップ選手に育ってくれるのは1人だけで良い」

マンチェスター・シティについて言えば、CFGのクラブ網を拡大していくことは、イングランド・サッカー界が17歳から18歳の有望な選手に関して抱えている問題を解決することに繋がる。ソリアーノはこれを育成ギャップと呼んでいるが、イングランド代表がなぜいつも残念なのかの説明にもなるかもしれない。

「もしトップクオリティの(才能がある)選手がいたら、彼は成長のために、コンペティティブな環境でプレイしなければならない。技術的な面だけでなく、プレッシャーの面でもだ。イングランドのU21やU19の大会ではそれが叶わない。なぜなら、試合にはほとんど客が来ないし、コンペティティブなテンションも不足しているからだ。」

「もしスペインやドイツが育成において(イングランドより)ずっと上だとしたら、それはバルサレアル・マドリーバイエルンのようなクラブが皆、下部リーグで他のプロクラブと戦っているようなリザーブチームを持っているからだ。イングランドで行われているような、完全に切り離されたリーグではなくね。」

「もし才能があり有望な18歳から19歳の選手がいるなら、彼を一軍と一緒に練習させてもいいが、試合は2部の、タフでコンペティティブな、3万人の観客が来るようなリーグでさせるべきだ」。

 

プレミアリーグのクラブはセカンドチームを持つことが許されていないため、若い有望選手を育てる最もありがちな方法は、下部リーグへの貸し出しだ。例えば、マンチェスター・シティは現在約20人を貸し出している。しかし一旦貸し出してしまえば、親クラブは各選手の育成をコントロールできない。30人以上の選手を24の異なるクラブにレンタルさせているくらい、大量の若い選手を獲得しているチェルシーが証明しているようにである。最悪の場合、これは選手を倉庫にしまい込んだまま、キャリアを潰してしまうことにも繋がりうる。(理屈の上では)全てが同じスタイルのサッカーをプレイする、というCFGのクラブ網は、この問題を解決するためのものだ。ソリアーノは「このシステムにおいて、我々はグループ内のクラブが何をしているか、ということを完璧に把握している。指導法も、プレイスタイルも、あらゆる面で同じなのだ」と言う。

 

このビジョンが上手く機能すれば、期待通り育った選手は、例えばトルケからニューヨークへ、そしてジローナへ、最終的にはマンチェスター・シティへ、といったキャリアを歩むことだろう。選手1人1人はグループ内の各クラブに所属しているから、CFGには所有権はない。つまり、それぞれのクラブはグループ外のクラブとの競争に勝ち、適切な移籍金を払って(グループ内の)選手を獲得する必要がある。だが、CFG内のクラブは、どの選手がCFG内の他のクラブにフィットするかについて、内部で選手の情報を共有している。また、移籍金は究極的には1つの企業体(CFG)の中で循環するのだ。好例はアーロン・モーイだろう。2014年にメルボルン・シティに加入したモーイは、2年連続でメルボルンのクラブ最優秀選手に輝いた。CFGはモーイがイングランドでプレイ出来るレベルにあると見て、メルボルンマンチェスター・シティにモーイを42.5万ポンドで売った。モーイは1試合もシティでプレイすることなくハダーズフィールドに貸し出され、彼らの昇格に貢献し、そのまま完全移籍となった―移籍金は1,000万ポンドだ。このディールは、CFGがグループ内選手に関する内部の知見をどう活用出来るかを示している(実際にはマンチェスターでプレイしたことがなくてもだ。)この移籍で生み出された利益は、メルボルン・シティを購入した際の価格の40%以上にも達した。

 

*1:5人制のミニサッカー