マンチェスター・シティの16/17シーズン 中間まとめ
以下、『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』さん、@500zooさん、@yuukikouheiさん、@tkq12さんを一部引用しております。
-まずグアルディオラ政権下でのシティの戦いぶりについて、簡単に
「就任自体にも、ピッチ内での戦いぶりについても、基本的にはポジティブな感覚を抱いています。成功や失敗を論ずるには時期尚早過ぎますが。パフォーマンスについては、個人的には勝ってくれさえすれば内容は問わないタイプの人間なので、そもそも不満も満足もさほどありませんが、チーム全体に漂っていた倦怠感が払拭されたことは喜ばしいと思います」
-ポジティブな理由は
「戦術の骨格がより強固なものになったことで、見る側としては原因と結果の関係性がわかりやすくなったためです。」
-と言うと
「マルティン・ペラルナウの本やバルセロナ、バイエルンの動向を見る限り、グアルディオラのサッカーは、まずリスクを低減するということが根底にあり、そのために試合中のあらゆる不確定要素をコントロールすることを志向しているようです。」
-みたいですね
「そのためのグアルディオラにとっての解法が、可能な限りグラウンダーのパスを使用したバックラインからのビルドアップであり、ボールロスト時のプレッシングであり、プレッシングに対応した高いDFライン設定である、ということなんだそうです。
今シーズンのシティでは、これらの原則がペレグリーニ時代のシティよりも厳密に徹底されています。導入からの期間が浅いためと、原則を遂行するために十分な選手が揃っているとは言い難いために成績が常に出ているわけではありませんが、成功するにせよ失敗するにせよ、目指すゴールと現在地のギャップがわかりやすくなったため、ピッチ内で起きていることの理屈や、足りないピースや今後の見通しが見えやすくなったことが、個人的には何よりポジティブに感じる原因です」
-なぜそれが嬉しいのでしょうか
「個人的な感覚でしかありませんが、褒める貶すよりも、まずパフォーマンスという結果に至った原因や理屈を理解したいという欲求の方が大きいです。『とにかく勝て』でも別にいいですけど、『じゃあどうしたら?』という質問に対して『それはよくわからんがとにかく勝て』と返すのは、個人的には多少気持ち悪いので。」
-ペレグリーニ時代と比べてと言いましたが、そのときのシティの総括を
「ピッチ内から話しますが、一部で言われているように『戦術がない』監督では全くなく、特に相手の戦術上の瑕疵を突くことには長けていました。ただし、その狙いを遂行するための戦術的な枠組みが強固でなく、結果中心選手のコンディション低下によって徐々に競争力を失ったという印象です。
従って、戦術上の狙いはあるし、コンディションが良いときには攻撃だけでなく守備についても完成形への期待を想起させるパフォーマンスを見せてくれましたが、一方で常にコンディションが保たれるわけはないので、次の試合ではどうなっているのかよくわからない。戦術上の決まりごとが徹底されていないシーケンスが多いので、対処できなかったことは次回対処できるかもしれないし、できないかもしれない。選手が疲れていたのか、事前の練習で仕込まれていなかったのか、次は理屈通り動くのか、そういうことがよくわからない。そこがストレスでした。」
―具体的には
「例えば、ボールを前線に供給するということについて、上手く行くときもあれば行かないときもありました。まずもってその不安定性自体が戦術的な骨格の強度が高くないことを示していると思いますが、今日なぜ上手くいかなかったのか、それが次の試合で解決するのか否か、手当てする気があるのか否か、最後までよくわかりませんでした。
まず、ペレグリーニはDFラインのタスクとして組み立てへの参加をあまり重視しませんでした。コンパニ、マンガラ、ナスタシッチ、オタメンディといった選手はいずれも組み立てを得意としておらず、またそれを補うための特段の手当ても行いませんでした。ちなみに、このことはビジャレアル時代からの特徴のようです。子飼いのデミチェリスは多少上手でしたが。」
-だからボール供給が不安定だったと
「そのこと自体が悪いわけではないのですが、結果としてボールを前で保持するために行われたのは、①ヤヤ・トゥレ、シルバ、ナスリらが降りてくる動き、②ジェコ、ネグレドら長身FWへのロングボール、③高い位置でのプレスでした。
マンチェスター・シティは、いつものようにヤヤ・トゥレがDFラインに落ちて、そこから縦パスを通す形でしか攻撃を構築することができなかった。シルバ、ヘスス・ナバスもポジショニングをフリーにすることで、ボールを引き出そうとしていたが、ハル・シティのスペースを消す4-4-2の前に、いい場所でボールを受けることはできなかった。
それならば、アグエロとジェコの個人技でどうにかボールをキープしてもらおうとなるのだけど、そもそもそこまでボールが届かない。強引に届けてもさすがに働けないという悲しい状況であった。なお、アグエロはそれでも相手からファウルをもらう粘りを見せていたので、交代されることはなかった
ペジェグリーニの手筋~マンチェスター・シティ対バルセロナ~ - サッカーの面白い戦術分析を心がけます
前から行かない。むろん、行くときは行く。ただし、アグエロとジェコの距離が離れてしまうと、ブスケツへのパスコースが空いてしまう。ブスケツを2人で観るのか、中盤の助けを必要とするかの動きは、状況によって判断されていた。ただし、状況による判断が常に正しさを持っているわけでもなく、ブスケツが簡単にボールを受けてしまう場面が何度か見られていた。
マンチェスター・シティがボールを保持しているときのバルセロナは、特に何らかの対策を行わず、いつも通りに。よって、マンチェスター・シティにボールを運ばれてしまう場面もあれば、高い位置からのプレッシングが機能する場面もあった。このあたりの曖昧さは悪いときのバルセロナらしさなのかもしれない。ただし、以前に比べると、4-5-1での撤退という選択肢も試合中に見せているので、危機的な状況になるわけもなく。
結果としては②はネグレドの退団志願、ジェコおよび代役だったボニーの不振によって年を追うごとに弱体化していきました。③は時と場合によってはフェルナンジーニョを中心として効果を発揮しましたが、FW陣にその動きを徹底させることができず、あるいはするつもりがなく、全体としては成功とは言いがたかったと思います。良い例が14/15のバルセロナ戦1stレグです。
③についても、主力選手のコンディションが低下していくにつれて効果を発揮できなくなりました。15/16シーズンに取りこぼしが増加しましたが、ヤヤ・トゥレ、シルバ、ナスリ、アグエロ、デブライネが揃うことがほとんど無かったことが遠因と思われます。」
-ピッチ外では
そちらの方では、「グアルディオラへのつなぎ」というある種屈辱的とも言える役割に文句も言わず、かつ常にタイトル争いに絡むという目標を達成したので、役割を十分に果たしたと思います。マンチョと順序が逆だったらと思うとぞっとします。」
www.manchestereveningnews.co.uk
-マンチョは黙ってないでしょうね
「癇癪持ちですからね」
-試合内容に行く前に、スカッド編成を見てみましょうか
「グアルディオラが志向するサッカーを遂行するためには、DFラインが弱いと思われます。組み立てに長けたCBがストーンズしかいませんので、コラロフを配置転換しましたが、もともとSBなのでドリブル対応等難点が多いです。また全体的に対空性能とスピードが欠けており、リスク計算の収支が合わない原因になっています。
Whisper it quietly but Kolarov was absolutely superb again today at centre half in a back 4 *runs away*
— LongsightM13 (@LongsightBlues) 2016年12月18日
中盤もアンカー、CMFが少なく、デブライネとシルバ、フェルナンジーニョのタスク過多傾向が見られます。ギュンドアンは後方からの崩し参加で持ち味を発揮し始めていましたが、離脱してしまいました。」
-マネジメントチームは
「CEO、ダイレクター、育成ヘッドに、グアルディオラのバルセロナ時代の同僚を揃えているので、監督がやりやすい環境はある程度整えられているのだと思います。チキの手腕はどうなんだとか、色々ありますけど」
-ピッチ内でのパフォーマンスは
「序盤は勝ちが続いていましたが、決して磐石の試合内容ではありませんでした。とくにチャンスを作ってはいても、得点まで至らないケースが多く見られました。これについては、500zooさんが『デブライネ、シルバの得点能力』を指摘されています」
問題は攻撃ですかね。ビルドアップはストーンズとフェルナンジーニョ、シルバでできているが、ワイドとハーフスペースもうまく使えていないし、中央を刺す方法も確立していない感じ。とにかく引く、という選択肢を相手が初めからとっているのでプランが見えづらいという感じでもない。
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2016年8月23日
中央を刺しづらいのはプランが無いのではなく、シルバがタスクを負いすぎていることと、単純に彼がフィニッシャーでないことが問題な気もする。シルバをフリーにする方法はすでに確立しているように見えるので。
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2016年8月23日
これでシルバにスコア能力があれば開幕2試合で計10点とか取れていたかもしれない。現状フィニッシャーがアグエロ一枚で、フリーになれるよう戦術的に守られているシルバとデブライネがスコアラーではないので、ちょっと厳しい。CL予備戦はだいぶ点取れていたみたいなので観てみようかな。
— 五百蔵 容 (@500zoo) 2016年8月23日
-デブライネは点が取れる選手なのでは?
「キックが素晴らしく上手なのでシーズン10点強は取りますが、ゴール前に飛び込んで叩くようなプレーは苦手としています。ただし、チームとして守備面でははっきりと向上が見られましたし、ビルドアップにも大きな問題は発生していませんでした。」
-9月末のセルティック戦から、10月・11月の2ヶ月強は3勝5分3敗と停滞します。
「結論としては、試合内容は騒ぐほど悪くありませんでした。結果が出ていないので怒られるのも分かりますけど。
セルティック戦、スパーズ戦はどちらも前線からの激しいプレスを交わせなかった試合でした。加えてスパーズ戦では、中盤にデンベレ、ワニャマという重量級のMFがおり、組み立てがさっぱり通用しませんでした。
流石に、ポチェッティーノが鍛え上げたスパーズの練度には届かず。プレミアを蹂躙していたペップ・グアルディオラとマンチェスター・シティだったが、昨シーズンからの好調を保つスパーズのプレスと速攻に屈する。PKが決まっていれば3-0。現状、予想以上にチームとしての差はあった。
— 結城 康平 (@yuukikouhei) 2016年10月2日
ビトンのサポートにくいな。ジーニョ行き過ぎ問題。 pic.twitter.com/DunYlyZymn
— szakekovci (@szakekovci) 2016年9月29日
対策として、なのかどうかは分かりませんが、次のエヴァートン戦から3バックが導入されます。『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』で解説されていますが、フォーメーション変換が無くなれば、その時間を利用される問題は無くなりますし、餅は餅屋です。チェルシー戦で見せたCMFが絡んだサイド攻略は良い例だと思います。また、後ろで数的優位を保つことでカウンターのリスクを軽減し、攻撃力を高めるという策も、以前のバイエルンで見られています。選手のクオリティとチームとしての練度不足もあって、むしろ失点のリスクは高まっているようですが。」
【マンチェスター・シティの攻撃の特徴】マンチェスター・シティ対エバートン【ステケレンブルグ!!!!】 - サッカーの面白い戦術分析を心がけます
サイドバックの選手がアンカーの横でプレーすることを、アラバロールと呼んでいる。この動きは相手のカウンターに対する策として生まれたものだ。ポリバレントなアラバはセンターでのプレーを攻守ともに苦にしないタイプだった。よって、サイドバックだけでなく、プレーエリアを広げることで、アラバ自身にとって、そしてもちろんチームにとってもポジティブな策だった。
マンチェスター・シティに在籍しているサイドバックは、センターでのプレーをしていましたよ、という選手は特にいない。思い出してみても、クリシー、コラロフ、サバレタ、サニャ。そんな彼らがアラバロールをこなしているのはなかなかの衝撃だった。ただし、アラバに比べれば、攻撃面での物足りなさは、どうしても否めない。だったら、最初からセントラルハーフの選手を置いてしまえばいい。この試合では、ギュンドアンとフェルナンジーニョがセントラルハーフでコンビを組んだ。このポジション変更によるデメリットは、3バックでの守備を強いられることだろう。クリシー、ストーンズ、オタメンディは数的均衡のなかでプレーする機会が多くなった。その代わりのメリットが、マンチェスター・シティの攻撃機会の増大に繋がる試合となった
3-0で負けているのに、マンジュキッチ→ハビ・マルティネスの采配。負けているのにFWを交代したグアルディオラ。何が悪くてチームが機能していないかを正確に把握できている勇気のある采配であった。
この交代によって、景色はがらっと変化する。レアル・マドリーのカウンターは枚数を揃えたバイエルンの守備陣に捕まるようになり、そもそもカウンターの場面はほとんど観られなくなっていった。また、ビルドアップの面でもハビ・マルティネスがベンゼマたちを牽制することで、クロースたちがより自由に振る舞えるようになった。つまり、前半よりもカウンターの恐怖にとらわれないで攻撃を仕掛けられるようになったバイエルンの攻撃の精度が上がり、それがレアル・マドリーのカウンター機会の減少にも繋がった。
-これだけ結果が出ていないのに内容が悪くないというのは無理がありませんか
「その意見もわかります。実際、レスター戦は酷い出来でした。とはいえ、エヴァートン戦にしてもボロ戦にしても十分をコントロールすることはできていました。後者の前半はあけすけに言ってフルボッコ状態で、過去15年のシティで最も堅牢な試合だったと言って良いと思います。」
-クリーンシートが少ない点については
「プレミアのチームは金があるので、中位下位でも良いストライカーが雇えます。ルカクやロンドン、イガロ、ヴァーディーといった選手は1人でDF2人くらい平気で片付けますから、その点がいまだ収支合わせに苦慮している原因かと思います」
-12月以降はチェルシー、レスターに連敗しましたが
「レスター戦の負け方が酷かったので一気に批判が噴出しましたが、チェルシー戦は良かったです。1-3で負けておいて、良いもクソも無いといえば無いんですが、アグエロ、デブライネがあそこまでイージーなチャンスを外してしまっては。チェルシーをよく崩してはいました。とはいえ、そこで結果を出すコンテとチェルシーが素晴らしいのは言うまでもありません。次のワトフォード戦では、よりオーソドックスな形をとってひとまず結果を出しました。」
【リスク管理をするグアルディオラ】マンチェスター・シティ対ワトフォード【奇襲のマッツァーリ】 - サッカーの面白い戦術分析を心がけます
-『リスク管理』という表現が使われていますね
所謂アラバロール、あるいはファルソラテラルも、カウンターの出所を押さえつつ3枚目の動きを攻撃に追加するという意味ではリスク管理策なのですが、まあ単純に後ろに4枚揃っていた方が不確定要素を減らしやすいという道理はありますから。チェルシー戦、レスター戦と、相手のカウンターを全くチェックできなくなっていたので、対策としては妥当だと思います。
-今後の見通しは
「得点効率の低さは、デブライネとシルバがスコアラーを担う構造である限り中々改善しないと思います。彼ら2人自体はシティで最高の選手ですけど。
アグエロにしたところで割とイージーなチャンスを外す癖は直っていませんし、タスクも多いので、劇的な改善は望み難いです。むしろ、2月に延長されたはずの契約が発表されていなかったり、ガブリエウ・ジェズス以外にもFW獲得の噂が耐えなかったりと、アグエロに満足していない雰囲気も感じられます。
ただし、直近3試合のように、長身のヤヤ・トゥレを含めたよりオーソドックスな形で結果が出始めているので、勝ち点はある程度安定して稼げるのではないかと思っています。ヤヤはSBが出たスペースのカバーに入る仕事もやるようになったので、190cmある彼がいることは対空面でも大きいです。いつまで持つか分かりませんが。」
-新戦力については
ノリートの力の劣る相手はボコボコにするけど同格以上の相手には封殺される安定感好き
— tkq (@tkq12) 2016年9月10日
ノリートは点決めたやつにすぐ抱きつくやつだとは思っていたが、イアナチョが点取ったときに至ってはキスすらしていた。
— szakekovci (@szakekovci) 2016年9月13日
ノリート、ハリウッド映画のザコ悪役っぽい。黒服の。スカヨハにボコボコにされてそう。
— szakekovci (@szakekovci) 2016年8月28日
ノリートはボールを持った時は結構得意な型に頼りがち、というイメージ通りのキャラクターなのだけど、ボールを持たない時のポジショニングが絶妙の極みで、グアルディオラがアタッカーが沢山いるシティでも欲しがった理由が解る。彼の特徴は、そっちだったんだなーと。
— 結城 康平 (@yuukikouhei) 2016年9月18日
-最終的な順位は
「せっかくグアルディオラが来たわけですから、これでCL圏内が目標というのも景気が悪くないですか。優勝目指して頑張ってもらいたいところです。」
ーちなみにこのスタイルどうでしたか
「こっ恥ずかしくなったのでもうやめたいと思います」