板倉滉の移籍はシティ的にはどういう扱いなのか

板倉滉、衝撃のマンチェスター・シティ移籍。

https://media.gettyimages.com/photos/ko-itakura-of-japan-in-action-against-mahmond-abuwarda-of-palestine-picture-id1014297332

と、呼び捨てにしてはみたが、正直に言えば名前すら知らなかった。ただ、この動画を見る限り期待の持てそうな選手ではある。この弾道。パッと見でわかる「この人はプロなんだな」感。サッカーをやっているからには、一度でいいからあんな弾道蹴ってみたいではないか。期待は募るところである。

 

 

ところで、彼の移籍はマンチェスター・シティ(以下シティ)的にはどういう扱いなのだろうか。シティといえば現プレミアリーグ王者であり、アブダビの豊富な資金力を背景にクラブ運営に関する新基軸をあれこれ打ち出しているクラブでもある。今日はシティの移籍戦略に関する現状を元に、板倉くんがシティ・フットボール・グループ(CFG))内でどういった扱いを受けそうなのかについて、一席ぶってみたい。まあ全部推測なわけだが。

 

ちなみに、このあとの説明において「本社」とか「支社」とか「幹部候補」とか言った、場合によっては刺激的なワードが登場するが、これはあくまでCFGのフラッグシップたるマンチェスター・シティ中心として見た場合の選手獲得・育成戦略を語るに当たってわかり易かろうという考えから来ているものであって、決して各クラブの、それぞれのファンにとっての重要性を指したものではないということにご留意いただきたい。ジローナにはジローナの、メルボルンにはメルボルンの、横浜には横浜の固有の歴史と重みがあるのだから。

 

誰がどこで修行しているのか

というディスクレイマーが終わったところで、まずCFGの選手獲得・育成戦略について概要を確認したい。CFGがどういう組織かについては昔書いたので省略するが、若手選手の修行先には幾つかパターンがある。

wegottadigitupsomehow.hatenablog.com

まず①本社=シティのトップチームにそのまま帯同。これはシンプル。

次に、②欧州内のCFGクラブ、スペイン1部のジローナに貸し出すパターン。一定の株式をグアルディオラの兄が持っているジローナは、選手補強戦略にグループ内レンタルが組み込まれているので、毎年一定数の有望な若手がレアルやバルサと戦う機会を求めてレンタルされる。

③CFG外だが、欧州のトップクラスのチーム。端的に言えば、CLに出るようなクラブである。大体出る先は決まっていて、リヨン、セルティックガラタサライPSVといったところ(ガラタサライは、イギリスから出るものなら何でも買うが)。

④CFG外だが提携関係を結んでいる、欧州トップリーグのクラブ。具体的にはオランダのNACブレダ。ブレダはシティと選手レンタル及びデータベース利用や施設強化に関する提携を結んでおり、毎年何人か選んで借りる事ができる権利をもっている。詳細なスキームはこちらを参照されたい。

⑤CFGでも提携関係でもない、欧州のトップリーグのクラブ。私の恣意的な区分だが、英・西・伊・独・仏・蘭の1部リーグを指してもそう異論はあるまい。多いのはヘーレンフェーン、トゥウェンテ、フローニンヘンといったオランダのクラブだ。

イングランドの下部リーグか、ここまで挙げていない欧州のリーグのクラブ。後者は、ストレムスゴッツェやノアシェランといった北欧のチームが中心である。北欧ルートは基本的に「ガーナのライト・トゥ・ドリームアカデミーから買って、そのまま北欧に突っ込む」パターンがほぼ全てである。実はこのパターン、ルール的にはかなりグレーらしいということを先日Football Leaks(WikiLeaksのサッカー版みたいな暴露サイト)にすっぱ抜かれていたが、その他にすっぱ抜かれたやましい事情がやましすぎて殆ど話題にならなかった。

最後は⑦欧州以外。メルボルンやNYといった、他大陸のCFGクラブが中心である。順番は私の独断だが、凡そ、シティ本社の首脳陣から目が届きやすい順に並べればこうなるのではあるまいか。

 

次に選手保有状況。一言で言えば、まあめっちゃ多いのだ。ローンに出ている選手は、1stチームが12人、2ndチームが12人の計24人。これに加えて、トップチームに帯同しているアカデミー上がりの選手や、U23の面子(リザーブ)、更にその下の年代の選手もいるから、1stチームでプレーしてもおかしくなさそうな若手が計5,60人いることになる。

こんなもん「1stチームでプレーする選手を育成する」という観点だけで見たら捌き切れるわけなくて、実際全然捌き切れていない。*1 これは要するに「相当程度の転売を見込んで、若手はバルクで買ってローンに出す」という戦略を取っているということだ。河治良幸氏は下記のように言っているが、上記の点ではチェルシーもシティも大差ないと思う。まあ、CFGとして統一した観点を持った複数のクラブという受け皿があること、グループ内の選手供給という側面もあることを考えれば、チェルシーよりも多少は一貫性を持った選手の取扱が期待できるのかも知れないが。

  

そして歴史。誇ることではないが、シティで最後にトップチームに定着した「自前のアカデミー上がり」は、2007年前後のマイカ・リチャーズと、マイケル・ジョンソンが最後である。実に10年の不毛。これより長いのはジョン・テリー以降実に20年近く同じ状況を味わっているチェルシーくらいではなかろうか。若手が定着するかどうかって結局「使うかどうか」に依るところが大きいので、資金力があり、かつ毎シーズン優勝を狙っている立場だと難易度は高い。

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-city-player-micah-richards-is-greeted-by-fans-at-hong-kong-picture-id174203794

最後のレギュラー、マイカ・リチャーズ

 

誰がどう獲得されているのか

とまあ、シティにおける選手の修行場と、それを取り巻く環境について説明したが、もう1つ重要なのは、採用時の待遇だ。厳しいプロの世界であるから、誰もが平等に迎えられるわけではない。シティの場合、グループ内外で複数のクラブと関係があり、かつ世界中から選手を獲得しているので、その差も歴然である。

最初のグループは、i) 本社採用・幹部候補生組。最初っから本社のトップチームでレギュラー格として使うことがほぼ前提となっているであろう選手である。このグループの場合、まず契約時にはフットボール・ディレクターのチキ・ベギリスタインが直々に出てくる。場合によってはその時の監督も同席。公式ウェブサイトでも大々的に特集が組まれ、公式Youtubeチャンネルはインタビューを流す。過去5シーズンの23歳以下の獲得選手を見れば、ラヒーム・スターリング、リロイ・ザネー、ジョン・ストーンズ、ベルナルド・シルバ、ガブリエウ・ジェズスといった、CLをすでに経験しているか、強豪国の代表でレギュラークラスを張っていた選手ばかりである。

https://media.gettyimages.com/photos/manchester-city-new-signing-leroy-sane-etihad-stadium-manchester-city-picture-id907202584

https://media.gettyimages.com/photos/gabriel-jesus-signing-manchester-city-fc-etihad-stadium-manchester-picture-id907235310

 

次のグループは、ii) 内部昇格 / 本社帯同組。U23チームから上がってきたか、獲得後しばらくは本社のトップに帯同させて様子を見るパターン。このグループの場合、概ねチキは会見に来る。公式サイトも記事は出す。「patrick roberts sign man city」の画像検索結果

 

次に、iii) 本社採用・支店配属組がいる。このグループは獲得した主体こそシティだが、記者会見にチキは来ないし、基本的にはシティの公式サイトで発表もしない。少なくともファンに見える限りでは。相手側やレンタル先の発表か、外部メディアの報道で世に知られるようになっており、獲得後も本社に帯同することなく即座にレンタルに出される。オレクサンドル・ジンチェンコ、ダニエル・アルザーニ、エリック・パーマー=ブラウンといった、「西欧以外の地域出身で、神童扱いされている子」みたいな子が多い。板倉もこのグループ。

「板倉滉 シティ」の画像検索結果 

ここからシティの独自性が増すのだが、iv) 現地採用・栄転組がいる。栄転とか言ってすみませんね。ご容赦下さい。要するに、欧州外のCFGクラブで活躍したので、シティがグループ内で獲得するというパターンだ。メルボルンで活躍していたアーロン・モーイ、NYシティで育ったジャック・ハリソンがこのグループ。ちなみにこの場合もシティは自分では発表しない。CFGの重役が一言二言メディアに喋ったりはするけど*2

 

そしてv) 現地採用・本社負担組。この人達はそもそも若手ですらないので、ぶっちゃけ今日の本筋に関係ないのだが、ちょっと特殊で面白いので置いてみた。最初からシティ以外のCFGクラブの強化を目的として、本社が買うパターンである。現地支店の採用コストと人件費を本社で持ちましたみたいな感じだ。例えば、2016年にはAリーグセントラルコースト・マリナーズからアンソニーカセレスというDFを買って、即刻同じAリーグメルボルン・シティに貸し出している(Aリーグにしこたま怒られた)。あとはCFG内で持て余した選手を一時的に保有するという機能もあって、2018年にはNYシティで戦力外になったアメリカ代表、ミッケル・ディスケルーをシティが獲得している。ディスケルーは結局そのあと韓国にレンタルされているが、それまでの経歴や状況を見ても、本社で戦力化する目的ではなかったのは明らかであろう。

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やり方が阿漕すぎて怒られたカセレス

 

板倉くんはどこにいる(と思われる)のか

さて、過去約5シーズンの採用ルートと修行先をまとめると、こんな感じになる。赤字は本社トップチームでレギュラー格の選手太字は本社トップチームで最低1シーズン過ごしたことがある選手だ(軸同士が相互に影響しているのも否めないところはあるが)。

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採用ルート・修行先の過去傾向から見る板倉くんの現在地

出所) Transfermarkt

 

まず、本社のトップチームでレギュラーとしてプレーできているのは、最初から幹部候補採用だった選手しかいない。逆に言えば、この扱いの選手はほとんど当てている、というのは、最近のシティの目利きと資金力が優れているという証拠と言えるのでないか。それ以外には色々と問題も多いが。

内部昇格/本社帯同組でこれに一番迫っていたのはフィル・フォーデンとケレチ・イヘアナチョだが、フォーデンの場合「U17W杯のMVP」「自前アカデミー育ち」「シティファン」という黄金の履歴書持ち、イヘアナチョもフォーデンの2代前のU17W杯MVPを引っさげての鳴り物入り入団なので、これは特殊なケースかもしれない。それ以外の選手、例えばパブロ・マフェオ、ジェイソン・デナイエル、ヨン・グイデッティ、ロニー・ロペスといった選手は、欧州のトップリーグでメッシを完封したり、ベストイレブンを受賞したり、20点取ったりと若手としては相当に活躍したのだが、本社のトップチームにはほとんど組み入れられずに放出された。

本社採用・支店配属組になると更に縁遠くなり、本社トップチームに定着したのはジンチェンコしかいない。それ以外の選手、例えばアルザーニ、パーマー=ブラウン、モレーノといった選手はシティ移籍前にフル代表デビューも果たしていた逸材だが、それぞれセルティックNACブレダフラメンゴで中々に苦境を味わっているようだ。

https://media.gettyimages.com/photos/oleksandr-zinchenko-of-manchester-city-waves-during-the-training-at-picture-id1079998162

近年のシティでは珍しい存在のジンチェンコ

 

あと、年齢。板倉の21歳で加入というのは、ii) と iii)のグループの中ではパーマー=ブラウンに並ぶ最年長である。他はアカデミーか、いっても20歳だ。まあ1年の差くらいどうということもないのかも知れないが。

 

 

 

 

そういうことで、シティのトップチームでプレーする、という目標を掲げた場合、板倉くんが置かれている環境は、これまでの例を元に言えば相当にチャレンジングと言えそうではある。ただし、シティのクレジットを借りて数シーズンはオランダやフランスでプレーできる見込みも高い(例えば、ヨー・イエボアはリールやトゥウェンテでプレーした)ので、ぜひCFGというプラットフォームを活用し、日本を代表するサッカー選手になって頂きたいところである。キレイに締まりましたね。

*1:ジェイドン・サンチョ、ブラヒム・ディアスと、一番取っておきたい若手に相次いで逃走されている

*2:

https://www.eurosport.co.uk/football/premier-league/2015-2016/manchester-city-sign-australia-midfielder-mooy-but-who-is-he-and-will-he-even-play_sto5668433/story.shtml

この世界の片隅で

bleacherreport.com

 

 

 

 

一方その頃、Twitterの片隅では・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【検証】何人の選手でプレミアリーグ全チーム所属は達成できるのか

note.mu

これの筆者から「プレミアでヤッてよ」と、人気声優のリアル彼氏みたいなことを言われたので、やってみた。

※現役選手縛りだと苦しいが、2000年代に戻るのもダルいので、2015年(3年前)までは現役“だった人に絞ってみました。まあ1人以外は全員現役なんだが。

 

  1. ウェイン・ラウトリッジ Wayne ROUTLEDGE

カーディフクリスタル・パレス、フラム、ニューカッスルトッテナム

イングランド名物、U21まで天才だったんですけどねえみたいなウィンガー。古くは2004/05シーズン、クリスタル・パレスと共に昇格し、チームは降格したものの自身は個人残留。ただ移籍したのが若手を腐らせるプロ(当時)だったトッテナムということで、その後長らく2部とプレミアの境をさまよっていたが、2010年代はスウォンジーに落ち着いた。この人が偉いのは、上記の5クラブに加えて、スウォンジー、ヴィラ、ポーツマス、QPRと「ちょっと前までいたよね」という面子を積み上げまくっていることである。5クラブで今回堂々の1位。まあ嬉しくもなんともないだろうけど。

 

  1. トム・クレヴァリー Tom CLEVERLEY

エヴァートン、レスター、マンチェスター・ユナイテッドワトフォード

一時期はまんゆでもレギュラーを奪いそうだった貧乏人のイニエスタ。ミドルは良かったよな、ミドルは!と言おうと思ったんだけど、それはダロン・ギブソンでしたね。昔、U21代表の試合で、トップ下ダニー・ローズ、右にヘンダーソンボランチクレヴァリーっていうすごい並べ方されていた記憶がある。ごめん、それ以外あんまり言うことないわ。

 

  1. ニコラ・アネルカ Nicolas ANELKA

アーセナルチェルシーリヴァプールマンチェスター・シティ

アネルカ先生、満を持しての登場。1人でこの4チーム制覇はあまりにも貴重である。まあシティにいたのは弱かったときなんですけどね。アーセナルでは10代にして今のムバッペ的大活躍をし、レアルでハブられ、リヴァプールでリハビリをし、シティで調子を取り戻し、ケヴィン・キーガンと喧嘩してトルコでダラダラ過ごし、ボルトン(!)で再復活してからのチェルシーで得点王。

https://media.gettyimages.com/photos/nicolas-anelka-of-roda-jcduring-the-presentation-at-the-parkstad-on-picture-id633771656

 

  1. タル・ベン・ハイム Tal BEN HAIM

チェルシーマンチェスター・シティウェストハム

何が良いんだか昔から全然わからんが、プレミアで長年重宝されてきたユダヤマルディーニ。主にディフェンダーなところがマルディーニと似ている。この他にもサンダランド、ポーツマス、QPR、ボルトンと渡り歩いているが、みんな揃いも揃って落ちたら落ちっぱなし、何ならQPR以外は3部落ちしているところばっかりなので、せっかくの経歴をさほど活かせず。そしてシティ時代の印象、まったくない。ごめん。

 

  1. マーカス・ベント Marcus BENT

エヴァートン、レスター、ウォルヴァーハンプトン

イングランドサッカー界屈指の旅人。ただし、今回はブラックバーン、チャールトン、バーミンガムミドルズブラ、QPRといった面々がいずれも下部落ちしているためせっかくの経歴も活かせず。こんなに渡り歩いたのに貢献しているのはウルヴズだけです。でかい胸筋と意外に柔らかいテクニックで私は将来代表もありうるぞと思っていたが、結局かすりもせず。私の見る目。

https://media.gettyimages.com/photos/marcus-bent-of-wolverhampton-wanderers-and-jonny-evans-of-manchester-picture-id525863832

 

  1. ライアン・バートランド Ryan BERTRAND

ボーンマスチェルシーサウサンプトン

貴重なボーンマス枠。ボーンマス、ブライトン、ハダーズフィールドは3部以下にいた期間が長いので、この3つをどう埋めるかがこのゲームの鍵なんですけど。一昨年頃は盛んにシティ移籍の噂が叫ばれたが、結局残留。トッテナムのローズと並んで、年齢的に最後の昇給のチャンスを逃してしまったと言えよう。 

 

  1. デイヴィッド・エドガー David EDGAR

バーンリー、ハダーズフィールドニューカッスル

貴重なハダーズフィールド枠。DFの便利屋。Wikipediaで見たらアイスホッケーでもNHLのドラフトにかかりそうな腕前だったらしい。どうでもいい情報で申し訳ないが。

 

  1. オリヴァー・ノーウッド Oliver NORWOOD

ブライトン、フラム、マンチェスター・ユナイテッド

貴重な()。まんゆのアカデミー育ち。ごめんもうほんと印象ないわ。ただ、まんゆをクビになってもしっかり2部で活躍している辺り、さすがはまんゆ物件という貫禄を感じさせる。まんゆの偉いところは、例えベッカムたちのあとに主力中の主力がさほど出てこなくなっても(それでもフレッチャーやラシュフォードは立派だが)、こうしてイングランドの下部リーグをしっかり支える人材を排出し続けていることであろう。

 

ということで、8人です。挑戦者求む。

マンチェスター・シティと疑惑のEメール(1)

切り札は取っておくものよ

オリンパス事件って覚えてる?2011年に、FACTAっていう雑誌と、オリンパスの社長職を解任されたばかりのマイケル・ウッドワードっていうイギリス人が起こした告発やね。医療機器やカメラみたいな光学機器メーカーとして有名な、あの宮﨑あおいのCMのオリンパス。あれが損失を隠すために粉飾決算を続けていたという事件。以下に引用するけど、当初ウッドワード氏は腐りきった日本のコーポレートガバナンスに鉄槌を下す黒船といった風情で、意気揚々と登場したんやね。

 

chnpk.hatenablog.com

さてオリンパス事件と言えば、バブル期に嵌った財テクによって巨額の損失を被るも、問題の表面化を恐れて適正な会計処理を避け続けること20余年、歴代経営陣のお歴々が代々ひた隠しにしてきたところ、何を思ったのか内輪の論理の通じづらい外国人を社長に大抜擢した途端にすべてを明るみに出さざるを得ない状況に追い込まれ、株価は暴落するわ経営陣は全員退陣に追い込まれるわで大騒ぎになった、あの事件である。

 

同事件は、二代目社長が会社のカネ、それも数百億円規模をあろうことかカジノでスッてしまうという浮世離れした放蕩息子ぶりをみせ付け世間を唖然とさせた大王製紙事件と並び、日本のエクセレントカンパニーにおけるコーポレートガバナンスの何たるかを世に知らしめた好事例であった。

 

しかし、いつの頃からかウッドワード氏は勢いを失い、オリンパス「訝しがる周囲をよそに東証からさっさと上場維持を取り付けるという、いわゆる直ちに健康被害はありませんからの勝手に冷温停止宣言コンボを叩き込み、一瞬で勝負を決めた」。つまりあっちゅう間に最大限の勝ち戦に持っていってしまったんよ。

 

その後もウッドフォード氏は、自身のバックに連合艦隊の存在を匂わせながら、委任状争奪戦を経ての社長復帰を目指す意向を表明するなど、全力右ストレート連発の様相であったが、国内主要株主をはじめ、メインバンクにも相手にされなかったとのことで、弾切れからの撤退を余儀なくされた。

 

最後は妻の体調を気遣って矛を収めるという、これまたまさに典型的としか言いようのない、欧米型エクスキューズを添えての哀しい幕切れとなった。

 

その後の一連のウッドフォード氏による対オリンパスネガティブキャンペーンを見ても、冒頭放たれたあの「過去の決算内容に疑義あり」攻撃は、彼の切り札だったのだ。圧倒的だった初戦以降、次は何が出てくるのかと期待して観戦していたが、結局何も出てこなかった。一瞬海外メディアから、オリンパスの背後に暴力団の存在を匂わせる報道がなされたときはおおっと思ったが、単発のラッキーパンチだったようだ。

 

普通、唯一の切り札をいきなりマスコミにリークするだろうか。

 

長々と何の話をしたいのかって話やけど、Der Spiegelはウッドワード氏ほど世間知らずではなかったようや。Der Spiegelの告発には続きがあった。現時点で出ているものを見る限り、追加の罰則や、それこそタイトル剥奪なんて話になる類のインパクトには見えないけど、正直言ってワシはショックやったね。がっかりしたよ。何にって、自分のナイーブさにね。倫理的にであって、法律的、あるいは会計的ではないかもしれないにせよ。(繰り返すけど、今出てる時点の記事でもってよ)

 

ほんなら、そろそろ記事の方に行こうか。今日の時点で出ている2つの記事で、Der Spiegelが言うてるのはこういうことや。

www.spiegel.de

www.spiegel.de

  • シティは、オーナーであるADUG*1から”不正に“資金を注入することで、FFP抵触を回避しようとした
  • それらは監査によって露呈した
  • しかし、当時のUEFA事務局長インファンティーノの計らいと、シティからの法的圧力によって、シティは”非常に軽い”処罰で済んだ。これは不正や。

 

 

Der Spiegelの記事からわかること

長くなるから、事実だけ書いていこう(これがまた、Der Spiegelの記事からセンセーショナルな記述を除いて事実を拾うのがけっこう大変なんよね。ワシの知り合いもFACTAでごっつ責められたことあるけど、上手なもんよね)。

 

  • シティの首脳陣は、2012/13シーズンの終わりに、FFPのブレークイーブンルールに抵触しそうなことを把握した。
  • 財務部門のホルヘ・チュミジャは、「不足分を埋める唯一の解決策は、アブダビからのスポンサーシップ収入だと思います」と内部のeメールに書いた
  • 幹部のサイモン・ピアースは、「今後の2年間に対して、バックデートした契約を結べばいい」と提案。またCEOのソリアーノも、FAカップに優勝した場合のボーナス収入を契約に盛り込むことを提案した。
  • 結果として(※Der Spiegelは「シーズン終了から10日後」と書いている)、エティハド航空は150万£、アーバル*2は50万£、官公庁は550万£を追加でスポンサーフィーとして支払い。契約の日付は、シーズン開幕時にバックデートされた。
  • チュミジャがアブダビからのスポンサー契約をバックデートすることが可能なのかと聞いたのに対して、サイモン・ピアースは"Of course, we can do what we want."と回答した。
  • 時間は戻って2010年4月、ピアースはアーバルとのスポンサー契約を締結。フィーは年間1,500万£だったが、ピアースは内部のメールで「アーバルからの直接的な支払いは300万£で、残りの1,200万£は陛下*3からの別の資金源から」と書いた
  • また、エティハド航空からの年間6,750万£ののスポンサーフィーについては、「800万£がエティハドからで、5,950万£はADUGから」と、チュミジャがピアースに宛てたメールの中で記載している
  • FFP抵触を回避するために、シティ内部で「プロジェクト・ロングボウ(長弓)」というプロジェクトが立ち上がった
  • 通常、クラブは所属している選手を使った販促品を作る場合、選手の肖像権使用料を選手に支払わなければならない。しかしシティは、①肖像権管理会社(Manchester City Football Club(Image Rights)Limited)を設立、②それを新たに設立した「Fordham Sports Management」というマーケティング会社に売却し、③肖像権使用料はFordhamが支払う、④そしてADUGがFordhamに損失を補填する、というスキームを編み出した。
  • Fordhamの代表として雇われたジョナサン・ロウランドは「ADUGが全面的に支援することが最重要だ」と念押しし、サイモン・ピアースは「営業費用については、毎期先払いで約1,100万(※おそらく£)をキャッシュで支払う」と回答した

 

 

"We will have a shortfall of 9.9m pounds in order to comply with UEFA FFP this season," Man City's Chief Financial Officer Jorge Chumillas wrote in an internal email. "The deficit is due to RM (eds: a reference to Roberto Mancini) termination. I think that the only solution left would be an additional amount of AD (eds: Abu Dhabi) sponsorship revenues that covers this gap."

 

"We could do a backdated deal for the next two years (...) paid up front," suggested club executive Simon Pearce. CEO Ferran Soriano, meanwhile, suggested having sponsors pay the team the contractually obligated bonus for winning the FA cup -- even though Man City hadn't won.  

 

Ten days after the end of the season, Chumillas presented the results of the deliberations and declared that the details of the sponsoring contracts would be adjusted -- for the just finished season! Etihad was to suddenly pay 1.5 million pounds more, Aabar 0.5 million extra and the tourism authority a surplus of fully 5.5 million pounds. And they were all supposed to act as though that had been the deal agreed to at the beginning of the season.

 

The club and its sponsors were manipulating their contracts. When Chumillas asked his colleague Simon Pearce if they could change the date of payment for the sponsors from Abu Dhabi, Pearce answered in the spirit of Manchester City's executives: "Of course, we can do what we want."

 

 

hese activities in spring 2013 raise doubts as to whether the Abu Dhabi-based companies are really the independent sponsors Man City representatives have consistently claimed them to be. As early as April 2010, when Pearce negotiated the sponsorship deal with Aabar, he wrote a telltale email to the firm's leadership. According to the contract, the investment company was to pay the club 15 million pounds annually. But that apparently isn't the full story. "As we discussed, the annual direct obligation for Aabar is GBP 3 million," Pearce wrote. "The remaining 12 million GBP requirement will come from alternative sources provided by His Highness." With just a single sentence, Pearce confirmed the accusations that his club had repeatedly, indignantly rejected: Namely, that His Highness, Sheikh Mansour, paid a portion of the sponsoring money himself!

 

That is of vital importance when it comes to UEFA's Financial Fair Play rules. If the club goes on a shopping spree with the sheikh's money, those expenditures must be declared, which quickly puts the balance sheet in the red. If, however, that money can be disguised as sponsoring money, it looks like revenues and Man City can afford larger expenditures without fear of UEFA sanctions.

 

How does it work in practice? Apparently, companies like Etihad in Abu Dhabi wait for the Abu Dhabi United Group (ADUG), the holding company that belongs to Sheikh Mansour and which also owns Manchester City, to wire them money. That money is then "routed through the partners and they then forward onto us," wrote Finance Director Andrew Widdowson in an email. That, at least, is how things were done in 2015: At the time, the deal with Etihad was bringing in 67.5 million pounds annually. But Chief Financial Officer Chumillas emphasized in an email to Pearce: "Please note that out of those 67.5m pounds, 8m pounds should be funded directly by Etihad and 59.5 by ADUG."

  

 

Among club employees, Project Longbow would become synonymous over the next several years with the battle against Financial Fair Play. Under Soriano's leadership, Man City established "a central model" that "allows for many of the operational costs to be shifted either fully or partially away from the club."

 

It is a telling window into the team's approach: High costs and losses are fine as long as they can be hidden from UEFA. To help do so, Manchester City established a subsidiary to take care of a share -- and the costs -- of some standard business activities.

 

For example, the club transferred the marketing rights for its players to an external company. Normally, professional teams have to pay their athletes for the right to use them in club marketing material. But City drummed up buyers for those marketing rights -- an ingenious plan. Suddenly, the club no longer had to pay the marketing fees -- the new buyers did, resulting in spending cuts for Man City. Furthermore, the sale of the marketing rights generated additional revenues for the club to present to UEFA investigators: almost 30 million euros in this case. The marketing company adopted the name Fordham Sports Management and it is "very material for our longbow target," City's chief financial officer, Jorge Chumillas, noted internally.

 

Jonathan Rowland wanted additional confirmation of that. "We need to know that AD is fully behind it this is the most important thing," he wrote on April 4, 2013, to Simon Pearce, a club executive and adviser to the Abu Dhabi ruling family. In response, Pearce sought to put Rowland's mind at ease and let him in on the plan: "Regarding the ongoing operating costs, every year we will send in advance the cash of approximately 11 million." The "we" in this case is the holding company that Sheikh Mansour had used to buy Manchester City: Abu Dhabi United Group (ADUG). "I have ended up as the de facto MD (managing director) for ADUG," Pearce joked in one email to colleagues.

 

 

事実と論点

記事が本当だとして、まずわかるのは以下のことや。

  • 損失補填のために、シティの首脳陣は意識的にスポンサー契約をバックデートさせて締結した
  • アブダビ関連のスポンサーフィーの中には、実際はADUGが支払っているものが含まれていた
  • 肖像権使用料という費用を、クラブのアカウントから除外して会計上の費用を削減するために、クラブではなくADUGが直接支払えるスキームを採用した

 

となると、論点は色々あるね。

  1. 「シーズン終了後」だという契約は、2012/13の会計年度が終了した2013年5月31日から10日後を指しているのか、2012/13の最終公式戦であるFAカップ勝戦の2013年5月11日から10日後を指しているのか。前者なら次の会計年度やし、後者ならDer Spiegelが「もうシーズン終わってるがな!!」と言ったことに反して、同じ会計年度になる
  2. 次の会計年度だったとして、バックデート契約は法律的および会計的にアリなのか
  3. 次の会計年度だったとして、バックデート契約は倫理的にアリなのか
  4. 実際にはADUGが支払っていたというスポンサーフィーの支払形態は、会計的にアリなのか
  5. 実際にはADUGが支払っていたというスポンサーフィーは、フェアバリューなのか?
  6. 4)がナシだったとして、また5)がフェアバリューでなかったとして、UEFAの調査委員会はそれを指摘していたのか?
  7. シティが食らったFFPのブレークイーブンルール違反の罰則は、“インファンティーノが便宜を図った結果の、非常に甘いもの”なのか
  8. 肖像権使用料に関するスキームは会計的にアリなのか
  9. 肖像権使用料に関するスキームは倫理的にアリなのか

4については、契約上エティハド航空やアーバルが支払うことになっていたスポンサーフィーが別の法人から支払われることになっていたとしたら、それは虚偽の契約なんやないか?という話がある。2も含めて、そもそも法律的あるいは会計的にナシで、7)UEFAもあえて見逃していたというのなら、これは「Cheating」の誹りを受けてもしゃあないよね。

ていうのは、オーナーが自分の会社からクラブにスポンサーフィーとして金を出すこと自体はありや*4。ピーター・コーツとBet365とストークマイク・アシュリーとスポーツダイレクトとニューカッスル、デイヴ・ウィーランとDWとウィガンなんて、オーナーの会社が胸やスタジアム名に入ってるしね。

ただ問題なのは5)の「フェアバリューなのか?」ということよ。Der Spiegelは「彼が直接払ってるんです!」と言ってるけど、UEFAおよびプレミアリーグFFPの規定に書いてある通り、関係会社が問題になるのは「フェアバリューと異なる」ときやからね。そのときは額が修正される(と、ワシは理解してる。間違ってたらごめんね)。

FFPにおけるRelated Parties(関係会社)とフェアバリューについて)

Financial Fair Play: How clubs justify spending & related party transactions

 

8・9)の肖像権使用料に関するスキームは会計的および倫理的にアリなのか、については、別にいいんちゃう、とワシは思ってる。むしろ2013/14の年次会計報告で費用効率がごっつ改善されたのは何でやろ?と思ってたから、解説してくれてちょっと嬉しかったくらいや。ルールの抜け道を全力で見つけにいったんやろうね。

 

 

嵐が来たりて 

法律的及び会計的にアリなんか、については、ワシは会計士でも弁護士でもないからわからへん。それらが全部(法律的及び会計的に)アリだったとしてもなお、これからの政治的成り行きでどうとでもなりそうな7)、および倫理的にはアリなんか、そしてこれらがシティのイメージに及ぼす影響はどうなんかってことについては、ワシは頭が痛いわ。

法律的に、あるいは会計的にアリだったとしたら、Der Spiegelが書きまくってる「Cheating」という訴えは、この両面では棄却される。そこらのファンがTwitterで言う「Cheatingや」というのと、レベルとしては変わらんことになる。それでもやっぱり、ADUGは株式・貸付という形でのみ資金を注入しており、スポンサーは(例え受益主体がいち航空会社だけでなく国単位だったとしても)経済的に正当化される額の資金を投下している」と思ってたワシの考えはほぼ間違ってたということがわかった。ちゅうか、エミレーツアーセナルに数千万£入れてるんやから、もうちょっと払ってくれたって十分フェアバリューやろ。

 

仮に(何度も繰り返してすまんね)法律的に、あるいは会計的にアリだったとして、それらを証明するための試みには何ぼほどの時間とイメージの毀損があるやろう?今はもう、ベルルスコーニモラッティやチェッキ・ゴーリが好きなように金を補填して、「でも愛があるからいいやん」とかブッこけた時代じゃない。まあ、ワシはあのモラッティが好きやったけど。広い意味でのイメージ戦略のためにアブダビがシティに投資してるんやったとしたら、この記事が出た時点で負けよね。

 

まあ、ニック・ホーンビィが書いてたように、ファンであること自体は蛇口ひねるみたいに止めたり始めたりできることでもないから、見てるしかないねんけどね。今更キキ・ムサンパの突撃とヴァッセルのまぐれ当たりで勝ち点拾ってたことに戻りたいかって言われても、正直嫌やし。嵐が過ぎ去るのを待つしかないかなという心境よ。長い嵐になりそうやけどね。

  

*1:アブダビ・ユナイテッド・グループ

*2:アブダビの投資会社

*3:明らかにシェイク・マンスールのこと

*4:ごめん、これ前回間違った事書いてた。スポンサーフィー=売上に計上してもいいねん

UEFA、シティ、FFPーDer Spiegelの暴露記事は何の話をしているのか

飛行機から降りたら、朝からエラいニュースになってたね。

『マン・シティとパリSGオイルマネーは如何にしてサッカー界を捻じ曲げたのか』という御大層なタイトルを引っさげて登場したのは、ドイツの雑誌Der Spiegel。Football Leaksっていう、WikiLeaksのサッカー版みたいなやつがハッキングしてきた情報をもとにした記事やね。

www.spiegel.de

なぜこれが騒ぎになっているかというと、シティとパリSGに対するFFPの制裁が緩和されるよう、UEFAの事務局長だったジャンニ・インファンティーノ(現FIFA会長)が便宜を図ってやったんや、ということが指摘されているからやね。

Sportintelligence.comを主催しているニック・ハリスいうジャーナリストのオッサンは、以下のように内容をまとめている。

  • シティとパリSGは、何年もの間、“システマティックに”FIFAのフィナンシャル・フェアプレイを破ってきたんや
  • UEFAの事務局長インファンティーノは、アブダビカタールの圧力に負けて、両クラブを実質的には無罪放免にしたるよう、取り計らってやってたんよ
  • こいつらはCLの参加禁止にもなってへんしな
  • インファンティーノは、中立の立場でおらなあかんっちゅうのに、両クラブの首脳陣と何度も交渉をかさねてやがったんや
  • こいつは内部情報を両クラブに流して、「和解」するルートを探っとった。そんな権限ないのにな

 

どう?結構刺激的?個人的には、ここまでについては特に新しい情報は無かったんやけどね。シティがFFPのブレイクイーブンルールが満たせなかったことで2014年に制裁を受けたのはみんな知ってるし、当時からずっと、シティの首脳陣(フェラン・ソリアーノたちやね)がUEFAのトップと交渉を重ねている、という報道も出てた。シティが「そもそもFFPってEU法に反してへん?」って言い出したのもめっちゃ昔やしね。

あと、このハリスおじさんも興奮してついタイピングが滑っちゃったのかなと思うのは、『何年もの間、“システマティックに”破ってきた』というところとかね。2014年って、UEFAの国際大会に出るクラブがFFP充足を求められた最初の年なんやけどね。

 

こういう意見もある。

「FootballLeaksはおもろい読み物をくれたし、みんなが疑ってたことに対する証拠を出してくれたけど、あっと驚く新発見とかではないね」

 

まあ多分、大概の人は長々と読む気力がないやろうから、ワシの結論は先に書いとくよ。

  • 今回出てきた話は、①2012年から2014年までの間で、フェアバリューじゃないと判断されたスポンサー契約があったということ、②交渉スタイルがかなり脅しに近いものだった可能性があるということの2つ
  • 逆に言えば、2015年以降から現在に至るまで関連会社というヴィークルを使って不当に金を注ぎ込み続けていたのだ・・・とかいうおどろおどろしい話では無かった。
  • 今回の件で、シティが何らかの具体的な罰則を受ける可能性は低いんじゃないかな?というのは、上に書いた通り、①はもう罰則受けてるし、②は法律の専門家じゃないからどうこう言われへんけど、法的措置を取るぞという姿勢自体を罰するのは難しいんやないかということよ。もちろん、このあと具体的に袖の下を渡してたとかいう話が出たら別やけどね。
  • ただ、シティのイメージは確実に悪くはなるやろうね。ファンとしてあまり気持ちの良いものじゃないよね。

 

そしたら、周辺のTweetや報道ばっかり見ててもしゃあないから、肝心のDer Spiegelの記事を見てみるで。以下の箇条書きは、「Der Spiegel」が書いてることであって、ワシの考えはまたあとで書く。あと、当たり前やけど、元の記事も読んでね。

 

  1. 2014年5月、シティとパリSGFFP(のブレークイーブンルール)に違反したと判定されそうになっており、そうなればUEFAコンペティション(CL)から閉め出される可能性があった
  2. FFP審査の手続き中、ジャンニ・インファンティーノは数回に渡ってシティとパリSGと非公開の会合を持ち、機密情報を提供もした(even supplying them with confidential materials.)
  3. Der Spiegelが入手した書類によれば、インファンティーノは(FFP遵守のモニタリングと罰則の提案を行うUEFA内の組織である)Club Financial Control Body、通称CFCBが追求を辞めるように取り計らっていたかのように見える。
    (That, though, is exactly the red line that Gianni Infantino crossed in spring 2014. The leaked documents make it look as though he was the willing executioner for two clubs that wanted to get UEFA investigators and auditors off their backs.)

  4. マン・シティの経営陣は、2013年5月の段階で、FFPのブレークイーブンルールに抵触するかもしれないということを察していた
  5. 2014年1月、UEFA監査法人PwCマンチェスターに送って監査をさせた。「その他の商業収入の84%はアブダビ関連のスポンサー」のもので、レポートによれば、3,500万€の費用が、年次報告書から隠蔽されていた
  6. シティは弁護士団を雇い、UEFAに対して徹底抗戦の構えを見せた。3月半ばには、シティのCEO、フェラン・ソリアーノはインファンティーノに対して欧州司法裁判所(European Court)に持ち込むぞ、と”脅した”。
  7. しかし、Octagon(スポーツエージェンシー)の専門家は、シティがアブダビ関連企業と結んでいる4つのスポンサー契約の内、3つは「著しく過大計上されている」と判断した。彼らによれば、クラブに合計5,000万€をもたらしたこの契約群は、ものによっては市場価値よりも最大80%過大に計上されている、とも付け加えた。
  8. また、PwCは再訪問時に、2つのスポンサーが「(オーナーの)関連企業」と判断した。

  9. しかし、4月上旬に、インファンティーノは、双方の弁護士を伴ってソリアーノと会談し、シティ側が有効的な解決策を提案するという方向性で合意した。
  10. ソリアーノはシティの会長、ムバラクに「インファンティーノと電話で話して、シティのビジネスに影響がない範囲で合意できそう」と伝えた
  11. しかし、4月末になっても、結局シティは交渉の進捗に満足していなかった。クラブ弁護士のサイモン・クリフは、とあるメールで「ムバラク会長は、インファンティーノに『3,000万使って世界最高の弁護士50人雇ってこの先UEFAを10年間訴え続ける方がマシ』と伝えた」と書いている。
  12. そして5月2日、シティとパリSGはCFCBのInvestigatory Chamber(調査委員会)から書簡を受け取った。会長のブライアン・クインは処置が寛大すぎると反対して辞任し、署名していなかった。クインのあとを継いだイタリア人、ウンベルト・ラーゴが代わりに署名した。

  13. パリSGは合意したが、シティのはもっと複雑だった。ラーゴは「5月中旬までに友好的合意に達しなければ、CFCBの評決委員会に諮ることになり、そうなればCLへの参加禁止に至る可能性がある」と書いた。
  14. 5月9日、シティの首脳陣はフランスのニヨンで、調査委員会と会合を持った。その前日、シティの首脳陣はロンドンでインファンティーノと密かに会談し、詳細を詰めていた。しかし、UEFAとの会合は合意に達しなかった。
  15. サイモン・クリフはUEFAに「取りうる法的措置」という覚書を送った。またクリフは、プラティニとインファンティーノにスイスの法廷に出てくることを要求した。クリフは(※多分メールで)「この法廷闘争は、UEFA全体を数週間で崩壊させうる。もしPwCも訴えられれば、PwCUEFAを相手取って訴訟に及ぶだろう。もし破談に終われば、UEFAの債権者がこぞってUEFAを訴えることになる」と書いた。
  16. 5月11日、インファンティーノはムバラクに「残念ながら、調査委員会は和解に達するには意見の相違が大きすぎるとの結論に達しました」と伝えた。「しかし、調査委員会は独立した組織であり、私としては彼らの決定を尊重せざるを得ません」とも。
  17. そして、シティは当時のUEFA会長プラティニからのメッセージを、パトリック・ヴィエラを通じて受け取った。「アブダビのオーナーたちに、私を信用してくれと伝えてくれ。我々は彼らがやっていることを理解しているし、好意的に捉えてもいる」と。
  18. そして、インファンティーノは新たな和解策をシティに提案した。
  19. 5月16日、シティのCEO、ソリアーノは和解合意に署名した。罰則は2,000万€で、ソリアーノはクラブ内部に送ったメールで「実質的には我々のビジネスに影響しない」と書いた。

 

どう?贔屓目が入ってることはもちろんやけど、#dirtydeals とかいうタグをつけるほどの話かな?と思った。その理由を以下に書いていくわ。 

 

まずワシが知らんかったことから言えば、一番ショックだったのはスポンサーフィーの一部がフェアバリューだと評価されていなかったことやね。パリSGのスポンサー契約が過大計上されている、というのは報道でも確認されていたことやったけど、シティについては、ワシが知る限り(ファンがあれこれ疑惑を掻き立てることはあったとしても)確認された報道は無かったはずなんよ。だからワシも『ちなみに、つぶやきついでに言うと数年前にシティがFFPに引っかかったのは、直接的には損失を出していたからなんだけど、それは「オーナーが関連する企業からのスポンサーシップが認められなかったから」ではなくて、費用の計算方法が途中で変わったからなのね。今更何にもならないが。』とか呟いてた。言い切るべきではなかったね。ごめんなさい。

 

まあ「その他商業収入の84%がアブダビ関連企業」というのは別にそれ自体が悪いことじゃないし、エティハド航空が胸スポンサーだったり、エティサラート(通信会社)も早い段階からスポンサーについてた時点で自明のことやからね。それに膨らまし具合も最大1.8倍やから、「10.4倍の過大計上」と評価されたパリSGとはレベルが違うということもできる。それでもやっぱり、「オーナーが関連企業を使って不正に売上高を膨らましている」っていう批判には、胸を張って違うでと言いたかったところやけど、そうもいかんようやね。

 

なんでこれがいかんことなのかというと、売上高が膨らむと当然損失が減るわけで、そうなるとFFPのブレークイーブンルールに引っかからない可能性が高まるからよね。キャッシュの形でオーナーが金を入れることには問題はないわけよ。ていうか、それがオーナーの仕事やからね。でも売上計上さしたらダメ。

(11/6追記:ごめん、自分で書いてて赤っ恥なんやけど、不正確やったわ。売上(=スポンサーディール)で入れてもいいのよ。関連会社の場合、フェアバリューじゃないとダメFinancial Fair Play: How clubs justify spending & related party transactions

 

もう一つ知らんかったのは、シティが思いの外ストロングスタイルで交渉に臨んでいたことやね。訴えるつもり満々だったという話自体は、前からシティファン界隈では出てはいたんよ。

www.mcfcwatch.com

www.mcfcwatch.com

 

もうアカウントないけど、ワシの昔のTweetから引用すると、こういう話やった。

  • FFPの評価対象第1期は2013/14シーズン。評価対象となる数値は2011/12、2012/13の合計(翌期からは3年間の合計)
  • 第1期の損失限度額は€45m
  • シティの同期間の損失額合計は控除分を戻しても約€138m。超過だが、当初はOKの見込みだった。というのも、FFP規則の附則第11条というのがあって、これはFFP導入、ないしは導入が準備される以前に契約していた選手の給与が計算に含まれるのはおかしいのでは?というクラブ側の訴えを汲んだもの。
  • 従って、「対象期間に損失が発生したことは、FY2012の損失のみが原因であること」「損益のトレンドが改善傾向にあり、今後はFFPを遵守できると見込まれること」という条件がクリアできれば、シティの場合£80mが控除でき、損失額は£35mに縮小。FFPはクリア、制裁なし。のはずであった。
  • が、シティは急転直下、2014年5月FFPの制裁を受け入れたことを発表。内容は以下。
    • FY2014の損失限度額は€20m、FY2015は€10m
    • グループ内での資産売却益は計算から除外
    • 2年間は給与総額の増加禁止 
    • UEFA-Aリストを21人に制限
    • 移籍金のネット総額制限(£49m)(続
  • なぜか?FFPの報告用に、UEFAは2011年に"toolkit"と名付けられたテンプレートを発表。他のクラブ同様、シティもこのシートに従って計算を行い、附則第11条の適用条件を満たしていた。が、2013年4月、UEFAがtoolkitの更新版を発表。
  • 更新版は附則第11条に関する部分の計算方法が変わっており、更新版に沿って計算すると、シティは附則第11条を適用できない、すなわちFFPをパスしないことになってしまった。
  • どうする?どうもできません。だって、FY2012はもう終わってるんやもん。
  • 当然、最初のクラブ側は怒ったらしい。UEFAの擁護をすると改訂版の方が計算はより適切なのだが、問題はルールを後から変えんなという話である。UEFAを訴える手もあったが、結局制裁は受け入れた。理由を考えると、おそらくクラブのイメージ的戦略に宜しくなかろうということが一つ
  • 他には、制裁の内容を考えると実はさほど痛手では無かったのだろうということ。売上は伸びていたし、そのときの費用にはマンチョ一味の解任違約金とか、そういう一時的費用が大きかったからね。だからCLメンバーから外されたヨベティッチ一人が割りを食って終わった。

 

今回の報道で、その「怒った」内容が思いの外ストロングスタイルだったということがわかった。まあイメージは悪いよね。

まとめると、フェアバリューじゃないと判断された契約があったということ、交渉スタイルがかなり脅しに近いものだった可能性があるということが今回わかったことで、「破ってたのに破ってなかったかのように装っていた」という話ではなかった。まあ、1回破ってたのはみんな知ってたからね。一つも褒められる話じゃないけど。

 

 

それで結局どうするんやろうね?

成り行きを見てみなわからんけど、シティのイメージが悪くなることは間違いないやろね。すでにTwitterでは「28億€もの資金を違法にクラブに注ぎ込んでいた」という煽りもそこかしこに出てるみたいやし(その数字はDer Spiegelの記事の中になかったから、どれのことを言うてるんかわからへんけど)。結局イメージが悪くなるなら、ムバラクソリアーノが取った方法は失敗だったと言えるのかもしれん。

 

1ファンとして見ると、自分が決めたことでもないし、自分の金でもないから、本来はどうでもいいはずなんやけどね。けどやっぱり、自分が好きなクラブには、適法性だけじゃなくて、正統性の面でも評価されていてほしい、ピッチの中での成績を、正統なものとして認めてもらいたい。という人情がある。他のチームのファンからやいのやいの言われたくはないやんか。

 

そういう意味で、今回の報道はやっぱり残念よね。またDer Spiegelがこれでもかというくらい刺激的な書き方をしてるからね。しばらく、シティファンは多方面からの煽りに耐えなあかんやろうし、ないやろうとは思うけど、ひょっとすると追加調査・追加制裁みたいな話になるのかもわからへん。一方で、サッカービジネスウォッチャーにとっては面白い報道が続きそうではあるね。

 

にしても、ヨベティッチはかわいそうよね、というところで、今日の話を締めようか。

国際政治に影響されるサッカー界

※「タイトル、地政学じゃなくて国際関係じゃね」ってコメントがついていて、確かにと思いました。タイトルおかしいね。私、Political ScienceのBAのはずなのに・・・→情けなかったのでタイトル変えました。

 

サウジ、孫正義、クラブW杯、マンチェスター・ユナイテッド

マンチェスター・ユナイテッドに40億£もの買収案を持ちかけていると噂されるのは、誰あろうムハンマド・ビン・サルマーン、自国のジャーナリスト、ジャマル・カショギをイスタンブルの領事館で生きながらにして惨殺させたとの噂喧しき男である。

  

ムハンマド皇子の関心はどうやら本当らしい。

www.independent.co.uk

 

Saudi Telecom are already United’s longest-standing commercial partner, while last year they agreed a separate “strategic partnership” with the General Sports Authority of Saudi Arabia. Different names, same pot of money.

サウジ・テレコムはまんゆの長期的なスポンサーで、更に昨年、サウジの総合スポーツ局と”戦略的パートナーシップ”を結んでいる。カネの出所は同じだ。

 

All of these deals – as well as the proposed $25bn deal with Fifa for the Club World Cup and potential new Nations League – are part of the regime’s somewhat belated attempts to diversify into sport investments and away from oil, while accruing the soft power benefits of such purchases, following the lead of Qatar, most notably with Paris Saint-Germain, and allies UAE with Manchester City.

FIFAクラブワールドカップと新たなネーションズリーグへの25億ドルのスポンサー提案も含めて、これらは全て、石油依存からのシフトとソフトパワーの拡大戦略の一部とされる。カタールパリSGに、UAEマンチェスター・シティに投資しているが、サウジがそれを追撃しようというのだ。

 

グレイザー一家の意向は定かではない。カショギ事件のあととなっては尚更だ。IndependentのMiguel Delaneyは、「まんゆの株式の過半数は、公式には売りに出されていない、ということは強調されるべきだ」という。前にも触れたが、グレイザー一家にとってまんゆは非常に良い商売だからだ。

 Why would they be when they continue to be such a highly rewarding investment for the Glazers? The latest reports showed a record income of £590m from selling sponsorships. The six Glazer siblings and their investors have meanwhile been paid around £65m in dividends over the last three years.

一方、グレイザー一家は一定のExitを見据えているという説もある。40億£は(いかにまんゆがサッカークラブとしては巨大でも)覚悟を揺るがすには十分な額である一方で、サウジにとっては十分払える額でもあるからだ。

 

サウジの資金力をもっと明確に当てにしている人物がいる。孫正義だ。

business.nikkeibp.co.jp

孫会長はムハンマド皇太子を口説き、17年にサウジの資金力を基盤とした10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を立ち上げた。1号ファンドはサウジ系の公共投資ファンド(PIF)から450億ドル(約5兆円)の出資を受け、破竹の勢いで米ウーバーテクノロジーズや米ウィーワークなどに巨額投資をしている。

 

 孫会長はムハンマド皇太子と「運命共同体」と呼べるほど密接な関係を築いている。孫会長は諮問委員会の委員を務めるなどFIIについては主催者に近い。ムハンマド皇太子に近いPIF取締役のヤシル・アルルマヤン氏はソフトバンクグループの取締役を務めるなど深い関係を築いており、孫会長は難しい判断を迫られている。

 

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が、10月23日からサウジアラビアの首都リヤドで開催される未来投資イニシアチブ(FII)に出席するか否かに関心が集まっている。FIIはサウジで強大な権力を持つムハンマド・ビン・サルマン皇太子が世界の投資家などに呼びかける会議で、今回で2回目となる。

 

今回は世界屈指のリスクテーカーである孫会長の腕の見せ所との分析もある。ある金融関係者は「欧米のビジネス界の腰が引けている時にFIIに出席し、しっかりとサウジに関与できれば、ムハンマド皇太子の信頼は絶大なものとなる。世間の声は移ろいやすい」と指摘する。カショギ氏の殺害については、サウジの権力闘争の一環との見方もある。

 

直近のトヨタとの戦略的提携でも明らかなように、ソフトバンクはキャリアから投資ファンドに変わろうとしている。

https://www.softbank.jp/corp/group/sbm/news/press/2018/20181004_01/ 

 

kabumatome.doorblog.jp

サウジの幕引きシナリオに対しては、選挙対策からトランプ大統領が支持を示しそうだったが、ちょうど今日、風向きが変わりそうなニュースが出てきた。(で、結局出席はしないらしい)

www.nikkei.com

 

 

 

 

話はもう一度サッカーに戻ってくる。サウジ、ソフトバンク、そしてソフトバンクが3割弱のシェアを持つAlibabaは、世界で最もクラブワールドカップへの投資に前向きな団体の1つだ。当然、UEFAは面白くない。チャンピオンズリーグの地位が脅かされることになるからだ。

www.soccerex.com

 

日本も無関係ではない。ソフトバンク、というか孫正義を後押しする要因の一つが、現政権とサウジの強い関係だ。成長戦略を探し求めて20年の日本と、石油依存からの脱却を目指すサウジの利害の一致は、「日・サウジ・ビジョン2030」という形で結実した。

「日・サウジ・ビジョン2030」を策定しました(METI/経済産業省)

 

という話を、Simon Chadwick教授がまとめたのがこれ。

 

 

 

 スーパーパワーと無関係ではいられなくなったサッカー界

それで?世界のサッカーはますます、地政学に影響されるようになってきているということだ。アブダビの人権問題の前には、カタルーニャ独立の最も著名な応援者の1人、グアルディオラも口をつぐむ。

www.independent.co.uk

It was quite a notable shift, and maybe in more ways than one. After sounding so impressively impassioned as he discussed Catalonia’s jailed politicians, Pep Guardiola was suddenly much less sure of himself when asked how he could reconcile these universalist “human” principles with Manchester City’s Abu Dhabi owners and the abuses of human rights in the United Arab Emirates.

 

“Every country decides the way they want to live for themselves,” Guardiola began. “If he decides to live in that [country], it is what it is. I am in a country with democracy installed since years ago, and try to protect that situation.”

  

今や北朝鮮を除き、サッカー界の頂点に対して直接的な関係を持っていない重要国家はない。直接のクラブ保有やスポンサーシップを含めて、そうした権力と関係を持たないメジャークラブを見つけるのも難しい。プレミアリーグに群生するアメリカのオーナーたち、チェルシーアブラモヴィッチ(ロシア)、パリSGとシティ(中東と中国)、ACミラン

 

まんゆのカンファレンスコールでは、クラブがドナルド・トランプの税制改革を「長期的にはクラブにとって有益と想定される」と発表した。始まったぞ~。

 

こうした動きは、(これもMiguel Delaneyによれば)一時的なものではない。サポーターが所有するクラブも、売上拡大のためにスポンサー獲得を急いでいる。レアル・マドリーバルセロナはどちらも湾岸諸国からの投資受け入れに積極的だし、バイエルン・ミュンヘンはドーハのハマド国際空港を「プラチナパートナー」と考えている。

 

リヴァプールのことを考えてみよう。リヴァプールの胸スポンサー、スタンダード・チャータードがイランとのマネーロンダリング取引に関する内部統制不備のために3億ドルを支払う羽目になってから3年が過ぎた。NY州金融サービス局のBenjamin Lawskyによれば、スタンダード・チャータードは「アメリカの金融システムもテロリストや、武器商人、麻薬王や腐敗政権に対して危機に晒した」という。

In terms of the kind of questions that come up here, consider Liverpool’s main sponsors. It is just over three years since Standard Chartered had to pay $300m for lapses in its anti-money laundering procedures. Benjamin Lawsky, superintendent of the New York State Department of Financial Services, accused a unit of the bank of leaving “the US financial system vulnerable to terrorists, weapons dealers, drug kingpins and corrupt regimes”.

 

 

サッカーはどこまでクリーンなのか?どこで一線を引くべきなのか?

事実として、サッカーはますます政治の影響を受けるようになっている。シルヴィオ・ベルルスコーニが持ち込んだ放映権モデルはサッカー業界のビジネスを変えた。業界が成長し、投資家がようやく利益を得られるようになってきて(サッカー、というかスポーツは確かに儲からない領域だが、グレイザー一家の意見は違うだろう)、ロマン・アブラモヴィッチチェルシー買収で、政治とサッカーの関わりは更に洗練されたものになってきた。豊かな政権やキャッシュリッチの個人が自らの汚れたイメージを和らげるためにスポーツを利用する。アムネスティ・インターナショナルが「スポーツ洗浄」と呼ぶそれだ。サッカーは長期投資のヴィークルであると同時に、オーナーたちが自らのメッセージを世界中に届けるためのプラットフォームにもなった。

What is still different is how the game is used and followed; how it is thereby susceptible to what Amnesty International UK’s director Kate Allen calls ‘sports-washing’ – how “wealthy regimes and cash-rich individuals often see sport as a means to polish up their own tarnished images”.

 

“These are great vehicles for long-term financial investment but what they also do alongside that is provide access to huge international audiences to get your message across.”

 

This is something that human rights researcher Nick McGeehan has written about extensively in regards to Qatar’s ownership of Paris Saint-Germain and Abu Dhabi with Manchester City.

 

 

なぜそうまでしてイメージ改善とブランド確立に躍起になるのだろうか。ダラム大学のChristopher Davidsonによれば、彼らの最悪のシナリオは、国際的な連携を築けなかった結果、1990年の湾岸危機で一時イラクに占領されたクウェートだと言う。(Wikipediaを引くのも少々恥ずかしいが、「クウェートに対するイラクの主権を認めさせようする流れが常にあった」ということだ)。主たる目的は利益ではなく、善意と同情なのだ。

 

例えば、エミレーツ航空は今や、レアル・マドリーアーセナル、ハンブルガー、ACミランオリンピアコスベンフィカパリSGと契約を結び、彼らの本拠地である主要都市とのルートを開いた。これらは全てドバイの投資会社を通してドバイ政府から出た金だということを考えれば、ソフトパワーの好例だ。

 

 

 

どこで一線を引くべきなのかという疑問に戻る。Miguel Delaneyは、ここまでサッカー市場が拡大すれば、ファンや選手、監督が国際政治との関わりを断ち切ることは難しい、という。グレイザー一家がトランプに寄付しているからといって、モウリーニョはまんゆを離れるべきなのだろうか?ただし、ヒューマン・ライツ・ウォッチのニック・マギーハンは、グアルディオラパリSGのことは更に別の水準にあると考えている。

“What Pep said is fine in isolation but the context is that he works for the Abu Dhabi government, whose deputy Prime Minister he thanked in the same speech, and was speaking on a platform provided to him by their money. If he'd said people in Abu Dhabi also deserve these rights, that would have really been something to admire, but he pointedly refused to do that. That's obscene hypocrisy. I do have a problem with these people being involved in the game. In terms of the Glazers or Standard Chartered, there are real and serious issues there, but Qatar and especially Abu Dhabi are at the other end of the scale. The Glazers aren’t bombing Yemen. The involvement of dictators takes things to another level.”

 

曰く、グレイザー一家やスタンダード・チャータードは看過できない問題だが、カタールアブダビはレベルが違う。グレイザー一家はイエメンを爆撃したりはしない。グアルディオラカタルーニャの権利を語ったその口で、アブダビのオーナーに感謝することは偽善だと言う。パリSGネイマールを獲得したのは、移籍マーケットをはちゃめちゃにインフレさせるためで、なぜなら究極的にはシティとまんゆしかついてこれないと知っているからだ、それは業界の健全性を失うと。

 

ではこれほど国際政治に影響されるようになったサッカー界を待つものはなにか?Davidson曰く、トランプはサウジとUAEに「カタールには好きなようにしていい」と言っている。カタールが窮地に陥って、「彼らがこれまでしてきたように」カタールパリSGを放り出せば・・・。移籍市場を占うのに、我々はDaily MailやManchester Evening Newsよりも、WSJを読むべきなのかもしれない。

“Saudi Arabia and the UAE were basically given false promises by Trump,” Davidson says. “That they could do whatever they wanted to Qatar, and then he quickly back-tracked when reality set in. So now we’re left with this phoney war, long-running stalemate, harming them all, especially harming Qatar, because the government has had to bail out the national economy, but it will have repercussions for Qatari international investments… If I were involved in PSG, I would be worried about Qatar having to pull the plug on it at some point in the future. They’ve done it with other interests that did not make headlines.”